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『もう一つの太陽』

写真部に入部して、まずは新入生歓迎コンパに招待されます。
「お~い、一回生、(ビール瓶を持ちながら)早く呑め!腕が重い!」
「写真部と書いて『さけのみくらぶ』と読む。」
「酒の一滴は血の一滴」等々。枚挙に暇がない程迷言を聞かされた一次会。
続く二次会は店ではなく、近くの河原で一升瓶を囲み、回しラッパ呑み!
完全に『味より量』でした。

いくつかの迷言?の中で感心したのは、N先輩のカメラ保存術。
N先輩の場合、写真展直前までカメラは手元には無く、写真展二日前になってやっと撮影。
写真展前日に現像、焼き付け・パネル貼りを行い、渇きたてホヤホヤの写真が展示されます。

『カメラが手元に無い?』

不思議に思われた読者の皆さんも多いと思いますが、N先輩はアパート暮らし。学費と生活費を稼ぐ為にバイトに明け暮れております。
機材は(記憶が正しければ)確かミノルタのX-700だったと思います。
同機は、1981年に発売した最新機。レンズも何本かお持ちでした。
そして、自分もその先輩のカメラを見せてもらったのは1回だけ。
アルミケースに綺麗に収まった姿でした。

では、日頃は何処に?

N先輩「これ、いつも質屋に保管してあるねん。」
自分「し、質屋ですか?」
N先輩「それで流れへんように毎月利子だけ払っとくねん。」
自分「お金もったいないじゃないですか。」
N先輩「よ~考えてみ。質屋はカメラを完全防湿で保存しよる。」
自分「はい。」
N先輩「つまり、湿気の多いアパートに置いておくより、確実に保管してもらえるやろ?」
これには、心の中で『お見事!』と唸ってしまいました。

新歓コンパの後、先輩指導の下、最初の写真展『新人展』の準備に入ります。ダークバッグの中で、100フィートフィルムをパトローネに詰め替える方法&練習に始まり、フィルム現像、そして紙焼きと、本当に色々と教わりました。
ただ、撮影に関しては各自の感性を大事にしたのか、特に何も言われませんでした。

さて、自分の作品は?と言うと、
日頃カラーフィルムばかり使っていた為、いざモノクロとなると何をどう撮って良いやら?
ファインダーを覗いても色が先に飛び込んできて、頭の中でモノクロ変換した瞬間、『面白くない!』と、なかなかシャッターが切れませんでした。
しかしながら、撮らないと前には進めません。
『とにかく撮ろう!』と、日頃追いかけている鉄道にもカメラを向けるのですが、大好きな鉄道をもってしても、全くと言ってよいほど作品は出来ませんでした。

『そうか・・・結局のところ、自分の写真は色に助けられ、色で胡麻化していたんだな!』
そう気づいたものの、やはり簡単には作品は出来ませんでした。

ある日の放課後、前日から降っていた雨が上がり、お天道様が久しぶりに顔を出しました。
と、そのとき、周りの風景が太陽の光に照らされキラキラと輝き始めたのです。
『これだ!これなら作品化出来る。』
その日、無我夢中でシャッターを切り、何とか作品は完成したのです。

もう一つの太陽

2枚組の組み写真で、タイトルは『もう一つの太陽』としました。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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