第六話 最初の舞台
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気付いたら暗闇にいた。
目を閉じて数秒、開いても黒以外の色は何も見えない。
手足を動かしても塵一つ当たらない。
自分がどこにいて、どうしてここに居るか思い出せる気がしなかった。
ぴちゃり ぴちゃり
手に何かが落ちて来る。
流れる感触と音で固形物で無い事は確かなのだが、水ではない。
時折どろりとしたスライム状の固まりを感じる。
生暖かいところが余計に気持ち悪い。
これは何?と自分に問いかけた。
答えは分かっているのに、そうであって欲しくないという気持ちと葛藤する。
ぽた ぽた
まただ。今度は水。
涙だ。自分が。何故?
「三希様!起きてください!」
「助蔵…?」
「申し訳ありません。チャイムを押しても出られなかったので瀬沼さんから鍵をお借りしました。三希様、どうされましたか…」
三希はベッドの脇に置いてある鏡を手にとり覗き込む。
「何でこんな顔になってるの!?」
目が真っ赤に腫れ、涙の線が綺麗に描かれていた。
頬をこすり、白い線はなんとかなると分かったが目の方は一日かかりそうだと三希は落胆した。
「存じ上げません…三希様、お支度を。始業式が始まってしまいます」
「こんな顔で行くの恥ずかしいよ……」
「そうは言いましても…転入生を代表してご挨拶があるそうなので」
「何それ聞いてない!」
「申し訳ありません……」
「うーん……どうしよう、そうだ!これで行こう」
三希はキャリーケースに入れていたあるものを取り出す。
「ええ、それは…ちょっと、三希様……」
「もうこれしかないからほら、行くよ」
「はい……」
「私からの挨拶は以上になります。では、今年から中等部1年に蜘蛛霧衆から転入生が2名入ります。では、東雲三希さん代表してご挨拶をお願いします」
校長先生の話が終わると三希は壇上の脇から威風堂々と現れた。
それとは対照的に、整列する生徒やその脇に立つ教師たちがざわつき始める。
三希は制服姿に腫れた目を隠すために、サングラスをかけて現れた。
サングラスはまるで年末年始にハワイへ行く芸能人を彷彿させる位大きく、全ての風景を反射し、七色に輝いていた。
大胆に壇上の階段を上った三希はマイクを手にとり、声が入っているかテストをし、思い切り息を吸い込む。
「はじめまして、みなさん。私は東雲三希。ここに居る誰にも負ける気はしないわ。まずは学校の番長、勝負しなさい!」
キィンとハウリングする音が体育館に響き渡る。
聴衆のほとんどが一斉に、東雲三希と極力関わりたくないと思う空気が流れた。
三希はそれには全く気付かず、満足そうに微笑み深呼吸をすると一礼し、壇上の横に立っていた校長先生にマイクを渡し、再び舞台の脇に退場した。
「えー、以上を持ちまして始業式を終わります。担任の先生の指示に従って教室に戻ってください」
学園には一瞬にして"東雲家の転入生はアホお嬢"という噂が広まった。
画像:フリー写真素材ぱくたそ
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