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続・イーストワードの世界に関する考察 DLCを経ての自説の再検討

いうまでもなく全編にわたり本編とDLCのネタバレが含まれます。

↑前回
前回の考察ないし本編のシナリオを全て見ていることを前提に書いています。


初めに…自説の再構築

 まず初めに、DLCでは「マザー」本人が登場する。
 この「マザー」は本編の世界で一万年前に「未来」から時間磁場を突破してどこかへ向かう途中でカモメ町に迷い込んだ存在であり、本編で呼ばれる「マザー」本人である。

「マザー」本人は本編の人物である。したがって、彼女からは本編では知られなかった背景を聞くことが出来る。
 以下に、彼女から語られる背景を簡単に書く。

・マザーは「未来」の時間磁場を突破してどこかへ向かう途中であった。
・マザーは本編のソロモンを操っていた(洗脳していたのか教唆していたのかの細かいニュアンスは不明)。
・マザーは独力で時間磁場を展開する事が出来る。
・カモメ町に現れるマザーは本編における赤い珊のような狂気的で残忍な性格ではなく、真面目で理知的、自らの役目に忠実な性格である。また、悪の「私」がソロモンを操っていたという表現をする。
・DLCの最後でマザーを過去の本編のポットクロック島へ送っていった(連れて行った)のはパム船長である。
・DLCの最後でマザーは自分が過去の本編のポットクロック島へ行かなければならない、そう決まっていると語る。
・DLCの最後でマザーはパム船長にどうか待っていて欲しい、必ず希望はやって来ると語る。
・DLCの最後でマザーをカモメ町へ連れて帰る事が出来る。その選択をした場合、彼女はジョンへ「ありがとう」と言う。
・アルバムのマザーの項目の最後は「マザーは元の世界へ帰っていった。向こうの世界はとても悪い事になっているという。また会えるかな?」というもの。

 以上を踏まえて、前回の考察で展開した自説に補足と修正を加える。

一万年前、本編の世界はタタリによる災害が起きており、人々は明日を生きられるかどうかという生活を送っていた。しかし「マザー」の発見によりタタリの制御を行う事が出来るようになった。
 当時の「マザー」は本編の赤い珊のような狂気的で残忍な人格ではなく、理知的で真面目な性格であった。彼女の能力により人々はタタリの脅威を免れた。
 しかし、彼女の中の悪の心が、尊敬を集めていた偉大な科学者ソロモンに何らかの形で干渉した。ソロモンは「マザー」をさらい、タタリによる死の収穫と「マザー」の力による生命のサイクルを繰り返すことで人類の進化を促す事を計画した。そして同時に「未来」に時間磁場を展開し、タタリの脅威から「未来」を守った。
 一方、パム船長は「マザー」をソロモンの下からさらい、列車に乗せて「未来」から脱出させ、ポットクロック島へ連れて行った。
それから一万年後「マザー」が目を覚ました時には、彼女は自らの役目も自分の存在意義がなんだったのかも忘れてしまっていた。そして、自分を目覚めさせた男「ジョン」を慕い、彼の家族「珊」として生きることを選択した。

マザーの人格

 正直、非常に驚いた。本編で見られる赤い珊のような冷酷な人物だと思っていたが、実際の「マザー」は少々冷ややかで人間と距離を置いてはいるものの、非常に理知的で真面目な性格だったのである。
 しかし同時に、自分が本編のソロモンを操って悪事を起こさせていた事をはっきり認識してもいる。
 また、彼女はDLCの最後に、ジョンに元の世界に戻る時の付き添いを頼み、過去のポットクロック島に到着すると自分を置いてカモメ町へ戻るように言っている(なおこの時にマザーとパム船長がテレビ越しに会話しているシーンがある。パム船長の態度やマザーの喋り方からしてマザーの方が立場が上のように見える)。
 自分が過去のポットクロック島に行く事を決まっていることと表現する、パム船長がその後「未来」の時間磁場で長い間マザーの帰還を待ち続ける事になるのを知っているかのように振る舞うなど、未来予知が出来るかのような態度を取る。
 したがってマザーの中に区分できる人格が二つあり、片方が善人格もう片方が悪人格を担当していると考えるのは不適切と思われる。彼女はいつ何時どう呼ばれているか、どう表現されているかに関係なく、一貫して「マザー」という一人の人物である。
 より具体的に述べれば、一人の人間がその時々によって優しかったり残酷だったりするように、マザーという一つの人物の中にも良い心と悪い心両方があり、それを象徴的に表しているのが珊と赤い珊であるというべきである。すなわち本編の珊と赤い珊はそれぞれ別人格として分離しているのではなくマザーという一人の人物の中の心の変化、あるいは偏りや揺らぎを分かりやすく表出させたものととらえるべきだろう。
 カモメ町にやってきたマザーは「未来」の時間磁場を突破する途中に迷い込んだ存在であり、したがって彼女は時系列的には本編のソロモンが悪事をした後の時点の人物である。
しかしマザーは自分の悪の心がソロモンを操ったとはっきり言っている。これを一つの体に二つ人格があり片方が善を片方が悪を表していると考えるのは適当ではない。なぜなら、このマザーは後にポットクロック島で一万年の間眠り続け、ジョンによって目覚めさせられた時に自己を「珊」と認識し自分の記憶と存在意義を忘れてしまう。仮にマザーの善人格と悪人格を完全に分離した二つの人格「珊」と「赤い珊」と受け取ると「善人格たる珊の方だけが記憶を失い、悪人格たる赤い珊の方は記憶を維持している」事となり説明がつかなくなる。
 先のとおりマザーはポットクロック島に辿り着く前の時点でソロモンを操って悪事をさせており、それを自分のした事とはっきり認識している。
 仮に人格が二つに分離しており記憶を共有しているならば、片方だけが記憶を失うのは矛盾する。仮に人格が二つに分離しており記憶を共有していないのならば、理知的なマザーが悪の心のマザーがした事を覚えているのは矛盾する。
 つまり「マザー」の人格は一つしかなく、彼女のその時その時の態度によって良い存在に見えたり悪い存在に見えたりするのを、周囲には「二つの人格がある」ように見えているのではないか。
「マザー」の人格も記憶も一つしかなく、彼女自身も人格のある存在である以上、その時その時で「人間は愚かだから間引いた方がいいんじゃないか」と思ったり「人間は素晴らしいからそんなひどいことはすべきじゃない」と思ったりしており、そして彼女は人間よりもはるかに強い力を持っている為、彼女の心の揺らぎによって人間は振り回される事になる。それを周囲の人間は「一つの体に善と悪の二つの人格がある神」と認識したのではないかと思われる。
 なお、本編では一万年前の「マザー」はいつも顰めっ面で人にありがとうと言うような性格ではなかったと言われている。私はこれを赤い珊のような人間に対して辛辣な性格だった為と認識していたのだが、実際のマザーの顔と性格を見るにおそらく単純に彼女が理知的過ぎる上位存在であるが故に愛想が無いだけで、人間に対して辛辣だったというわけではなさそうである。

マザーと周囲の人々の認識

 マザーの人格については前回の考察を変更し、一つの体に一つの人格があり、その人格の心の揺らぎを周囲があたかも二つの人格があるように受け取っている、と考える。
 これを元に本編の「マザー」について考えると以下のように思われる。
・一万年前、マザーはなんらかの理由(未来予知?)により「未来」を出てどこかへ向かっていた。
・一万年後、マザーはジョンにより目覚めさせられたが、自らの記憶と存在意義を忘れてしまった。ジョンは彼女に「珊」という名を与え、マザーはそれを受け入れた。
・しかし、マザー自身の記憶は完全に失われてはおらず、自らの存在意義に従い人類の死の収穫と生命創造による繁栄をもたらす為に無意識的に活動する。
・同時に、珊として過ごすうちに育まれた「一人間としての倫理や価値観」は自らの存在意義に反発する。この存在意義と個人としての倫理観の象徴が赤い珊と珊の対立として描写される。
・ダニエル(兄)がソロモンの攻撃を受けて倒れた時、それまで倫理を担当していた珊の中に明確な「人間への攻撃性」が生まれ、これを引き金に赤い珊が肉体の主導権を得る。
・赤い珊は自らの存在意義、そして歪んでしまった人格により人類を一掃しようとし、それの障害となる倫理観「珊」を体から追い出す。
・体から追い出された珊であるが、しかし珊自身もマザーの一部である事には変わりない。珊はマザーの中へ戻り、自身の消滅という手段によって人類を一掃するという暴走を止める。
・マザーの消滅により人類は生と死のサイクルから解放される。珊を失った事を悲しむジョンだが、マザーは不滅の存在であり二人はどこかで再会する。ジョンに出会った「マザー」は「珊」ではないが、しかし「珊」でもあった事実は残っている。

マザーという存在

 不滅の存在であり、タタリを制御し死をもたらす(正確には消滅させる)権能と、生命を創造する権能を持つ。DLC冒頭の詩の表現から考えるとイーストワードの世界における創造主や絶対的な女神のような超常的な存在である事には間違いない。
 本編でも言及されているタタリを制御する能力と生命を創造する能力のほか、DLCにおいては小規模ながら時間磁場を片手で発生させる力を見せている。後述するがこれにより「未来」の時間磁場を発生させたのはソロモンではなくマザーであった可能性がある。
 また、明確に述べられてはいないが未来予知ができるような描写がある。列車を運転するパム船長に対し、マザーは時間磁場の中で長い間待つ事になるが必ず希望がやって来るから待つようにと指示している。カモメ町にやってきたマザーは「未来」からパム船長によって連れ出される途中であった為、この後に起きること(ジョンと珊が「未来」にたどり着き時間磁場を解除する事など)を知らないはずである。
 仮に未来予知が出来るとしても、どこまでを予知しているのかは不明である。仮に全てを知っているならば、自分が記憶を失い「珊」として生きる事も、珊と赤い珊が対立し最終的に消滅する事まで知っているはずであるが、そこまで予知して受け入れていたのだろうか?
 マザーはたとえ失われてもかけらさえ残っていれば何世代にも渡って人間工場を稼働させられる。一万年以上も時間磁場無しで生きている事からしても、彼女は完全に消滅する事はない不滅の存在であるというべきだろう。そのような長い間を生きている存在である為、自らの消滅までも視野に入れていたのだろうか?

赤い珊の人格

 本編の赤い珊は狂気的で残忍な性格をしており、カモメ町にやってきた「マザー」とは似ても似つかない。人間の命を何とも思っておらず、人の心をもて遊ぶような芝居をしたり人間を醜いと断じてタタリを用いて人類を一掃し浄化しようとするなど非常に残忍で冷酷である。
 しかし先述の通り、彼女もまた「マザー」の一部である。「マザー」が人類のことどうでもいいとかあー人間って愚かだなぁ一回リセットしよ…くらいの気持ちになっていると赤い珊になると表現すべきだろうか。すなわち赤い珊は人類に対して破滅的な感情を向けている時の「マザー」の心というべきなのだろう。
 では、なぜ赤い珊はカモメ町に現れた「マザー」と比して残忍な性格をしているのだろうか。
 結論からいうと「本編の人間がクズだらけだから」である。
 カモメ町の人間と比べれば歴然である。ウィリアムはカモメ町でも少々金に汚いところがあるが、本編では明確に詐欺師でありジョンと珊を利用して自分が利益を得る為に動いている(無論子ども達への愛情が動機なのだが)。アルヴァはあまり変わっていないが、イザベルは本編ではアルヴァが危機に陥った事を皮切りにアルヴァの為ならば世界が浄化されるのも甘んじて受け入れるような極端な態度を取る。ソロモンは言うまでもないし、ゴーワンとシルバは何度もジョンの世話になっているのに金目的のトラブルばかり起こす。リーに至ってはパチンコ店「銭屋」とおそらくいかがわしいホテルの元締めでそういう集団のボスである。
 本編の人物達は正直自分の近いところにいて欲しくは無いタイプなのである。ポットクロック島の人間達はひたすら保身に走り内輪で悪口を言い合い、ダム城の人々は金も無いのに酒とギャンブルに狂っている。ウキウッドの人間たちは退化してテレビを見ることしかできなくなっていた。カモメ町の牧歌的で穏やかな人々に近しいのはグリーンバーグの人々ぐらいである。
 人類の繁栄と進化を存在意義とする「マザー」からすれば完全にダメ人間だらけの世界なのである。これを見た「マザー」のこれは一度人間を一掃して次の世代を育て始めた方が良いのではないか?と思い始めた心が赤い珊の正体なのではないだろうか。あまりにも長い間生き続けて人類を見てきたがゆえに、一つの存在として人類を素朴に観察する事を忘れ、ただ進化の客体としてしか見られなくなったがゆえにマザーは赤い珊になってしまったのではないだろうか。

マザーとソロモン

 本編におけるマザーとソロモンの関係はほとんど分からなかった。大地の子のシナリオやパム船長の昔話から、ソロモンがマザーを攫いその能力を悪用したという事が窺い知れるのみである。
 しかし、カモメ町に現れた「マザー」がはっきりとソロモンを操っていたと発言した事や、彼女が単独で時間磁場を生成できる事、本編のソロモンは尊敬を集める偉大な科学者だったという彼女の発言を見るに、マザーとソロモンは「ソロモンがマザーを利用している」のではなく共謀関係あるいは「マザーがソロモンを利用している」関係だったのではないかと思われる。
カモメ町に現れた「マザー」は悪の心の私がソロモンを操ったと言う。また、彼女はパム船長に対しても自ら指示を出す等立場が上であるかのような態度を取る。彼女の態度は端々から超常的な存在としての「上から目線」が常に漂っており、とてもではないがソロモンに利用される「すごい力を持つか弱い姫」とは思われない。本編でも珊がたった一度の攻撃でソロモンを殺害した事からすれば「マザー」がその気になればソロモンを殺す事くらいは可能な筈である。
 したがって、マザーとソロモンの関係はマザー優位なそれであったのではないか。もっとも、本編のソロモンのマザーへの態度を見るに、マザーがソロモンを一方的に洗脳し意のままに操っていたというよりマザーの思想とソロモンの利害が一致したと考えるべきだろうか。
 その為、カロンとマザー、生命の卵による生と死のサイクルないしこれによる人類の進化を促すシステムはソロモンではなくマザーが考えた可能性がある。とはいえ、ソロモンは珊に対して葉っぱの例を用いて人間の進化の可能性を説き「お前とは違う」と述べている為、どちらが具体的なシステムを考案したのかははっきりしない。
 一万年前の当時はタタリの脅威により人間は生きながらえることすら難しかった。マザーの発見によりタタリを制御する手段は見つかったとはいえ、当時の世界はとても悪い事が起きていたと言われている為すぐに解決できる状態ではなかったのだろう。その為、次の世代に託すこと、命を繋ぐことを第一に考えたがゆえの「よりよく進化する」為の手段としてサイクルシステムはソロモンあるいはマザーにより考えられたのかもしれないが、想像の域を出ない。
 また、マザーは単独で時間磁場を生成できる為、本編の「未来」における時間磁場はソロモンではなくマザーが作り出した可能性がある。というよりもその可能性が高い。DLC最後のパム船長に対する語り口から考えて、時間磁場を設定した事もパム船長がそこでマザーの帰還を待つ事も、マザーは想定していたと考えられるからである。

マザーの存在意義

 カロンとマザー、生命の卵による生と死のサイクルを実行する鍵であり、このサイクルを続けることそのものがマザーの目的と思われる。
 本編においてはソロモンの人類の進化に対する語りから、これらの設計はソロモンが担当しマザーはそれに協力しているに過ぎないと考えていた。
 しかし、マザーが自らソロモンを操っていたと語っている為、この論理は破綻している。したがって、マザー自身がこのサイクルシステムに積極的に(具体的な設計をどこまでしたかはともかく)関与していたと考えざるを得ない。
 マザーがなぜ人類の進化のために行動しているかは残念ながら不明であり、人類が彼女を発見する以前は彼女がどういう動機で何をしていたのかも不明である。
 本編のカロン記念館内のロボット達の説明を見るにマザーよりさらに上位の存在がいるとも考えられなくはない。また、タタリそのものはマザーが発見されるよりも以前から世界に存在している。タタリには異常気象を正常化する側面もある為そのために作られた何かではないかとも思われるが、はっきりとはしていない。先述したマザーの上位存在の可能性も加味すると「マザーよりさらに上位の存在が当時の異常気象を正常化するためにタタリを作り出し、同時にマザーを作ることでこれを制御し、さらにマザーとタタリの性質を利用して人類をよりよく管理し進化させるシステムを(マザーを通して)構築していた」とも考えられなくはないが、この点は根拠が薄すぎるため想像にとどめておく。

希望とは

 DLCの最後、マザーは希望を残すために過去のポットクロック島に自分を置き去りにするようジョンに促す。この時にマザーを連れ帰る事も出来るが、その場合はカモメ町の山にあった「希望の種」をバスの横の地面、おそらく一万年後のジョンの自宅の横に埋める。
 おそらくマザーは本編の世界で未来に起きる事を予測し、自分が本編世界のポットクロック島に残ることで一万年後に本編世界のジョンと出会い、彼とともに地上に出て「未来」に辿り着き時間磁場を解除する事を目的としてるのだろう。
 カモメ町に現れた「マザー」は本編世界の時間でいえば一万年前の人物であり、その当時は人類がマザーの発見によりタタリの脅威を免れる事ができるようになったばかりである。アルバムの最後の事項にある「とてもひどい事」とはおそらく本編世界の当時の人々がタタリにより命を脅かされている事を指しているのだろう。
 マザーがなぜ「未来」を出てポットクロック島に行こうとしていたのかの動機は不明である(先述の通りマザーがソロモンを操っていた為、以前考えていたソロモンの下から逃げる為という動機は成立しなくなった)が、自分がそこにいることで希望になるという推測はしていたようである。彼女を連れ帰った場合はまた別の未来を辿り希望を見つけるかもしれないと示唆される為、時間磁場で守られている「未来」に対して外の世界に自分が行くことでタタリを制御し人類を守ろうと考えていたのかもしれない。
 そうだとすれば、彼女は目覚めた時には周囲には嫌な人類だらけだったので人類を一掃したいと思い始める動機としては理解できなくもない(仮にそうだとすると未来予知が出来るのになぜそのような事をしたのかの説明が出来ないのだが)。

さらったという表現

 本編のパム船長の昔話をマザーとソロモンと船長のそれとすれば、ソロモンがマザーをさらい、パム船長らがマザーをソロモンからさらって「未来」から外の世界へ送り出したこととなる。
 しかし、先述の通り、実際にはマザーの方が主体となってソロモンを操り、パム船長に指示をしてポットクロック島へ自分を送って行くようにしていた。即ち、昔話にあるようなさらわれる客体ではなく、むしろ物語を構築する作り手としてあれこれ周囲に働きかけていたのである。
 マザーは未来予知ができるようであり、全てが運命により定まっているかのような言い方をする。彼女の中の二つの人格(昔話でいう「二人の少女」)といい、マザー本人の内心や立ち回りと周囲の認識には結構な齟齬がある。
 先述の通りマザー自身の内心が何を思いどういう意図で行動しているかは判然としないが、おそらく我々が見聞きして想像しているものとマザー自身の見聞きした経験は異なっていると思われる。

イーストワードという作品は何だったのか

 ぶっちゃけDLCでマザーが色々喋ってくれてもわからない事だらけなので説明不足は解消されてなくない?と思わなくはない。
 とはいえ、マザー本人を拝観できたことで、彼女自身は本来赤い珊のように人類の一掃に固執するような残忍な存在ではなかったと確信出来たのは大変有意義であった。
 結局、珊はマザーのひとつの呼び名であり、彼女も赤い珊もマザーである。そして、マザーとは人類を超越したあの世界の絶対的な存在、女神のようなものである。彼女が人類を淘汰して次の世代へ移したいと思ったり、人類を愛しその中に交わりたいと思ったりする心の揺らぎによって永遠ともいえる時間の中、人類は振り回されて来た。
 しかし、珊という名を与えられたマザーが超常的な存在ではなくひとつの人間として生き、そこで見聞きしたさまざまな物事により「人間はこれでいい」と思えたからこそ、人類は生と死のサイクルから解放されたのではないかと思う。
 イーストワードとは珊というあの世界の神が、神である事を捨ててあの世界の一部になる過程を描いた物語であり、そこにはジョンが常に傍にあったのではないだろうか。

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