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注目される中国AI企業でも儲からない現実

世界のAI研究をリードする国のランキングでは、中国がアメリカに次いで現在2位となっている。

その背景として、2016年にGoogleが開発したAI「Alpha Go」がプロの囲碁棋士と対戦し、「Alpha Go」が勝利したことがAI業界を沸騰。その後、中国政府は2017年にAI推進政策を打ち出し、国を挙げた大規模なAI開発を始めた。

その時から中国ではAIはホットな投資分野として注目され、関連企業の数が急増。2021年には、業界全体の資金調達件数は1,132件に達し、合計3,996億元の資金調達を記録している。

▲中国AI業界の資金調達件数と金額(出典:IT桔子)  

AI企業が儲からない

AIビジネスはこれほど注目されているにも関わらず、黒字化への道のりは遠いようだ。

▲2022年 中国AI企業の商業化トップ100(出典:億欧智庫)

上記の中国AI企業の商業化ランキングを見ると、2014年に創立したスタートアップのセンスタイム(商湯科技)がトップとなっている。しかし、中身を開けてみると同社の収益化の道は決して順風満帆ではないようだ。

同社は2021年末に上場。AI企業では世界最大規模のIPOとして注目を集め、上場後の時価総額は一時期3,250億香港ドル(約6兆円)に達するほどであった。

しかし、その半年後に大株主の株式売却を制限するロックアップ期間が終了。センスタイムの株価は香港市場で一時的に51%安となり、IPO価格を下回る水準となった上、現在の時価総額も、すでにピーク時の2割まで下落している。

売上を見てみると、2021年センスタイムの売上高は47億元(約960億円)と、前年より36%増加したものの、最終損益は171億元(約3,520億円)の赤字で、売上の3.6倍と驚愕な数字である。また、2022年上半期の決算では、売上高は前年比14%減少し、初めて減収にもなっている。

赤字拡大の懸念が高まり、株価が売却される要因になったようだ。

しかし、これはセンスタイムに限ったことではない。顔認証技術の開発を手掛ける依図(YITU)、旷視(MEGVII)、雲从(Cloudwalk)も軒並み赤字経営を続けているのだ。

また、この市場はAIスタートアップのほか、百度やアリババ、ファーウェイなどのIT大手もAI開発を推進している。特に百度は長年AI事業に注力しており、2024年までに非広告事業収入が広告事業収入を超えることを目標に掲げているが、百度の2022年4~6月期の決算では、AI事業を含む非広告収入が全体の26%。割合は増えたものの、AI事業が主力事業の役割を担うことになるまではまだ時間が必要なようだ。


スマートカーとメタバースに期待か

AI技術は現在セキュリティーシステムでの活用がメインとなっている。それゆえ、活用できるシーンが限られていることもAI企業成長の足かせとなっていると言える。

この現状からスマートカーとメタバースがマネタイズの新しい方向性として期待されている状況だ。

実際に中国政府は2025年までに自動運転技術をマスターし、2035年までに世界最大のスマートカー市場を建設することを目標に掲げている。センスタイムも現在乗用車のコックピットAIソフトウェア開発に注力しており、今年の上半期におけるスマートカー関連事業の収益は、前年同期より71%と急増。

2021年に急ブレイクしたメタバースの構築にもAI技術が必要であり、センスタイムなどのAI企業にとってチャンスとなっているのは間違いない。

ただ、スマートカーの普及やメタバース時代がいつ到来するか不明な現在、それまで巨額な赤字を抱える中国AIスタートアップが生き延びられるか、誰もわからないのである。


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