富士山は見えたか?
実家に帰省するたびに、父は私に聞いてきた、
「飛行機から富士山は見えたか?」
私が、
「うん、見えたよ。きれいに見えた!」
と報告すると、
「おぉぉ!きっといいことがあるよ」
と笑顔で返してくれた。
それは、私が実家を出て以来、30年近くも続いてきたことだったが、「いいことがある根拠」について父との会話で話題にしたことはない。
実際、何かいいことがあるという根拠があるというわけではないだろう。
おそらくは、いいことがありそうな予感がするねという程度の、見えた喜びに共感してくれただけのこと。
その程度のことであっても、父とのやり取りは、お決まりの流れだった。
だから、いつも、富士山が見えるほうの窓側に席をとる。
睡眠不足で見損ねたり、雲の中で見えなかったり、見えることばかりではないのだが。
そんな事情も丸ごと父に報告して一喜一憂してきた。
今日のフライトでは、富士山がきれいに見えただけでなく、低い高度の航路を選んだ関係で、大きくくっきりと見えた。
冬晴れの中、美しい姿の富士山を見下ろしながら、
「いいことがあるよ!きっと!」
父が笑顔で囁いている気がした。
困難と疲弊が日常の毎日、決して楽ではないけれど。
明るい未来を信じて進んでいこう。