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株価と政策保有株式

1、株価下落局面

(1)デメリット
・株式の時価評価額が下がり、取得原価の半価以下の価値になってしまった場合は減損するリスクが生じる
・有価証券評価差額の悪化→OCI(その他包括利益)の減少を通じて、純資産、資本が縮小

(2)メリット
・資本縮小にも関わらず、受取配当金が変わらなければ、ROEにはプラス
・金融機関で株式ショートポジションでヘッジをしている場合、そのポジションの益出しが可能に

2、株価上昇局面

(1)デメリット
・OCIは増えて資本がインフレしてしまうので、その後下がると大きく資本が減少するなど、資本コントロールが難しくなる。
・時価評価が増えて、資本が増えたのに対し、投資株式からの受取配当が増えない場合は、ROE(資本効率)が低下
・さらに自社の純資産、資本が増えることで、その分の余力を配当や自社株買いなどで外部流出する場合は、その後、投資株式の時価が下がり、自己資本を増やしたい場合は、実務的には公募増資などしづらく資本増強するのは難しい
・金融機関で株式ショートポジションでヘッジをしている場合、そのポジションの損失が膨らみ、減損リスクが上昇

(2)メリット
・OCIは増えて資本が増強される

3、政策保有株式売却に向けたハードル

(1)政策投資先との取引への悪影響
・政策投資時に、保有する代わりに、特定の取引の深耕を図るという明確な又は暗黙の約束があった場合は、その取引の継続が無くなるかもしれない。(ただし、無くなるということは、他社による代替取引の脅威が政策保有株の存在に守られていただけであり、本質的には競争力がなかったと考えられる。)
・投資保有を継続することによる継続的な配当や時価の上昇による投資メリットが信じられないのか、という政策投資先からの売却阻害の圧力があり、それでも売却となる場合は、取引の解消(出禁)となるリスクがあり、もしその取引が売上や利益の大きな部分を構成する場合は、売却を踏み止まらせる大きな理由となる。

(2)配当収入の減少
・事業会社にとって本質的にあるべき理由ではないが、投資している時価に対して、高配当率の配当を実施する政策保有株式(WACCに対しリターンが高い)があった場合は、株式の売却を進めることで、全社のROEが下がる可能性があり、できるだけ早く又はできるだけ多くは売却したくないという理由になる。

(3)売却益が多くなる問題、利益コントロールが難しい問題
・一定の配当性向や総還元性向を実質的にコミットしている場合は、株式の売却益が増えて、当期純利益が押し上げられてしまう場合は、多く配当を出す必要がある。一方、ゆっくり売却を進め、毎年少しずつ利益の足しにしている場合は、一度に利益・キャッシュ・純資産を外部流出させずによく、B/Sもゆっくりマネージでき、政策保有株を早期に売却しないインセンティブになる。

(4)再投資の機会不足
・本質的には、売却して使用しないキャッシュや純資産は、株主に還元するべきである。
・しかし、株主は必ずしもそれだけを望んでおらず、事業の中で、キャッシュを再利用し投資することで、本業強化(収益性向上)やシナジーある事業投資・開発等で長期的な収益力強化になり、結果的にROEが向上していく取り組みであれば、再投資して欲しいと望むところである。
・(1)取引利益の減少や(2)配当の減少に対して、(4)再投資のリターン増加による打ち返しを進めて欲しいものである。
・そうして各企業が売却を一気に進めないのは、現実的には投資案件がないか、投資しても事業強化に昇華させる程のリソース(人、体制、仕組みなど)が不足しているということと考える。

4、まとめ

・事業会社にとって、政策保有株式は、時価が上昇・下落どちらに進んでも、メリットがあるどころか、経営を難しくさせてしまう
・それでは、政策保有株式の売却を一気に進めれば良いかというと、それもハードルがあり、自社の成長機会、取引や配当収益の減少、株主の期待のバランスを取って、政策株の売却の計画・方針が定められていくものと考える。

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