元受刑者を雇用し社会復帰を支援 仕事があれば再犯は防げる
北洋建設株式会社
刑法犯の認知件数は、令和3年は56万8,104件。平成14年に戦後最多の約285万件に達しましたが平成15年以降は毎年減少し続けています(令和4年版犯罪白書)。一方で、再犯者率は平成27年以降、48~49%台とほぼ一定で、罪を犯した人の約2人に1人が再犯をしているという計算になります。そして、有職者の再犯率が7.7%なのに対し、無職者の再犯率は約3倍の24.6%と、圧倒的に高くなっているのです(保護統計年報より)。
北洋建設株式会社は50年前の創業当初から、元受刑者の雇用に力を入れてきました。犯罪や非行をした人が出所後、職に就くことは、社会復帰の大きな足掛かりになると同時に、世の中から再犯を減らすことにも繋がります。
地域の担い手として期待される地場の企業が、どのようにソーシャルビジネスやコミュニティビジネスに取り組んでいるのか。きっかけやプロセス、課題は何なのか。その事例をお伝えしていくシリーズ第5弾。
北海道札幌市東区にある北洋建設株式会社・北厚也さんにお話を聞きました。
<話し手プロフィール>
北洋建設株式会社
北厚也さん
約15年前、リーマンショックで求人情報が少ない中、執行猶予中に面接を受け、北洋建設株式会社に入社。長年、寮長・社長秘書を担当し、難病(脊髄小脳変性症)を抱える小澤輝真社長とともに、全国各地の刑務所や保護観察所等へ面接に赴いた。
●創業時から元受刑者を積極的に雇用
「北洋建設株式会社について教えてください」
北海道札幌市にある建設業の会社です。一次下請けで、基礎から全て携わっています。穴を掘り、建物を一から作り、建てあがるまで。以前は解体もしていましたが、今は人手が足りずに、建てる方を専門です。
社員数は現在約30人で、そのうち1人が元受刑者です。そのほか、刑務所に入らず執行猶予中に入社し、今は執行猶予を終えた人が4人働いています。約50年で600人以上の元受刑者の雇用を行ってきました。
私も、約15年前、執行猶予中に面接を受けて入社したひとりです。裁判で執行猶予の判決が出て、住むところも働くところもなく、どうしよう、となっていたものですから、更生保護施設に入れてもらいました。そこで暮らしながら仕事を探して、運よく北洋建設を紹介してもらい、面接後すぐに採用となったんです。
会社は1973年に小澤工務店として創業し、50年が経ちました。創業者の小澤政洋の息子が、現社長・小澤輝真です。社長は脊髄小脳変性症という難病を2012年に発症して以降、歩くことが難しくなり、車いす生活となりました。今は移動自体が困難な状況です。私は長年、寮長・社長秘書を担当し、社長とともに全国各地の刑務所や保護観察所等へ面接に行きました。社長の移動が難しくなったこともあり、面接は副社長が担当することにし、最近、引継ぎを行いました。私は現在、人手が足りていない現場仕事を行っています。
従業員の年齢は50代が多いです。若い人はなかなか来ませんが、最近31歳の人が入りました。
「元受刑者の雇用はいつからですか」
創業当初からです。会社から車で10分くらいのところに札幌刑務所があり、初代社長は毎朝、出てくる人にかたっぱしから声かけたそうです。「行くところ、あるのか。ないんだったらうち来い」と。その時代は人がいればいるだけお金になった時代ですから。一時期は、従業員は100人くらいいたと聞いています。
そんな父(初代社長)と会社を見て育ったのが、息子である今の社長です。なので、元受刑者を雇うのは当たり前。だからこそ、今でも続いているんだと思います。
「元受刑者だけでなく高齢者や障害者の雇用にも力を入れているそうですね」
現場仕事のほかに、資材センターで資材の管理の仕事もあるんです。そういった仕事は高齢者や知的・精神障害者もできるため、積極的に雇用しています。部品の整理がおもな仕事なので力はそんなに必要なく、細やかさが求められます。今、資材センターを担当しているのは70代で以前、病気で体を壊した方です。無理のない範囲で働いてもらっています。
資材センターで、最近、若い障害者の方が決まったのですが、ひと月くらいで辞めていきました。現場も資材センターも、定着が課題です。現場仕事は屋外で暑かったり寒かったりと環境が厳しいこともあり、1年続くといい方です。
雇うときに「自分でやってみて、無理だったら無理しなくていい」ということは必ず伝えています。やってみないとできるかわからないですし。そして、辞めたとしても「『せっかく雇ったのになんでよ』とは言わないでおこうね」と社内で話しています。
●面接では本音で話してもらう
「刑務所での面接など入社までの流れを教えてください」
法務省の許可をとって、全国の刑務所全てではないと思いますがポスターを貼ってもらっています。そこから知ってもらって、入社希望の手紙が届きます。何度か手紙のやりとりをしてから面接です。必ず、罪状、つまり何をやって何年の懲役で、といったことは手紙に書いてもらいます。
あと、なぜうちを志望したのか、北洋建設で働きたい本当の理由を必ず聞きます。「ほかが決まらず、北洋建設さんしか残ってない」が本音だったらそれでもいい。「がんばれますよね。無理だったら無理って言ってね」そういう話ができるので。こういう部分は、手紙ではわかりづらいので、実際に面接で顔を見て話す必要があります。
「入社を断ることはありますか」
身体の入れ墨は問題ないのですが、現場仕事があるので顔の入れ墨で2人ほど断りました。あとは、刑務所の中でのオーバードーズ(薬の過剰摂取)でも、断ることがあります。刑務所の中で風邪薬などたくさん薬を飲みすぎると癖になってしまう。高い所に上る仕事もあり、危ないんです。そのほかは、雇ってみないとわからないので、断ることはあまりありません。
「身元引受人になることもあるのですか」
親に絶縁されている、親がいないなどの事情で、身元引受人がいないと、仮釈放(懲役刑を一定期間受けた後に、収容期間満了前に釈放されること)という道がなくなります。そういう人は社長が身元引受人となり、従業員として受け入れます。中には仮釈放がほしいからうちで働きたいという人もいますが、それもかまわないと思っています。
ひとりでも来てくれて働けるようになれば、お互いハッピーですし。うちは寮、住むところがすぐにありますから、それだけでも違うと思います。
●再犯防止に繋げる入社後のサポート
「入社してからはどのように社会復帰していきますか」
刑務所から出てくる人は、貯金を含め、お金をそんなに持っていません。10万円も持っていたらすごくて、刑務所の作業報奨金を含めて所持金2~3万円の人が多いと思います。
なので、出社した日の日給のうち、2,000円をその日に渡しています。これは、初日から本人が「もういい」と言うまでずっとです。残りの給料は月末締め翌月25日払いでまとめて支払います。2,000円あれば食べたり飲んだりできるので、「日々の最低限の生活はそれでがんばってね」ということです。
その2,000円は、昔から二千円札で渡しています。二千円札って、珍しいじゃないですか。使われた店もきっと、二千円札で支払ったことを覚えています。そしたら、悪い事はできません。再犯防止の願いを込めて、二千円札で渡しています。
「元受刑者や障害者以外の人たちとの社内での関係性はいかがですか」
元受刑者でなく、障害を持っていない、ハローワークなどからの採用は、全体の2~3割です。メディアに多く出ているということもあり、北洋建設が元受刑者や障害者の採用に積極的なことは知った上で面接に来るため、知らないで入社したという人はほとんどいません。また、「(元受刑者や障害を持つ人たちと働くことについて)どう思う?」とよく聞くのですが「どうも思わないですよ、ふつうじゃないですか」という感じで、「怖いです」といった声は聞いたことがないです。
元受刑者を雇用するにあたっては、罪状を最初の自己紹介で、みんなに対して言ってもらうようにしています。最初に言っておけば、みんな、じきにそんなのどうでもよくなるものです。逆に隠すと、変に噂になったりするので、それは避けたいです。今のところトラブルはないから、間違っていないと思っています。
「入社後の定着が課題とのことですがどんなふうに辞める人が多いですか」
辞める旨をしっかり伝えてから辞める人もいれば、突然いなくなる人もいます。ただこれは、元受刑者だからというわけではなく、どんな人にもありえるでしょう。
ここで仕事を覚えて、職種は一緒だけど「もっと違うことをやっていきたい」と辞める人も多いです。そういう人は、私も今でも繋がっていて、「最近どうなの」と連絡をとったりしていますね。
●社内外のネットワーク
「就労支援に関する社内外のネットワークについて教えてください」
一番よく相談をするのは、顧問弁護士です。顧問弁護士といえば企業の経営上のトラブルについて相談することが多いかもしれませんが、受刑者の採用についての話や、従業員とのお金のトラブルなど、なんでも相談させてもらえているので心強いです。
外部では、法務省、刑務所、役所などとも連携が必要になってきます。地域の協議会議員さんとのご縁から協力いただくことで、法務大臣に3-4回、面会をさせていただきました。ここ10年くらい、メディアにも取り上げられ、社会的な話題になりました。
支援について重要だと感じるネットワークは、日本財団職親プロジェクトです。北洋建設も北海道支部の職親企業として関わっています。
「日本財団職親プロジェクトに入ったきっかけは何でしょう」
日本財団職親プロジェクトは関西で2013年にスタートし、元受刑者等の就労支援に力を入れるプロジェクトで、企業のほか、法務省、矯正施設、専門家などで構成されています。社長が飛行機でたまたま読んだ機内誌で知り、「私達と似たことをやっている団体がある」ということで、北海道に帰ってすぐ電話し、「志が一緒だから一緒にやりましょう」と連絡をとったのがきっかけらしいです。
日本財団職親プロジェクトは積極的に活動を続けていて、元受刑者を採用する企業が増えてきました。雇用の間口が広くなったことで、私達建設業のほか、飲食業、運送業、介護の業界など、仕事の選択肢が生まれています。「こういう人材がうちにきたけれど合わないから、合う業界でどうですか」といったやりとりができるのもいいところです。
「国からの補助について教えてください」
今は「協力雇用主に対する刑務所出所者等就労奨励金」があり、保護観察の対象となった人などを雇用する事業主にたいして奨励金が支払われるようになりました。面接にかかる旅費について補助もあります。
奨励金制度は2015年以降のことで、以前は飛行機に乗って刑務所に向かうなどの旅費は会社の経費でした。奨励金が出るまでの間に北洋建設としては1~2億は使っているだろうというところです。
●何回も犯罪をしなくてもいい世の中に
「今後の採用方針は?」
今後の採用の方針も全く変わらずです。「雇ってみないとわからないから雇おう」ということを大切にします。特に、刑務所での面接はいろいろと成約がある上に、チャンスは一度です。そこで聞けることはお互いにきちんと聞き、顔を合わせてわだかまりのない状態で進めて行きたいです。
「協力雇用主の登録状況についてはどう思われますか」
協力雇用主として登録しても、実際に雇用まではしていない会社も多いです(※)。「どうして雇わないんですか」と聞いたことがあるのですが、「トップダウンで雇っても、全社員の同意が得られない」とのことでした。北洋建設は創業当時から元受刑者の雇用をしているので、それが当たり前になっており、そういった苦労がありませんでしたが、新しく始めるとしたら、社内での意思疎通などが課題になるのだろうと思います。
「世の中がもっとこうなったらいいなということは」
とあるテレビ番組で見た街頭インタビューで「刑務所から出て来た人についてどう思いますか」という質問に対し、半分以上が「怖い」という反応でした。刑務所自体は人が減っていますが、再犯は依然として多いままです。再犯を減らしていけば世間の「怖い」というイメージも減っていくでしょう。何回も犯罪をしなくてもいい世の中になってほしいと思います。
刑務所から出たはいいけど、住む場所や食うものがない。なら手っ取り早く、無銭飲食をして、刑務所に戻ろうとする…。そういう人でも働ける、やり直せる場所が増えればいいなと思います。だからこそ、協力雇用主の間口もどんどん広がってほしいです。
<推薦者より>
元受刑者の雇用を長年行なってきている北洋建設株式会社は、小澤社長のお名前とともに、北海道で、ひょっとすると全国的にも知られているかもしれません。お話しをお聞きすると元受刑者や執行猶予中の前科者などの雇用は、50年前の創業時から続いており、それが2代目の現社長の代まで受け継がれており、会社の中に文化として息づいているということを知りました。
社会になかなか溶け込めない人を受け入れ続けることによって、その人たちがいる職場が誰にとっても違和感のないものとなり、そのような会社が身近にあるということで、元受刑者の人たちへの地域の目も変わる。
北洋建設は、50年以上、元受刑者の雇用を社会的事業だと意識することはなく継続されてきたわけですが、地域にはおそらくまだ知られていない、社会的な中小企業があるのだと思います。北洋建設が、日本財団職親プロジェクトに加わり、社会的な企業の連携体制に加わったように、地域のコミュニティ財団や中間支援組織が、地元で活動する中小企業を、既存の社会的企業の輪に巻き込んでいくような情報収集や働きかけが一層大切になると思いました。
一般財団法人全国コミュニティ財団協会理事 /認定特定非営利活動法人北海道NPOファンド理事 高山大祐