市川修インタビュー 1996年1月12日

━市川さんは最初バップ一筋の方やと勝手に思っていたのですけど、、、
市川（以下I）結局ね、誰と演るかで、僕が一番コレがいいんとちゃうかなーって思た事を演ってるんですよ。ま、誰と誰がって集まるでしょ？僕が演るとしたら、みんながよく知ってるのを演った方がいいと。ここは二人共（登敬三、船戸博両氏）、僕にオリジナルを演ろうと昔から言うてくれてたんですよ。でもオリジナルばかりはちょっと、、、と思ってたんですけど、今はオリジナルばかりになりましたね。

━あんなに弾いて手痛くなりませんか？
I いやもうね、この二人と演る時は限界に近いね。面白いけど、怯んだら負け、弱気になったら駄目。「怒っとんちゃうか」思うね。
━じゃあいつもテンション高めておかないと
I まあ結果は一緒なんやけどね。何か僕の知らん事を考えてるんちゃうかなー、と思てしまう。そんなん思てもね、最終的には思い切り演るしかないと。大体ね、4ビートとかブギウギになれば一緒でしょ？

━ニューヨークへはいつ頃行かれてたんですか？
I NYは今から20年以上経ってますわ。初めて行ってからね。それはね、ソニー ロリンズの京都公演があったとき、僕は楽屋に行って、、、ロリンズは奥さんとどこかゴージャスな所に招待されてんねやけど、残りのメンバーはあと宿に帰って寝るだけ。女の子とデートしたりとか。僕はそういう時は、ちょっと高いけどある所に招待するねん。その時、エディムーアっていうデューイレッドマンとかレイ ブライアントとかと演ってるドラムの人、150kgくらいあるオッサンで。
で、チャーリー パーカーの話したら「それはレコードでしか知らん」言うて。ほんでコルトレーンの話したら「俺はエルヴィンがコルトレーンとこ辞めた後、サンフランシスコでコルトレーンと演った」言うねん。ほんでそのテープをいつも持ってる言うて聞かせてくれたん。ビックリしてね、僕はアメリカ行った事なくて、誰も知り合いいない言うたら「じゃあウチに来なさい」となった訳。セントラルパーク ウェストのね、まあアップタウンに近い方やね、ハーレムでは無かったと思う。そこに行ったんです。2～3ヶ月後にね。ほんだらシェパードがおってね、ほんでもう二人ジャマイカのドラマーやいうのがおって。で、そこで会うたんがジョー ボナーとかね、ピアニストの。それとか日本人では中村照夫。彼はもうライジングサンっていう旗をガーと掲げて、テルオナカムラ オープンジャム！！、、まあ言葉は喋られへんかったし恐ろしかったんは覚えてますわ。

━聞いた話では、伝説のクラレンス シャープとルームメイトだったとか
I あれはね、86年のとき。3回目ですわ。東出（as）が200ドルくらいでね、イーストヴィレッジのかなり端っこの方のね、前でドラッグ売ってる様な2階のアパートにいて。で、そいつが隣のビルで寝てしもとった。俺は1人で鍵かけて寝てた。ほんだら夜中にコチョコチョって鍵開けて入ってくる奴がおる訳。「お前なんやー！！」一応こっちは言うわな。ほんだら「イエッサー（笑）デルの知り合いで」とか言うて。それがデニスとCシャープですわ。デニスいうのはデニスチャールズいうてセシルテイラーの最初の頃は全部彼。ブレイキーの弟子でね。エドブラックウェルと二人、弟子やねん。で、まあ二人仲良くて、おる訳ですわ、鍵持って。
━市川さんが寝てる部屋に？
I だからサブレント。要するにマタ貸しですわ。大家には分からん様に。ホテルは高くつくから、おらん間お前貸しとったるわ。それですわ。なんせ夜中にいきなり鍵開けて入ってくんねんもん（笑）で、何かの拍子にヒョッと楽器ケースから出して、ヴァーっと吹き始めて、、、
僕はCシャープなんて知りませんよ。歯の無いね、小さい、眼のギョロっとした爺さんやけど、まあエグい奴ですけど、二人でヴァー！と弾いたらね。「お前20年演っとおやろ」言うねん、僕のこと。で、その日はいろんな話になって、まあボルティモアから出てきて、リーモーガンと10代の頃から演ってんねやね。ストレンジフルーツを20体見た話から始まってね、徹夜で話してん。もー興奮してもうて。
で、そこでね、普通のアパートやねんけどジャムセッション始まる訳。普通いっぺん終わりますやん。づーーっと続いてね、夜中続いて、明くる日続いて、もおづ～っと。やめてくれ～～（笑）そやけどCシャープは凄いわ。何千曲と頭に入っとお。で、俺弾いててジャッキーマクリーンの「リトルメロネー」を譜面に書いてたら、「書くな、みるな、聴いたらわかる！！」「こうや！！」ゆうてピアノの指で教えよる。

（ライブ会場で）ともかくね、「コンファメーション」演ってもサビは半音ヴァ！っと上げよう訳。そしたらマルサリス必死でつけとったけどね。これうちにテープありますわ、ウォルターデイヴィスjr. クインテットやったかな。ケニーワシントン、それから、えーっと、、スタッフォードジェームス、カータージェファーソン、ほんでウィントンマルサリス、それにゲストにCシャープ。マルサリスがスパスパスパ！吹いとんのに、おっさん、ホンヤホンヤホゲホゲホゲ（笑）。ほんでチャーリーパーカー？ギュルギュルギャオー！！！！なりまんねん、とりあえず。
あ、ケニーギャレット、あいつ日本人が喋ってきたら「チョットマッテクダサーイ」言うて相手しよらへんねん。けど「Cシャープ？ He Is No.1」言うとったなあ。けどヴァンガードやそういう店には一寸出て無かったね。
━亡くなってしまいましたね。
I 亡くなった。ま、金が出来たら歯を入れてね、、、。もうリードなんか割れたん吹いとおねん。で、俺吹いてみたら、「オー、ジャッキーマクリーン！」やて（笑）。彼、バリーハリスの店、ジャズカルテュラルセンターで、モンクの曲になったら俺を呼んでくれた。ネクスト、セロニアスモンク、「ラウンドミッドナイト」ジャムセッションっていうと普通女の子を立てるでしょ？ガールフレンドが来てたりすると、弾かしてくれへんねやけどね、モンクの曲になったら俺弾かせてくれた。
━いい話ですねえ
I 僕ね、マッコイタイナーもこの人が教えとったいう話になって、ジョークや思てね、笑てしもた。皆マジで怒ってね（笑）「何がおかしい！！」って廻りの人らに。それとかエブリン（ブレイキー）でもね、タッタタタタタ「モーニン」唄うでしょ、俺ちょけてね、「朝はモーニング」とか言うたら、ほんま怒ってね、「何がおかしい！！」って。その代わりバッチリ弾きまっせ（笑）そしたらブッチューして来よるからね（笑）はっきりしてますわ、YESかNOか。恐いくらい。

I あなたにこういうこと言うのも何やけど、いつも何かちゃう、と思う訳。色々凄い人いるんやけどね、何かちゃうと思うことがある。じゃあ僕が納得行ったこと、、、例えばNYで恐恐ハーレム行って、どんどんどんどん行って、教会のオルガン弾きやいう人と知り合った。で、教会行って見た。自転車で、朝一番に。ほんで教会のまあ前に自転車ボーンて停めたら、ガキンチョがバー！と出て来て、「こんな正面置くやつがあるか！」言うて。ほんでGパン履いて行ってる奴おらんねん。ちゃんと正装してる。ほんでね、通うようになった。ほんだらね、プロフェッショナルやないよね、音楽やってるけど。お祈りのね、
もー素晴らしい！
━所謂ゴスペルですよね？
I そうそう、セントラルバッペスト協会いうてね、137丁目の角っこです。納得行きますわ。これは納得行く。ハーレムのベイビーグランドの演奏で、オルガンのバンドで納得行く。ジミーポンダーとドンペイトとタイコがグレッグバンディーと演って、ブルース。俺もう3連しか弾かへんねん。もーづっと3連。最高！ソロせえ。いやもう最高！そう言わずに。いや最高！（笑）このアホは飲ませたら演る（笑）言うてガーッと飲んで、終わったら5時半。ほんだらね、例えば日本やったら有名な人来たら「おいどけ、俺が叩く」あるでしょ？無いねんそんなん。
━何か違うってそう言う事？
I 日本てのはね、だってその人達の生活から湧いてきたもんかって言うたら、それは違うやん。ほんでよう言うやん、なになにを演らせたら日本一やでって。ボサノバ演らせたら、ラムゼイルイス演らせたら日本一。お前アホか？言いたい訳やん。こう直接なね、、、。だから演ってる人もダイレクトやし。ほんでやっぱり悲しいかな、今しかないっていうか。今どれだけハイになれるかってことでしょ？メジャーやない人間やから逆に言う様やけど、もっと普通にね、やったらよろしいやん。思い切り。僕も欠点あるけど、土台に4ビートがあって、、、僕なんぼでも行きまっせ。

1996年1月12日　トアロード ビッグアップルにて
インタビュアー chachai

月刊Preacher 1996年２月号掲載