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紅麹問題を、リーガル視点・マーケ視点で紐解いてみる

お久しぶりです。チャボです。
24年3月22日(金) 業界を震撼させるニュースが発表されました。
株式会社小林製薬が販売する「コレステヘルプa」を摂取していたお客様に腎疾患などの報告が出ていると発表したことです。
健康食品において健康被害の問題は過去も何度かありましたが、これだけ大きな被害が大手から出た事例は初めてに近いのではないでしょうか。
本日は、この問題を「リーガル」「マーケ」の両方の視点から紐解いてみようと思います。

そもそも紅麹って?

まず、今回の問題となった「紅麹」とは何でしょう?

Weblio辞書によると、以下のように記載があります。
モナスカスと呼ばれる紅色の色素を生産する紅麹カビを蒸米に増殖させた麹で、中国や台湾では紅酒(アンチュウ)の原料に使われている。また最近、新潟県醸造試験場を中心に開発された「あかい酒」は、この紅麹カビの色素を利用している。

紅麹写真(小林製薬 中央研究所より引用)

なので「麹」、いわゆる発酵食品ですね。問題は、辞書内では明記されていませんがそこに含まれる成分です。

医薬品と同等効果「モナコリンK」

紅麹には「モナコリンK」という成分が含まれており、これはロバスタチンと呼ばれるスタチンの1種です。
そしてスタチンというのは医薬品の1種で、「コレステロール治療薬の王道」といわれるほど有名な薬です。これは体内のコレステロールを低下させる働きがあります。

法律に一定詳しい方なら、「あれ?医薬品の成分って食薬区分の兼ね合いからサプリに使えないのでは?」と思ったかもしれません。
しかし、紅麹については 「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に含まれており、「高値コレステロールの低下」など医薬品としての効能を言及しない限り食品と判断されます。
よく「効果」と「安全性」は天秤と言われます。医薬品と同等の効果があるサプリメントであればそれだけ安全性にもリスクがあるのは自明と考えられます。

今回の問題ではないが、10年前から問題視されている「シトリニン」

サプリメント大国のアメリカで、10年以上前に同様のトラブルが発生していました。

腎毒性が懸念されるカビ毒シトリニンが含まれていた。

過去アメリカではスタチン薬の代用に、紅麹サプリが使われていました。10年以上前から上記モナコリンの働きは知られていたのです(日本も同様)
その中で、過去アメリカでの検査においてカビ毒であり腎機能に影響を与える「シトリニン」が検出されていたことがありました。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/etc/201011/517378.html

今回、小林製薬の原料では「シトリニン」を含まない原料であることが明文化されており上記が影響を与えていないとはされつつも、「未知の成分」が影響を与えたのでは?とされています。

以上、2つの成分が「紅麹」を取り扱う上でのそもそものリスクとなりうる成分です。(今回の事件ではまた別の要因が触れられていますので後述します)

市場開拓者であることの利点と責任

食品・サプリメント市場において、「コレステロール対策」の市場はそこまで大きくありません。
22年で、食品が約150億、サプリメントでは32億程度と、ダイエット市場製品と比較するといずれも10分の1以下の規模です。
※富士経済2024 No1・No2より引用

理由の1つとして、トクホ・機能性表示に使用できる原料が相当に限られている点です。過去「キトサン」「リコピン」「プロシアニジン」などの原料がほとんどで、サプリメントについては配合できる原料が限られていました。(キトサンは量が必要でサプリ配合には不向き、リコピンは原料高など)
かつ、どの素材も紅麹と比較すると力価が弱く、高機能を持つには「紅麹」が必須なのが過去の状態でした。

そんな中、21年2月に小林製薬が紅麹ポリケチドを関与成分として、初めての機能性表示を取得します。そこから広告展開など含めて1年未満で2億規模の売上を拡大しました。市場の10%を2年間でしめたというのは相当の功績です。

小林製薬 紅麹コレステヘルプ(富士経済より作成)

もともと紅麹で事業拡大を狙っていたこともあり、この機能性表示から一気にブーストをかけて展開を狙っていたのかもしれません。

2019年 小林製薬 紅麹パートナー企業募集広告

そういうことを踏まえても間違いなく、小林製薬は「紅麹市場」においてはパイオニアであった反面、そこに責任が今回の件で重くのしかかったともいえます。
既に宝酒造は自主回収を発表しており、今後他企業でも拡大する可能性があります。
https://www.takarashuzo.co.jp/emergency/__icsFiles/afieldfile/2024/03/23/TS23-045_2.pdf

結局のところ、安全性は何が問題だった?

結論、今回の件では成分がまだ同定されておらず「わからない」が回答となります。しかしそもそも安全性はどのように判断していたのか?これを「制度」「原料」の観点から見ていきましょう。

1.機能性表示の制度の点

機能性表示においては、事業者の責任において「機能性」「安全性」等を揃え消費者庁へ提出することで表記が可能となる制度です。
※申請性ではなくくまで事業者責任であることがポイント

小林製薬は、機能性表示の届出データベース上で、本製品の安全性をざっくり説明すると以下のように記載しています。
①2018年から20万食以上販売しているが、重篤な健康被害は過去起きてない
②原料としても食数換算で1.75億食分提供してるが、トラブルは起きてない
③安全性試験や臨床試験を実施するもトラブルは生じていない

これだけを見ると、確かに今回の事件がなぜ起きたか?が分かりにくい状態なのは事実です。しかし、この判断をしたのが自主性である以上「自社」となるため責任の所在は企業となります。

2.原料特有の課題

小林製薬の会見では「シトリニン(腎機能へ影響与えるカビ毒)」は入っていないが、通常想定しえない成分が含まれていた可能性に触れています。これが仮に発酵などの過程で生まれる成分であれば、ロットごとによるばらつきも生じてくるため特定が困難となります。
この1件はバイオ原料を取り扱う上での難点でもあり、今回の事件に繋がった要因として可能性が高そうな1因とされています。
本当にこれが要因だった場合、機能性表示食品の「安全性の評価」の妥当性にも繋がり、制度を足元から崩しかねない1手になります。

まとめ

今回のニュースは、過去数十年を見ても類を見ない案件です。
と同時に、「サプリメント」の安全性。それが食薬区分も含めて見た範囲まで広がる可能性があり、行政の動きが今後注目されます。
現在、きなりの件以降機能性表示には劣勢な動きが続いておりその傍らでトクホが堅調に新しい届出の内容/規格基準型の導入など進めており、将来的に保健食品の序列に影響が出てくる可能性もあります。

1つの事象から様々な解釈・判断がなされるのが、この法令で明確に定義されていない健康食品・サプリメントの面白いところです。
今後、小林製薬・消費者庁とそれを取り巻く関連業態の動きに注目です。
それではまた次の機会に。


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