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オートバイのある風景6 成人式と彼女のDJ-1


今から30数年前、僕の住む街の若者にとって成人式は一生に一度と言っていいくらいの晴れ舞台だった。

成人式は市の中心部にある文化会館で行われ、市内の新成人の大多数が晴れ着に身を包んで出席する。大半は式典に参加せずに、文化会館前の広場で旧友たちと交流するのだが、だいたいにおいて出席者が全員会場に入ったらどう考えても座席が足りないので、主催する市の方もこの形を黙認していたのだと思う。

僕も御多分にもれず、おしゃれをして仲間達と式典に出かけた。会場で恵まれるであろう幸運に備えて、念の為兄貴にクルマも借りた。まだ納車して間もないトヨタクレスタ、GX71のスーパールーセント。色はもちろんスーパーホワイトである。
運転初心者の弟によく新車を貸してくれたものだが、この日がどれだけ大事な日か当の兄貴もよく分かっているので快く貸してくれたと言うわけである。

当日はクルマの恩恵は無かったが、それでもその後繰り出した夜の街で、昼間言葉を交わした高校時代の同級生女子と再会し、そのまま彼女たちと合コンという流れになった。そこから当時流行りのグループ交際に発展したのだから田舎の成人式はやはり侮れないのである。

さて、そのグループ交際の中にひとりだけバイク女子(という言葉はまだ無かったけれど)がいた。とは言っても中型免許はあるがバイクは持っておらず、当時彼女が乗っていたのは看護学校への通学に使っていた黒と黄色のホンダDJ-1だった。

そんな彼女に好印象を持った僕は、とある日の食事(この日ももちろんグループでの食事会だ)の後で
「バイク乗ってみる?」
と言って愛車CBX400FとDJ-1の交換を提案してみた。

彼女は怖がったり遠慮することもなく、嬉々として僕のCBXにまたがった。一方僕が乗ったDJ-1と言えば伸びやかなロングボディが印象的なスクーターだが、ロングといえば当時の彼女は腰まで届くロングヘア、そして僕より高い身長がとても印象的だった。いい娘だなとは思ったものの、自分より背の低い男子は眼中にないだろうと、当時の僕は勝手に思っていた。

ところがその後だんだん仲良くなっていく過程で身長の話になり、僕は若干高めに、彼女は若干低めに、お互いサバを読んで身長を申告したものだから
「そんなに差はないんだね」
という事になり、交際に発展していったのは今思い出しても笑い話である。
今この話を読んでくださっている貴方はもうお察しかとは思うけれど、その通り彼女がうちのカミさんです。

このエッセイはすべて実際にあった出来事を元に僕の主観をちょっと足して綴っているのだけれど、ここまで読み返してみるとやっぱり恥ずかしいなぁ。プロの作家やエッセイストさん達は普段こんな事をしているのか。いやはや、つくづく尊敬に値する職業である。

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