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謎かけ話に思いをめぐらせ

父は謎かけ言葉のように「謎かけの話」をするところがあった。

一般的に、謎かけ言葉というと、2つの意味を持った言葉を「AとかけてBと解く、その心は……」といった風に、同じ意味でくくって楽しむ言葉遊びのことだが、父が使う謎かけとは、そういうものとはまた別のもの。

父は、ひとつの言葉が何か別の意味を含めていることを示唆しながら「物語のように」思い出話をすることがあったのだ。

表向きの現象だけを話し、言葉に「含み」を持たせつつ、裏の意味を告げずに聞き手の閃きを促すだけ。その閃きが正解かどうかの答え合わせをしてくれないため、悶々としたものがずっと後に残る。そのため、子どもの頃は、父の謎かけ話がとても苦手だった。

◇◇◇

先日、父の墓参りへと向かう道のり。

ふと、父の「謎かけ話」を思い出した。

それは「このあたりの野山で、昔、蕨採りをしたな」と思ったことがきっかけだった。

私が子どもの頃、お墓参りは家族にとってのレジャーのようなもの。ご先祖さまにごあいさつして、帰り道にお弁当を広げて休憩ということをしていたので、蕨採りの記憶は、そのときの出来事だと思う。

10数年ほど前、酒に酔った父が、蕨採りの思い出を語りはじめた。そう、謎かけ話だ。

「一生誰にも話すつもりはなかったが、今日はお前にだけ特別に話したい」といって物語ははじまった。

姉と私が蕨採りに夢中になっているとき、木の上から大蛇が2人の様子を伺っているのを見て、心臓が凍りそうなくらい怖い思いをしたのだという。

木の枝にまきつく大蛇は、明らかに娘2人を狙っていた。あの大きな蛇が襲いかかってきたら大変だと思い、大蛇を刺激しないよう、娘2人に蛇の存在を知らせぬまま、父の近くに引き寄せたのだそうだ。

その恐怖体験から、「自分が頑張って働かないといけない」と覚悟を決めたのだ!……という結論だったが、当時の私には、その暗示するところが全く分からなかった。

父は、この「謎かけ話」が分かるかと聞いてくるので、テキトーに話を合わせながら頷き、

「私達3人を守ってあげないといけないと思ったんだよね?」

と返すと、

「はぁ?お前とお姉ちゃんだけだよ。弟のことは関係ない。お前、全く話が分かってないな!大きな蛇が狙ってたのは、お前とお姉ちゃんなんだよ!」

と父は怒り出し、そこで話が打ち切られた。

もちろん種明かしはされぬままだったけれど、キーワードは「大蛇」と「姉」と「私」らしいことは分かった。

◇◇◇

時が流れた今、「謎解き」が見えてきている。

父は、かなり古い考え方の男性であったことを併せて考えると、もしや次のような意味だったのではないかと閃いたのだ。

大蛇は邪(よこしま)な心を持つ男性を意味し、娘2人の貞操を守るために父は最大限努力して稼がなければという決意をしたという話だったのではないかと。

弟が生まれるまでの時期、我が家は貧しかったと聞いている。

母の話によると、毎日一家心中を考えるくらい生活は苦しかったが、朝から晩まで働き、死ぬ元気もないくらい疲れ切っていて、心中することすらできなかったのだそうだ。

それくらい貧しい生活であれば、「貧しさのため女の子を身売り」といったことが、頭をよぎったとしても不思議ではない。貧しさゆえ、まともな縁談や、一般的な男性との結婚は無理かもしれないという悲しい未来を想像した可能性もあるだろう。

亡き父に「答え合わせ」をすることはできないが。

いや、父が生きていたとしても、そのようなことを会話に持ち出すことは絶対に無理だと思うのだが。

自分の中では、この解釈が正解だと信じたい。

父の謎かけ話は、まだまだ続く。