見出し画像

燕子花図屏風の橋をあるく

尾形光琳《燕子花図屏風》
有名な国宝の屏風で、年に一回、所蔵する根津美術館の庭の杜若が咲く頃に公開されます

そんな屏風を今年もみにいきました

はじめに燕子花図屏風について
紙本金地着色 六曲一双
(各)縦151.2cm 横358.8cm
尾形光琳(1658?〜1716)
京都の呉服店雁金屋に生まれ、弟も陶芸などで有名な尾形乾山
光琳は雁金屋の財力で放蕩三昧でしたが、雁金屋はまもなく傾き、光琳は40代に本格的に、絵師として画業をなす
《燕子花図屏風》は初期のころに描かれたといわれている

場面は、『伊勢物語』第9段の東下り、燕子花の名所・八つ橋伊勢物語に出てくる、八橋の杜若園と考えられる
伊勢物語では、ここで、「かきつばた」を折り句にした歌を詠みます


六曲一双の画面には杜若以外、何も描かれません

尾形光琳《八橋図屏風》


橋も水も背景もなく、金地に杜若のみです
後に同じ画題で描かれた《八橋図屏風》メトロポリタン美術館 には、橋が描かれています
金箔と群青(アズライト)、緑青(マラカイト)という、とても高価が顔料をふんだんに使っています。屏風の依頼人は、かなりな財産のある人と推測できます

杜若は、右隻、左隻ともに、いくつかの塊となっていて、それらは繰り返しのデザインとなっています
おそらく、型紙などを使って描いたと考えられます。それらをリズムカルに配しており、グラフィックデザインの視点から見ても優れた作品でしょう

以上は基本的な屏風の情報です

根津美術館では、ガラス張りの大きな展示スペースに、この屏風がドーンと置かれます
少し高い位置となるので、目線より高い位置に、屏風がありますが、これが畳の上にあるとしたら、もう少し視線が下がります
今回は、それを意識して、屏風をみることにします

先ずは、右隻のいちばん右端に立って、杜若を見ます
すると、杜若は横からみる視点になります
杜若園に到着して、目の前に広がる杜若を眺めて、「わーーーーー」と心が高揚する感じです
杜若の足元は、金地が見えます
ここで、光琳が、こだわった金箔の貼り方が効果をみせます
《燕子花図屏風》の金箔は、横のラインが直線になるようにそろえられて貼られています
そして、その箔の切り取り部分を、わざわざ重ねて凹凸のあるラインとなるように貼ってあります

これが、金地に、模様のようなものがみえる効果を出します
杜若の足元の金地は、まるでゆらゆら揺れる水面のように見えます
金地は、今は展示室の電気の均一の灯りでしかみることが出来ませんが、当時、薄暗い室内で、蝋燭の灯りに照らされた姿は何倍も神秘的で、ゆらゆらと輝いて見えたと思います

さて、杜若園に戻ります。
杜若園を眺めながら歩いて行きます
足元は水、横から眺めるのも楽しいですが、もうちょっと近づいてみたい

すると、突然、
杜若の視点が下がります
花がガクンと下の方に描かれるので、鑑賞者の視線もつられて下がります
そのまま、左隻へ続くのですが、左隻は下がった視点のまま始まります

ここから先は

1,313字 / 5画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?