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オートバイのある風景16 バイク便と黄色いモンスター

 念願のドゥカティM900とのオートバイライフに加え、第二子の長男も誕生して順調な生活を送っていた僕は、第三子の次女が生まれて来ると言うときに脱サラしてバイク便を起業した。
 さらっと書いているけれど、我ながらどうかと思う行動である。
まぁ、手に職があるからとこんな時にも
「どうぞ、おやんなさい」
と言えるカミさんもカミさんだが…。

 静岡でバイク便が成り立つかどうか確証はなかったが、とにかく僕は動いた。
まずは営業車としてVTR250の赤を新車で1台購入。
モンスターと並べるとまるで兄弟車である。
 すぐに営業ナンバーの申請をしたのだが、当時で「1静岡 6」というナンバーが出た。それまで静岡でバイク便を見た事が無かったので、もう5台もいるのか、と言うのが正直な感想だった。

 生来の運の良さか時代が良かったのか、仕事は順調に増えていった。
人を雇うようになりバイクを増車しようとしたが、まだまだ資金が乏しい。
そんな時に前の会社で同期だったO倉君(学生時代の友人O倉とは別人である)が、それまでのセローに加えSR500を購入したと聞いていたものだから、淡い期待を胸に相談したところ
「あー、いいよ。タダで持って行きなよ」
と言うではないか。
10年落ちのセローとはいえ、いくら何でもタダはないだろうと今となっては思うのだが、当時の僕はお構いなしで引き上げに行った。
O倉君の時々こうして育ちの良さが出るところが僕は好きだ。

 というわけで緑ナンバー「6」と「7」の2台体制になってからはあれよあれよと仕事も増え、VTRも銀の「10」黄色の「12」白の「13」…と、バイクも人もどんどん増えていくのだった。
そんな中で実は、資金繰りでモンスターを手放してしまった。
 個人事業で無計画な経営がこの辺で垣間見えているのだが、当時の僕は日々を生きるのに精一杯、しかもその毎日がとんでもなく楽しいものだから現状の問題点も行き先の不安もまったく見えていなかったのである。

 日々舞い込んで来る仕事の依頼と、バイクが好きで走る事が好きでちょっとおバカな若者達に囲まれて過ごす中で、それほど間を空けずにモンスターを買い直す事が出来た。
 資金的な余裕もあったからだろう、今度はイタリア車の専門店とお付き合いしたいと思うようになっていた僕は、わざわざ横浜の有名店に出かけて改めてモンスターを購入したのだった。

 同じ車種を二度にわたって買った事がある人なら分かると思うが、1台目で試行錯誤した部分を2台目では最初からコンプリートで仕上げたくなるもの。
僕は2台目のモンスターに、納車前から少々のカスタムを依頼した。
キャブはダイノジェットのステージⅡ、マフラーはテルミニョーニのカーボン。
ステップはアエラ製をベースにして僕の足に合わせたワンオフのペダルをセットしてもらった。
 セッティングやメンテの度に、ステッカーをペタペタ貼ったトランポ仕様のデリボーイにドゥカティを乗せて静岡と横浜を行き来するのも、それはそれで楽しい経験だった。

 ところで、この2台目のモンスターに僕は黄色を選んでいる。
確かこの頃読んだクルマ関係のコラムに、
「最初のフェラーリは皆赤を選ぶが、2台目はかなりの確率で黄色を選ぶ」
という一節があった。

 僕の周りには幸い(笑)フェラーリを複数回買ったという人がいないので実際のところ聞いたことはないが、何度もフェラーリを買う人は2台目のフェラーリに本当に黄色を選んでいるのだろうか、今さら何となく気になっている。


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