PFASと米軍基地.日米地位協定に関する資料PDF魚拓2024年6月29日時点



 発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)の健康影響を評価し、食品や飲料水の1日当たりの摂取許容量を議論してきた内閣府食品安全委員会は25日、PFASの一種であるPFOSとPFOAの2物質でそれぞれ、体重1キロ当たり20ナノグラムを指標とする「評価書」を正式決定した。約4000件届いたパブリックコメント(意見公募)は「緩すぎる」などの批判がほとんどだったが、食安委は反映しなかった。(松島京太)

◆WHO指摘の発がん性は「証拠不十分」

 欧州食品安全機関(EFSA)は2物質の合計で体重1キロ当たり0.63ナノグラムと設定。これと比べると、今回の評価書で採用された2物質の合計値の40ナノグラムは、60倍以上の緩さになる。

PFASの評価書案に対する約4000件のパブリックコメント

 評価書では健康影響については、2物質の摂取に伴う肝機能値指標とコレステロール値上昇、免疫低下、出生体重低下については関連や可能性は否定できないとした。発がん性に関しては「証拠は限定的」との評価にとどめた。世界保健機関(WHO)の専門組織は昨年、PFOAを「発がん性がある」と結論づけている。

◆議論の方向性「決まっていたのでは」

 評価書の案は今年1月、食安委の専門家会議で了承。2月7日から1カ月間、実施されたパブリックコメントでは「基準が緩すぎる」「『予防原則』に立った判断をしてほしい」など主に批判的な意見3952件が寄せられた。食安委は「知見を整理し重要な文献を用い、科学的根拠に基づく評価をした」と退け、原案通り評価書を決定した。

 PFASに詳しい京都大の小泉昭夫名誉教授(環境衛生学)は「最新の科学的知見を不採用として、国際的にも非常に緩い指標となった。多数のパブリックコメントを一切反映しなかったのも既に議論の方向性が決まっていたのではないかと感じる」と批判した。



◆水道調査は「自衛隊基地も対象」と環境相

 水道水に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)の全国的な実態把握を巡り、伊藤信太郎環境相は25日の閣議後会見で、「自衛隊施設でも、(井戸水などの)専用水道が設置されていれば調査の対象となる」と述べた。

閣議後会見で質問に答える伊藤信太郎環境相

 環境省と国土交通省は5月29日、全国の水道事業者にPFASの検出状況の報告を依頼。従来は給水人口5000人以上の事業者を対象としていたが、小規模でも井戸水などを水源として給水する「専用水道」の事業者にも広げた。

 自衛隊は在日米軍と同様に、PFASを含む泡消火剤を使用してきた。PFASの河川や地下水の汚染は、航空自衛隊浜松基地(浜松市)や空自岐阜基地(岐阜県各務原市)などの周辺でも問題化している。(松島京太)

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政府がPFAS摂取許容量を決定、「緩すぎる」のパブコメに耳貸さず…原案通り「ヨーロッパ基準の60倍」

2024年6月25日 21時18分


発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))を巡り、厚生労働省と環境省の二つの専門家会議の合同会議が21日開かれ、水道水や地下水などの濃度の目安である暫定目標値のあり方などについて議論した。近く正式決定される食品安全委員会の「食品健康影響評価」や海外の規制状況などを踏まえ、引き続き検討を進めることで一致した。



有機フッ素化合物(PFAS)の一種PFOA=京都大の原田浩二准教授提供

 食品安全委員会は、人が1日に食品や飲料水などから摂取する許容量について、PFASの一種であるPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の2物質でそれぞれ体重1キログラム当たり20ナノグラム(ナノは10億分の1)との指標値の案をまとめ、現在パブリックコメントを実施している。合同会議では、製造や使用を原則禁止する物質に昨年追加されたPFASの一種PFHxS(ピーエフヘクスエス)の濃度について、委員から「諸外国(の動き)に遅れないように検討してもらいたい」との注文が出た。

 国は2020年、PFOSとPFOAの合計値で1リットル当たり50ナノグラムの暫定目標値を設定。環境省は昨年1月に「PFOS・PFOAに係る水質の目標値等の専門家会議」を設置し、厚労省の水道に関する専門家会議と合同で議論を続けている。(榊原智康)

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PFAS規制「諸外国に遅れないように」国の専門家会議で注文 「原則禁止」になったPFHxSに

2024年2月21日 20時05分


 発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))について、厚生労働省と環境省の二つの専門家会議が24日、水道水や地下水などの規制について合同で議論した。厚労省と環境省は、既存の暫定目標値を維持し、データが不十分などとして規制を強化しない方針を示した。専門家からは課題が指摘されたものの了承された。

 PFASを巡っては、各地の在日米軍基地内や周辺で高濃度で検出され、問題化している。

 国は2020年、健康への懸念があるとして水道水のPFASの暫定目標値を1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。毒性評価が定まっていないため、水道事業者などに順守が求められる水質基準とはしないが、注意を呼びかける物質の分類「水質管理目標設定項目」にPFASを追加した。

 厚労省は、3年間連続で目標値の10%を超える地点があった場合に、水質基準に指定される分類「水質基準項目」に引き上げる方針としている。

 しかし、PFASを水質管理目標設定項目に追加してから3年以上継続して調査したデータがまだないため、水質基準項目に引き上げる物質に当たらないと説明した。

 京都大の伊藤禎彦教授は「現在の分類でもできる対策を整理するべきだ」と提言。横浜国立大の亀屋隆志教授は「検査値が下がるのを待つのみではなく、発生源の調査を考えていく必要がある」と指摘した。(松島京太)

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発がん性疑い「PFAS」規制は現状維持…3年以上の継続調査データがないため

2023年1月24日 19時57分


 東京都多摩地域の井戸水から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)が検出された問題で、都が汚染によって取水を停止した井戸が11の浄水施設(7市)の34本に上ることが、都水道局への取材で分かった。3施設の5本は判明していたが、対象範囲が拡大した。一部浄水施設では約15年前から高濃度で検出されており、市民団体は「都は汚染源を早く特定し、対策をとってほしい」と訴える。(松島京太)

 有機フッ素化合物 PFOSやPFOAなど多数あり、総称はPFAS(ピーファス)。水や油をはじく性質があり、泡消火剤や塗料、フライパンのコーティングなどに幅広く使われてきた。環境中でほとんど分解されず、人や動物の体内に蓄積されやすい。がんや心疾患による死亡リスク上昇との関連や、出生体重が減少する恐れが指摘され、近年、国際的に使用の禁止や規制が進む。日本の水道水などの暫定目標値はPFOSとPFOAの合計が1リットル当たり50ナノグラム。

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 井戸水の汚染源は不明だが、米軍横田基地(福生市など)内で、長年にわたり大量のPFASを含む泡消火剤が土壌に漏出したと英国人ジャーナリストが報道し、関連が疑われている。神奈川県や沖縄県内の米軍基地内や周辺でも、高濃度での検出が相次いで発覚している。

 国は健康被害を避けるため、暫定目標値としてPFASの検出濃度を水道水1リットル当たり50ナノグラム以下と設定している。都は、住宅の蛇口から出る水道水「給水栓水」について、この値を超える恐れのある浄水施設で、井戸からの取水を停止している。

 都水道局によると、2021年5月までに停止したのは、立川市や府中市など7市の施設11カ所で計34本。このうち、府中武蔵台浄水所(府中市)などの3カ所計5本は、都が19年6月に取水を停止したことを発表していたが、その後の取材で、さらに広範囲の井戸で停止していたことが分かった。

◆停止まで高濃度で推移していた井戸もあった

 一部の井戸では汚染が長期間にわたることも判明した。取水を停止した11施設のうち7施設では、都の05年以降の調査で、一時的に高濃度で検出されるケースもあった。とりわけ、府中武蔵台では06年に1リットル当たり86ナノグラムを検出し、取水を停止するまで高濃度で推移していた。

 都水道局が多摩地域で管理する水源の井戸は計278本。取水を続ける井戸でも高濃度のPFASが検出される場所があるが、低濃度の井戸水や河川水と混ぜると国の暫定目標値を下回るため、そのまま利用されている。

PFASの血中濃度を調べるため多摩地域住民の採血が実施された会場=東京都国分寺市で

 多摩地域の汚染状況を調べるため住民の大規模な血液検査を実施している市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の根木山幸夫さん(75)は「停止した井戸が増えたというのは、それだけ汚染範囲が広いということ。都は多摩地域の飲み水を元に戻すために早く対策をしてほしい」と訴える。

 都水道局技術指導課の谷本知之課長は「今の対策が万全とは思っていない。井戸水への対策はコストもかかるので、効率的な手法を取れるように国のPFAS規制の議論を見守っていきたい」と話している。

 東京都多摩地域の水道水 給水人口は約396万人。全体の配水量の1〜2割程度を井戸で取水する地下水が占め、残りは河川水を使用している。地域内に点在する浄水施設は、規模が大きい順に「浄水所」「給水所」「配水所」の名称となる。独自の水源井戸がある場合や、配水の中継地点としての機能のみを持つ場合など浄水施設によって役割は異なる。

発がん性疑い「PFAS」汚染が広範囲に 取水停止の井戸34本、東京・多摩地域 米軍基地関連疑い

2023年1月3日 06時00分


 東京都多摩地域における井戸水の有機フッ素化合物(PFAS)汚染は、長期間にわたって広範囲で続いてきた可能性が出てきた。水道水に使われる水は、人々の健康や生命の安全に直結するはずだが、市民団体の再三の指摘にも都の動きは鈍い。背景には、国内ではPFASの明確な健康基準が定められていないことや、汚染源の可能性がある米軍基地への立ち入り調査が難しいことがある。(松島京太)

 有機フッ素化合物 PFOSやPFOAなど多数あり、総称はPFAS(ピーファス)。水や油をはじく性質があり、泡消火剤や塗料、フライパンのコーティングなどに幅広く使われてきた。環境中でほとんど分解されず、人や動物の体内に蓄積されやすい。がんや心疾患による死亡リスク上昇との関連や、出生体重が減少する恐れが指摘され、近年、国際的に使用の禁止や規制が進む。日本の水道水などの暫定目標値はPFOSとPFOAの合計が1リットル当たり50ナノグラム。

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◆ドイツの基準値を超える住民も

 国は水道水におけるPFASの暫定目標値として1リットル当たり50ナノグラム以下としているが、健康影響に関する基準は示していない。一方、ドイツでは人の血中濃度の基準値が定められており、血液1ミリリットル当たりPFASの一種PFOSが20ナノグラム、PFOAは10ナノグラムを超えると影響が出る恐れがあるとされる。

 米軍によるPFAS汚染が確認された沖縄県では昨年、基地周辺などの住民387人を検査し、27人がドイツ基準を上回った。2020年には都内のNPO法人が府中、国分寺の2市の住民22人を対象とした検査を実施し、基準を超えた住民がいた。

 NPOは大規模検査を求めたが、都化学物質対策課の担当者は「コストに限界があり、PFASの知見も集まっておらず、血液検査は考えていない」と説明する。市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」が600人規模を目標に血液検査を開始したが、スタッフの手当などは寄付で賄わざるを得ない。

◆井戸は全て横田基地の東側に 「原因の可能性ある」

 PFASの汚染源に浮上しているのが米軍横田基地(福生市など)だ。多摩地域で高濃度のPFASが確認された井戸水の範囲は7市34本に及ぶが、全て基地の東側にある。多摩地域の地下水を調査した昭島市によると、地下水は西の山側から平野部の東側に流れている。汚染源は井戸の西側にある可能性が高い。

 全国各地のPFAS汚染を調査している京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は、自然界で分解されにくいPFASを含む泡消火剤が土壌を汚染し、数十年かけて地下水まで浸透しているのではないかとみる。

 横田基地では、過去に長期間にわたり大量のPFASを含む泡消火剤が漏出したと報道されている。汚染が確認された浄水施設は最長で約16キロ離れているが、原田氏の大阪府での調査では化学工場から10キロ以上離れた地下水も汚染していたため「基地が原因の可能性はある」と推測する。

◆行政は「公害として捉えるべきだ」

 都が米軍基地を調査する際のハードルとなるのは、米軍に特権を与えている日米地位協定。日本側が基地の土壌を立ち入り調査できるのは「環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合」に限られる。基地には事故報告も漏出した明白な証拠もなく、調査の申請は事実上不可能。都の担当者は「立ち入り調査は『やらない』ではなく『できない』だ」と話す。

 ただ、都の動きはできることにも鈍い。21年には都内260カ所の地下水でPFAS濃度の調査を始めているが、調査が広範囲に及ぶことを理由に、すべての結果公表は25年とかなり先を見込んでいる。公害問題に詳しい熊本学園大の中地重晴教授(環境化学)は「汚染源を調べたいなら高濃度に汚染されている地帯を重点的に調べる必要がある」と指摘。「行政は公害として捉えて危機感を持って動くべきだ」と訴える。

 ◇

PFASの血中濃度を調べるため多摩地域住民の採血が実施された会場=東京都国分寺市

 市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」は、18歳以上の多摩地域の住民を対象に、検査の参加者を募っている。問い合わせは事務局の根木山幸夫さん=電042(593)2885=へ。

日米地位協定で「調査できない」 多摩地域でPFAS汚染が確認されているのに鈍い東京都の対応 健康基準も定まらず

2023年1月3日 06時00分


<7.7東京都知事選・現場から>



水道を止められた経験のある男性の家=東京都内で

 水が出ない―。水道料金の催促状は来ていたが、都の職員らからじかに「止めますよ」と言われたことはなかった。「生命に関わるのに。本当に止めるのか、とショックだった」。東京都板橋区の男性(64)は振り返る。 

◆コスト削減のため対面での督促を郵送に変更

 都水道局が、料金滞納者への催告の仕方を変えたのは2022年度。それまで東京23区では、訪問による催告と徴収を民間に委託していたが、多摩地域と同様に郵送での催告に変更した。

 担当者によると、これにより年間の委託費7億円が削減できたという。その一方で、水道の停止件数は21年度の10万5000件から、22年度は18万件に増加。23年度は24年1月までで14万件となった。担当者は「大半の方は停止するとすぐに支払ってくれる。費用対効果は大きい」と強調する。

◆いきなりストップ…払うお金がない

 板橋区の男性は22年春から1年ほど、水道を止められたままの生活を余儀なくされた。20年1月に始まった新型コロナウイルス禍を機に、経済状態が悪化していったことが背景にある。

 当時、デイサービス施設で運転手をしていたが、利用が減るなどして勤務が半減。18万円あった月給は10万円になり、そこから家賃6万円を支払う苦しい生活になった。その後も収入が減り、21年末にガスが止まった。翌年春、誰も催告に来ないまま水道が止められ、それから半年ほどで電気も利用できなくなった。

 夜は勤務先で充電したスマートフォンの光を頼り、ネットカフェのシャワーや公衆トイレを使った。職場の水道水を持ち帰ったことも。「生きるためにしょうがなかった」

◆命に関わりかねない対応「都の職員にも葛藤」

 こんな現実があるのに、都水道局は「困窮者を救うチャンスはなくなっていない」と強調する。検針や漏水検査の担当者が異変を感じたら、区市町の福祉部署に年10~20件ほど情報提供しているが、催告方法の変更前後で件数に変化がないことが根拠の一つだ。

 もっとも、水道業務の現場には違う見方がある。全水道東京水道労働組合の諸隈信行書記長は「都職員からは、生活と直結する水を止めることへの葛藤も聞かれる。対応を見直すべきだ」と訴える。催告方法の変更により、給水停止や、再開のための開栓作業などで忙しくなったという声も寄せられているという。

◆困窮者への支援策、都知事選で主張目立たず

水道の水をくむ男性=東京都内で

 水道が止められたまま生活を続けていた男性は昨年4月、ネットカフェや路上での生活に移った。しばらくして支援団体に相談し、生活保護を受けられるようになったという。「水道が止まる前に福祉制度を勧められていたら、つらい思いをせずに済んだのかも」と振り返り、次の4年を担う知事に「困っている人のことも考えて」と求める。

 今回の都知事選では、子育て支援や物価高対策など暮らしを支える施策も議論されている。ただ水道光熱費に困るほどの困窮世帯への支援を訴える候補は、あまり見られない。

 水道の事情に詳しい、水ジャーナリストの橋本淳司さんは、「水道料金を抑えるにも効率化が求められるが、命を支える水を簡単に止めるのは乱暴でもある。効率化か否かの二者択一ではなく、議論を深める必要がある」と話した。(中村真暁)

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「水を止めればすぐ払ってくれる」 水道料金の滞納対策、東京都の「効率化」が情け容赦なさすぎないか

2024年6月25日 06時00分



<7.7東京都知事選・現場から>
 東京・多摩地域の水道水源の井戸が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS)で汚染されている問題は、なぜ起きたのか。解明に向けた東京都の動きは鈍い。(松島京太)

 「都への怒りは大きくなるばかりだ」。米軍横田基地(福生市など)から約2キロの場所に住む岡部由美子さん(70)=立川市=は、基地のフェンス越しに滑走路をにらみ、声を震わせた。

フェンスの向こうが横田基地。PFAS問題の解明のため、岡部由美子さんは都に立ち入り調査を求めている=東京都立川市で

◆「孫の代まで汚染を残したくない」

 PFASを含む泡消火剤の漏出が相次いだ横田基地は、井戸の汚染の有力な「容疑者」だ。都は約1年前から事態を把握しているが、基地への立ち入り調査を要請しないまま時間が過ぎていく。

 岡部さんは昨年、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」による血液検査を受けた。血中からは、米学術機関が「健康被害の恐れがある」とする指標の約2.5倍のPFASが検出された。

30代のころから脂質異常症と診断されてきた。PFASとの関連が指摘される健康被害と聞いて「体質のせいだと思っていたけど、もしそれがPFASのせいだとしたら許せない」と怒りが湧いた。「孫の代まで汚染を残したくない」と、都に汚染源の調査を望む。

 防衛省は昨年6月末、都の問い合わせに、2010~12年に横田基地で泡消火剤の漏出事故が3件発生したと回答した。これを受けて都と基地周辺6市町でつくる連絡協議会は国に要望書を提出したが、立ち入り調査を求めたわけではなく「国の責任における地下水への影響調査」が主な内容だった。

◆「国の動向を注視する」に「危機意識ない」と批判

 沖縄県の普天間飛行場、神奈川県の厚木基地、横須賀基地の米軍3施設では2020年以降、PFAS漏出に関して地元自治体が立ち入り調査を要請し、実現している。浜田靖一防衛相=当時=は横田基地に関しても「関係自治体から具体的な要請があればアメリカ側に働きかけていきたい」と述べていた。

 それなのに、都は一貫して「国の動向を注視する」との態度だ。岡部さんは「なぜ動かないか。納得できる理由を一度も聞いたことがない」と首をひねる。「明らかにする会」事務局の根木山幸夫さん(77)は「都民の命と健康を守るために汚染源を究明するべき都の役割を果たしていない。問題に対する危機意識がないのではないか」と批判した。

 都知事選で議論が深まっているようにも見えない。主要候補を支援するある都議は「一部の地域だけが関心を持つ政策はなかなか前面に出しにくい」と明かした。国分寺市でPFAS問題に取り組む杉井吉彦医師(73)は憤る。「PFASによる水道水汚染が23区内で起きていたら対応は違うはずだ。これは明らかに多摩地域の軽視だ」

 多摩地域のPFAS汚染 各地でPFASが高濃度で検出され、都水道局の水源井戸40カ所が取水を停止した。市民団体が住民の血中のPFAS濃度を調べた結果、取水を停止した7市内の住民の67%が米国で「健康被害の恐れがある」とされる指標を超えていた。米軍横田基地では2010~23年、泡消火剤などの漏出事故が計8回発生しており、汚染との関連が疑われている。

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多摩地域のPFAS汚染「23区で起きたら対応違うはず」 なぜ東京都は米軍横田基地へ調査を要請しない

2024年6月24日 06時00分


発がん性などが指摘されている有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))が各地で検出されている問題で、東京都は都内260カ所の地下水を対象にした調査結果を公表した。全体の約1割に当たる17区市の28カ所で、国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)を超過。立川市や渋谷区では、最大で暫定指針値の約6~12倍の値が確認された。(岡本太)

 都は2021年から、島しょ部を除く全区市町村で、地下水に含まれるPFASの濃度を調べていた。当初は4年かけて調べる計画だったが、1年前倒しして完了した。

 調査結果では、渋谷区で21年度に暫定指針値の6倍を超える1リットル当たり330ナノグラムを検出。立川市では23年度に約12倍の同620ナノグラムを記録した。

 このほか最大値が暫定指針値の2倍を上回ったのは文京区、青梅市、府中市、国分寺市、国立市、狛江市で、多摩地域での検出が目立った。いずれもPFASの一種のPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の合計値。

 都の担当者は調査結果について「高い値が出ている場所がいくつかあり、汚染の原因は複数とみられる」としている。

 都は24年度にもう一度、260地点で調査を実施。高い値が出た場所やその周辺などについては、必要に応じて追加の調査をするとしている。

 PFASは主にフッ素や炭素からなる化合物の総称で、自然界で分解されにくく、体内に入ると長期間残りやすい。焦げ付かないフライパンや食品包装のほか、泡消火剤など幅広く使われており、発がん性などの健康リスクが指摘されている。


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<PFASを追う>東京都内28カ所で指針値超え 都が260カ所地下水調査

2024年4月4日 10時33分


 相模原市東部の河川や地下水が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)で汚染されている問題で、東京新聞は京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)と共同で、市内の道保川に生息する魚などに含まれるPFASの濃度を調査した。濃度が最も高い魚は全国平均の約340倍に相当。欧州の指標では、体重50キロの人が身の部分を1週間に8グラム以上摂取した場合に「健康リスクの恐れがある」とされる数値だった。(松島京太)

◆国内は指標なし、早急な議論を

 PFASは全国の米軍施設や工場などの周辺で検出されており、飲み水以外でも汚染された魚など食べ物から体内に取り込み蓄積される恐れが指摘されている。国内では食品に含まれるPFASの指標はなく、早急な議論が求められる。

 道保川は、市内の中部から南部に流れる長さ約3.7キロの相模川支流の一つ。中央区の道保川公園の湧水などを水源としている。

東京新聞などのPFAS共同調査に協力し、川で魚を採る子どもら=2023年10月21日、相模原市南区で

 本調査は、相模川流域の環境保護に取り組む団体「相模川さがみ地域協議会」の協力の下、小川遊び体験イベントで捕獲した魚類などを原田准教授の研究室で分析した。2023年10月下旬の調査では、道保川の上流から約3.5キロの地点でカワムツ2匹、ドンコ4匹、アメリカザリガニ2匹を採取。「身」と「肝臓」に分け、それぞれに含まれるPFASの一種PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の合計値を調べた。

◆ヨーロッパの食品安全基準によれば

 最も高濃度だったのは、いずれもカワムツで肝臓が1キロ当たり14万ナノグラム(ナノは10億分の1)。身が同2万9000ナノグラムだった。

 環境省は毎年、大気や河川、生物中に含まれる化学物質の量を調査しており、2021年度の調査では魚類に含まれるPFAS濃度の平均値は同85ナノグラムで、カワムツの身は約340倍だった。

有機フッ素化合物(PFAS)の一種PFOA=京都大の原田浩二准教授提供

 欧州食品安全機関が定める耐容週間摂取量(TWI)では、1週間に体重1キロ当たり4.4ナノグラム以上のPFASを摂取し続けると「健康被害の恐れがある」としている。体重50キロで換算した場合のTWIは220ナノグラム。調査では、最高値のカワムツの身に1グラム当たり29ナノグラム含まれており、8グラム摂取すれば232ナノグラムと、TWIの220ナノグラムを超える計算となる。

◆「食用にするのは控えるべき」

 神奈川県や相模原市の調査によると、道保川は21年から源流付近で1リットル当たり300ナノグラム前後、今回の魚類の採取地点付近で同100ナノグラム前後のPFASが検出され続けている。原田准教授によると、魚類は主にえら呼吸で汚染水を取り込むことでPFASが蓄積されるという。

 原田准教授は「汚染された魚類を食べた場合、ほぼ全てのPFASが人体に取り込まれる。PFASの汚染地域では、魚類で同じような状況が懸念され、むやみに食用にするのは控えるべきだ」と指摘する。

 相模原市によると、道保川で漁業は営まれていないという。今回の調査結果に対し、市の担当者は「対応を検討したい」とした。

   ◇

◆水道水の「暫定目標値」は設定、食品はまだ

 「見た目はきれいな川なのに本当にショック」。道保川近くに住む相模原市南区の会社員白鳥淳子さん(40)は、今回の調査結果にため息をついた。子どもの食育に役立てようと、川で捕ったドンコやアメリカザリガニを調理して食べていた。「どれだけPFASが食品に含まれていたら危険なのかが分からないと、安心できない」

 厚労省は2020年、水道水の「暫定目標値」として、1リットル当たりのPFASを50ナノグラムと設定。一方で、食品に含まれるPFAS濃度の目安は国内にはない。

水道の蛇口(イメージ)

 食品を通じたPFAS摂取については、内閣府の食品安全委員会が2023年1月、専門家会議「PFASワーキンググループ」を発足させて議論している。12月25日に開かれた第6回会合では、国内外の健康影響に関する研究をまとめた評価書の案を提示したが、食品の耐容摂取量など具体的な規制値は示されなかった。

 欧州食品安全機関は2020年、PFASの耐容週間摂取量を設定。米国やカナダでは五大湖周辺の州などでつくる協会は19年、魚のPFAS濃度と摂取頻度の目安について指針をつくっている。

 京都大の原田浩二准教授は「PFASの製造規制は進んでいるが、環境中に長く残留するため、過去の汚染がいまだに食品にも影響を及ぼし続けている。国は危機感を持って対策を進めるべきだ」と訴える。

 相模原のPFAS汚染 神奈川県の2020年度の調査で、相模原市東部を流れる道保川から高濃度で検出されたことを受け、市が翌年度から調査を開始し、中央区南橋本の地点で1リットル当たり約1500ナノグラムのPFASを検出。市内の水道水は高濃度で検出されていない河川から取水している。市は汚染が懸念される飲用井戸の使用を控えるよう注意喚起したが、一部の集合住宅などで飲み水として使っていたことが本紙と京大の調査で判明。道保川源流の約2キロ北に米軍相模総合補給廠(しょう)や工場密集地域があるが、汚染源は分かっていない。隣接する座間市の調査によると、付近の地下水はおおむね南方向へと流れている。

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相模川支流の魚から340倍のPFAS検出 1週間に身を8g食べれば「健康リスク」も 京大と共同調査

2024年1月12日 06時00分


沖縄県の米軍基地周辺の河川などから検出されている高濃度の有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)。基地内が汚染源である可能性が極めて高いが、完全に特定されているわけではない。米軍の許可なしに立ち入り調査ができず、情報も公開されないからだ。一方、米国の基地では国内法に基づき、汚染浄化や情報公開が進められてきた。日本政府は住民の不安に応え、PFAS対策に本腰を入れるべきではないか。(宮畑譲、安藤恭子)

◆湧き水を使った池からPFAS検出

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場から約500メートルにある「わかたけ児童公園」。園内の池から国の暫定目標値を超えるPFASが検出され、2020年6月、立ち入り禁止になった。池は子どもたちの格好の水遊び場だったが、水源の湧き水が止められた。立ち入り禁止は解除されたものの、池は今も干上がったままだ。

PFAS汚染のため、水源の湧水が止められて干上がった「わかたけ児童公園」の池=沖縄県宜野湾市で

 PFAS問題に取り組む地元の市民団体「宜野湾ちゅら水会」の町田直美代表は「子どもを持つ親や地元農家はショックを受けている。湧き水が出る場所は地元住民の信仰の対象でもある。神聖な場所を汚された」と憤る。

 会が独自に基地近くの小学校の土壌調査を行ったところ、高濃度のPFASが検出された。町田さんは「基地は騒音、水や土の汚染など日常の平和を壊す。汚染された現状を変えるためには、立ち入り調査がまず第一歩だ」と話す。

 「問題解決には汚染源の究明や抜本的な対策が必要だ」。1月24日、PFASを巡って防衛省に木原稔防衛相を訪ね、基地への立ち入り調査や原因究明を求めた玉城デニー知事が記者団にこう述べた。

◆「日米地位協定」があるから現場を自由に調べられない

沖縄県宜野湾市の住宅街に隣接する米軍普天間基地。広い敷地に滑走路や駐機場が見える(資料写真)

 普天間飛行場や嘉手納(かでな)基地(嘉手納町など)の周辺では、高濃度のPFASが検出されている。原因は、以前から基地内で使用される泡消火剤などだと指摘されてきた。しかし、日米地位協定によって米軍の許可なしに立ち入り調査はできず、明確な汚染源の特定には至っていない。

 PFASとは、発がん性が疑われる有機フッ素化合物の総称。代表的なものとしてPFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)が挙げられる。耐熱性に優れ、高温でも泡が壊れにくく、米軍は航空機火災時の泡消火剤などに使用してきた。人体への有害性が指摘され、世界的に規制強化が進んでいる。国は20年、PFOSとPFOAの合算値で1リットル中、50ナノグラム以下とする暫定目標値を定めた。

 同年4月には、泡消火剤約14万リットルが普天間飛行場から流れ出し、川から大量の泡が舞い上がった。この流出事故では、日米地位協定の環境補足協定に基づき、県などが基地内に立ち入り調査を行った。

 ただ、環境補足協定では「事故(漏出)が現に発生した場合」などに立ち入りの手続きを行うと定めている。機会が限られており、過去に沖縄の米軍施設に日本側の調査が入ったのは、20年の流出時を含めて2件だけ。県は米軍施設にこれまで計4回の立ち入り調査を申請したが、いずれも実現していない。

◆一部水源からの取水を停止した浄水場も

 立ち入り調査がほとんどできないまま、米軍施設周辺では高濃度のPFASが検出され続けている。

 今年1月、県が発表した、普天間、嘉手納両基地周辺などの調査結果では、46地点中33地点で国の目標値を超えた。最大濃度は普天間飛行場近くの湧き水で、目標値の44倍に上った。

 約45万人に水道水を供給する嘉手納基地近くの北谷(ちゃたん)浄水場では、目標値を超えた水源の取水を22年度からやめた。別の水源に頼ることになり、安心して使える水の確保が課題となっている。

◆基地に由来する「見えない」環境汚染

 各地で問題化するPFAS汚染。東京・多摩地区や神奈川の地下水や河川でも近年、国の暫定目標値を大幅に超える検出が相次ぎ、周辺の米軍基地との関連が指摘されてきた。

取材に応じる下嶋哲朗さん

 一方、米国では基地内の汚染源を特定しクリーンアップ(環境汚染浄化)を行う手法が確立しているという。かつてこの様子を取材したノンフィクション作家の下嶋哲朗さん=東京都八王子市=は「基地に由来する『見えない』環境汚染は、今に始まったものではない」と警告する。

 取材のきっかけは、1996年の普天間飛行場返還の日米合意。恩納村(おんなそん)の旧米軍施設で同年、有毒物質のポリ塩化ビフェニール(PCB)汚泥が大量に見つかり、「住宅地にある普天間飛行場が、浄化されないまま返還されたら大変だ」と考えた下嶋さんは、米国の実態はどうかを知ろうと98年、カリフォルニア州のマーチ空軍基地に向かった。

◆米本国では積極的な情報公開がなされていた

汚染源を水の流れから特定するためマーチ空軍基地内に設けられた観測用井戸=1998年6月撮影(下嶋さん提供)

 基地由来の汚染物質は、PCBやトリクロロエチレンなどの発がん性物質、航空用燃料、洗浄剤など多種にわたる。これらは土壌を汚染して地下水に漏れ出し、マーチ周辺でも生活用水として利用されてきた。

 ただ、沖縄の米軍基地と異なっていたのは、国内法や国防総省の計画に基づき、クリーンアップが行われていたことだ。マーチでは84年ごろから土壌調査が始まり、地下燃料貯蔵タンクや廃棄物埋設所など44カ所の汚染源を特定。取水をやめて、周辺住民に瓶詰の水を配布していた。

 地下水脈は見えず、土壌の質によって速度や深度が異なる。複雑な水の流れを「見える化」したのは、基地内外の約250カ所に設けられた観測用井戸のネットワークだ。水流が矢印で詳細に記された基地の地図を手に、下嶋さんは「住宅地へどう流れていくか一目瞭然だった」と語る。

下嶋さんが入手したマーチ空軍基地の地図。井戸の位置のほか、矢印で詳細な地下水の流れが示されている

 さらに着目したのは積極的な情報公開だった。住民への意見聴取やファクトシート(概況報告書)発行、新聞報道を通じ、汚染状況と作業の進行を広報し、安心感を与えていた。

 米国では2000年代に入り、化学工場に対する集団訴訟などで、PFASが問題化。マーチでも10年代にPFASが見つかり、既に浄化を終えたという。

◆日本政府の責任で地下水の流れを解明すべきだ

 それに比べて、日本の米軍基地はどうか。日米地位協定は米側に基地の排他的使用権を与え、原状回復義務を負わないと定める。下嶋さんは「米国で基地の浄化と情報公開はセットなのに、在日米軍基地では行われない。あまりに屈辱的だ」と述べる。

マーク空軍基地で地中から掘り出された汚染源の燃料タンク=1990年撮影(下嶋さん提供)

 米軍横田基地がある多摩地区では、住民団体が自ら血液検査に乗り出すなど、健康不安が高まっているが、国はPFOS、PFOAの健康影響について「確定的な知見はない」との立場だ。環境省の担当者は「河川などの暫定目標値はあるが、法令に基づく基準ではない。数値を超えた場合に調査や浄化を定める法の規定はない」と説明する。

 横田基地の飛行ルート下に暮らす下嶋さんは「国の動きは鈍い」とし、米軍が動かないなら、日本政府の責任で基地の周辺に井戸を掘り、地下水の流れを科学的に解明すべきだと考える。「この国はなぜ、南西諸島を要塞(ようさい)化する巨額の予算は立てても、基地と隣り合わせの住民の安全に振り向けようとしないのか。環境立法を急ぎ、基地汚染の調査と浄化を尽くし、自国民のいのちを守る。それこそが真の国防ではないか」

◆デスクメモ

 下嶋さんが取材を始めた90年代後半は京都議定書が採択された時期に当たる。それから二十数年。環境への意識は概して高まってきた。ところが米軍基地を巡る環境の問題は、ブラックボックスのままだ。日米で命の重みに差はない。日本政府は二重基準を放置していいはずがない。(北)

 下嶋哲朗(しもじま・てつろう) 1941年、長野県上田市生まれ。沖縄戦下の読谷村のチビチリガマ(洞窟)で起きた住民の集団自決を8年がかりで解明。沖縄や平和、日系移民をテーマとした作品が多い。「アメリカ国家反逆罪」で講談社ノンフィクション賞。

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アメリカ本国では「既に浄化を終えた」PFAS汚染 在日米軍基地では調査を制限 日本政府はいつ住民を守るのか

2024年2月4日 12時00分


 米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)で、発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)を排水から除去する設備を、10月から稼働させていないことが分かった。防衛省南関東防衛局が市役所を訪れ、米軍側に照会した内容を伝えた。上地克明市長は「大変遺憾。なぜもっと早く情報提供がなかったのか」と批判した。



米海軍横須賀基地の排水処理場にあるタンク=15日、神奈川県横須賀市で

 米海軍は基地内で昨年、PFASの一種のPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)を、暫定目標値を大幅に超えて検出。水質浄化用の粒状活性炭フィルターを昨年11月に導入した。市によると、市の要請で防衛省が問い合わせ、米海軍が今年10月21日に稼働を止めたことを認めた。理由を「検出値が安定している」とした。根拠となる水質調査結果の提供は拒み「特異な事象は確認されていない」との回答にとどめた。

◆市長は国に海水調査を要求

 上地市長は防衛省に対し、米海軍に調査結果の開示を求めるよう訴えるとともに「市民の安全安心の確保のためにも、国の責任で海水のサンプリング調査をするよう要求する」と述べた。面会した南関東防衛局の末富理栄局長は「直ちに実施し、分析結果が判明次第、報告する」と応じた。

 本紙は在日米軍司令部に対し、稼働停止の理由や日本側への報告時期などについてメールで問い合わせている。(砂上麻子)

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PFAS除去設備、地元に知らせず稼働ストップ 横須賀の米海軍基地「検出値が安定」…でもデータ公表は拒否

2023年12月21日 19時26分


東京・多摩地域の水道水源の井戸が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)で汚染されている問題で、住民の血中PFAS濃度の検査を実施した市民団体が31日、東京都に対し、汚染源として疑われている米軍横田基地(福生市など)への立ち入り調査要請や汚染源特定などを求める要望書を提出した。

◆浄化装置や血液検査を求めたが

東京都の担当者に要望書を手渡す市民団体のメンバーら

 市民団体は「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」。要望書では、地下水が汚染された浄水施設への浄化装置の設置、都による住民の血液検査の実施、ボーリング調査による汚染源特定、基地への立ち入り調査の国への要請、自治体独自の調査や対策への財政支援―の5点を求めた。

◆「蛇口の水は安全性が確保されている」

 浄化装置の設置について、水道局多摩水道改革推進本部の及川智水質管理担当課長は「水道事業者は水質基準を蛇口の水で満たすのが役割。蛇口の水では安全性が確保されている」と回答。基地への立ち入り調査について、都市整備局の松木進基地対策担当課長が「まず国にしっかり対応していただきたい」と応じた。

 同会事務局の渋谷直さんは「都の姿勢が問題を解決するための第一歩だ」と訴えた。

多摩地域のPFAS汚染 東京都などの調査で2005年以降、多摩地域の広範囲の井戸から高濃度のPFASを検出。都水道局は19年6月以降、水道水源の井戸40カ所の取水を停止している。市民団体が22〜23年に実施した住民の血液検査では、停止井戸から取水していた浄水施設がある7市で、約67%の住民の血中PFAS濃度が、米国で「健康被害の恐れがある」と定める指標を超えていた。

◆消火剤漏出の事実を伝えられても動きなし

 立ち入り調査、汚染源調査、水源対策—。PFAS汚染を巡る東京都の対応は、同じく米軍基地を抱える沖縄県と比べて消極的だ。

 沖縄県宜野湾市の普天間飛行場では、2020年4月にPFASを含む泡消火剤の漏出事故が発生。県は同月に環境補足協定に基づく飛行場内への立ち入り調査を国に求め、初の立ち入り調査が実現した。

 一方で都は、汚染源として疑われる横田基地への立ち入り調査を国に要請していない。今年6月に国から横田基地での泡消火剤漏出事故を伝えられて以降、動きは見えないままだ。

◆沖縄は汚染源特定へ向けボーリング調査も

 汚染源特定に向けて、沖縄県は22年度、普天間飛行場周辺の地下水の流れや汚染状況を詳しく調査した結果を公表。特定につながるデータが得られそうな場所を選び、ボーリング調査も実施した。23年度は調査地点を増やして精度を上げる。県の担当者は「基地内での追加調査を求める材料にしていきたい」と話す。

 都の地下水調査は都内全域と幅広く、汚染源特定に絞っていない。本紙の情報公開請求や都の関係者への取材によると、横田基地近くの監視井戸で事実上の都内最大のPFAS濃度を検出したものの、井戸の場所は非公開となっている。

◆「都民の基地への意識が低かったことも一因では」

 汚染された水源への対応も異なる。沖縄県は北谷浄水場(北谷町)で21年度から浄水装置にPFAS除去効果が高い活性炭を導入。都水道局は、汚染された水道水源の井戸40カ所で取水を停止したままで、再開のめどは立っていない。

 PFAS問題に詳しいジャーナリストの諸永裕司さんは「米軍基地による事件や事故で日常が脅かされている沖縄と違い、『横田基地は遠い場所』ととらえるなど、都民の当事者意識が低かったことが都の動きの鈍さに影響してきたのではないか」と話した。(松島京太)

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PFAS汚染 沖縄県ができた米軍基地への立ち入り調査、東京都はなぜできない? 対応を比べてみると…

2023年10月31日 21時22分


 東京・多摩地域の水道水源の井戸が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)で汚染されている問題は、汚染源特定が一向に進まない。米軍横田基地(東京都福生市など)でPFASを含む泡消火剤の漏出事故があったことが公表され、基地の「容疑」が濃厚となった後も、都は基地への立ち入り調査の要請に消極姿勢。基地周辺自治体にも具体的な動きが見えない。(松島京太、渡辺真由子、奥野斐、岡本太)

◆最近の動きは?

 「関係自治体の意向を踏まえることが適切である」。基地への調査を問われ、木原稔防衛相は9月29日の会見で話した。防衛省側は、6月30日に都などに泡消火剤の漏出を伝えて以来、一貫して調査は関係自治体の要請を受けてからとの考えを示す。

 ただ、「関係自治体」の束ね役である小池百合子都知事には、積極的な様子がない。9月29日の会見でも「防衛省が一番ご存じのこと。立ち入りについてはさまざまな会議体があり、それを通じてということになる」と、要請するかどうかを答えなかった。

 「会議体」の一つが、横田基地に関する都と周辺市町連絡協議会。小池知事が会長で立川、昭島、福生、武蔵村山、羽村の5市と瑞穂町で構成する。7月に漏出の量や場所の説明などを政府に文書で求めて回答を得てからも、動きがない。

◆「知事はできない理由があるなら納得できる説明を」

 協議会メンバーで人口が最多の立川市は、9月に初当選した酒井大史市長が「近隣市と連携して要請していきたい」とするが、具体像はまだ示されていない。

米軍横田基地

 協議会に入っていない国分寺市は、市民団体の血液検査で最も深刻な汚染が判明し、汚染度が高い6〜7市で対策を議論する会議体をつくる構想を6月に示したが、断念した。市担当者は基地への対応などで「温度差があった」と明かす。

 市議会は9月28日、都に汚染原因究明や血液検査などを求める意見書を全会一致で採決。ただ、立ち入り調査への言及はない。市議の一人はこう振り返る。「良い意見書になったとは思っていない。結局、横田基地には触れちゃいけないという空気が一部あった」

 血液検査に取り組んだ市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の卯城公啓(うしろきみひろ)さん(74)=国分寺市=は、調査に動かない自治体に憤る。「人の命と健康をどう思っているのか。一刻も早く汚染源を突き止めるのは普通のこと。知事はできない理由があるなら納得できる説明をするべきだ」と強調した。

◆横須賀基地では地元市主導の立ち入り調査が実現しているのに

2022年12月、米海軍横須賀基地の排水処理場付近で日米合同で実施した海水のサンプリング調査の様子=神奈川県横須賀市で、本社ヘリ「おおづる」から

 日米地位協定上、日本は米軍の許可なしで基地への立ち入り調査はできないが、環境補足協定では米側からの漏出事故発生の通報などを条件に、立ち入り調査の要請が可能とされる。

 横田基地以外の米軍施設では、自治体主導で立ち入り調査が相次ぐ。神奈川県横須賀市の横須賀基地では、基地の排水から高濃度のPFASが流出したことを受けて、市が県を通さず単独で防衛省に申請書類を出して実現した。沖縄県の普天間飛行場では、県が率先し防衛省に申し立てたという。

 日米地位協定に詳しい東京外国語大の伊勢崎賢治名誉教授(国際関係論)は「横田基地に踏み込むことで地位協定などの日米関係を揺るがしかねないという考えが、消極姿勢の根本にあるのではないか。都や地元自治体が声を上げて、国を動かしていく姿勢が重要だ」と指摘する。

 東京・多摩地域のPFAS汚染 東京都などの調査では2005年以降、多摩地域の広範囲の井戸から高濃度のPFASを検出。都水道局は19年6月以降、水道水源の井戸40カ所の取水を停止している。市民団体が22~23年に実施した住民の血液検査の結果では、停止井戸から取水していた浄水施設がある7市で、67%の住民の血中PFAS濃度が、米国で「健康被害の恐れがある」と定める指標を超えていた。横田基地でのPFASを含む泡消火剤の漏出事故を巡っては、米軍は基地外への流出を認めていない。

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小池百合子知事も動かず

2023年10月18日 06時00分




東京・多摩地域の水道水源の地下水が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS)で汚染されている問題で、小平市議会が28日、汚染源特定のために在日米軍基地や工場を調べるよう市に求める請願書などを採択した。

 請願書では「必要な場合は立ち入り調査をするように都内25市と連携して国や都に働きかけること」などと要求し、全会一致で採択した。

 請願理由として、沖縄県や神奈川県でPFAS漏出事故に対する米軍基地内への立ち入り調査が実現している例などに触れ「都や関係市の要請で(米軍横田基地の)調査は可能だ」と指摘。工場については「市内の事業所の(PFASの)保有状況や過去の漏出の調査が重要だ」と訴えた。

 国や都に対してPFAS血中濃度基準の設定や血液検査などを求める意見書も可決した。(松島京太

多摩地域のPFAS汚染 小平市へ米軍基地など調査を求める請願書 市議会が採択

2024年6月29日 07時13



<PFASを追う>



 東京・多摩地域の住民を対象に昨年11月から開始されたPFAS(ピーファス)濃度を調べる大規模な血液検査は21日の報告で全容がまとまった。791人分の検査で明らかになったのは、多摩地域で汚染が広がり、特に米軍横田基地(東京都福生市など)の地下水の下流域とされる東側の自治体で深刻だったことだ。識者は「行政は市民団体の血液検査を活用し、健康被害調査を実施するべきだ」と指摘する。(松島京太)

◆血中濃度と水道水の関係は

 「横田基地から東側の地下水の汚染度が高い地域に、PFAS血中濃度が高い住民が集中していると言える」。会見にオンラインで出席した京都大の原田浩二准教授が、血中濃度が高かった地域を色分けした地図を示しながら説明した。

 調査から分かったのは、PFASの血中濃度上昇に水道水が関与している可能性が高いことだ。

 都水道局によると、2005年から水道水源の井戸から高濃度のPFASが検出されており、19年以降に7市の40カ所の井戸で取水を停止した。井戸の位置はいずれも横田基地の東側。多摩地域の地下水は西側から東側に流れているとされることから、汚染源の「容疑者」が横田基地だった。

 横田基地は12年に約3000リットルに上る大規模なPFASを含む泡消火剤の漏出したことを認めており、容疑は強まる。「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」事務局の渋谷直さんは「最大のポイントは横田基地への立ち入り調査だ」と語り、国や都に対応を求めていく方針だ。

◆住民の健康影響、調査はこれから

 汚染源の特定に加えて、重要になるのが、PFASを取り込んだ住民の健康影響をどう調べていくかだ。

 一般的に、環境中の化学物質の健康影響を調べるためには、動物実験のほか、人間の集団を対象とした疫学調査を実施する必要がある。単発的な調査では、疾病との因果関係を判断するのが難しいため、特定の集団を長期間追跡することが求められる。

 疫学調査としては、環境省が2010年度から進める「エコチル調査」がある。PFASも分析対象で、全国の母子10万組を追跡する。ただ、都内は調査地域から外れており、子どもの発育に関する研究が主な目的だ。米国で実施されたPFASの疫学調査で関連が分かった発がん性などの疾病は、エコチル調査では明らかになりにくい。

 21日の会見では「PFAS相談外来」を訪れた住民で、脂質異常症の治療をしている割合が高いことが示されたが、PFASが原因であると結論づけることはまだ困難だ。

◆疫学調査には高いハードル

血液検査の追加調査分の結果を報告する原田浩二准教授(右画面内)ら

 環境省はPFASへの関心の高まりを受け、今年から2つの専門家会議を設立。省内には「PFAS対応チーム」を編成するなど少しずつ動きだしてはいるが、十分とはまだ言えない。

 来年度予算の概算要求では、PFASの有害性を調べるための動物実験などに4億7000万円を計上した。ただ、新たな疫学調査の方針はない。担当者は「疫学調査は予算の関係でハードルが高い。エコチル調査と動物実験の両輪で健康影響を調べる」と説明する。

 環境中の化学物質について詳しい群馬大の鯉淵典之教授(環境生理学)は「汚染地域で毎年、血液検査と健康調査を実施してリスクを調べることが現実的に今できる対応だ」と語る。

 その上で、汚染地域を特定する方法として、今回の多摩地域での血液検査も踏まえ「市民団体による調査も参考にするべきだ」と指摘する。

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。4700種類以上あるとされ、PFOSやPFOAは人体や環境への残留性が高く、腎臓がんや脂質異常症の発症リスクが上がるとして国内外で規制が進む。血中濃度の指標は日本にはなく、米国では7種類のPFAS合計値で「血液1ミリリットル当たり20ナノグラム」を超えると健康被害の恐れがあるとしている。

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PFAS汚染、米軍横田基地東側で深刻 大規模血液調査でわかった 焦点は「基地立ち入り」と「健康影響調査」

2023年9月22日 06時00分


<PFASを追う>

 東京・多摩地域で水道水源の井戸が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)で汚染されている問題で、住民の血中PFAS濃度の検査に取り組む市民団体が21日、計791人分の分析結果を報告した。都水道局が汚染で井戸の取水を停止した7市の住民の67%が、米国で「健康被害の恐れがある」とする指標を超えていた。受検者向けの健康相談外来で、PFASが発症リスクを上げる脂質異常症を「治療中」と答えた割合が、国調査の平均の約2倍だったことも判明した。(松島京太)

血液検査の追加調査分の結果を報告する原田浩二准教授(右画面内)ら=立川市で

◆「基地が発生源であることは間違いない」

 調査は昨年11月から、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」と京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)が実施。今年6月の「最終報告」で検査人数が10人未満だった自治体を中心に141人を追加で検査。多摩30市町村の住民の汚染傾向を把握するため、血中のPFOS(ピーフォス)・PFOA(ピーフォア)・PFHxS(ピーエフヘクスエス)・PFNA(ピーエフエヌエー)の4種類を分析した。

 多摩地域全体では、4種合計で米国指標を超えた割合は46.1%。都水道局が2019年以降に井戸の取水を止めた7市(立川・国分寺・国立・小平・調布・府中・西東京)でみると、67.9%とより強い汚染の傾向がはっきりとした。

 汚染源として浮上しているのが米軍横田基地(東京都福生市など)だ。米軍は過去にPFASを含む泡消火剤の大規模漏出があったことを認めている。それにより汚染された井戸を水源とした水道水を住民が取り込んだ可能性がある。分析を担当した原田准教授は「基地が発生源であることは間違いない」と指摘する。

◆脂質異常症も国調査の平均の2倍に

 この日の報告会見では、今年5月に社会医療法人社団「健生会」が開設した受検者向け相談外来に訪れた60人への問診で、脂質異常症を「治療中」と答えた割合が23%だったと発表。これは、厚生労働省の国民生活基礎調査が示す65歳以上の平均値の約2倍だった。

 PFAS汚染を巡っては、防衛省が2010〜12年に横田基地で泡消火剤の漏出事故が3回あったことを把握しながら、公表していなかったことが7月に判明。米軍は基地の外への漏出を否定したが、立川市内の基地付近の井戸からは18年度に国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)の約27倍という高濃度で検出された。米軍基地への立ち入り調査は日米地位協定の高い壁が立ちはだかるが、都や自治体が汚染源解明へ本腰を入れるかが問われている。

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。4700種類以上あるとされ、PFOSやPFOAは人体や環境への残留性が高く、腎臓がんや脂質異常症の発症リスクが上がるとして国内外で規制が進む。血中濃度の指標は日本にはなく、米国では7種類のPFAS合計値で「血液1ミリリットル当たり20ナノグラム」を超えると健康被害の恐れがあるとしている。

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PFAS血中濃度「健康被害恐れ」が住民の67% 多摩7市は都が汚染で井戸止めた地域 市民団体分析

2023年9月21日 20時37分



米軍横田基地(東京都福生市など)で発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS、ピーファス)を含む泡消火剤が漏出した問題で、防衛省は21日、2010~2012年に発生した計3件の漏出を2019年1月に把握していたと発表した。都や周辺市町に伝えたのは今年6月で、漏出の把握から公表まで4年半を要した。同省は「省内の連携ミスで公表が遅れた。速やかに情報提供すべきだった」と釈明した。

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類以上あるとされる。PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)は人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。

 同省によると、2018年12月の漏出事故の報道を受け、2019年1月に米側から漏出についての報告書を入手した。公表内容をどうするか米側と調整を始めたが、同省担当者の異動時の引き継ぎミスなどもあり、米側から回答を得たのは2022年12月だった。

 東京都などに、漏出を伝えたのはその半年後の今年6月。同省の担当者は「省内の連携が不十分で、反省すべき点だと考えている」とした。米側には漏出の再発防止と速やかな情報提供などを要請したという。

 浜田靖一防衛相が今月7日の会見で「今後の調整に支障を及ぼす恐れがある」と述べ、情報の把握時期を明らかにしてこなかったことについて、担当者は「言えることはしっかり説明したい、と米側と調整した」と話した。

 また、2020年5~11月に消防車両から3件、計約103リットルの漏出があったことを新たに公表した。泡消火剤に、国内で規制されているPFOS、PFOAは含まれていないという。基地内への立ち入り調査は「環境省の専門家による検討等をふまえ、防衛省としても関係省庁で連携しつつ対応していきたい」とした。(奥野斐)

◆「基地の外に漏出していない」と説明するが…

 米軍横田基地でのPFAS漏出が速やかに公表されなかったことについて、市民団体や自治体の関係者からは「対策が遅れ汚染が広がった可能性がある」と批判が出ている。

PFASを含む泡消火剤が漏出した米軍横田基地=東京都で、本社ヘリ「あさづる」から(中西祥子撮影)

 米軍は今回公表された6件の泡消火剤の事故について、いずれも「基地外には漏出していない」と防衛省に説明する。しかし、市民団体が行った多摩地域の住民の血中PFAS濃度の調査では、基地から地下水が流れる方向の立川市や国分寺市の住民の濃度が高い傾向にあり、団体は「基地が汚染源」とみている。

 こうした中、市民団体の根木山幸夫共同代表は公表の遅れについて「国民に対して背信的だ。都や周辺自治体の動きも遅れ、汚染がより広がった可能性もある」と指摘した。その上で今後は「国や都は米軍と交渉し、多摩地域の汚染との関係を徹底的に調べてほしい」と注文した。

 防衛省が把握した後、都は2019年12月〜今年6月、横田基地の事故の有無について4回にわたって問い合わせていた。都基地対策部の担当者は公表遅れに「多くの都民の関心事なのに、誠に遺憾だ」と批判。立川市の担当者は「PFASは健康被害も心配されているのに公表が遅過ぎる。今後は都と5市1町の協議会と足並みをそろえて立ち入り調査の要請なども検討していきたい」と語った。(渡辺真由子、昆野夏子、松島京太)

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横田基地のPFAS漏れを防衛省は4年前に把握していた 地元は「公表遅れで汚染が広がった」と批判

2023年7月21日 22時00分


東京新聞と京都大の原田浩二准教授による井戸水のPFAS調査で、相模原市中央区の集合住宅の水道から、国の暫定指針値を大きく上回る汚染が相次ぎ確認された。住民らは「どこに相談すれば」と不安を口にする。

◆「どこに相談したらいいのか」戸惑う住民

集合住宅の蛇口から出る井戸水からは、国の暫定指針値を超えるPFASが検出された。住人の男性は飲用水には使っていないという=相模原市中央区で

 「安全な井戸水。水道水は無料」。そんなうたい文句にひかれ、集合住宅への入居を決めた会社員男性(25)宅の蛇口の水からは、暫定指針値の6倍近い1リットル当たり297ナノグラムのPFASが検出された。

 就職を機に、今年3月、大阪市から相模原市へ転入した。奨学金の返済を抱えていたこともあり、家賃の安い住居を探していた。入居後、市内で高濃度のPFASが検出されていることを知り、本紙の調査に応募した。男性は「水や健康の不安も考え、ストレスがたまった。健康が脅かされぬよう、行政は井戸水の検査項目にPFASを加えてほしい」と話す。

 40代の会社員女性は別の集合住宅で、蛇口から出る井戸水を利用していた。今回の調査で最高値となる1リットル当たり301ナノグラムのPFASが検出され「どこに相談したらいいのかも分からない」と肩を落とした。

 本紙の指摘を受けて、男性の集合住宅では、管理会社が井戸水の供給を停止した。6月28日にはマンションの入居者を1軒ずつ訪問して公共水道に切り替える方針を伝えるとともに、2リットルのペットボトル入り飲料水を3本ずつ配布。管理会社の担当者は「突然のことで困惑しているが、入居者の安全を最優先に考えたい」と語った。

 一方、市は昨年の調査で、地下水などから高濃度のPFASを検出した際に、市内の一部地域の井戸設置者に、飲用を控えるよう注意喚起したとしている。ただ、管理会社は「届いていない」と説明。本紙の調査結果を知らされるまで、PFAS汚染については情報がなく、飲用水としての利用を続けていたという。(昆野夏子)

◆工場や米軍施設との関連は特定できず

 共同調査の目的の1つは汚染源の特定だ。そのために、PFASの成分の詳細も分析した。井戸水の採取場所によって、成分が異なる傾向も判明した。原田准教授は「汚染源が複数にわたる可能性がある」と指摘する。

 相模原市中央区で採取した水では、ある地点では、PFASの一種である「PFOS」が「PFOA」の約4倍検出されたのに対し、別の地点ではほぼ同じ割合でみられた。

 区内には、過去にPFASを使った製品を製造していた工場や、2022年6月までPFASを含む泡消火剤を設置していたとされる米軍の相模総合補給廠(しょう)があるが、今回の調査では、汚染源を特定するための十分なデータは得られなかった。原田准教授は「さらに詳細に調べていくことで、汚染源にたどりつける可能性がある」としている。(岡本太)

  ◇

 東京新聞と京大の原田浩二准教授の研究室は、相模原市周辺の地下水のPFASの汚染状況や汚染源をたどる共同調査を実施しました。検査希望者は、東京新聞2023年3月2日付朝刊で、井戸水を使用している住民や事業所を対象に募集。5月までに多くの工場や米軍相模総合補給廠がある相模原市中央区や南区内の24カ所の個人宅や集合住宅、公園、商業施設のほか、補給廠の北側に隣接する東京都町田市の井戸で採水し、原田准教授の研究室で10種類以上の成分について分析しました。

 調査結果は6月、井戸所有者の情報を特定できない形で市にも報告しました。共同調査によるPFAS分析依頼は今後も受け付ける方針ですが、サンプル採取地点を限定して調査を継続するため、全ての依頼には応じられない可能性があります。連絡先は、東京新聞立川支局=tama@tokyo-np.co.jp

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「安全な井戸水」から高濃度のPFASが…集合住宅の管理会社も知らなかった

2023年7月3日 06時00分


 発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS、ピーファス)が相模原市の地下水などから高濃度で検出されたことを受け、東京新聞は京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)と共同で、相模原市と、隣接の東京都町田市で計25カ所の井戸水や河川水を調査した。PFASの濃度が国の暫定指針値を超えたのは8カ所。検出濃度は最大で指針値の6倍に達し、一部は集合住宅で飲用水に使われていた。

PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類以上あり、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは人体や環境への残留性が高く、健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。国内では、地下水の暫定指針値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。東京・多摩地域では、米軍横田基地(東京都福生市など)周辺の井戸水から高濃度で検出されており、水道水源の井戸40カ所が取水を停止している。

 全国には、飲用井戸が3万8000カ所以上あるとされるがPFASの検査はほとんど行われていない。住民が知らぬ間に高濃度のPFASを摂取している可能性が心配され、対策が求められる。

 調査では、PFASの代表的な物質「PFOS」と「PFOA」を合わせた濃度を測定した。25カ所中の8カ所で、1リットル当たり55~301ナノグラムとなり、国の暫定指針値(同50ナノグラム)を超えた。残る17カ所は、30ナノグラム以上50ナノグラム未満が4カ所、10ナノグラム以上30ナノグラム未満が8カ所、10ナノグラム未満は5カ所だった。一部は飲料水や生活用水、農業用水に使われている。

 濃度が高かった上位の2地点はいずれも相模原市中央区の集合住宅。本紙は、井戸水が供給されている各居室の蛇口から採取した水を調べ、井戸の利用者に検査結果を報告した。高い濃度を検出した集合住宅のうち1件では、管理会社が今後、公共水道に切り替えることを決め、住民に周知した。

 原田准教授は「検査結果は長期的に飲めば、健康リスクがある水準だ。行政はしっかりと状況を調べ、対策を取ることが必要だ」と指摘した。

 市は過去の地下水調査の結果から、今回数値の高かった地域の井戸所有者には昨年12月に検査などの必要な水質管理を求めたと説明。「現時点で新たな対応は考えていない」とした。

井戸水を採取する松島京太記者=相模原市内で

 市が2021、22年度、約40カ所で実施した河川水や地下水の調査では、指針値の30倍に相当する1リットル当たり約1500ナノグラムのPFASが検出されている。

 また、市内には、かつてPFASを含む泡消火剤が配備されていた米軍相模総合補給廠(しょう)(中央区)や、過去にPFASを含む製品を製造していた工場があるが、今回の調査では、関連は明らかにはならなかった。(松島京太)

◆「知らぬ間に高濃度のPFASを摂取している恐れが…」

 全国に3万8000カ所以上あるとされる民間の飲用井戸の大半は、PFASの検査が行われていない。水道法の水質基準項目に定められていないからだ。

 厚生労働省によると、主に井戸水を水源とする一定規模以上の設備は「専用水道」と呼ばれる。全国で8189の事業者が運営し、給水人口は36万人に上る。集合住宅や教育、宿泊施設などでも使われている。より小規模の設備は「飲用井戸」に分類され、全国に3万カ所以上あるとされる。

 これらは水質検査はされるが、PFASは科学的知見が不十分だとして、検査を義務付ける水質基準項目の対象外になっている。厚労省は周辺の汚染状況などを踏まえ必要な対応を求めるが強制力はなく、検査は事業者らの自費のため、実施されないことが多い。

 原田准教授は「住民が知らぬ間に高濃度のPFASを摂取している恐れがある」と指摘した上で「汚染は全国どこでも起きる。国はPFASを水質基準項目に加え、規制に乗り出してほしい」としている。

 一方、自治体などが管理する「公共水道」では、東京都や神奈川県などがPFAS濃度を測定。都は高濃度の井戸水の取水を止めるなどの対応をしている。(岡本太、昆野夏子)

  ◇

 東京新聞と京大の原田浩二准教授の研究室は、相模原市周辺の地下水のPFASの汚染状況や汚染源をたどる共同調査を実施しました。検査希望者は、東京新聞2023年3月2日付朝刊で、井戸水を使用している住民や事業所を対象に募集。5月までに多くの工場や米軍相模総合補給廠がある相模原市中央区や南区内の24カ所の個人宅や集合住宅、公園、商業施設のほか、補給廠の北側に隣接する東京都町田市の井戸で採水し、原田准教授の研究室で10種類以上の成分について分析しました。

 調査結果は6月、井戸所有者の情報を特定できない形で市にも報告しました。共同調査によるPFAS分析依頼は今後も受け付ける方針ですが、サンプル採取地点を限定して調査を継続するため、全ての依頼には応じられない可能性があります。連絡先は、東京新聞立川支局=tama@tokyo-np.co.jp

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PFASを集合住宅の井戸水から検出 相模原市の8カ所で暫定指針超え、最大6倍 東京新聞と京大研究室が共同調査

2023年7月3日 06時00分


 有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))はどんな物質なのか。その特徴や健康への影響、規制の状況などをまとめました。(榊原智康)

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 Q どんなもの?

 A 主に炭素とフッ素からできた「有機フッ素化合物」の総称です。ほとんどが人工的につくられたもので、4700種類以上あります。水や油をはじき、熱に強い特徴があり、自然界ではほぼ分解されません。環境中や人体に長く残るため、「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも呼ばれています。PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(パーフルオロオクタン酸)が代表的な物質です。

 Q 何に使うの?

 A 1950年代以降、こびりつかないフライパンや水をはじく衣類、半導体の製造、大規模火災時用の泡消火剤などに広く使われてきました。工場排水や米軍基地の泡消火剤の漏出などで土壌を汚染し、地下水や河川水に入り込んで飲み水として人が摂取している可能性があります。

 Q 健康に影響は?

 A 国際がん研究機関は、PFOAを発がん性の恐れがある物質に分類しています。腎臓がんや前立腺がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患の発症の他、赤ちゃんの体重減少、コレステロール値の上昇などとの関連が指摘されています。

 Q 研究の状況は?

 A 米国の公的機関では、血中1ミリリットル当たり20ナノグラム(ナノは10億分の1)以上あると腎臓がんや脂質異常症などのリスクが高まるとの結果をまとめました。多摩地域の血液検査では20ナノグラム超の人も多くいました。ただ、日本では摂取と健康被害の関係の研究があまり進んでいません。

 Q 規制は?

 A 有害な化学物質を国際的に規制するストックホルム条約でPFOSは2009年、PFOAは19年に製造・使用が原則禁止となりました。飲料水は各国が安全の目安となる数値を示しています。日本は20年に、毎日2リットルの水を飲んでも健康に影響が生じないレベルとして、水道管理の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と定めました。米国はもっと厳しく、米環境保護庁が昨年6月、PFOSを0.02ナノグラム以下、PFOAを0.004ナノグラム以下とする暫定勧告値を示しました。

<Q&A>そもそもPFASって何なの? 健康にどんな影響があるの?

2023年3月4日 06時00分


 東京・多摩地域で水道水に利用していた井戸水から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))が検出された問題で、社会医療法人社団「健生会」(東京都立川市)が4月以降、専門知識を持った医師による健康相談窓口「PFAS相談外来」を設置する。同会によると、全国初の取り組みで、松崎正人専務理事は「不安を抱く人に医療機関として腰を据えて対応していきたい」と語った。(松島京太)

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 多摩地域では高濃度でPFASが検出され、都水道局が井戸34本の取水を停止し、大きな影響が出ている。汚染源として、米軍横田基地(福生市など)との関連が浮上している。

 相談外来を計画しているのは、健生会グループの「立川相互ふれあいクリニック」(立川市)など多摩地域の5カ所前後の診療所。同会は、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」が昨年11月から実施する地域住民のPFAS血液検査で採血会場も提供し、協力してきた。

PFAS相談外来の設置が検討されている「立川相互ふれあいクリニック」

 当面は、検査の参加者約600人の中で希望者の健康状態を継続的にチェックし、治療が必要ならば専門の診療科を紹介する。検査に参加していない人でも、PFAS摂取を抑える方法を助言したり、健康相談に応じたりする。料金は未定。

 「明らかにする会」による住民の血液検査では、国分寺市を中心とした87人のうち、74人の血中に含まれるPFAS濃度が健康被害の恐れが高まるとされる米国の指標値を超えていたことが判明。PFASに詳しい京都大の小泉昭夫名誉教授(環境衛生学)は「PFASの血中濃度が高い人の健康不安に向き合うと同時に、健康影響に関する科学的知見を集める場所になれば」と話した。

全国初の「PFAS相談外来」多摩地域に4月以降設置へ 医師が健康状態を確認して助言

2023年3月4日 06時00分


相模原市東部の河川や地下水が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)で汚染されている問題で、同市中央区南橋本の化学・事務用品大手「スリーエム(3M)ジャパン」グループの工場敷地内にある井戸から、国の暫定指針値の34倍のPFASが検出されていたことが、分かった。市民団体が31日、市内で会見し明らかにした。これまで、市や東京新聞が市内で調査した地点で最高濃度。識者は汚染源の可能性があるとの見方を示した。

◆相模原市「下水への排出基準はない。対応を求めていない」

情報公開請求で入手した3Mジャパングループの工場に関する資料を説明する市民団体の代表(左)=31日、相模原市で

 市民団体「相模川さがみ地域協議会」が市に情報公開請求し、工場に関する資料を入手。それによると、3Mジャパンイノベーション相模原事業所が昨年8月、市に対し「所内の井戸で2022年10月、(PFASの一種の)PFOA(ピーフォア)が水1リットル当たり約1700ナノグラムの濃度で検出した」と報告した。井戸の水は防火水槽などに使われた後、下水に排出されるとしている。

 国はPFOAなど2種について河川や地下水の暫定指針値として1リットル当たり50ナノグラム以下を設定。市の担当者は「下水への排出基準がないことから、対応を求めていない」とした。

◆過去にPFASを含んだ泡消火剤を製造

3Mジャパンイノベーション相模原事業所=31日、相模原市で

 工場では2000年までPFASを含んだ泡消火剤を製造していた。3Mジャパン(東京都品川区)の広報担当者は、工場が市内の河川や井戸水の汚染源かどうかは明言せず、「弊社施設以外の水に関する情報については把握していない」とコメントした。

 3Mジャパンはアメリカ3Mの日本法人。アメリカ3Mは昨年6月、PFASによる飲料水汚染を巡る訴訟で、最大125億ドル(約2兆円)をアメリカ水道事業者に支払う和解案で暫定合意している。

 PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「汚染源がかなり近いか、または敷地内にある可能性が高いと考えられる濃度だ。市は工場側に過去のPFASの使用状況などを詳しく聞き取るべきだ」と指摘する。(松島京太)

 相模原市内のPFAS汚染 神奈川県の2020年度の調査で、相模原市東部を流れる道保川から高濃度で検出されたことを受け、市が翌年度から調査を開始し、中央区南橋本の地点で1リットル当たり約1500ナノグラムのPFASを検出。東京新聞と京都大の調査では、飲用井戸を所有する一部の集合住宅などで高濃度のPFASが混入した飲用水を使っていたことや、道保川の魚類に全国平均の最大340倍のPFASが含まれていたことが判明している。

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3M工場内の井戸から高濃度PFAS検出 相模原市内最高値、暫定指針値の34倍 「付近に汚染源か」

2024年5月31日 21時19分


 発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)について、内閣府食品安全委員会の専門家会議が26日に設定した摂取許容量は海外と比べて緩い水準となり、発がん性は「証拠が限られている」と評価するにとどめた。世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)は昨年12月に「ヒトに対して発がん性がある」と評価しており、この議論に参加した日本人研究者2人は、国際的な動向や知見に後れを取る日本の現状に警鐘を鳴らす。(聞き手・松島京太)

 国際がん研究機関(IARC)のPFAS評価 発がん性に関する物質や要因について、動物実験や疫学調査など証拠の確実性を評価して4段階に分類。PFOAは2023年12月、下から2番目の「可能性がある」から、最も高い「発がん性がある」へと引き上げられた。PFOSは新たに「可能性がある」に追加された。ワーキンググループは各国から集まった50人以上の研究者が「疫学」「暴露」「動物実験」「メカニズム」の4グループに分かれ、既存の研究論文の妥当性を精査した。

◆「早急な疫学調査が必要」 岩崎基氏

 ヒトにどのような健康被害が出ているかを調べる「疫学調査」のグループに所属していた。

IARCの発表について話す国立がん研究センターがん対策研究所疫学研究部の岩崎基部長

 前回2016年の評価でPFASの代表的な物質の一つ、PFOA(ピーフォア)の発がん性を「可能性がある」と分類して以降、(特殊な労働環境や汚染地域以外の)市民全体に対する疫学の知見は増えたが、疫学的な証拠は「限られている」という結論にとどまった。

 その一方で、PFOAの発がん性を総合的に評価して「発がん性がある」となったのは、動物実験の証拠が多く集まっていたこと、発がん性のメカニズムが強いと結論づけられたことが大きい。

  ヒトの体内でがんになるメカニズムとしては、特に遺伝子配列を変化させずに遺伝子の動きを制御させる作用と免疫抑制の2点について強い証拠が認められた。

 IARCの議論を通じ、日本で実施した疫学調査の少なさが米欧に比べて際立った。IARCの評価は発がんの「証拠の確実性」であり、実際の「リスク」ではない。どれだけ摂取すると日本人にとってがんのリスクがあるのか、目安をつくるためにも国内での疫学調査を早急に実施する必要がある。

 岩崎基(いわさき・もとき) 国立がん研究センターがん対策研究所疫学研究部長。研究分野はがん疫学。

◆「1万種を超えるPFASの有害性研究が急務」 菅野純氏

 「動物実験」のサブグループで座長を務めた。

PFOAに発がん性が「ある」という結論には学者間で一切異論はなかった。PFASの代表的なPFOS(ピーフォス)とPFOAは歴史的に長く使われてきた化学物質で、動物実験での知見は相当蓄積していた。有害性については分かっていることが多く、既に環境中に大量に放出されてしまった「後始末」をしている段階だ。

PFASについて話す国立医療品食品衛生研究所の菅野純客員研究員

 問題なのは、似た構造と性質をもつたくさんのPFAS物質が今後、さらに世に多く出回ることだ。フッ素が隙間なく含まれている分子構造が共通しており、難分解性と高蓄積性、そして強い有害性が懸念されている。海外では、代替物質を含むPFASをグループ化して規制しようという動きを見せている。

 食品安全委では2種類のPFASの評価しかできないとした。1万種類を超えるPFASには言及しないことは保守的で、今後のことを一切見据えていない。

 ヒトへの影響を先回りして予測するために、多数あるPFASの有害性研究を急いで進めて指標を設定するなどして、次の健康被害と環境汚染を未然に防止することが重要だ。これには、PFASを活用する企業との対話も重要だ。

 菅野純(かんの・じゅん) 国立医薬品食品衛生研究所毒性部客員研究員。アジア地区初となる国際毒性学連盟会長などを務めた。

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PFAS「発がん性」日本の基準は緩すぎないのか 国際機関で議論した専門家たちの見方は

2024年1月29日 06時00分


発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)の健康影響を評価する内閣府食品安全委員会の専門家会議「PFASワーキンググループ」は26日、東京都内で会合を開き、ヒトが1日に食品や飲料水などから摂取する許容量について、PFASの一種であるPFOSとPFOAの2物質でそれぞれ、体重1キロ当たり20ナノグラム(ナノは10億分の1)との指標を了承した。水道水の暫定目標値の算出で採用した指標を飲食物全体に広げた形だが、欧州食品安全機関(EFSA)が採用する摂取許容量を60倍以上上回っている。

 指標値は、この日の会合でまとめたPFASの健康影響評価書に盛り込んだ。食品安全委によると、国がPFASの健康影響への関連について評価を示すのは初めて。

PFASの健康影響について議論するPFASワーキンググループ

 評価書では、米国環境保護庁(EPA)が2016年に摂取許容量算出に用いた研究を採用した。一方、EFSAが20年に設定した許容量は体重1キロ当たり0.63ナノグラム。今回の許容量はPFOSとPFOAの合計は40ナノグラムで、EFSAの数値の64倍となっている。

 最も重視する健康影響としては、出生児への健康影響を軸に考えた。昨年12月に世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)が指摘した発がん性については証拠が不十分として、許容量を超えた場合に懸念される健康影響には用いなかった。

 健康影響については、肝機能値指標とコレステロール値の上昇、免疫低下、出生体重低下を「関連は否定できない」とした。(松島京太)

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PFASの「摂取許容量」日本でも具体化 ヨーロッパの60倍超に、発がん性は「証拠不十分」

2024年1月26日 21時44分



 有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)の一種のPFOA(ピーフォア)の人体への危険性について、世界保健機関(WHO)の専門組織が「発がん性がある」に引き上げたことを受け、伊藤信太郎環境相は5日の記者会見で、PFASに対する従来の方針を維持する考えを示した。









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 伊藤環境相は「今回の専門機関の評価は発がん性の証拠の強さを示すもので、ばく露量に基づくリスクの大きさを示すものではない」とした上で、「今年7月に専門家会議で取りまとめた方針に従い対策を進めていく」と説明した。

水道(イメージ)





 環境省のPFAS総合戦略検討専門家会議がまとめた「今後の対応の方向性」では、全国的な血液検査の規模拡大を提言。ただ、汚染地域に絞った血液検査では「健康影響を把握することができない」とし、地下水や河川などの調査で対応することが妥当とした。

 水道水などのPFASの規制基準を議論する別の専門家会議への影響について、伊藤環境相は「国内外の知見や動向の一つとして参考にしたい」と述べた。(松島京太)

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2023年12月5日 20時19分


東京都福生市など5市1町にまたがる米軍横田基地内に、発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)を含む泡消火剤で汚染された水が、約140万リットル保管されていることが、政府関係者などへの取材で分かった。処分には高額な費用がかかるとみられるため、保管が長期化する可能性が高い。漏出すれば、周辺住民が水道水源として使う地下水の汚染につながるリスクをはらむ。(松島京太)

 米軍横田基地とPFAS問題 2010〜23年の間、横田基地内では泡消火剤の漏出事故が計8回発生。12年に発見された事故では、高濃度のPFASが含まれた泡消火剤の原液約3000リットルが全て土壌に漏出した。米軍は「基地外への流出はない」としているが、都の18年度の調査では基地付近の監視井戸から指針値の27倍のPFASが検出されている。

◆25メートルプール「4杯分」

 本紙が入手した米軍の内部資料などによると、今年1月時点で、基地内の7施設の貯水槽で泡消火剤が混入した汚染水を140万リットル保管。その量は学校の25メートルプール約4杯分に相当する。他に1施設では、消防車に補充する泡消火剤も6000リットル残っているとされる。

汚染水のPFAS濃度は1リットル当たり最大18万ナノグラム超で、検査装置の検出上限値を上回っており、本来の濃度はさらに高いとみられる。18万ナノグラムは、地下水や河川水管理の目安となる国の暫定指針値の3600倍。

 貯水槽には本来、火災発生時に別のタンクにある泡消火剤の原液と混ぜる水を保管。米軍関係者によると、設備の不具合で配管をつたって泡消火剤が貯水槽に逆流して、汚染された。

 処分方法について、入手した資料では「焼却が唯一の手段だが、米本国では許可されていない」と記されている一方で、実際の方法は示されていない。環境省によると、米国内では焼却場で有害物質が発生することなどが問題となり、焼却処分が2020年から禁じられている。日本国内でも焼却施設はあるが、多額の費用がかかることなどから、米軍側では具体的検討は進んでいないとみられる。

◆防衛省は「米側に確認中で答えられない」

 米軍横田基地は本紙の取材に、事実関係や汚染水の処分方針などには言及せず、「基地施設と環境の管理者として引き続き関連する全ての合意、義務、手続きを順守する」と答えるにとどまった。防衛省の担当者は「米側に確認中で答えられない」としている。

 東京・多摩地域では、水道水源の井戸のPFAS汚染が確認されており、泡消火剤の漏出事故が相次いでいる横田基地が汚染源として疑われている。今年1月には、保管する汚染水の一部の約760リットルが漏れ出たことが判明。PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「漏出事故が起きると、土壌にしみ込み地下水となって、多摩地域でさらなる汚染拡大につながる」と懸念する。

◆処分どうする? 問題は「配管汚染」

 また、汚染水の処分を巡っては、新たな環境汚染につながりかねない方法が米軍内で検討されており、こうした対応に専門家や政府関係者からは批判や疑問の声が上がる。

 PFAS汚染の元凶は、基地内で使われている泡消火剤。防衛省によると、在日米軍施設では来年9月までに、PFASをほぼ含まない泡消火剤か水消火設備への切り替えを終える方針という。

 政府関係者によると、在日米軍には少なくとも3種類の泡消火剤がある。最新の規格は、PFAS濃度が1リットル当たり1000ナノグラム未満とされているが、2020年の規格は、PFASの一種のPFOSとPFOAがそれぞれ最大1リットル当たり80万ナノグラムまで許容されている。横田基地で今年1月に発生した汚染水の漏出事故は、20年の規格が漏れ出た。

 厄介なのが、泡消火剤のタンクと貯水槽をつなぐ配管が、20年の規格よりも古い高濃度のPFASを含む泡消火剤で汚染されている可能性が高いことだ。1月に漏れた汚染水は貯水槽内での濃度は1リットル当たり846ナノグラムだったが、配管を通って漏出した水の濃度は264万ナノグラムだった。

◆手軽に安く?「ため池で蒸発」案の危うさ

 汚染水を処分する方法は具体化していない。関係者は「基地内のため池に集めて蒸発させればいい、という案が一部から出ている」と明かす。多額の費用がかかる焼却よりも、手軽で安く済むからだとみられる。

 PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授は「ため池に汚染水を流し込めば、土壌に染み込んで周辺地域の地下水を汚染する可能性が高い」と警鐘を鳴らす。

現在もPFASを含む大量の泡消火剤を保管する米軍横田基地=東京都内で、本社ヘリ「あさづる」から

 米軍資料もPFASは「土壌・水・大気で高い移動性がある」と言及し、処分は一筋縄ではいかない。ある関係者は不適切な処理方法が検討されている状況に、「(米側に基地の排他的使用権が与えられ、原状回復義務がない)日米地位協定を盾に、やりたい放題になっている」と批判する。

 沖縄県宜野湾市の普天間飛行場では21年、米軍がPFAS汚染水を低濃度に処理して下水に排出した。米軍の一方的な判断で、日本との合意はなかった。

 政府関係者は懸念する。「環境での残留性が高いPFASはいくら濃度を薄めても排出することには問題がある。横田基地を含めた他基地の汚染水でも同じやり方をされかねない」

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PFAS汚染水、横田基地で140万リットルも保管中 処分方法は未定、米軍「やりたい放題」になる恐れも

2023年11月26日 06時00分


<連載 汚れた水 PFASを追う>①

 「PFAS(ピーファス)」。発がん性などが指摘され、自然界に存在しないはずのこの化学物質が全国で相次いで見つかり、大きな問題となっている。東京の多摩地域では、水道水源の井戸水から高濃度で検出。市民団体の血液検査では、半数以上の住民の血中濃度が「健康被害の恐れがある水準」を上回った。自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS汚染は、なぜ広がったのか。「汚れた水」の源流を探った。(文中敬称略。この連載は、松島京太、岡本太、昆野夏子、渡辺真由子が担当します)

 PFAS(ピーファス) 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類あるとされ、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。国内では、水道水の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。東京・多摩地域の水道水源の井戸40カ所が、汚染の影響で取水を停止している。

◆2012年に3000リットル漏出「泡消火剤、気づけば空っぽ」

 「この資料に、800ガロン(約3000リットル)の漏出の事実がはっきり書いてある。これを見れば、横田基地が汚染源の一つになっていると考えないわけにはいかない」。5月中旬、川崎市内で取材に応じた英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル(48)は、米国政府への情報公開請求で2018年に入手した米軍の内部文書を示し、そう説明した。

米軍内部文書に記録された漏出事故について話すジョン・ミッチェルさん=川崎市で

 文書は「USFJ SPILL REPORT(在日米軍漏出報告書)」と題され、A4サイズで750ページにも及ぶ。多摩地域にある米軍横田基地(福生市など)で発生した燃料漏れなどの事故が記されている。膨大な報告書を読み込んでいくと、そのうちの2ページで、3000リットル漏出の経緯や原因、周辺への影響などが記録されていた。

 日付は、2012年11月29日。場所は、横田基地内の530ビル・横田消防署とある。ちょうど基地の中央、滑走路沿いにある施設だ。

 報告書は「泡消火剤の貯蔵タンクの中身が空になっているのを消防隊員が発見した。ゆっくりとタンクから漏れ出し、床の接ぎ目から土壌に浸透したようだ」と説明していた。

 PFASを含む泡消火剤は、航空燃料による火災などに効果があり、1967年の米軍空母火災をきっかけに、空軍施設や全国の空港施設などで導入された。

 通常は水で薄めて約3%の濃度で使うが、横田基地の漏出事故では、消火剤の原液3000リットル超がそのまま流れ出たとみられる。

◆気付かず1年…基地外流出否定できず

 報告書はこう続く。「漏出は1年以上かけてゆっくりと進んだ」。記述通りなら、米軍は漏出に1年以上も気付かず、その間、PFASを含む泡消火剤は建物下の土壌に染み込み続けていたことになる。

 土壌に浸透したPFASは、基地外に流れたのではないか。米軍は報告書で、泡消火剤について「新たな環境汚染物質を含む」との認識を示しながら、基地外への影響は「ない」と記述。漏出事故について日本側に報告した痕跡はない。

 ただ、米軍は2015年に作成した環境レビューでは、基地から流出した物質は「最終的に深さ約75メートルの地下水の層に行き着く」と言及。その地下水は、南南東の方角に流れているとしており、PFASがそのまま基地の外に流れ出た可能性は否定できない。

 東京都は2018年度、基地から約1キロ南東の井戸(立川市)で、都内最高値となる1リットル当たり1340ナノグラムの高濃度のPFASを検出している。

 ミッチェルは、報告書で3000リットルの漏出の記述を見つけた時の心境をこう振り返る。「正直、驚きはなかった。やっぱりな、というぐらいだ。米軍の隊員らは10代や20代前半と若く、よくミスもするし、化学物質の危険性も分かっていない。こういう事故はあるだろうと入手前から思っていた」

   ◇   ◇

 米軍横田基地(東京都福生市など)では、2012年11月に発覚した3000リットルに上るPFASを含む泡消火剤の漏出のほかにも、事故は相次いでいる。

 英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェルが入手した在日米軍漏出報告書には、2010年1月に格納庫から38リットル、2012年10月にドラム缶から最大95リットルがそれぞれ漏れたとの記録がある。

 「実は昨年、さらに新しい資料を(米国政府への情報公開請求で)手に入れた」。ミッチェルは説明を続ける。その文書によると、基地では2020年、消防車から泡消火剤を漏出する事故が3度起きていた。漏出量は合わせて100リットル超に達した。

東京・米軍橫田基地に配備されている消防車(須藤英治撮影)

◆漏出事故計6件と報告「本当にすべてか」

 内部文書で確認できた基地内の漏出事故は、2010〜12年の3件と、2020年の3件の計6件。2013年から2019年にかけては1件も漏出事故の記録がない。「この期間の資料を情報公開請求したが、米側はこれがすべてと言う。そもそもPFASの漏出事故は、報告書に残すと決められていなかった。本当にすべてなのか確信はもてない」と首をかしげる。

 東京・多摩地域のPFAS問題を調べてきた京都大准教授の原田浩二(43)は、基地東側の地下水で高濃度の検出が相次ぐことに「横田基地が汚染源になっていること以外、原因の説明がつかない」と指摘する。その上で、多摩地域に広がる汚染の規模を考えると「米軍の消火訓練の影響や、3000リットルの漏出以外にも事故があった可能性は考えられる」とみる。

 東京・多摩地域のPFAS血液検査 市民団体が実施した血液検査では、多摩地域に住む650人中の51.5%が米国で「健康被害の恐れがある」と定められる血中のPFAS濃度を上回った。国分寺や立川市など米軍横田基地東側に高濃度の住民が集中しており、専門家は「基地が大きな汚染源となっている」と分析する。

◆米軍「何千もの製品にPFASが含まれていると理解を」

 米軍の泡消火剤が多摩地域の汚染原因ではないのか。米軍は本紙の質問に対し、メールで「世界中で生産される何千もの製品にPFASが含まれていることを理解することが重要だ」と言及。「真の発生源を評価するのは困難」として基地との関連を認めていない。

 ただ、基地内のPFASは、基地自体にも影響を与えている。米軍の報告書によると、基地内の地下水を浄化して利用する飲料水からは2020年、1リットル当たり29ナノグラムのPFASを検出。泡消火剤が主な原因としている。

 ミッチェルは「基地の中の地下水には泡消火剤の影響があると認めていながら、周辺への汚染は認めないのはダブルスタンダードだ」と批判。米軍から日本側に報告がないとはいえ、日本側の姿勢も問題視する。

 「政府や都が強く求めないから、米軍が情報を出す必要はないという判断になる。日本側は基地周辺の水や土壌、大気をもっと詳しく調べ、基地内での調査を求めるべきだ。汚染源が分からなければ、住民の健康は守れない」

【関連記事】連載② 東京都はずっと知っていた・・・PFAS汚染、15年前に検出した「飛行場排水B」とは
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「PFAS汚染源」はどこだ 米軍内部文書から見つかった事実…疑念呼ぶ「横田の3000リットル」

2023年6月11日 06時00分


<連載 汚れた水 PFASを追う>②

 東京・多摩地域のPFAS(ピーファス)汚染で、住民の血液検査が進められていた3月下旬、都庁第2本庁舎10階の会議室で取材に応じた都環境科学研究所(都環研)の主任研究員の西野貴裕(50)が、ある論文の記述を見つめた。

 「飛行場排水B 67~410ナノグラム/リットル」

 論文は、自身が2008年に執筆した。西野らは当時、多摩地域を流れる多摩川のPFAS濃度が高いことに着目し、汚染源を突き止めるため04年から調査をしていた。

西野貴裕研究員がPFASの汚染源を調べるために執筆した論文。「飛行場」の排水を調べた地点が示されている

 「飛行場」とは一体、何を指すのか。西野は詳細を明かさなかったが、都関係者によると、米軍横田基地(福生市など)のことだったという。

 つまり、横田基地の排水から高濃度のPFASを検出したということだ。都環研は、都の出資を受ける監理団体(当時)の一組織。既に15年前、横田基地がPFASの汚染源になっている可能性を把握していたことになる。

◆東京都水道局は05年から調査

 結果的に汚染源は特定できたのか。そう尋ねると、西野は答えた。「地下の水脈はすごい複雑で…。情報をいろいろ収集したんですが、汚染源は結局分からなかった」

 実は、都庁内で早くからPFASに注目し、調べてきたのは西野らだけではない。都水道局は05年から、水道水の取水源としていた井戸を対象に、PFAS濃度を調査。07年には、都福祉保健局も飲用井戸で調査を始めている。いずれも調査開始当初から高濃度のPFASが検出されている。

 きっかけは2000年。PFAS生みの親の米化学メーカー「3M(スリーエム)」が、環境や生物への残留性が高い恐れがあることから、一部製造からの撤退を宣言した。米環境保護局は05年、「ヒトで発がん性がある可能性が高い」と報告した。

◆「毎日飲む水、何かあってからでは遅い」のはずが

 PFASは泡消火剤だけでなく、調理器具や衣類を含め撥水(はっすい)加工の製品に使われ、日常生活に欠かせなくなっていた。当時の都の関係者は「毎日飲む水に、何かあってからでは遅い。データを取っていくべきだと考えた」と振り返る。

 だが、危機感は長く続かなかった。国が10年にPFASの一部について国内での製造・販売を禁止すると、都福祉保健局は「今後減少していく傾向がある」と14年に調査を中断。15年には、西野らの研究も終了した。都水道局はその間も調査を続けたが、当時の都幹部の多くは「話題になることはほとんどなかった」と話す。

◆急展開、大量漏出が判明

 数年後、事態は急転する。沖縄県内の米軍施設周辺で、PFAS汚染が深刻化していることが発覚。18年には、英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル(48)の報道で、横田基地でもPFASを含む泡消火剤が大量に漏出したことが明らかになった。

 調査を再開した都福祉保健局は18年度、横田基地近くの「横田基地モニタリング井戸」で、都内最高値のPFASを検出。国が水道水の水質基準の議論を始めたことを受け、都水道局は19年以降、高濃度のPFASを検出した多摩地域の井戸40カ所を順次、取水停止にした。

 「国の対応からしても、都が遅れたということはない。ただ、あえて言うなら…」。元都幹部の一人が、声を潜めた。「PFASの話をすると必ず『横田基地は』となる。扱いづらいな、という意識はあったと思う」 =敬称略

<連載 汚れた水 PFASを追う>

【第1回】「PFAS汚染源」はどこだ 米軍内部文書から見つかった事実…疑念呼ぶ「横田の3000リットル」
【第3回】「頭にきた」・・・医師は自費で大規模検査をやると決断した 行政はPFAS汚染に知らんぷり
【第4回】PFASの知見蓄積を怠った日本 分からないことだらけで「Q&Aすら作れない」…水質基準は米国のコピー
【第5回】PFASを漏出させても報告せず 米軍側の「やりたい放題」を可能にする日米地位協定

 「PFAS(ピーファス)」。発がん性などが指摘され、自然界に存在しないはずのこの化学物質が全国で相次いで見つかり、大きな問題となっている。

 東京の多摩地域では、水道水源の井戸水から高濃度で検出。市民団体の血液検査では、半数以上の住民の血中濃度が「健康被害の恐れがある水準」を上回った。自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS汚染は、なぜ広がったのか。「汚れた水」の源流を探った。(この連載は、松島京太、岡本太、昆野夏子、渡辺真由子が担当します)

 PFAS(ピーファス) 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類あるとされ、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。国内では、水道水の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。東京・多摩地域の水道水源の井戸40カ所が、汚染の影響で取水を停止している。

東京都はずっと知っていた・・・PFAS汚染、15年前に検出した「飛行場排水B」とは

2023年6月13日 06時00分


<連載 汚れた水 PFASを追う>③



PFASの血中濃度を調べるため住民の採血が実施された会場=2022年12月、東京都国分寺市(隈崎稔樹撮影)

 東京都国分寺市の雑居ビル2階、整形外科・内科「本町クリニック」。待合室では、採血を待つ20人以上の人たちが不安げな表情をしていた。院長の杉井吉彦(72)はその様子から、事態の重大さを感じた。「こんなに人が来るなんて」

 住民の血液の中にPFAS(ピーファス)はどれぐらい含まれているのか—。東京・多摩地域で水道水に使われる井戸水のPFAS汚染が判明し、市民団体は22年11月23日から、杉井のクリニックを皮切りに血液検査を始めた。汚染の広がりと健康への影響を調べるため、600人を目標にした。

 杉井がこの検査に加わった理由は「怒り」だった。

◆国も、都も、市も動かない

 20年の先行調査に協力し、国分寺市と府中市の住民22人の血中PFAS濃度が全国平均より高いことが判明。検査を実施したNPO法人は、国や都に大規模な健康調査を求め、杉井も国分寺市議会に働きかけた。

 ところが、国も、都も、市も動かない。住民の体には確実にPFASが入り込んでいるのに、汚染はないかのような対応が続いた。

 「頭にきた。それなら、ここで自費で検査する」

 新型コロナウイルスへの対応で多忙の中、自力で血液検査を始めると決断した。「300人ぐらい調べるとなると…、180万〜300万円ぐらいか」。検査会社に問い合わせ、費用を算出。少しずつ資金をためた。

◆「先生、一緒にやりませんか」

市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の発足集会であいさつする杉井吉彦さん=東京都国分寺市で

 22年夏、杉井の元を一人の男性が訪れた。「京都大の先生が研究費で調査をしてくれるらしい。杉井先生、一緒にやりませんか」。後に市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の事務局長を担う根木山(ねぎやま)幸夫(76)だった。杉井は快諾し、根木山と共に会の共同代表に就任した。

 杉井は、研究費で賄えない採血スタッフの手当や事務局の運営費として30万円を寄付。住民の健康問題に対し「医者として責任を感じていた」と振り返る。

◆「PFASは公害問題。今度こそ行政が動く番だ」

 血液検査に参加した住民は、目標を上回る650人に到達した。今月8日に発表された結果によると、半数以上の住民の血中濃度が米国の健康被害の恐れがある」と定められる指標を上回った。

血液検査の結果を手に「子や孫にも影響があると思うと、不安」と話す高木比佐子さん

 高木比佐子(75)は杉井のクリニックで検査を受けた一人。8年前、PFASの健康影響と疑われる脂質異常症と診断された。今回、自身の血液に含まれる4種類のPFAS合計値が米国指標の約3倍だと知った。「私の体に蓄積されてしまったんだ。本当に怖い」

 杉井の元には毎日のように、PFASに関する相談の電話がかかってくる。検査体制が整っておらず、十分に応じられない。「答えられないんだよ、自分の患者に対して」。杉井の言葉には、悔しさといら立ちがにじむ。「PFASは公害問題。もっと大きな規模で検査や健康調査をする体制が必要。今度こそ行政が動く番だ」=敬称略

<連載 汚れた水 PFASを追う>

【第1回】「PFAS汚染源」はどこだ 米軍内部文書から見つかった事実…疑念呼ぶ「横田の3000リットル」
【第2回】東京都はずっと知っていた・・・PFAS汚染、15年前に検出した「飛行場排水B」とは
【第4回】PFASの知見蓄積を怠った日本 分からないことだらけで「Q&Aすら作れない」…水質基準は米国のコピー
【第5回】PFASを漏出させても報告せず 米軍側の「やりたい放題」を可能にする日米地位協定

 「PFAS」。発がん性などが指摘され、自然界に存在しないはずのこの化学物質が全国で相次いで見つかり、大きな問題となっている。

 東京の多摩地域では、水道水源の井戸水から高濃度で検出。市民団体の血液検査では、半数以上の住民の血中濃度が「健康被害の恐れがある水準」を上回った。自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS汚染は、なぜ広がったのか。「汚れた水」の源流を探った。(この連載は、松島京太、岡本太、昆野夏子、渡辺真由子が担当します)

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類あるとされ、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。国内では、水道水の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。東京・多摩地域の水道水源の井戸40カ所が、汚染の影響で取水を停止している。

「頭にきた」・・・医師は自費で大規模検査をやると決断した 行政はPFAS汚染に知らんぷり

2023年6月14日 06時00分


<連載 汚れた水 PFASを追う>④



PFASに対する総合戦略を検討する専門家会議で議論する委員ら=3月、東京都中央区で

 「日本は出遅れている」

 2019年7月、東京都新宿区の国立感染症研究所で開かれた会合に出席した化学物質評価研究機構の技術顧問の広瀬明彦(61)は、そう発言した。集まったのは、化学物質や水道の専門家ら。この日、国内の水道水のPFAS(ピーファス)規制に向けた議論がようやく始まった。

◆米欧は2010年代半ばには基準設定

 厚生労働省の水質基準逐次改正検討会。米欧などは、すでに10年代半ばには水道水の水質基準を設定していた。会議の約1カ月前には、都水道局が、独自にPFAS濃度が高い多摩地域の水源井戸5カ所の取水を停止。国内での基準値設定は喫緊の課題だった。

 どの程度を摂取すればどのような健康被害が出るのか。国の機関が研究をリードしていた海外に比べ、日本では「毒性」の科学的知見が圧倒的に足りていなかった。広瀬がこう振り返る。「(議論のスタートは)海外での知見を集めることだった。いろんな化学物質がある中で国にとってPFASの優先順位は高くなかったのだろう」

◆「一番低い評価をとりあえず採用」

 議論開始から7カ月後、国が基準値案を示し、PFASの一種PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の合計値で水道水1リットル当たり50ナノグラム以下を暫定目標値とした。根拠は、米国が16年に定めた生涯健康勧告値の同70ナノグラム。基本的なデータは米国の評価をそのままに、日本国民の平均的な体重50キロで換算し直した。広瀬は国の案を了承するに当たり「(海外の)一番低い評価をとりあえず採用したということだ」と総括した。

 国内の知見不足は、今も続く。今年1月の検討会では委員の一人が「目標値が『暫定』である限り、(水道事業者が守る)水質基準項目にはならない」と指摘。毒性評価の研究を早急に進めるよう求めた。

 暫定値の影響で、調査や運用は自治体に丸投げ。現状では、PFAS濃度の測定や対策は義務付けられていない。

 本紙の情報公開請求によると、都水道局は21年時点で、同50ナノグラムを上回っていた10カ所以上の水源井戸の取水を続けていた。別の井戸や河川の水を混ぜて低濃度に薄めてから各家庭に配水している。この対応に、都水道局の担当者は「問題ない」としている。

◆科学者は報告した…国は動かなかった

 「50ナノグラムは米国のコピーでしかない。科学的知見を集めてこなかったのは明らかに行政の不作為だ」。PFASの調査を全国に先駆けて取り組んできた京都大名誉教授(環境衛生学)の小泉昭夫(70)がそう批判する。

大阪府のPFAS汚染を調査するために水を採取する小泉昭夫・京都大名誉教授=2002年撮影、京都大・原田浩二准教授提供

 小泉らは、米化学メーカー「3M(スリーエム)」がPFAS製造の中止を宣言したのを受けて02年、全国で汚染調査を開始。東京・多摩地域の多摩川や大阪府の工場周辺などで汚染の実態を突き止め、国に研究報告した。それでも国の動きは鈍く、疫学調査や対策は進まなかった。小泉は「なかなか火がつかず、もどかしかった」と悔しさをにじませる。

 その後、沖縄や東京でPFAS汚染が相次いで判明。海外で規制強化の動きもあり、環境省は今年1月、「PFAS総合戦略検討専門家会議」の看板を掲げ、議論を始めた。ただ、会議で現在取り組むのは、PFASについての国民向け「Q&A集」の作成で、知見の蓄積には程遠いのが実情だ。

 ある環境省関係者はこう嘆く。「Q&Aですら、期待できるようなものはきっと作れない。分かっていないことが多すぎる」=敬称略

<連載 汚れた水 PFASを追う>

【第1回】「PFAS汚染源」はどこだ 米軍内部文書から見つかった事実…疑念呼ぶ「横田の3000リットル」
【第2回】東京都はずっと知っていた・・・PFAS汚染、15年前に検出した「飛行場排水B」とは
【第3回】「頭にきた」・・・医師は自費で大規模検査をやると決断した 行政はPFAS汚染に知らんぷり
【第5回】PFASを漏出させても報告せず 米軍側の「やりたい放題」を可能にする日米地位協定

 「PFAS」。発がん性などが指摘され、自然界に存在しないはずのこの化学物質が全国で相次いで見つかり、大きな問題となっている。

 東京の多摩地域では、水道水源の井戸水から高濃度で検出。市民団体の血液検査では、半数以上の住民の血中濃度が「健康被害の恐れがある水準」を上回った。自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS汚染は、なぜ広がったのか。「汚れた水」の源流を探った。(この連載は、松島京太、岡本太、昆野夏子、渡辺真由子が担当します)

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類あるとされ、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。国内では、水道水の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。東京・多摩地域の水道水源の井戸40カ所が、汚染の影響で取水を停止している。

PFASの知見蓄積を怠った日本 分からないことだらけで「Q&Aすら作れない」…水質基準は米国のコピー

2023年6月15日 06時00分


<連載 汚れた水 PFASを追う>⑤



PFAS汚染問題について記者の質問に答える米軍横田基地司令官のアンドリュー・ラダン司令官=米軍横田基地で

 5月20日、米軍横田基地(東京都福生市など)で開かれた日米友好祭での記者会見。多摩地域のPFAS(ピーファス)汚染を巡る質問が飛んだ瞬間、横田基地司令官アンドリュー・ラダンの表情から笑顔が消えた。

 「私たちは地域の方々とともに暮らし、安全を最優先に任務を行っている」「日米で合意したすべての環境規制に沿って任務を行っている」

 PFASについて調査、説明する考えはあるか、漏出事故について報告しないのか。記者からの問いに、滑走路で会見に応じていた飛行服姿のラダンは、厳しい表情のまま答えた。直後、広報官が間に入り宣言した。「PFASに関してのご質問は、これでおしまいにさせていただきます」。

◆「汚染物質」の認識があっても日本への通報義務なし

 ラダンの「安全を最優先」という言葉とは裏腹に、米軍は2012年以降、横田基地で発生したPFASを含む泡消火剤の漏出事故について、内部文書でPFASを「環境汚染物質」との認識を指摘しながら、日本側に報告していない。

 ある環境省関係者が内情をこう明かす。「日米地位協定の壁があり、通報するかどうかは、米軍の裁量なんです」

 通報の根拠となるのは、地位協定に基づいて作成される日本環境管理基準(JEGS)だ。この基準は、日本に通報する必要があるケースを「大規模な漏出が発生し、施設の敷地内で封じ込めできない場合、もしくは日本側の飲料水源を脅かす場合」と規定。ところが、実際にこの要件に当てはまるかどうかを判断するのは米軍自身だという。

 米軍が基準に当てはまらないと結論づければ、通報義務は発生せず、日本側が事実関係を知ることさえできない。

 さらに、在日米軍基地で燃料漏出などの環境問題が相次いだことを受け、日米両政府は15年、日本側の関係機関が基地への立ち入り調査を求めることができると明記した環境補足協定を締結。当時外相だった岸田文雄は「地元の信頼を一層高める大きな意義を有する」と胸を張った。

◆元防衛相の都知事も消極的 調査を阻む日米の「主従関係」

 だが、この補足協定でも通報がない限り、自治体は調査の申請ができない。10年まで防衛省環境対策室長だった世一(よいち)良幸(63)は「結局は、米軍側のやりたい放題だ」と指摘する。

 防衛相の経験もある東京都知事の小池百合子は5月19日の記者会見で、多摩地域のPFAS汚染源の特定のため、横田基地の調査に向けて国に働き掛ける考えはないのかを問われた。「立ち入り調査の要請は、漏出事故発生が前提となっている」と消極的だった。

 環境省によると、ドイツでは12年以降、国内の米軍の5施設で調査を実施。PFASの汚染源と突き止め、現在は一部基地で、米軍負担による浄化作業が進められている。沖縄県の調べでは、イタリアでは、米軍基地がイタリア軍の指令下に置かれて調査も主導でき、日本とは対照的だ。

 日米地位協定に詳しい東京外国語大名誉教授の伊勢崎賢治(65)がこう語る。「主従関係となっている今の地位協定の下では何も変わらない。首都で起きたPFAS問題が国民の注目を集めることで、協定改定に向けた突破口になる」 =敬称略、連載終わり

 (この連載は、松島京太、岡本太、昆野夏子、渡辺真由子が担当しました)

<連載 汚れた水 PFASを追う>

【第1回】「PFAS汚染源」はどこだ 米軍内部文書から見つかった事実…疑念呼ぶ「横田の3000リットル」
【第2回】東京都はずっと知っていた・・・PFAS汚染、15年前に検出した「飛行場排水B」とは
【第3回】「頭にきた」・・・医師は自費で大規模検査をやると決断した 行政はPFAS汚染に知らんぷり
【第4回】PFASの知見蓄積を怠った日本 分からないことだらけで「Q&Aすら作れない」…水質基準は米国のコピー

 「PFAS」。発がん性などが指摘され、自然界に存在しないはずのこの化学物質が全国で相次いで見つかり、大きな問題となっている。

 東京の多摩地域では、水道水源の井戸水から高濃度で検出。市民団体の血液検査では、半数以上の住民の血中濃度が「健康被害の恐れがある水準」を上回った。自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS汚染は、なぜ広がったのか。「汚れた水」の源流を探った。

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類あるとされ、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。国内では、水道水の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。東京・多摩地域の水道水源の井戸40カ所が、汚染の影響で取水を停止している。

PFASを漏出させても報告せず 米軍側の「やりたい放題」を可能にする日米地位協定

2023年6月16日 06時00分


東京・多摩地域の水道水源の井戸が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)で汚染されている問題で、住民の血中PFAS濃度の検査を実施した市民団体が2日、国に対し、全国的な住民の血液検査などを求める要望書を提出した。防衛省の担当者は、汚染源として疑われている米軍横田基地(東京都福生市など)への立ち入り調査について、市レベルの要請でも米軍側への申し入れは可能との認識を示した。

 市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」が内閣府と厚生労働、環境、防衛、外務、経済産業の各省に求めた。全国的な大規模血液検査の実施や疫学調査の拡充、水質基準の設定、汚染源の特定調査、横田基地への立ち入り調査要請、自治体へのPFAS使用履歴の情報提供―の6点を要望した。

 立ち入り調査について、同席した立憲民主党の末松義規衆院議員が「立川市や国分寺市が国に要請を出せば検討するのか」とただし、防衛省の担当者は「米軍側に申し入れることはできる」と答えた。立川市の酒井大史市長は本紙の取材に「現時点で市単独で要請することは考えていない」とコメントした。

 大規模な血液検査について、環境省の担当者は「どの程度の血中濃度で健康影響があるのかが分かっておらず、検査結果で健康影響を評価するのは困難」と否定的な考えを示した。

 会は10月31日、横田基地への立ち入り調査要請などを都にも要望した。(松島京太、岡本太)

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PFAS血液検査の拡充、米軍横田基地の調査…市民団体が国に要望 環境省「評価は困難」と大規模検査に後ろ向き

2023年11月2日 21時21分


 東京都立川市長選で初当選し、9月8日に就任した酒井大史市長(55)が本紙のインタビューに応じた。多摩地域の水道水源の井戸から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が高濃度で検出されていることに「どれだけ広がっているのか分からない状況が住民の不安につながっている」とし、市独自の実態調査に早急に取り組む考えを示した。汚染源として疑われる米軍横田基地(福生市など)への立ち入り調査には「周辺自治体と連携していきたい」と述べた。

◆PFAS実態調査を公約に掲げ初当選

 酒井市長は9月3日投開票の市長選で、公約の一つに市独自のPFAS実態調査を掲げていた。「PFASはイデオロギーにかかわらず、不安に思っている人が多かった。国や都に頼るだけではなく、市でできることは市でやっていこうと考えた」と語った。

インタビューに答える酒井大史市長

 これまでの市の取り組みについて「しっかり実態を把握してこなかった」と問題視。「風評被害などを懸念した結果だと思うが、調べなければ対策できない。分からないということの方がリスクがある」と述べ、「喫緊の問題として取り組んでいく」と強調した。

 調査は市の井戸2カ所と、民間の井戸が対象の予定。実施や結果の公表については「風評被害への対策もしっかりと行う必要がある」と述べた。自治体の独自調査は、都内では国分寺市が既に実施している。

◆「同じ問題意識の自治体と連携していきたい」

 2010~12年にPFASを含む泡消火剤の漏出事故が3件あった横田基地への立ち入り調査について、就任後の会見で、市単独で防衛省を通じて米軍に要請しても実現の可能性は低いとし「近隣の市や都と連携して、実質的な効果が得られるような方策を考えていきたい」と述べていた。

 インタビューでは、調査が実現すれば「(基地内で)PFASがどこでどれくらい漏れ、どう流れていった可能性が高いのか、推測できるのではないか」と指摘。「同じ問題意識の自治体と連携していきたい」と語った。(岡本太、松島京太)

 多摩地域のPFAS汚染 東京都と環境省の調査では2005年以降、多摩地域の複数の井戸から高濃度のPFASが検出されている。立川市では18年度に米軍横田基地近くの井戸から、国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)の27倍の濃度で検出され、基地が汚染源の可能性が浮上している。浄水施設の水源井戸からも高濃度で検出され、都が19年以降、一部の井戸からの取水を停止。国分寺市は20年から、市独自で井戸水の汚染状況を調べている。

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PFAS汚染、市で独自調査実施へ 東京・立川市の酒井大史新市長にインタビュー「分からない方がリスク」

2023年9月17日 06時00分


 3日投開票された立川市長選で、立憲民主党の市議らの支援を受けた元都議の酒井大史さん(55)が初当選した。酒井さんは、多摩地域で発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)の汚染が広がっている問題で、汚染源の可能性が指摘される米軍横田基地(東京都福生市など)への立ち入り調査を「要請する考えがある」と本紙アンケートに回答。当選後には市独自の水の調査に意欲を示した。(岡本太、戎野文菜)



当選を決め、ガッツポーズをする酒井大史さん=東京都立川市で

◆落選候補は「要請する考えはない」

 市民団体が多摩地域の住民650人を対象に行った血液検査では、立川市の住民の74・5%から、米国で「健康被害の恐れがある」と定める血中濃度の指標を超過するPFASを検出。市民団体は、過去にPFASを含む泡消火剤の漏出事故があった横田基地が汚染源の可能性があるとみており、基地をめぐる対応が市長選の注目点の1つとなっていた。

 落選した自民党推薦の元都議の清水孝治さん(57)は、基地への立ち入り調査については「要請する考えはない」と酒井さんとは逆の立場だった。

◆「独自対応進める」

 酒井さんは、水道水に使われていた井戸水からPFASが検出されている問題について、本紙アンケートで「国分寺市で井戸水の調査などをしているように、立川市独自で対応可能なことに関しては進めていく」と調査に前向きな姿勢を示した。横田基地への立ち入り調査要請についても「東京都や近隣自治体と連携して要請をしたい」との考えを明らかにした。

 酒井さんは当選後、独自調査に関して「まずしっかり調査をして把握する。その上で国に基準をつくってもらい、都水道局には飲み水という観点から全体的に取り組んでもらう」と強調。本年度内の実施も視野に入れていることを明らかにした。

 一方、落選した清水さんはアンケートで「どの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについてはいまだまだ確定的な知見がない」と主張。「国際的な検討の推移を見守っていく」と答えた。「基地周辺の5市1町と連携しながら取り組んでまいります」と回答していた。

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類以上あるとされる。PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)は人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。

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PFAS問題、米軍横田基地への立ち入り要請公約  立川市長選で初当選の酒井大史さん

2023年9月4日 06時00分


全国の米軍施設や工場周辺で相次いで検出されている有機フッ素化合物(PFAS、ピーファス)の人体への危険性について、世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)は、PFASの一種であるPFOA(ピーフォア)の発がん性を「可能性がある」から2段階引き上げ「ある」に認定したと発表した。また、PFOS(ピーフォス)は、新たに「可能性がある」の分類に追加した。

◆喫煙やアスベストと同じ分類に

有機フッ素化合物(PFAS)の一種PFOA=京都大の原田浩二准教授提供

 IARCはヒトの発がん性に関する物質や要因について、動物実験など証拠の確実性を評価して4段階に分類している。PFOAをこれまで、発がん性について3番目に確実性が高い分類としていたが、最も高い「発がん性がある」に格上げした。同じ分類には、喫煙やアスベストが挙げられている。

 PFOSについては、これまで分類していなかったが、今回は「可能性がある」に新たに指定した。

 IARCは1日の発表で、「PFOAとPFOSは特に空港と軍施設の泡消火剤で広く使われており、古い泡消火剤の使用で消防士が体内に取り込む可能性がある」と懸念。「市民は主に食品と飲料水によって摂取し、汚染地域では主に飲料水が摂取源だ」と指摘した。

 PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「2段階の引き上げは想定していなかったので驚いた。発がん性のリスクが上がるメカニズムが確かであると評価されたとみられる。今後、日本国内でも今回の知見を積極的に取り入れていくべきだ」と指摘する。(松島京太)

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PFOAの発がん性、最高の「ある」に2段階引き上げ WHO専門組織 汚染問題PFASの一種

2023年12月3日 06時00分


 東京・多摩地域の水道水源の地下水が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS、ピーファス)で汚染されている問題で、市民団体と京都大の研究室が1日、多摩地域の地下水などに含まれるPFASを独自調査した結果を発表した。汚染源と疑われる米軍横田基地(福生市など)付近では、暫定指針値の62倍相当を検出した。基地から東に10キロほど離れた国分寺市の深い地点の地下水で、高濃度の分布も判明。基地付近の汚染が東に広がっている恐れがある。(松島京太)

 多摩地域のPFAS汚染 東京都などの調査では2005年から、多摩地域の広範囲の井戸で高濃度のPFASを検出。18年度には横田基地から約1キロ南東の井戸で指針値(1リットル当たり50ナノグラム、1ナノグラムは10億分の1グラム)の27倍の濃度を検出した。都水道局は19年以降、PFAS汚染の影響で40カ所の水源井戸で取水を停止した。米軍横田基地では10〜23年に計8回のPFASの漏出事故が起きたが、米軍は基地外への漏出を認めていない。

◆「西からPFASが流れてきたとみられる」

多摩地域の水質調査の結果について説明する京都大の原田浩二准教授

 調査は、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」と京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)が昨年12月〜今年9月に共同で実施。多摩地域などの140カ所で地下水を採取して調べた。

これまでの都や環境省の調査では、採取地点の深さや詳しい場所が不明の例が多い。今回の調査では深さ30メートルまでを「浅井戸」、それより深い所を「深井戸」として傾向を分析した。

 調査結果によると、最も高濃度だったのは横田基地南東の立川市内の浅井戸で、1リットル当たり約3100ナノグラムだった。都や環境省の2018年度調査で最高値とされた同1340ナノグラムを大幅に上回った。

 基地の東側10キロ圏では、深井戸で濃度が高い傾向にあった。国分寺市では浅井戸(17カ所)の平均濃度が同24.8ナノグラムで、深井戸(10カ所)は5倍近い同123.4ナノグラムだった。

 基地周辺の地下水はおおむね西から東に流れ、東に行くほど地層に沿って沈み込んでいるとされる。原田准教授は「国分寺市より西からPFASが流れてきているとみられる。(横田基地付近の)立川市での高濃度汚染が関連しているのでは」と指摘した。

 国分寺市の東恋ケ窪配水所では、19〜20年に全水源井戸でPFAS汚染のため取水を止めた。配水所の井戸の深さは約200メートルで、今回の調査結果をみても、深い所での汚染の広がりが想定される。

 国分寺市の深井戸からはPFASの一種で土壌中の移動速度が比較的速いPFHxS(ピーエフヘクスエス)を高く検出。原田准教授は「後からPFASの一種のPFOS(ピーフォス)などが流れてくると考えられる。最も中心的な汚染地域で早く対処しないと、汚染がさらに拡大する恐れがある」と指摘した。

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PFAS汚染、国分寺の深い井戸で高濃度検出 横田基地付近で暫定指針の62倍相当 京大と市民団体が調査

2023年12月1日 20時15分


発がん性の疑いがある有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)を含む泡消火剤約760リットルが今年1月、米軍横田基地(東京都福生市など)で漏出していたことが、政府関係者などへの取材で分かった。防衛省の聞き取りに在日米軍が事故の事実を認めたという。この消火剤はPFASの国際的な規制を受け米軍が導入を進めてきた代替品だったが、PFASの一種であるPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)が高濃度で検出された。(松島京太)

◆米軍「基地外への流出はなかった」

 関係者によると、今年1月25、26日、基地内のショッピングモールの物販搬入口で、消火用スプリンクラー設備が破損、PFASを含む泡消火剤に汚染された水約760リットルがコンクリートなどの地面に漏出した。

米軍横田基地

 汚染水が側溝に流れ込んだため、基地外へとつながる基地西側の福生市の排出口をふさいで対処した。地面上に広がった汚染水は吸収材などで拭き取った。米軍は「基地外への流出はなかった」と説明しているという。回収された汚染水のPFAS濃度を調べたところ、PFOSとPFOAの合計値で、最も高くて1リットル当たり264万ナノグラムで、地下水や河川の国内の暫定指針値の5万3000倍だった。

◆PFAS「含有しない」代替品を使っていたのに検出

 PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「コンクリートのひび割れや接ぎ目から土壌に浸透し、地下水を通じ基地外の地域に影響を及ぼす懸念がある」と指摘する。

 横田基地広報部は本紙の取材に「環境への責務として、関連するすべての合意・義務・手順を引き続き順守していく」とメールで返信し、事実関係の回答を避けた。防衛省の担当者は「現段階では情報がないので答えられない」とした。

 横田基地では、2010〜12年に高濃度のPFASを含む泡消火剤が大量漏出。PFOSやPFOAを規制する世界的な流れの中で、米軍は「含有しない」とされる代替品に置き換えを進めてきた。だが今回の事故は代替品によるもので、代替品にも高濃度で含まれていた可能性がある。

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。4700種類以上あるとされる。代表的なPFOSやPFOAは人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値上昇、抗体反応低下などの健康被害と関連性が指摘され、国際的に規制が進む。国内ではPFOSが2010年、PFOAが21年に製造・輸入が原則禁止された。

   ◇    

◆「実際はPFOSとPFOAを使用し続けている」

 米軍横田基地(東京都福生市など)内で今年1月に漏出した泡消火剤は、世界的にPFOSやPFOAの健康被害が問題視される中で、代替品として導入が進められてきたものだった。防衛省によると、米軍は代替品について「PFOSとPFOAは含まれていない」と説明してきたが、今回の事故で汚染は解消できていない可能性が出てきた。

 「米軍は『環境に優しい泡消火剤だ』と主張しているが、実際はPFOSとPFOAを使用し続けている」。今回の事故を受け、政府関係者はそう実情を打ち明けた。

 在日米軍は2016年、消火訓練で従来の泡消火剤の使用を停止。20年から代替品「AFFF-C6」への設備交換を始めた。ただ、本紙が米軍の文書から製品説明を見ると、PFOSとPFOAがそれぞれ1リットル当たり最大80万ナノグラム含まれていると記されていた。

 20年にはC6の泡消火剤が基地内で漏出した事故が3件発生。防衛省によると、米軍は日本政府に「PFOSとPFOAは含まれていない」と回答していた。本紙は在日米軍に代替品について問い合わせたが、期限までに回答はなかった。

 また今回、高濃度で検出された理由として、従来品で汚染されていた配管を使った影響も指摘される。京都大の原田浩二准教授は「十分に洗浄しないまま過去の配管を使用すると、残ったPFASが溶け出して二次汚染が起きる。代替品に切り替えても新たな漏出や汚染の懸念は消えない」と指摘する。

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米軍横田基地で1月にも高濃度PFAS漏出事故があったと判明 泡消火剤に汚染された水760リットルが…

2023年11月14日 06時00分