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ヤモリ

実家にはヤモリがいる。

夜になると決まった窓の外側にはりついているのだという。

このヤモリは数年前に生まれたヤモリだが、また別の大きさのヤモリもいるのだとか。毎晩のように同じような窓に現れるのだそうだ。

家にやってくるのには、何か理由があってのことだと思うが、何年も居つくからには、この家にそれ相当の魅力があるのだろう。

ヤモリを初めて発見したのは父。5、6年前にトイレの窓にはりつくヤモリを興味津々で見入っていたのだとか。

父の驚いた様子、歓喜の表情、興奮の口調などを母が真似て語ってくれた。

20日は父の月命日。

ヤモリの思い出話に花を咲かせるように、父がひそかに仕組んでくれたのかもしれない。

いや、ヤモリが居なくても父の思い出話はするのだが。

父の話は、まだ悲しい話や、将来への不安などのことのほうが多い。話題にするだけでギクシャクするような話題すらある。

そんな状況ではあるが、ヤモリの話になったときには、子どものようにハシャグ父の姿が目に浮かび、ふんわりと懐かしい気持ちになれた。

父のことを思って悲しい気持ちになるのではなく、いつかは懐かしく感じる日が来るのだな。

そんな日が来るべくして来るのだな。

あれから三月(みつき)。

今日の節目に、初めてそのように思えた。