伊藤和子さんのガザ停戦に関する資料PDF魚拓






https://hrn.or.jp/eng/Proposal%20on%20the%20Israeli-Palestinian%20Conflict%20JPN.pdf?fbclid=IwAR2I3nC3p1lyEvdGKbm_jVJwLwJlK_hbwJnZGX08-9LlVSaxUrs6jocePms



イスラエル・パレスチナ間の紛争に関する見解
2010 年 2 月 8 日
特定非営利活動法人ヒューマンライツ•ナウ(HRN)
中東和平のプロセスが極めて困難な局面を迎えるなか、中東和平に対する日本の立場が
問われています。日本は欧米とも中東を含む途上国とも異なるポジションにある国として、
またパレスチナに対する主要援助国として、中東和平に独自の貢献ができる立場にあり、
積極的な外交努力により事態を打開することが期待されます。
中東紛争は、国際法に違反して占領と攻撃が繰り返され、人々の人権や生活の基盤、そ
して命が奪われてきた歴史です。和平を推進するうえで最も大切なことのひとつは、占領
下で抑圧されてきた人々の人権が回復され尊重されること、そして国際法に従った公正な
和平を推進することです。国際法違反の上に成り立った既成事実が承認され、国際法違反
の人権侵害についての是正がなされないままでは持続可能な平和は実現しません。
私たち国際人権 NGO ヒューマンライツ・ナウは、中東紛争の喫緊の問題につき、下記のとお
り、日本政府が国際法と人々の人権を尊重した解決を実現する立場に立つよう要請します。
提言
[ 中東和平の国際法に基づく解決]
1. 東エルサレムを含む、ヨルダン川西岸地区とガザ地区の全土によるパレスチナ国家の早期樹
立を支援すべきである。
2. イスラエルは国際法と累次の国連決議に基づき、東エルサレムを含む、ヨルダン川西岸地区
とガザ地区から全面撤退し、すべての占領、国境管理を含むコントロールを完全に放棄しな
ければならない。
[東エルサレムを含む西岸地区]
1. 入植地の建設は、国際法上明らかに違法であり、イスラエルはこれを直ちに、全面的に停
止しなければならない。
2. イスラエルは占領地におけるパレスチナ人所有の建物の破壊及び、パレスチナ人に対する
移動の自由の深刻な制限を直ちにやめなければならない。
[ガザ地区]
1. 2008 年 12 月以降のイスラエルによるガザ地区の攻撃における戦争犯罪の疑いの強い国
人権•人道法違反に関して、ゴールドストーン報告書の勧告に基づき責任追求を行うよ
うに、イスラエル及びパレスチナ側に要求し、国際人権・人道法違反の再発を許さない姿
勢に立つべきである。
2. イスラエルは、2007 年 6 月から継続されているガザ地区の封鎖政策を解除しなければな
らない。
[パレスチナの被占領地全域]
1. 国連総会決議 194 に基づき、1947 年 11 月 29 日の国連パレスチナ分割決議の採択から第 一
次中東戦争の終結までに発生した多数のパレスチナ難民の帰還権の全面的な承認と補償
を前提とした和平交渉が行われるべきである。
2. 日本政府は、ODA 政策が占領、人権侵害の加担とならないように再検討すべきである。
中東和平の国際法に基づく解決
1) 歴史的背景
1947 年国連総会はパレスチナの約半分を領土とするユダヤ国家を認める総会決議 181 を
採択しましたが、1948 年イスラエルは一方的に建国を宣言、アラブ諸国との間に第一次中
東戦争が勃発しました。結果、イスラエルは分割案を大きく上回るパレスチナ全土の約 77%
を支配下に置き、多数のアラブ系住民(=パレスチナ人)が難民化、西岸地区はヨルダン、
ガザ地区はエジプトの支配下にそれぞれ置かれました。
その後 1967 年の第三次中東戦争によって、イスラエルは 1949 年の停戦ラインである「グ
リーンライン」を越えて西岸地区及びガザ地区に侵略、以後国連安全保障理事会が撤退を
求めてもこれに従わず、西岸地区とガザ地区を占領下に置き、現在まで継続しています。
イスラエルは東エルサレムを占領直後より一方的に併合しており、1980 年に「統一された」
エルサレムをイスラエルの首都とする法律を制定しています。
2) 現状
1993 年イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)は、
① イスラエルを国家として、PLO をパレスチナの自治政府として相互に承認する。
② イスラエルが入植した地域から暫定的に撤退し 5 年にわたって自治政府による自治を認
める。その 5 年の間に今後の詳細を協議する。
ことを主な内容とする、暫定自治政府原則の宣言に合意(オスロ合意)し、パレスチナ自治政
府が設立されましたが、イスラエルは依然として西岸およびガザをコントロールしており、
占領が終わったとは到底いえません。
まず、西岸地区は現在、エリア A、エリア B 及びエリア C と呼ばれる異なる統治体制を
3
持つ地域に分割されています1(添付地図を参照)。パレスチナ自治政府は、極めて限定され
たエリア A では教育、保健衛生、社会福祉、直接課税等の行政権及び警察などの治安に関
する権限をパレスチナ人に対して持つものの、エリア B では上記の行政権のみを持ち、治
安に関してはイスラエルが強大な権限を有しています。そして、西岸地区全体の約 61%を
占めるエリア C では、イスラエルが依然としてすべての権限を保持しています。パレスチ
ナ自治政府は、西岸地区の半分にも満たない地域での限定的な自治権を持つに過ぎず、外
交、安全保障、軍に関する権限も一切パレスチナ自治政府に委譲されていません。
ガザ地区でもオスロ合意に基づき自治が実施され、2005 年、イスラエルは入植地及び
常設のイスラエル軍を、ガザ地区内から一方的に撤退させました。しかし、現在でもイス
ラエルはガザ地区への出入り口である全 6 カ所のチェックポイントを実質的に、またガザ
地区の領海及び領空を完全な管理しています。2そして、現在ではガザに入る国境をイスラ
エルが全面的に封鎖しているため、ガザへの食糧や援助物資等の搬入などライフラインが
イスラエルに握られ、著しい制限を受けています。
オスロ合意ではエルサレム問題、難民の帰還権問題、安全保障や国境に関する問題等
は最終地位協定で扱われる課題とされ、先送りにされています。
3) 国際法
国際法上、西岸地区、ガザ地区の占領及び東エルサレムの併合は明らかに違法です。
国連安保理決議 242 (1967)は、戦争による領土の獲得が認められないことを明確にし、「近
年の紛争で占領した領域からのイスラエル軍の撤退」を即時行うよう、イスラエルに
求めています。さらに安保理は、東エルサレム併合を非難し、イスラエルによる東エルサ
レムの状況を変える行政的・法的措置は、入植、土地の摂取も含めすべて無効であること
を決議しています(安保理決議 298 (1971))。
国連総会決議 2625(1970、いわゆる「友好関係原則宣言」)は、改めて、「武力の行使ま
たは威嚇に基づく領土併合はいかなる場合も違法」という国際法の原則を確認しました。
ところが、イスラエルはこれら決議を一切無視して占領を続けています。イスラエルは西
岸地区の広大なエリアの占領を継続するほか、後述するとおり西岸地区に多数のイスラエ
ル人を入植させ、かつ、1967 年の停戦ラインよりパレスチナ側に食い込むかたちで防御壁
を建設し、西岸地区の一部をイスラエル側に取り込むなどしていますが、すべて国際法に
違反する占領の結果の違法な事実状態にほかなりません。
4) 結論
このように、国際法上、西岸地区及びガザ地区の占領、東エルサレムの併合がいずれも
1 Interim Agreement on the West Bank and the Gaza Strip (28 September 1995)に基づき実施。
2 A/HRC/7/17
4
違法であることが明確であり、今後の和平交渉はこれらの確立された国際法、国連決議を
遵守して行われるべきです。
入植地や壁を含め、国連決議・国際法に一貫して違反してきたイスラエルの既得権を容
認することは認められません。国際社会は、東エルサレムを含む、ヨルダン川西岸地区と
ガザ地区の全土によるパレスチナ国家の早期樹立を支援すべきです。日本政府は、イスラ
エルは国際法と累次の国連決議に基づき、東エルサレムを含む、ヨルダン川西岸地区とガ
ザ地区から全面撤退し、すべての占領、国境管理を含むコントロールを完全に放棄するよ
う求め、国際法に従った和平の促進を推進すべきです。
東エルサレムを含む西岸地区における人権状況
入植地
1) 現状
1967 年以来、イスラエルはパレスチナの被占領地(東エルサレムを含むヨルダン川西岸
地区とガザ地区)において入植地を建設し、現在でも東エルサレムとヨルダン川西岸地区
で拡張し続けています。1993 年比で、入植地の人口は約 63%増加しています3。2008 年末
の時点で、121 の入植地が西岸地区に、12 の入植地が東エルサレムにあり、それぞれ約 48
万 5 千人、約 19 万 5 千人の入植者が住んでいます4。すべての入植地は西岸地区においてエ
リア C に指定されており、パレスチナ自治政府の権限は一切及びません。
入植地は和平交渉の最大の障害となっていますが、イスラエルは米オバマ政権の要請にも
関わらず、入植を中止しようとしません。
2) 国際法違反
パレスチナ占領地における国際人道法、特にジュネーブ第 4 条約第 49 条 6 で禁止された
占領地への文民の移送に該当し、明らか違法です。2004 年の国際司法裁判所の勧告的意見5、
国連安保理6もこの見解を支持しています。
ジュネーブ第 4 条約第 49 条 6
「占領国は、その占領している地域へ自国の文民の一部を追放し、又は移送しては
ならない。」
3)結論
3 A/HRC/7/17.
4 United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs, West Bank Movement and Access Update, May 2009, p.13.
5 International Court of Justice, Legal consequences of the construction of a wall in the Occupied Palestinian Territories, Advisory
Opinion, 9 July 2004, 120 項及び 121 項。
6 S/RES/446 (1979), S/RES/452 (1979)
5
よって、イスラエルはすべての入植地建設の即時中止すべきです。また、和平交渉にあた
っては、違法な入植地からイスラエル側が撤退することが必要です。HRN は、日本政府に
対し、入植地建設の即時中止をイスラエル政府に強く求めていくよう、要請します。

1) 現状
2002 年、イスラエルは「パレスチナ人の自爆攻撃からの市民の保護」という名目で、防
御壁の建設を決定しました7。しかも、そのルートは、グリーラインと呼ばれる 1949 年の休
戦ライン上ではなく、壁の約 80%が西岸地区に食い込み、入植地を含む西岸地区の土地を
イスラエル側に取り込むものになっています(添付地図を参照)。壁が完成すると、西岸地
区の約 10.17%がその他の西岸地区と切り離されることになります。8
西岸地区で約 12 万人及び東エルサレムで約 20 万人のパレスチナ人が、壁とグリーンラ
インの間に居住しています。壁建設の過程で、家を壊され、領土を取り上げられ、農作物
をなぎ倒され、さらに抵抗したために殺される市民もいました。壁建設後は、パレスチナ
人は壁を越えて壁の向こう側にある職場、学校、病院などに通うためにも、苦労をして許
可書を取得しなければならず、かつ壁のゲートは短時間かつ不定期でしか利用できないた
め、日常生活に著しい支障をきたしています。
2) 国際法
2004 年、国際司法裁判所は、この壁の建設に関して、国連総会決議に基づき勧告的意見
を出しました。国際司法裁判所は、壁の建設は、領土の事実上の併合に等しく、国際法違
反に該当すると判断するとともに、9イスラエルが占領地の人々に対して負っている、移動
の自由10及び労働の権利、健康・教育についての権利などの国際人権法上の義務にも違反し
ていると結論づけました11。しかし、イスラエルはこれに一切従わず、国内裁判所の判決を
受けて一部のルートを変更したにとどまり、現在でも建設を続けています。
3) 結論
イスラエルは、勧告的意見に基づく壁の建設を即時中止、撤去、さらに補償をすべき立
場にあります。日本政府は、イスラエル政府に対し、壁の建設の中止、撤去、補償を求め
7 A/63/518 (2008), 21 項。
8 United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs, Special Focus occupied Palestinian territory, 9 July 2007 及
び A/HRC/12/37 , 71 項。
9 International Court of Justice,
Legal consequences of the construction of a wall in the Occupied Palestinian
Territories, Advisory Opinion, 9 July 2004, para. 121. 他に、イスラエルに壁の建設を凍結、壁の撤去、また建設によ
って生じた損害の賠償をする法的義務があること(163 項)、パレスチナ住民が自決権を保持し、この権利が壁の建設によ
って侵害されていることを認定した (118 項及び 122 項)。
10 同上、133 項, 134 項及び 136 項。
11 同上、134 項, 136 項及び 137 項。
6
るよう要請します。
家屋破壊
1) 現状
1967 年以来パレスチナ占領地において、イスラエル当局は懲罰、軍事的必要性、許可書
の欠如12等を理由にパレスチナ人所有の建物を取り壊しています。
西岸地区では、2004 年から 2008 年にかけ、117 棟の家屋が軍事的必要性のために壊さ
れました13。また、2001 年 10 月から 2005 年 5 月だけで、パレスチナの被占領地全体で、イ
スラエルに対する攻撃の容疑者及びその家族や近所を罰することを目的に、664 棟の家屋を
破壊しています14。さらに、2000 年 1 月から 2007 年 9 月の間に東エルサレム及びエリア C
内では、許可書の欠如を理由に 1600 棟以上の建物が破壊されました1516。
2) 国際法
パレスチナ人の建物の取り壊しは、ジュネーブ第 4 条約第 53 条に明らかに違反します。
また、懲罰的に行われる家屋破壊は、ジュネーブ第四条約 33 条にも違反します。国連総会
17及び安保理18も、イスラエルによる建物の取り壊しをジュネーブ第 4 条約違反として重大
な懸念を示す決議を採択しています。
国際司法裁判所勧告的意見は、壁建設のための家屋破壊について、軍事目的を理由に正当
化されないと明確に判断しています。
ジュネーブ第 4 条約第 53 条
「個人的であると共同的であるとを問わず私人に属し、又は国その他の当局、社会
的団体若しくは協同団体に属する不動産又は動産の占領軍による破壊は、その破壊
が軍事行動によって絶対的に必要とされる場合を除く外、禁止する。」
ジュネーブ第 4 条約第 33 条〔集団罰禁止〕
① 被保護者は、自己が行わない違反行為のために罰せられることはない。集団に科する
12 A/HRC/7/17, 41 項及び 42 項及び United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs, “Lack of Permit”
Demolitions and Resultant Displacement in Area C, May 2008.
13 以下を参照。http://www.btselem.org/english/Razing/Statistics.asp
14 こうした破壊は、法的な手続きを経て行われる訳でなく、容疑者が攻撃を行ったという裁判所の判断が下される前に
実施されている。どちらの場合も、イギリス委任統治時代の 1945 年に制定された緊急防衛規定に基づく安全保障上つま
り軍事的必要性を正当化の根拠にしており、補償もされていない。
http://www.btselem.org/english/Punitive_Demolitions/Statistics.asp
15 A/63/518, paras. 38-45.
16 この期間に発行された許可書は、申請全体のわずか 6%であり、許可書なしに家屋を建てざるを得ない状況にある。
今年、西岸地区では、91 の住宅を含む 221 のパレスチナ人所有の建物が破壊されおり、513 人以上が住む家を失った。
東エルサレムでは、パレスチナ人は全体の 13%程の指定された地域に居住しなければならず、結果少なくとも 28%のパ
レスチナ人の住宅は適切な許可なしに建てられている。2000 年から 2008 年にかけて、パレスチナ人の 670 棟以上の建
物が、許可の欠如を理由で取り壊されている。以下を参照。
United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs, West Bank Movement and Access Update, June 2009, p.5.
17 A/RES/2851 (XXVI)(1971), A/RES/3240 (XXIX)(1974), A/RES/32/91 (A-C)(1977), 及び A/RES/36/147 (A-G)(1981)等。
18 S/RES/1544 (2004)
7
罰及びすべての脅迫又は恐喝による措置は、禁止する。
② 略奪は、禁止する。
③ 被保護者及びその財産に対する報復は、禁止する。
3)結論
イスラエルによる家屋破壊は国際法に違反し、許容されません。HRN は、日本政府がイ
スラエル政府に対し、国際法に違反する家屋破壊行為を今後一切停止するように求めるこ
とを要請します。
チェックポイント
1) 現状
1993 年以来、イスラエルは東エルサレムにつながる道にチェックポイントを設置してお
り、その通過のための許可証の取得をパレスチナ人に義務づけています19。2009 年 6 月現在、
西岸地区内にはパレスチナ人の東エルサレムへの移動を制限するためのチェックポイント
を含む 613 の障害物が設置されています。特に、30 箇所の検問所は西岸地区の内部に設置
され、パレスチナ人コミュニティー内の移動さえも制限されています。20こうした検問所を
含む障害物やチェックポイントを通過する際の身分証の提示義務により、西岸地区のパレ
スチナ人コミュニティーは地区ごとに分断を余儀なくされています。
2) 国際法
こうした西岸地区で実施されている壁、チェックポイント、障害物などにより、西岸地
区内のパレスチナ人の移動の自由は極端に制限されています。この制限は、イスラエルも
批准している自由権規約第 12 条に規定されている移動の自由の侵害にあたります。自由権
規約第 12 条 1
「合法的にいずれかの国の領域内にいるすべての者は、当該領域内において、移動
の自由及び移住の自由についての権利を有する。」
自由権規約第 12 条 2
「すべての者は、いずれの国(自国を含む。)からも自由に離れることができる。」
このことは、国際司法裁判所勧告的意見で明確に判断されています。イスラエルは、こ
れを安全保障上の措置だと主張していますが、国連パレスチナ占領地の人権に関する特別
報告者はこの主張を「受け入れ難い」としています。21
3) 結論
19 A/63/518 (2008), 29 項。
20 United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs, West Bank Movement and Access Update, June 2009, p.5
21 A/HRC/7/17 国連特別報告者 John Dugard 氏の 2008 年国連人権理事会への報告
8
パレスチナ人に対する壁、チェックポイント、許可制などによる移動の自由の重大な制限
は東エルサレムを含む西岸地区の一体性を著しく損ねるものであり、イスラエルは直ちに
撤廃すべきです。日本政府がイスラエル政府に対し、パレスチナ人の移動の自由の制限の
即時撤廃を求めるよう要請します。
ガザ地区の人権状況
占領政策
2005 年、イスラエルは入植地及び常設のイスラエル軍を、ガザ地区から一方的に撤退さ
せました。しかし、現在もイスラエルはガザ地区を実効的なコントロール下においていま
す。パレスチナの被占領地に関する国連特別報告者は、この実効的なコントロールに基づ
き、事実上の占領は継続しており、イスラエルはガザ地区に対して国際人権•人道法に関す
る法的義務を負っていると報告しています30。
ガザ攻撃
1) 現状
2008 年 12 月から 2009 年 1 月にかけて、イスラエル軍はガザ地区を攻撃し、少なくとも
1400 人以上のパレスチナ人が犠牲になり、その多くが子どもや女性を含む民間人でした。
更に、家屋、工場、学校、病院、警察署及び国連施設を含むその他の非軍事施設が多数破
壊されました。また、パレスチナ武装勢力によるロケット砲などによる攻撃で、数名のイ
スラエルの民間人も犠牲になっています。
2) 国際法
国連人権理事会が設立したゴールドストーン調査団の報告書は、イスラエルによるパレ
スチナの民間人の犠牲及び非軍事施設の破壊は、ガザ市民の生活をより困難にすることを
目的として、ガザの住民全体に向けられたイスラエルによる政策決定と意図的な計画の結
果であると結論付けています。更に報告書は、こうしたイスラエル軍の攻撃と、パレスチ
ナ武装勢力の攻撃を、共に戦争犯罪に相当する、また人道に対する罪に該当する可能性が
あると結論づけています31。国連人権理事会及び国連総会は共に、ゴールドストーン報告書
30 A/HRC/7/17. ガザ地区が効果的な占領下に置かれている根拠として、主に以下の 4 点をあげている。1. イスラエル
によるガザ地区への出入り口である全 6 カ所のチェックポイントの実質的な管理。2. イスラエルの軍事作戦、ロケット
攻撃及び「立ち入り禁止地区」の設定。3. イスラエルのガザ地区の領海及び領空の完全な管理。4. パレスチナ住民登録
の管理と検問所による移動の規制。
31 A/HRC/12/48
9
を支持する決議を採択しています。
また、ガザ地区における国連施設の被害を調査した国連事務総長の調査委員会も、その
明白な責任がほぼすべてイスラエル軍にあると結論づけ、こうした攻撃は軍事的必要性に
よって正当化できず、国連施設の不可侵性の違反であり、さらに国際人道法に基づく国連
職員及び国連施設内の市民を保護する義務を怠ったものと認定しています。32
3)結論
国連総会は、イスラエル、パレスチナ側に国際人権・人道法違反の独立し、かつ徹底した
調査を求めましたが、国連総会決議にも関わらず、双方とも十分な人権侵害の調査を行っ
ていません。とりわけ、イスラエル側は、ゴールドストーン氏の指摘した事案のうち、刑
事訴追の必要な案件は調査の結果ひとつもない、としていますが、調査は軍の機構内部で
行われ、調査方法としては軍内部のブリーフィングしか行われず、その内容も非公開で、
被害者からも聴き取りを行っておらず、独立した公平な真相究明と認めることはできませ
ん。1400 名の尊い命が犠牲になり、戦争犯罪が国際調査団によって認められたにも関わら
ず、何らの真相究明も訴追もされず、不処罰が容認されるならば、同じ人権侵害を繰り返
すことを避けることはできません。
HRN は、日本政府が国連総会、人権理事会において、これら人権侵害の調査に関する決議
にいずれも棄権したことに遺憾の意を表します。そして、日本政府に対し方針を改めて、
ゴールドストーン報告書を支持し、さらに日本政府がイスラエル政府及びパレスチナ側の
双方に対し、ゴールドストーン報告書に基づく国際人権•人道法違反の責任追及の実施する
ことを求めるよう要請します。
封鎖政策
1) 現状
イスラエルは、ハマスによるガザ地区統治が始まった 2007 年 6 月以降、ガザ地区への出
入り口となるすべてのチェックポイントを実質的に封鎖しています33。2007 年 10 月以降、
燃料と電気の供給も大幅に削減されました。封鎖政策により、漁業の極端な制限、農産物
を含む輸出入の大幅な制限と燃料及び電気の供給制限が行われ、ほぼすべての工業生産が
停止し、ガザ住民の 80%以上が国連機関等の食料援助に依存する事態に陥っています。ま
た、医療品の慢性的な不足、ガザの外で治療を受けるための許可書の発行の厳格化の結果、
32 Secretary-General’s Summary of the Report of the United Nations Headquarters Board of Inquiry into certain incidents in the
Gaza Strip between 27 December 2008 and 19 January 2009.
33 この封鎖には以下が含まれる。一部の穀物を除き、商業用のカルニ検問所の封鎖。工業、農業及び建築資材の包括的
な輸入制限。輸出の実質的な禁止。工業用燃料の供給制限。西岸地区へ続くエレツ検問所のパレスチナ人の使用禁止。
エジプト側のラファ検問所の封鎖。漁業区域及び農業用地の制限。銀行送金の制限。
10
多くの患者が死亡しています。ガザ攻撃によって人々の経済的困窮と人道危機は更に悪化
しています。ガザ攻撃は人命の犠牲だけでなく、井戸、工場、農地、電気施設、そして人々
の家屋を破壊し、人々の生活に必要なライフラインを破壊しました。
ところが、イスラエルは、食糧及び少数の衛生用品等のみの輸入を許可し、軍事行動か
らの復興のための工業用品、車両、建築資材等の搬入は一切認めていません。34ライフライ
ンを失った人々は生活復旧の道を閉ざされ、著しく困窮しています。2009 年 3 月の時点で、
ガザ住民の 65%は貧困ライン以下の所得しかなく、37%は極度の貧困状態の中で生活して
います。
2) 国際法
ゴールドストーン報告書は、貧困及び食糧援助等への依存、失業や経済麻痺は、封鎖政策
の結果であり、イスラエルはジュネーブ第 4 条約上の占領国としての義務に違反している
と結論づけました。35 またハマスがガザを統治したことを理由に、ガザ地区の全住民を困
窮に陥れる封鎖を行うことは、集団懲罰を禁止したジュネーブ第 4 条約 33 条に違反するこ
とを認定しました。36
ジュネーブ第 4 条約第 33 条
「被保護者は、自己が行わない違反行為のために罰せられることはない。集団に科
する罰及びすべての脅迫又は恐喝による措置は、禁止する。」
3)結論
イスラエルは、国際法に違反するガザの一般市民を対象にした集団懲罰である封鎖を即時
解除する国際法上の義務を負っています。封鎖による人々の人道危機は深刻であり、国際
人権・人道法上も人道上も、この封鎖政策は到底容認できるものではありません。
HRN は、日本政府がイスラエル政府に対し、こうした国際法に違反した封鎖政策を即時
無条件で解除し、全ての輸入制限をなくすこと、特にガザ地区の復興と自立的発展に必要
な物資の輸入制限をすべて撤廃することを強く要請するよう求めます。
和平交渉にあたっての難民の帰還権の保障
1948 年のイスラエルの一方的な建国とその後の第 1 次中東戦争に伴い、約 70 万人とも言
われるアラブ系住民(=パレスチナ人)が、西岸地区やガザ地区、あるいは周辺のアラブ諸
国に逃れました。現在でも、約 460 万人の難民とその子孫が、国連パレスチナ難民救済機
34 OCHA, Field Update on Gaza from the Humanitarian Coordinator, 10-16 March 2009.
35 A/HRC/12/38, 1305 項及び 1311 項。
36 A/HRC/12/38, 1331 項。
11
構(UNRWA)に登録され、その内の約三分の一が、上記の地域に設置された 58 の難民キャン
プでの生活を余儀なくされています。
国連総会は決議 194 (1948)において、こうした難民が元の常居所に戻る権利を有すること
を認めています。しかし、イスラエルはこうした難民の帰還権を一切認めていません。ま
た、オスロ合意においても、帰還権の問題は最終地位交渉における課題とされ、現在まで
なんら解決されていません。
国連総会決議 194(11 項)
「可能な限り早期に、希望する難民に対し、元の家に帰還し、隣人と平和的に生活
することが許可されるべきであること、国際法或は衡平法の原則の下で、帰還を選
択しない者に対し、責任を負う政府或は当局により、その資産及びその資産の喪失
或は損害への報償が支払われるべきであることを決議する。」
イスラエルは、国連総会決議 194 を尊重し、難民の帰還権の全面的な承認を前提として、
和平交渉を取り組むべきです。HRN は、日本政府を含む国際社会に対し、この国連決議に
遵守した和平の促進をイスラエル政府に対し求めていくよう要請します。
日本の ODA 政策
日本政府は、パレスチナに対し、これまでも国連機関等を通じた人道援助や技術支援など、
多くの援助を行ってきました。他方、2006 年の「平和と繁栄の回廊」構想37のような援助
には問題も少なくありません。イスラエルによる国際法違反である占領や入植地の問題を
解決しないまま、安易に共同の事業を行おうとすれば、パレスチナの現状の固定化を促進
する危険性が非常に高いと言わざるを得ません。
HRN は日本政府に対し、パレスチナ問題の根源に国際人権•人道法違反の不処罰がある
ことを直視し、こうした国際法違反や人権侵害を是正し、人々が健康で文化的に生存し、
発展するための援助を行うこと、人権侵害や占領政策の固定化を助長しない形でのパレス
チナ支援を行うことを求めます。
そして、イスラエル軍による日本政府の支援に係る施設の破壊や、支援に対する妨害に
対しては、援助対象の人々に代わって、公然と抗議を行い、是正を求めることを求めます。
以上

https://hrn.or.jp/eng/Proposal%20on%20the%20Israeli-Palestinian%20Conflict%20JPN.pdf?fbclid=IwAR2I3nC3p1lyEvdGKbm_jVJwLwJlK_hbwJnZGX08-9LlVSaxUrs6jocePms
イスラエル・パレスチナ間の紛争に関する見解
2010 年 2 月 8 日
特定非営利活動法人ヒューマンライツ•ナウ(HRN)








(ブルームバーグ): バイデン米大統領は、パレスチナ自治区ガザの病院で起きた爆発とそれに伴う人命損失に「憤りを覚えるとともに、深く心を痛めている」と、ホワイトハウスが17日の声明で明らかにした。

声明によると、バイデン大統領は今回のニュースを耳にした直後、ヨルダンのアブドラ国王とイスラエルのネタニヤフ首相と協議。国家安全保障チームに対し、実際に何が起きたのか情報を今後も集めるよう指示した。

バイデン氏は紛争中に民間人の生命を守ることを明確に支持していると指摘した。

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原題:Biden Says US to Gather Information on Gaza Hospital Explosion(抜粋)

(c)2023 Bloomberg L.P.

バイデン大統領、ガザ病院爆発で情報収集指示-「深く心痛めている」

10/18(水) 8:57配信




伊藤和子認証済み
弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副事理長


提言国際人道法上、病者は戦争中でも保護されるべき存在であり、病院などの民間施設を攻撃し、民間人を殺傷することは明確な戦争犯罪です。 バイデン大統領が、紛争中に民間人の生命を守ることを明確に支持しているというのであれば、何よりも地上戦を断念し直ちに停戦することをイスラエルに求めるべきです。 イスラエルはガザの病院爆発の責任を否定しているとのことですが、地上侵攻が始まれば、戦闘行為は激化するばかりであり、民間人の命はますます危うくなり、責任の所在を紛争当事者が認めない軍事行動がエスカレートし、犠牲になる人は相次ぐでしょう。 現地で活動する多くの国際機関、人道支援組織が、地上戦による壊滅的な人道危機を警告しています。今回の病院爆発は凄惨なジェノサイドの序章かもしれないのです。ジェノサイドや人道に対する罪を防止すべき義務を米国、国際社会は今こそ尽くすべきです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/19d83b5402d9c38f1bf1630ce48d86fe99337c16

三牧聖子認証済み
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授

補足ガザ攻撃を説明する際、イスラエル政府高官は「血まみれの怪物」「人の顔をした動物」といった言葉を多用してきた。攻撃対象を悪魔視するレトリックは、武力行使に関する法的・道義的な拘束を振り払う心理的な効果を生む。 病院爆撃が誰によるものか、意図的な攻撃だったのかは判明していない。調査が必要だ。しかし今までの経緯で既に、イスラエル側に、軍事行動に際して市民の被害を可能な限り防ぐ、という抑制がはたらいていないことは明らかだ。ネタニヤフ首相の顧問レゲブ氏は日本メディアの取材に「市民がいるからといって、ハマスのテロ攻撃を不問にはできない」との認識を示している。 バイデン政権は地上侵攻を含むイスラエルの軍事行動を容認し、国際法の遵守はイスラエルの良識や規律に任せるとの姿勢をとってきた。そうした姿勢を続ければ、イスラエルのみならずその強力な支援者である米国の道義的立場も大きく損なわれることは必至だ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/19d83b5402d9c38f1bf1630ce48d86fe99337c16

https://news.yahoo.co.jp/profile/commentator/itokazuko/comments/5a87d652-357c-4cdf-866c-0982c5fb5af8