何が原因で女性は困窮し、どんな支援が必要なのか――。シンポジウム「困窮する女性の背景を知る」が3月、名古屋市内で開かれ、児童相談所(児相)や性暴力被害者の支援団体などで奔走する専門家たちが、それぞれの現場で見えてきたことや今後の課題について報告した。 【図解】日本は子育てしやすい環境ですか? 結果は… 最初に、名古屋市中央児相で障害児の養護問題に対応する「障害チーム」が登壇した。児童福祉司としてチームに属する大野由香里さんは、女性が抱える困難について言及。子どもの養育が十分できない母親の背景には虐待経験やDV被害、障害などがあるとし、「子育てしながら悪夢や不眠に苦しみ、被害妄想にとらわれてしまう」と説明。その上で、「養育に限界が来ると子どもに手を上げてしまうが、保護者自身もそのようにされて育ち、他に方法を知らないことが多い」と述べ、「養育者としての女性に対する支援が少ないことが社会全体の課題だ」と語った。 また、医師としてチームに関わる丸山洋子さんは、情緒が不安定だったり対人関係でトラブルを頻発したりする人について、「何らかのトラウマを抱えていることが多く、『自分は助けてもらう価値がない』という認知のゆがみからSOSも出さない」と指摘。支援者に必要な視点として「トラウマの眼鏡をかけて見ること」を挙げ、「眼鏡をかけると『本当は困っている人なんだ』と分かり、解決の糸口も見えてくる」と述べた。 続いて、予期せぬ妊娠の相談窓口「妊娠SOSみえ」を運営するNPO法人「MCサポートセンターみっくみえ」(三重県桑名市)の松岡典子代表が講演。「困窮女性」と「予期せぬ妊娠」は相互に影響し合っており、「関係性は非常に高い」と指摘。困窮状態の女性が予期しない妊娠をすると、貧困度合いが高まり、抜け出すのがさらに困難になるなど「より危機的状況に陥りやすい」と述べた。 また、低所得の妊婦に対し初回の産科受診料を1万円まで助成する国の支援事業について、「満たさなければならない要件のハードルが高いため、利用者の心理的負担が重い」と使いにくさを指摘。「行政の窓口に行けない人は支援の情報に触れることすらできない」と周知の仕方も問題視し、「できれば、妊娠出産にかかる費用は『誰でも一切かからない』くらいにならないといけない」と述べた。 最後に、性暴力被害者の心理支援にあたる一般社団法人「日本フォレンジックヒューマンケアセンター(NFHCC)」副会長で、性暴力対応看護師の長江美代子さんが登壇し、「困窮する女性の背景にある子どもの頃の性被害」と題して講演した。 長江さんはまず、幼少期の性被害の影響について言及。「5~8歳ごろの加害者は父や兄など家の中にいるため、被害は年単位。警戒して夜眠れないので、学校では眠くて仕方ない。そして成績が落ちる、不登校、非行へとつながっていく」 さらに、「思春期になると行為の意味に気付いて、ぐっと病んでいく」と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状にさいなまれていく過程を説明。「家を出ると低収入のため風俗の手が伸びてくる。するとそこから逃れられなくなり、妊娠・中絶、貧困や虐待の悪循環に陥る」と述べ、こうした事態にならないよう、徹底して支援していく必要があるとした。 また、性暴力被害から20年以上たっても、半数近くがPTSD状態の可能性があるという調査結果を紹介。にもかかわらず、治療に結びついているのは3%に過ぎず、暴力の連鎖を断ち切るためにも「被害直後の介入」の重要性を指摘した。 シンポジウムは日本女性財団が主催し、医療関係者や行政関係者、女性支援団体などから約100人が参加した。【町田結子】