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セテラ作品の思い出④『マーラー 君に捧げるアダージョ』(その2)

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https://note.com/cetera/n/n1b502955a1b5
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『マーラー 君に捧げるアダージョ』は、今からちょうど10年前に配給した映画です。

監督が伝説の映画『バグダッド・カフェ』を撮ったパーシー・アドロンだったので、作品のテーマ、視点、構成、掘り下げ方が考察しつくされていて、従来の音楽映画とは一線を画するとても説得力がある作りでした。そして何よりもマーラーへの愛に溢れた映画だったのです。それは映画の中のマーラー音楽の使い方にも音楽評論家が脱帽するほど徹底して研究されたアプローチで、見れば見るほど監督の芸術性に感心するものでした。

私はクラシック音楽、バレエ、オペラが大好きなので、かえってそれらを題材にした映画を見る目が厳しくなってしまうのです。音楽やバレエを題材にした映画は多いのですが、私は本物!と思えるものしか配給したくありません。そしてこの映画は、買い付けした時から私も周りの映画公開に協力してくれた人達のテンションもモチベーションも高く、間違いなく本物だからこそ配給したのです。

ここ10年くらいを見てもマーラーは、ベートーヴェンやモーツアルトよりも、コンサートで演奏される回数が多い人気作曲家で、驚くほどのマーラーブームと言えると思います。マーラーは、“やがて私の時代が来る”と生前に言いましたが、それは本当だったのです。今はマーラーの時代と言えるほどマーラーは現代にマッチする音楽家だったようです。実はマーラーが好きな人は多いので、公開の時にうさん臭い映画では・・・?と無視されたマーラーファンには、ぜひ今回見ていただきたいと思います。この映画の中で演奏されるマーラーの曲は、エサ=ペッカ・サロネン指揮、スウェーデン放送響の特別演奏ですからそれも魅力の一つです。ちなみにサロネンは、クラシック界のトム・クルーズ(?)と言われている指揮者です!

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(写真 :今年1月末の来日時のポスター この時にもマーラーでした)

この映画の原題は”長椅子の上のマーラー“、愛妻アルマにできた愛人の存在に激しく悩むマーラーが精神分析医フロイトの元を訪れ、催眠療法の治療を受ける姿をタイトルにしています。 日本では映画の内容からももう少しマーラーのアルマへの深遠な愛を表すタイトルにしたかったので『マーラー 君に捧げるアダージョ』いうマーラーの音楽の素晴らしいアダージョの多くがアルマのために書かれた、という意味の副題をつけました。

そうしたところ、“マーラー君に捧げるアダージョ”という、書き込みがあちこちに出て、配給会社が全く思いもつかなかった爆笑というか苦笑した思い出があります。

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(ドイツ本国版のポスタービジュアル。日本ではDVD購入特典にしました)

パーシー・アドロン監督が2011年2月に奥さんでプロデューサーのエレオノラと来日した思い出は数多くの来日の中でも忘れられないものでした。さすが独立系映画作家のカップルは私たちに無駄な経費を使わせないように配慮してホテルの朝食がバカ高いからと、毎朝近所のドトールコーヒーで朝食を済ませていて驚きました。でもパーシーは実はベルリンの由緒ある超高級ホテル、ホテル・アドロン家の人で、映画公開後にホテルでの素敵なランチに招待してくれました。パーシーの来日の1カ月後に3.11、東日本大震災がおこり、監督は我々の安否をとても心配して電話をくれました。当然自分の映画は公開されないだろうと思ったようです。なので震災から1か月半後に予定通り映画が公開された時には、たいそう感激していました。そして今回も10年前と全然変わらない元気な姿の応援ビデオを送ってきてくれました。

山中陽子

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