<変わろう、変えよう>困窮女性、どんな支援が必要? シンポで専門家が課題報告4/3(水) 13:30配信.生活保護デモ「たまにはウナギも食べたい」なぜ批判? 20代受給者「救われた」「利用して休んだ後に再び社会に出れば大丈夫」当事者が語る実態と想いABEMA Prime平石直之2023/10/26 07:21



何が原因で女性は困窮し、どんな支援が必要なのか――。シンポジウム「困窮する女性の背景を知る」が3月、名古屋市内で開かれ、児童相談所(児相)や性暴力被害者の支援団体などで奔走する専門家たちが、それぞれの現場で見えてきたことや今後の課題について報告した。 【図解】日本は子育てしやすい環境ですか? 結果は…  最初に、名古屋市中央児相で障害児の養護問題に対応する「障害チーム」が登壇した。児童福祉司としてチームに属する大野由香里さんは、女性が抱える困難について言及。子どもの養育が十分できない母親の背景には虐待経験やDV被害、障害などがあるとし、「子育てしながら悪夢や不眠に苦しみ、被害妄想にとらわれてしまう」と説明。その上で、「養育に限界が来ると子どもに手を上げてしまうが、保護者自身もそのようにされて育ち、他に方法を知らないことが多い」と述べ、「養育者としての女性に対する支援が少ないことが社会全体の課題だ」と語った。  また、医師としてチームに関わる丸山洋子さんは、情緒が不安定だったり対人関係でトラブルを頻発したりする人について、「何らかのトラウマを抱えていることが多く、『自分は助けてもらう価値がない』という認知のゆがみからSOSも出さない」と指摘。支援者に必要な視点として「トラウマの眼鏡をかけて見ること」を挙げ、「眼鏡をかけると『本当は困っている人なんだ』と分かり、解決の糸口も見えてくる」と述べた。  続いて、予期せぬ妊娠の相談窓口「妊娠SOSみえ」を運営するNPO法人「MCサポートセンターみっくみえ」(三重県桑名市)の松岡典子代表が講演。「困窮女性」と「予期せぬ妊娠」は相互に影響し合っており、「関係性は非常に高い」と指摘。困窮状態の女性が予期しない妊娠をすると、貧困度合いが高まり、抜け出すのがさらに困難になるなど「より危機的状況に陥りやすい」と述べた。  また、低所得の妊婦に対し初回の産科受診料を1万円まで助成する国の支援事業について、「満たさなければならない要件のハードルが高いため、利用者の心理的負担が重い」と使いにくさを指摘。「行政の窓口に行けない人は支援の情報に触れることすらできない」と周知の仕方も問題視し、「できれば、妊娠出産にかかる費用は『誰でも一切かからない』くらいにならないといけない」と述べた。  最後に、性暴力被害者の心理支援にあたる一般社団法人「日本フォレンジックヒューマンケアセンター(NFHCC)」副会長で、性暴力対応看護師の長江美代子さんが登壇し、「困窮する女性の背景にある子どもの頃の性被害」と題して講演した。  長江さんはまず、幼少期の性被害の影響について言及。「5~8歳ごろの加害者は父や兄など家の中にいるため、被害は年単位。警戒して夜眠れないので、学校では眠くて仕方ない。そして成績が落ちる、不登校、非行へとつながっていく」  さらに、「思春期になると行為の意味に気付いて、ぐっと病んでいく」と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状にさいなまれていく過程を説明。「家を出ると低収入のため風俗の手が伸びてくる。するとそこから逃れられなくなり、妊娠・中絶、貧困や虐待の悪循環に陥る」と述べ、こうした事態にならないよう、徹底して支援していく必要があるとした。  また、性暴力被害から20年以上たっても、半数近くがPTSD状態の可能性があるという調査結果を紹介。にもかかわらず、治療に結びついているのは3%に過ぎず、暴力の連鎖を断ち切るためにも「被害直後の介入」の重要性を指摘した。  シンポジウムは日本女性財団が主催し、医療関係者や行政関係者、女性支援団体などから約100人が参加した。【町田結子】

<変わろう、変えよう>困窮女性、どんな支援が必要? シンポで専門家が課題報告

4/3(水) 13:30配信



今月、行われた「生存権を求める京都デモ」が波紋を広げている。2013年から段階的に引き下げられた生活保護の基準額について、受給者や支援者など100人が不満を訴えた。様々な主張をする中で、物議をよんだのが「たまには旅行に行きたいぞ」「たまにはオシャレもしたいぞ」「たまにはウナギも食べたいぞ」というものだった。

【映像】「生活保護はみんなのものだ」デモ行進の様子

 生活保護は、憲法で定められた“健康で文化的な最低限度の生活を保障するため”の制度である。そのためSNSでは「旅行に行きたい?それは本当に最低限度なの?」「一生懸命に働いててもウナギなんて食えない…」など非難の声が噴出。一方で、「メディアの見出しの付け方が燃料になってる」「デモの本質は“旅行”でも“ウナギ”でもないのでは?」との指摘もあった。

 なぜ生活保護はたびたび非難の的となるのか。『ABEMA Prime』では、受給者・支援者と議論をした。

20代受給者に聞く生活保護の実態と想い



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 生活保護を受給するしかまる氏(20代)は「大学受験に失敗し、ひきこもった。その後に上京、バイトの面接に行ったが、全く受からなかった。日雇いで生活をしていた。そこからプログラミングを始めて、知人と立ち上げたIT系の企業も失敗。体調とメンタルを崩し、生活保護を受けた。周囲からは『働けるよね?』などと言われたが、働けるかどうかは生活保護の条件になっていない。スムーズに受給ができた」と答えた。

 今回のデモについては、「生活保護でもウナギを食べることはできるので、わざわざ訴える必要性はなかった。若者や生活保護を本当に必要としている人が”受給する”という選択肢を取りにくくなるのでは?」との見方を示した。

 また、「生活保護はメンタルや身体的な体力がない人たちが使っていき、回復した後に働きたいと思ったら、働くという形が良いと思うし、そのように使うべき。最初は負い目もあったが、次第になくなった」と述べた。

 2021年度から受給を始めたしかまるさんの生活状況を見ていきたい。詳細は【図】の通り。収入は夏季(4〜10月)の保護費が7万6420円、冬季(11〜3月)が7万9050円。YouTube等配信による収入は約8000円だ。一方、支出は食費が1日約700円で月約2万1000円、通信費(3300円)、光熱費(約5000円)と合計で約2万9300円とのこと。国が負担する家賃や水道代はここに含まれない。収入から支出を差し引いて余った分は貯金に回しているそうだ。

 こうした状況を踏まえて「YouTube動画作成のほか、国家資格の勉強もしている。物価が上がったので少し大変だが、それほど大きな影響はない。食費も厳しくない。ウナギも食べられるし、切り詰めたとしても、栄養のある食事は摂れると実感している」と答えた。

 基本的には自炊ということだが、「1週間に1度ほど外食する。自炊と同じ、1日700円計算の範囲内で使う」と明かした。「生活保護があって良かった。もし制度がなかったら、僕はこの場にいないし、生活保護に救われた。メンタルが病んで、体力が落ちている時は、目の前のことしか考えられなくなっている。長期的な目線を持つためには、まず体を休めることがとても重要だ。それで未来に向かって考えることができるようになる」と話した。

デモの実行委員会の回答は?



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 今回、『ABEMA Prime』がデモの実行委員会に取材したところ、「たまにウナギを食べることは普通の暮らしだと考えます。決して贅沢をしたいのではありません。生活が苦しい人たちが生活保護を利用できない社会がおかしいのであって不満や怒りは政府や行政に向けられるべきです」との回答があった。

 NPO法人『あなたのいばしょ』理事長の大空幸星氏は「ウナギを食べることは最低限度の文化的な生活だと思う。それすらできない現状がおかしい。これで生活保護の受給額を下げると、密接に連動していると言われる最低賃金を下げる理由にもなる。暮らしへの影響は極めて大きい。エネルギーを政府に向けるべきだというのはその通りだ」と述べた。

 また、「内閣官房の孤独・孤立担当室は、明確には言わないもののSNSの盛り上がりを見て、生活保護は国民の権利だと言った。政府は生活保護をもっと受けてくださいという立場。政府と現場が言っていることに大きな乖離があるのが、問題だと思う」とした。

 生活困窮者の支援を行う『つくろい東京ファンド』の佐々木大志郎氏は「デモを実施したグループとは、交流がある。今回はメディアの見出しや報道が扇情的な部分もある。生活保護は今、物価の上昇に対して相対的に下がっている。デモのグループは活動家というより当事者運動だ。そのプリミティブな叫びが“ウナギ食べたい”なので、バッシングされることではない」との見方を示した。

必要な人が受給できているのか



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 日本の捕捉率(権利がある人のうち利用できている人が占める割合)は2016年時点で22.9%と諸外国と比べて低い。佐々木氏は「資産を計算してるか否かで数字は異なるが、僕の知る範囲では働きたいという意欲を凄く感じる。シングルマザーの方や20代30代のネットカフェにいる方も、自分で働いて、生活したいと、志が高い方が多い。生活保護で一度休んで、敷金・礼金を出してもらってアパートに移った後に働くというのがスタンダード」と話す。



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 実際の数字を見ると、受給中世帯の平均期間は9年3カ月(2021年7月時点)。終了世帯で廃止までにかかった平均期間は6年11カ月(同上)となっている。廃止理由の1位は「死亡」で実に44%を占めている。受給者の年代別割合は70歳以降が最も多い43.5%で、次いで60〜69歳が17.1%と共に高いが、20〜29歳は2.9%、30〜39歳では4.7%と低い(いずれも2022年7月末速報値)。

 生活保護は入りやすくて出やすい制度が理想とされる。未だ根強い「抜けにくい」イメージは、受給者の約半数を高齢者が占めていることに起因し、若年層の割合は決して高くない。同時に平均期間から「一度受給したら抜け出せない」状態ではないことも読み取れる。若者については、佐々木氏が語った実態はデータにも表れている。



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 最後に、しかまる氏は「今辛いと感じている人、もしパワハラを受けた状態で仕事を頑張っている方がいたら、生活保護を利用して一旦休んで体力を回復させた後に再び社会に出れば大丈夫だ。生活保護を受給する選択肢をぜひ選んでほしい」と述べた。

(『ABEMA Prime』より)

https://times.abema.tv/articles/-/10100517?page=1
生活保護デモ「たまにはウナギも食べたい」なぜ批判? 20代受給者「救われた」「利用して休んだ後に再び社会に出れば大丈夫」当事者が語る実態と想い

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平石直之

2023/10/26 07:21