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料理(15)長芋の豚肉巻き

 子供の頃、長芋のことを山芋と思っていました。
 里芋は丸くて小さくて、煮物などはその形を残したまま料理されることが多いのでわかるのですが、我が家では長芋と山芋はすりおろしたものを「とろろ」なんて言って食べたりするので、あんまりわかりませんでした。

「お好み焼きに山芋を入れると美味しい」というのは今や関西人だけではなく全国的に常識となっていますが、我が家はいわゆる関西人ぽくない家でした。
 たこ焼きの鉄板はない、両親ともにお好み焼きやたこ焼きは食べない、父はねぎ焼きと焼きそば派で、うどんより圧倒的に蕎麦好き、母はあまり嫌いな食べ物はありませんでしたが元々間食っぽい物は食べる習慣がありませんでしたし、両親はユーモアのセンスのある人でしたがいわゆる語呂合わせのような駄洒落はほとんど言わない、吉本や松竹などのお笑いはテレビでやっていてもあまり見ない、父は大の巨人ファン(母は野球は興味なし)というような家でした。

 なので、家でお好み焼きを焼いたり、たこ焼きパーティーをしたりということは一度もありませんでした。私はお好み焼きもたこ焼きも大好で、いつも母からお金をもらって一人で好きなお店へ行き、一人でゆっくり美味しく食べる、今思うとなかなか渋い子供でした。
 もちろん吉本も松竹も大好きで、漫才、コント、落語、新喜劇など、よく見ていました。(父は、桂枝雀さんは大好きで、また「枝雀寄席」という番組は父が見やすい時間帯に放映されていたのでよく見ていましたが)

 私が長芋と山芋は違う物だと知ったのは、大学生の頃に道頓堀にあった「やぐら」というこじんまりした居酒屋というか、和服に割烹着のママさんがやっていた家庭料理屋でアルバイトをしていた時でした。看板には「お茶漬け、やぐら」とありました。

 ごく一般的なアルバイト情報誌で見つけたお店で、1年働きましたが、楽しい楽しい1年間として私の記憶に鮮やかに刻まれています。
 週に3日:月水金か火木土かは忘れましたが、私と、当時はキミちゃんという少し年上の色っぽい美人とで交互にお手伝いしていました。18〜22時までです。

 お客さんのほとんどが常連さんという家庭的な明るいお店で、私は17時45分ぐらいをめがけてお店に入って、まずはビールを冷蔵庫に入れて冷やします。それから日本酒のとっくりを洗い、そこに夏は十本ぐらい、冬は二十本ぐらいお酒(ママが選んだお酒は賀茂鶴)を満たしておき、蓋としてアルミの料理用のバットを乗せておきます。日本酒のオーダーがあると大抵私が燗をします。ママさんはご飯を炊き(これは私にはさせてもらえなかった)、お客さんに飲み物をついだり、おしゃべりの相手をしたり、お料理を作るのです。

 私はテーブルを拭いたり、おしぼりを巻いたり。そして、お茶漬けのオーダーが入った時だけは私が作りました。のり茶、シャケ茶、梅茶、の3種類です。ママさんは大体16時半ぐらいからお店の準備をするので、私は17時ごろにお店に入って賄いとしてお茶漬けを食べてもいいのでした。

 私は子供の頃から「こましゃくれた」子でしたので、本気を出せば結構気が利いていたらしく、注文が入るとすぐその材料を冷蔵庫や食品棚から取ってママさんに手渡し、トイレットペーパーが切れていたら補填し、お客さんがお箸ではなくフォークやスプーンを欲しそうにしているとすかさずそれを出したり、取り皿を出したりしました。ママさんに言われなくても、自分でできる仕事を探すのです。これは母から受け継いだものだと思います。

 美人で色っぽいキミちゃん目当ての男性のお客さんの中にも、私のような子供っぽい丸顔のぶっきらぼうな大学生を面白いと思ってくれる人は結構いて、かまぼことか明太子とか、切ってお皿に乗せればいい様なものは私に「作ってよ」とおっしゃる人もいました。

 そのお店で、私は「山芋のたんざく」という料理を知りました。これは山芋と言いながらも長芋を細長く切って、うずらの生卵の黄身をのせ、海苔を散らし、出汁醤油を添えて出します。
 ある時、ママさんが食べさせてくれました。それまでは、ご飯にかけて食べるとろろか、お好み焼きに入れるかしか知らなかったので、冷やした長芋がシャキシャキ美味しくて大好物になりました。
 そして、ママさんはそれが本当は山芋じゃなく長芋なのだと教えてくれました。山芋の方が長芋より粘り気が強いので、火を通すと固まりすぎるからお好み焼きに入れる時は、山芋と長芋は50:50入れるといいとも教えてくれました。

 やぐらのママさんの年齢は知らないのですが、お店はもうありません。ご存命なら90代後半にはなっておられると思います。もしかすると亡くなっておられるかもしれません。今となっては、私はあの時、アルバイトをもう少し続けておけばよかったと後悔しています。 
 お店に流れている有線放送の演歌やムード歌謡でたくさん曲を覚えましたし、自分とは世代の全然違う人たちと接することができ、いろんな経験をしました。

 ママさんは一度だけ、私が当時やっていたブルースバンドのライブをキミちゃんと一緒に見に来てくれたことがありました。私たちがやってる音楽のことはわからないとおっしゃってましたが「まみちゃんが一生懸命歌っていて、頑張っていて、それを見るのが嬉しかった」と言ってくださって、キミちゃんと私に色違いのお財布をプレゼントしてくださったのです。同じデザインの色違いで、私には赤の本革の可愛いお財布。ママさん、改めましてありがとうございます。

 というわけで、私は長芋を食べたり自分で料理をするとき、やぐらのママさんを思い出します。徳島出身の優しい女性で、今もはっきりとその笑顔を覚えています。

 今回は、そんな思い出の長芋を、大葉と豚バラで巻いて焼きました。

 材料や調味料の量は大体の目安なので、お好みで調節してくださいね。

【材料】
長芋:200~250g
大葉:10枚ぐらい
豚バラ肉(薄切り):200g
塩コショー:少々
片栗粉:適量
油:焼くときに使う量

(合わせ調味料)
醤油:大さじ2
みりん:大さじ1
砂糖:大さじ1
酢:大さじ1
ニンニク:すりおろして:小さじ1
生姜:すりおろして:小さじ1
いりごま:適当

【準備】
長芋:1.5cm角ぐらいの、4~5cmの長さに切る
豚肉:軽く塩コショー

【作り方】
1:豚肉に半分に切った大葉を乗せて長芋を巻く
2:片栗粉をまぶす
3:フライパンに油を敷いて焼く
4:2〜3度ひっくり返して焼き色をつける
5:焼けたら、キッチンペーパー等で油を吸い取る(これ結構大事)
6:合わせ調味料を回しかけて全体にからめる
7:調味料が煮詰まってきたら火を止めて盛り付ける
8:いりごまを振りかける

【ポイント】
・火を入れすぎて、長芋がホクホクにならない方がいいと思います
 シャキシャキ感が少し残るぐらいに(まぁ、でもそれもお好みですが)
・焼けたら油を吸い取るのは結構大事(油が多いと調味料が薄味になってしまう)

 おかずにも、おつまみにも、お弁当にも、イケますね。

 ママさんがもし食べてくれたら
「まみちゃん、料理も上手になったやないの」と
 柔らかく褒めてくれる、かな?

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