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自転車に乗れないプロヴァンスの自転車屋さんのお話 『今さら言えない小さな秘密』 セテラ作品の思い出㉒

この可愛らしい映画のタイトルの原題は“ラウル・タビュラン”、主人公の名前です。

南仏プロヴァンスの美しい村で暮らす心優しい自転車修理工のラウルが、人生を揺るがす秘密〈本当は自転車に乗れない〉を隠すために巻き起こす大騒動を涙と笑いで描いたフランスの良心のような映画です。

この映画の原作は国民的イラスト作家のジャン=ジャック・サンペで、日本でも〈プチ・二コラ〉の絵本が有名です。フランスでは知らない人がいないくらい有名人で、その独特のイラストはパリ・マッチ誌やニューヨーカーなどで、たびたび見られます。パリではサン・ジェルマン・デ・プレのあたりに住んでいるようで、カフェ・ド・フロールの常連でもあります。私は昔パリに住んでいた時たびたび彼をカフェで見かけました。

そのイラストは最少の線で描いても驚くほどの表現力を持ち、私は昔からサンペのイラストが大好きでした。ユーモアと物悲しさがいつも背中合わせの、何とも言えない世界をサンペはペンで作りだします。

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“ラウル・タビュラン”は日本でもその昔”とんだタビュラン”というタイトルで本が出ていましたが、今回映画の日本公開と同時に、「今さら言えない小さな秘密」という映画と同じタイトルで、再出版されました。とても素敵な可愛らしい本ですから、絵本好きの人はぜひ見つけてみてください。

この映画は、『アメリ』の脚本家ギヨーム・ローランとサンペの共同脚本で、原作絵本の優しい世界感を映画ならではのファンタジーに創りあげました。主演は『神様メール』の名優ブノワ・ポールブールド、ベルギーの生んだ最大のスターですが、フランス映画にいつも出ていて、フランスで一番出演作が多いんじゃないか、と思うほどワーカホリックの俳優です。殆どがコメディのため、あまり日本に彼の映画は入ってきませんが、今回の自転車に乗れない自転車屋さんの役もコミカルですが、同時にとても繊細な演技で、これを機に是非注目してくださいね。実は彼はすでにセテラ俳優で、TV/DVD/VOD作品があります。

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『3つの心 ラブ・トライアングル』というタイトルで、これはその名のとおり、三角関係の恋愛ドラマで、シャルロット・ゲンズブール、カトリーヌ・ドヌーヴ、キアラ・マストロヤンニという3人の女優を相手にブノワがシリアスな役の映画です。豪華キャストなので、ストーリーが荒唐無稽ですが、(苦笑)ドキドキしながら楽しめます。

そして、今回ラウルの写真を撮りたいと申し出るカメラマンの役を、エドゥアール・ベアールが演じていて、彼もすでにセテラ俳優です。彼はやはりフランスではスターで、根っからのコメディアンで昔はセザール賞の司会もよくしていました。面白いキャラで昔から私は好きで、セテラ作品では『モリエール 恋こそ喜劇』でやはり笑いを取る役でした。よく見ると結構ハンサムなんですけどね~? 

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ラウルの妻役にはグザヴィエ・ドランの映画の常連のスザンヌ・クレマン、と、芸達者な俳優がそろっています。自転車で空を飛んだり、自転車が一人でとぼとぼ歩いたり、可愛いファンタジックなシーンと、プロヴァンスの風景が心に優しく語りかけてくれますよ。

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山中陽子

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『今さら言えない小さな秘密』はDVD/VODにてお楽しみいただけます。


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