[ファッション]CELINE MEN WINTER 24 について

全く性質が異なるものとの対比により、物事がより美しく見えることがある。

身近なところで言えば、全面コンクリート打ちっぱなしの殺風景な内装に、活き活きとした植物を組み合わせたインテリアコーディネートは、見覚えのある方も多いだろう。
コンクリートと植物のコントラストは、より植物のもつ生命力を強調する。

"砂漠に咲いた薔薇"なんて言い回しも、このコントラストによる美しさの強調を前提としている。
大量に群生した薔薇よりも、砂漠にポツンと咲いた薔薇の方に、我々は力強さや高貴さを感じてしまうのだ。

CELINE MEN WINTER 24 のコレクションは、そのような対比による美しさを最大限に活かしたものだったように感じる。

CELINEの現デザイナー、エディスリマンは常に一貫したデザインをすることで有名だ。
例外はあれど、彼のデザインは、シャープなシルエットを基調とした、ロックンロールテイストのものであることが殆どである。
一世を風靡したスキニーシルエットの仕掛人こそが彼であるといえば、彼のことを知らない人でも、そのイメージはつきやすいだろう。

一見、今回のコレクション動画も、これまで通りのデザインで展開されたもののように思えた。
しかしよく見ると、今シーズンで発表された服については、ここ数シーズンと比較すると、よりシックさや、クラシックさが押し出されているように感じた。

加えて動画内には、1950〜70年代アメリカに通ずるような、洗練されていない、粗野なイメージ達が繰り返し登場する。
広大な荒野、延々と続く道路、巨大な山脈、電波塔、アメリカンクラシックカー、ジュークボックスにカウボーイ──映像内に映し出されるアイコンだけ見ると、B級ロードムービーのようですらある。

※以下、画像はCELINE公式サイトのコレクション動画より引用
(各画像に、コレクションのリンクを貼付しているので、まだ見ていない方は是非一度見て頂きたい。)

今回のコレクション動画においては、これらの粗野なイメージと、ランウェイモデルとの間に、圧倒的なコントラストが存在している。
あまりにも、その組み合わせが現実的でないのだ。このことが、ランウェイモデルと、彼らが身に纏うコレクションの美しさをより強調している。

今回のコレクションタイトルは"symphonie fantastique"、直訳で"幻想交響曲"である。
このタイトル自体は、コレクションBGMにもなっている、18世紀のクラシック音楽から取られたものであるそうだ。
しかし、荒野の中を颯爽と歩くモデル達は、その現実性の無さから、まさしく幻想のようでさえある。

バックグラウンドに映し出される広大な土地や荒々しい岩場は、その圧倒的な存在感にも関わらず、コレクション動画内ではその幻想の引き立て役でしかない。

そして、エディスリマンの凄まじい点は、それらの粗野なイメージ群についても、自身の手腕で完全に洗練されたものに高めてしまうところである。車やヘリを神経質なまでに磨き上げ、まるで音符のように綺麗に整列させ、山脈や電波塔も、巨大なオブジェのように作用させてしまう。

用いられるモチーフとコレクションとの間には圧倒的な乖離があるにも関わらず、映像としてまとまりがあるのはこのためである。彼の手にかかれば、どのようなモチーフも彼の世界観を表現するパーツの一部になってしまうのだということを、今回のコレクションを通して実感した。

最後になるが、デザイナーのエディスリマンは、今回のショーをラストコレクションとし、CELINEを退任するのでは?と、まことしやかに噂されている。

しかし私は、可能であれば彼の作るCELINEの世界感をもう少し堪能してみたい。
ジュークボックスを燃やすラストが、CELINEの最後を飾るエディスリマンからのメッセージであるという推察も目にするが、願わくば、これが次章の始まりの狼煙であってほしいと思う。


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