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イーストワードの世界に関する考察

いうまでもなく全面的に物語の核心に触れるネタバレがあります。

1.  自説

 このゲームには、無数の解の示されない謎がある。
 それら一つ一つの検討は後にするとして、まず、最初に私の考える仮説を書いておく。
「はるか昔、人類はタタリの脅威に晒されていた。しかし、「未来」の科学者、アルヴァの祖父らがタタリを制御する方法を見つけた。それは一つの体に二つの人格を持つ少女だった」
「少女の一つの人格はタタリを制御する力を、もう一つの人格は生命を創造する力を持っていた。少女の力により、人類はタタリの脅威を免れた。」
「だが、ソロモンが少女の力に目をつけ、彼女を拐った。ソロモンは少女の力を使い、人類をよりよく進化させる為のシステムを作り上げた。生命の卵、カロン、マザーの三つの要素によってそのシステムは成り立っていた。少女はマザーとして生命を蒔き、タタリをもたらすカロンは死を蒔いた。カロンによる死の収穫によって人間の情報を集め、それによって人間工場は生命の卵からより優れた人造人間を作り出した。マザーは人間工場を稼働させ、新たな生命を生み出した。マザーとカロン、生命の卵によって、人類は生と死のサイクルを繰り返し、より繁栄するように作られていた。」
「一方、ソロモンは自分のいる「未来」に時間磁場を展開し、「未来」にカロンが到着しないようにして滅びを回避した。」
「パム船長達はマザーをソロモンから拐い、彼の目を避けて密かに世話をしていた。船長らは自分たちの活躍を一つのゲームにして開発し、マザーもまたそのゲームで遊んでいた。船長らはソロモンの追跡を避ける為、マザーを「未来」の時間磁場の外、遠いどこかに送り出した。ソロモンを含めた時間磁場の中の人間は「未来」から出る事はできない。ソロモンはマザーを見つける為、そして外の世界に死をもたらし人類の進化を促すため、自らのクローンを作って外の世界に送り出した。」
「マザーは「未来」から遠く離れたポットクロック島にたどり着いた。しかし、10000年もの年月が経つ間に、マザーは本来の自分の役目を忘れてしまっていた。そして、自分を目覚めさせたジョンという男が与えた名前『珊』を自分の名前と思い込んだ。これによってマザーの二つの人格は『マザー』と『珊』に完全に分離した。そして、役目を忘れた『タタリを制御する力』を持つ人格、『珊』が主人格となり肉体の支配権を独占した。もう一つの人格であり、『生命を創造する力』を持つ『マザー』は肉体の主導権を失い、実世界とはズレた世界に閉じ込められた。」
「『マザー』は分離したもう一つの人格に、自分達の役目を思い出させようとした。『マザー』と珊はそれぞれ力を分担している為、どちらが欠けても本来の役割を果たす事ができない。しかし、珊は完全に自分の役割を忘れ、ジョンの家族として振る舞う事を選んだ。」

2. 謎の個別検討

(1) パム船長の昔話の「二人の少女」は誰か?

①説:アルヴァとマザーである
 この場合、「マザー」は一つの肉体にマザーと珊の二つの人格があることになる。元々マザーの肉体に二つの人格があったのか、あるいは後から珊の人格が芽生えたのかはまた別の話。
 だが、2人の少女は災害と生命の力を持っていたと言われているが、アルヴァにはそのような力があるようには見えない。
 また、オリジナルソロモンは「もう一人はどうした?」と言うが、この時のもう一人はマザー(赤い珊)を指しておりアルヴァのことではない。
 そのため、アルヴァが二人の少女の片割れとは考えにくい。
②説:マザーと珊である
 私はこちらを支持する。
 パム船長の「昔話」は、珊とマザー、そしてアルヴァと多くの類似点が存在する。船長の昔話は次のようなものである。
 「昔昔大きな災害があり、人々は廃墟に身を寄せて明日を迎えられるように祈っていた。賢者たちが災害を制御する方法を見つけた。それは二人の少女だった。一人は災害を制御する力を持ち、もう一人は命を創造する力を持っていた。しかし、これは新たな災害の始まりになるとは誰も思っていなかった。邪悪な魔王が二人を捕まえて、災害と創造という力を手に入れた。英雄たちは魔王の城に攻め入り、二人の少女を救い出した」「それから、英雄たちは二人の少女を魔王の目から隠した。終わり。」
 パム船長達ロケット騎士団はゲーム「大地の子」の開発者であり、それぞれが大地の子のキャラクターの元となった人物である。
 また、上記の「昔話」は特別な力を持つ一人の娘を悪しき存在が攫い、英雄達がそれを阻止するという点で「大地の子」のストーリーと類似している。
 つまり、ロケット騎士団は「大地の子」をもとにして結成されたのではなく、ロケット騎士団の経験をもとにして「大地の子」が作られたと考えられる。
 「大地の子」において姫は非常に重要な役割を持つ。彼女の持つ不思議な力は魔王を破る重要な鍵となり、魔王はその力を狙っている。一週目のストーリーでは、姫は世界を守るため自らの命を犠牲に魔王と相打ちになり、二週目のストーリーではこの記憶を持ち越し過去に戻った勇者が姫を救う為に魔王に再度挑み、正体を表した真・魔王を姫と共に打ち破るというものになっている。
 そして、「大地の子」の姫の外見は珊(=マザー)に酷似している。
 仮に、船長の昔話が全て真実であり、「大地の子」はそれをなぞったシナリオであるとすると、姫のモデルは当時のマザーであるといえる。
 そして、本作では所々でソロモンが魔王呼ばわりされている。グラグラ谷のジープを見た珊のごっこ遊びでは魔王ソロモンの名前が出てくるし、ウキウッドの城のセットを見た珊は「これ、ソロモンの城?」と尋ねる。
 これらの事からすると、「大地の子」の魔王のモデルはソロモンという事になる。
 また、船長はたびたび「夢が実現する時がきた」と言う。これは状況的に「未来」の時間磁場が解除され、ソロモンを倒すという事を指している。
 そして、船長達は当時のマザーと面識があり、一定期間彼女の世話をしていたらしい事が聞ける。トーマスの料理を食べさせていたらしい事、マザーはいつもしかめっ面をしていたが「大地の子」を遊ぶ時だけは笑顔だった事、「ありがとう」と言う珊に対してマザーとは正反対だという事が彼らの発言である。
 つまり、「大地の子」のシナリオ通り、ソロモンがマザーの力を狙って彼女を攫い、船長達はソロモンと戦いマザーを助け出した英雄だった事になる。
 そして、船長の昔話から、「二人の少女」が災害を制御する力と生命を創造する力を持っていた事がわかる。これに「大地の子」のシナリオを加味すると、ソロモンは「二人の少女」の力を狙って彼女を攫い、船長らがソロモンに戦いを挑んで救い出し、そして「二人の少女」とはマザーである事が分かる。
 しかし、昔話において「二人の少女」が出てくるものの、「大地の子」の姫は一人の人物である。そして、ソロモンも船長も「二人」の少女がいる事を仄めかしながらも、「マザー」という一人の人物にしか触れない。
 オリジナルソロモンが時間磁場解除後の運命の塔で言う「もう一人はどうした」という発言は珊に対してされたもので、明らかにマザー(赤い珊)を指している。このことから、二人の少女とは珊とマザー(赤い珊)の二人を指すと思われる。
 オリジナルソロモンの「もう一人はどうした」という発言は、言葉通りに受け止めればマザーと珊で肉体がそれぞれ一つずつある二人の人物のように聞こえる。しかし、先述のようにソロモンや船長達ロケット騎士団は、少女が二人いる事は認識していても、一貫してマザーという一人の人物についてしか触れない。
 仮に二人の少女が二つの肉体にそれぞれ一つずつの人格を持つ存在だとして、その片割れがマザーであるとすれば、もう片方について一切触れないのは不自然である。
 したがって、「二人の少女」とは、一つの肉体に二つの人格を持つ存在の、その二つの人格の呼び名と考えるのが妥当である。
 この事から考えると、「未来」にてソロモンと船長らが戦っていた当時のマザーは、一つの肉体に赤い珊にあたる人格と別の何か(当時は名前のなかった、珊にあたるもの)の人格が宿る存在だったのではないかと思われる。
 そして、ソロモンと船長達はそのような一つの体に二つの人格がある人物を「マザー」と呼んでいたのではないかと思われる。おそらく、ソロモンや船長たちと共に過ごしていた頃のマザーは、現在の『マザー』『珊』のように明確に人格が分離していなかったのだろう。
 しかし、この説による場合、大地の子の姫がなぜアルヴァという名前なのかは明確にはわからない。

(2) 魔王は二人の少女を捕まえて何をしようとしていたのか?誰がカロンと生命の卵、マザーによるサイクルシステムを作ったのか?

 魔王=ソロモンとして、オリジナルソロモンの「「俺も彼も誰もかも皆幻にすぎない。波に浮かぶ葉っぱと同じ。だが、いつか、陸にたどり着く事ができれば、芽を出し根を張って大きくなれる。そのうちまた波に飲まれる日が来る。そうなればたくさんの葉っぱが次の陸地を探しに行くんだ。だが、お前は違う。永遠の命を持つお前には幻の生き様など理解できない」という発言が、収穫の目的は人類の進化であるというソロモンの知識の館(青年ソロモンの録音)の発言に合致している。
 したがって、ソロモンの目的は「人間を進化させること」と考えられ、二人の少女の力はそれの実現のために利用されたと考えられる。
 「大地の子」においては、魔王は邪悪な呪文により世界を暗黒に包もうとしている。
 一方、子どもソロモンやマザー(赤い珊)は、人間工場を起動してカロンを呼び、タタリを引き起こす事を「収穫」と呼ぶ。そして、タタリが発生すると空は紫色になり、地面には黒い水玉のようなものが大量に湧き出し、大気には灰のような黒い粒子が舞い、周囲が夜のように暗くなる。
 「大地の子」になぞらえて考えれば、ソロモンの目的とは世界を闇(=タタリ)で包む事といえる。そして、ソロモン(正確には青年ソロモンの録音)の発言によれば、「収穫」はより良い人間を作る為の行為である。「収穫」によって人類が消滅する事が、新たな人類の進化の礎となるという事から考えて、タタリはただ人間を消滅させるだけではなく、消滅によって人間工場に人類についての何らかの情報か何かを送る現象であると考えられる。
 さらに、カロン記念館のプロト・ブリーダーの解説によれば、人間工場の基礎である「生命の卵」から特性をカスタマイズした人造人間(超人)を作ることができる。
 そして、プロト・ブリーダーの解説によれば、マザーとは人間工場を稼働させる鍵である。
 つまり、ソロモン(魔王)の目的とは、マザーが人間工場を稼働させ、カロンを呼んでタタリを引き起こし、これによって人類に死をもたらすと同時に人間工場に何らかの情報を集積し、集められた何かによってより進化した人類が生命の卵で作られる、というサイクルを繰り返す事で人類を繁栄させる事であると考えられる。
 したがって、カロン、生命の卵、マザーの三要素による人類の生と死のサイクルを作り出したのはオリジナルソロモンであると考えられる。

(3) 昔話の「大きな災害」とは何か?

 タタリのこと。

(4) 新たな災害の始まりとは?

 ソロモンがマザーを捕らえて、タタリを制御する力と生命を想像する力を手にした事。ソロモンは、人類をよりよく進化させる目的のためにマザーを利用し、マザーとカロン、そして生命の卵の3つの要素からなるシステムを造り上げた。これによって、人類は人為的な進化、もといマザーのもたらす生と死に翻弄されることとなった。

(5) タタリとはそもそも何なのか?

 「大きな災害」つまりタタリは、「昔話」を見る限りソロモンが作ったものでも、マザーが生み出したものでもなく、最初から存在している。
 タタリは人間を消滅させる力があるが、同時に異常気象を正常化する力も持っている。
 残念ながらタタリについてはこれ以上に詳しくは知れない。しかし、メタ的な視点を用いると、より深く推測が可能である。
 イーストワードはジブリ作品に強く影響を受けている。ミルク・ミヤザキという宮崎駿にそっくりな人物がいることや、触ると死ぬ黒い何か「タタリ」の性質や名称が「もののけ姫」の祟り神やデイダラボッチの黒い体液を想起させること、マザーの持つ生と死の側面が同作品のシシ神を思わせることからも明らかである。
 ジブリ作品「風の谷のナウシカ」の腐海の設定が本作のタタリと類似している。腐海は無数の胞子植物からなる有毒の大気に満ちた場所で、人間が防毒マスクなしで入れば5分で肺が腐って死んでしまう恐ろしい場所である。 しかし、腐海は過去の人間の行いによって毒で汚染された大地を浄化するために作られたシステムであり、その作用によって遠い未来では大地は解毒されるということになっている。
 タタリの異常気象を正常化する作用が、腐海の解毒作用によく似ている。また、タタリはその名称や外見から「もののけ姫」のデイダラボッチの体液を想起させるが、英語では「MIASMA」と表記される。MIASMAは一般には沼から生じる瘴気を意味し、このことを考えると、タタリの本質は瘴気(気体)であるといえる。腐海もまた瘴気が恐れられており、こういった瘴気が類似している。また、腐海の植物の胞子を採取したナウシカ(風の谷のナウシカの主人公)が腐海の成り立ちを調べるために育てているシーンがあるが、タタリの研究に用いられる重要な機材の名前は「粘菌培養器」である。
 これらを加味すると、タタリとは本来あの世界の異常気象を正常化するために作られた何かではないだろうか。魔王(ソロモン)が作り出したものではないので、災害を制御する力を持つ存在が見つかるさらに昔から存在するのは間違いないのだが、「未来」の時間よりさらに昔の時代については判然としないためこれ以上のことは推測不能である。

(6)「二人の少女」を見つけたのは誰か?

 「昔話」によれば、人類が大きな災害に脅かされていた頃、賢者たちが災害を制御する力と生命を創造する力を持っていた二人の少女を見つけたことでこれを解決したとされている。この賢者たちの一人はおそらくアルヴァの祖父である。
 アルヴァの祖父は「未来」からやってきた人物であることがタヤマばあさんから聞くことが出来る。 また、アルヴァの祖父はタタリについて研究しており、研究に使う重要な機材「粘菌培養器」を所持していた。
 「未来」は10000年前のある日を永遠に繰り返す時間磁場にとらわれている。そこから「現在の」ダム城にやってきたということは、アルヴァの祖父は時間磁場を突破して「未来」を脱出したことを意味する。ロケットハウスにあったロケットはおそらく、彼が脱出に使ったものなのだろう。
 したがって、アルヴァの祖父は本来10000年前の人物である。その時期はソロモンがマザーを捕らえて悪用する前後であり、アルヴァの祖父が「未来」でタタリの研究をしていても不自然ではない。
 推測に過ぎないが、10000年前、「未来」が時間磁場にとらわれる前の頃、「未来」を含めた世界全体がタタリに苛まれており、アルヴァの祖父を含めた世界最高の科学者たちが「未来」にて研究を続けていた。そして、災害を制御する力と生命を創造する力を持つ二人の少女を発見し、これによってタタリの脅威を静めたのではないかと思われる。

(7) マザーとは?その力とは?二つの人格とは?

 昔話によれば、災害を制御する力と生命を創造する力を持つ二人の少女が発見され、これによって「大きな災害」が解決したとされる。文脈からこの「災害を制御する力」の災害と「大きな災害」は同一のものを指す為、おそらくタタリを制御する力を少女は持っていたといえる。
 また昔話と「大地の子」のストーリー、そして船長達の話から、二人の少女はマザーという一人の人物の二つの人格を指す。この二つの人格がそれぞれタタリの制御と生命の創造を担当していた。
 また、カロン記念館のプロト・ブリーダーの解説によれば、マザーは人間工場を稼働させ、タタリにより滅んだ文明を再生させる至高の存在であり、マザーの欠片があれば人間工場を幾世代にもわたり稼働させられる(=進化した次の世代の人類を生む)事ができるという。
 作中で知られる最も過去の時点のマザーは、船長達やソロモンの話に出てくるマザー(10000年前の時点のマザー)である。
 ロケット騎士団の船長達とオリジナルソロモンはマザーと直接面識がある。船長達いわく、マザーはいつもしかめっ面をしていて「ありがとう」と礼を言うような態度とは正反対だが、「大地の子」で遊ぶ時だけは笑顔だったという。また、オリジナルソロモンは珊を見た時に長い年月をかけてついにきたのか、船長達がマザーを誘拐した、永遠の命を持つお前には幻の生き様など理解できない、もう一人はどうしたなどという。
 先述のとおり、船長達は珊をマザーと呼び、また二人の少女がいることを知りつつマザーという一人の人物にしか触れない為、この時点で既にマザーとは一人の人間に二つの人格がある存在だったといえる。
 船長達の話すマザーの性格は珊とは似ても似つかず、赤い珊の人格を想起させる。10000年前の時点では現在の赤い珊にあたる人格がマザーの肉体の主導権を握っていたのかもしれない。
 現代において、マザーと呼んだ場合は専ら赤い珊を指す。こちらは自らの役割(人類に生と死をもたらすこと)を自覚しており、10000年にわたる記憶を保持し続けている。しかし、肉体の主導権は珊にあり、自らを感知出来る人物に働きかけたり人間工場に干渉することはできても、珊の肉体を一方的に奪取することはできなかった。
 マザーの二つの人格とは、現代でいう珊と赤い珊にあたる。この二つの人格がそれぞれタタリを制御する力と生命を創造する力を持っていた。人物としては「二人の少女」としてあらわれる。

(8) 珊と赤い珊はどちらが何の力を持っているのか?

 珊が「タタリを制御する力」、赤い珊が「生命を創造する力」を担当する。
 英語版において、珊が名乗るときの言葉は「I am SAM!」である。これを入れ替えると「MIASMA(タタリ)」になる。
 グリーンバーグの人間工場を赤い珊が起動させ、その際の機械のアナウンスから考えると、「赤い珊が人間工場を起動する→カロンが呼び出される→カロンがタタリを引き起こす」という経過をたどるように見える。
 しかし、ダム城においては人間工場が崩壊しており、ブリーダーボットは消え被検体が逃亡していた。人間工場の機械は赤い珊が起動したものの、グリーンバーグと異なりタタリの準備が実行されたアナウンスもない。
 また、「未来」の時間磁場が解除された後、「未来」駅にカロンが到着する。しかし、これは「未来」の時間磁場がカロンの到着の前日で固定されておりこれが解除されたからカロンが来たのではない。時間磁場の解除によって「未来」は本来の時間=カロンの到着によりタタリで崩壊した時間に戻っている。つまり、時間磁場は本来経過するはずの未来をなかったことにして未来の時間を空白にするのではなく、特定の範囲の時間を本来の時間軸から切り離してループさせ、その場に固定することで本来の時間軸で起きる未来を回避する手段である。したがって、解除されれば本来の時間軸で起きたことがその場に現れる。「未来」が時間磁場の解除によって廃墟になったのは本来の時間軸、つまりカロンによって滅んだ時間に戻ったためである。
 つまり、「未来」にカロンが現れたのは人間工場が起動したからでも、赤い珊が呼んだからでもない。
 「珊」がいるからカロンが現れるのである。
 また、カロン内部での赤い珊と珊の会話で、赤い珊は「私にこの世界を浄化させて」「昔のように…」と告げる。この後に赤い珊の演技が入るのでただの茶番の可能性もあるが、これが真実珊と赤い珊の会話とすると、赤い珊は自分一人では世界の浄化(おそらくタタリによる人類の一掃)はできない。それは彼女ではなく『珊』にタタリを制御する権限があり、肉体を完全に乗っ取っていない状態では珊の許諾なしではできないからである。
 ラストバトルの後に赤い珊が列車で遊んでいる間にタタリを解き放ったと言っているが、これはアルヴァの言葉通り赤い珊が肉体の完全な支配権を得たということなのだろう。
 ただし、珊と赤い珊は完全に独立した別人格というわけではなく、二人とも同一の存在である。これは珊自身が「あれもわたし」「わたし、ひどいことしちゃった…」という発言からも明らかである。
 したがって、一方は他方の力を絶対に使用できないという訳でもないのだろう。

(9) 珊はなぜポットクロック島にいたのか?マザー(赤い珊)の、面倒な老人たちがあなたを連れ去った、という発言はどういう意味か?

 ダム城の地下で、赤い珊は珊に対し、かつて自分たちはイーストワードという場所でカロンを待っていたが、面倒な老人たちがあなたを連れ去った、と語る。
 カロンの到着を待っていた(=タタリが起き「収穫」するのを待っていた)という言葉から、この時点で珊たち(マザー)はソロモンの作ったシステムの役割を遂行していたと思われる。
 しかし、実際は時間磁場によってカロンは「未来」に到達することはなかった。この時間磁場を作ったのは、運命の塔にコアがあることから考えてもオリジナルソロモンである。そして、船長たちがマザーを助け出し、ソロモンの目から彼女を隠した。
 おそらく、船長たちがソロモンの追跡から逃れさせるために、マザーを列車に乗せて時間磁場の外に送り出したのだと思われる。「未来」の内部の人間は外の世界に出られないため、マザーを「未来」から外に出せば追跡を振り切れる、という考えだったのだろう。珊が列車の中にいたのは、時間磁場から脱出するには高速で移動する必要があったためと考えられる。
 そして、マザーを乗せた列車はポットクロック島に落ち、ジョンが発見するまで手つかずだったのではないかと思われる。一万年前当時は世界中でタタリが起きており、マザーの発見によってタタリの制御ができるようになるまでに無数の町が滅んでいたようであるから、マザーが乗った列車が墜落してきた当時からあそこは廃墟だったのかもしれない。
 赤い珊の「面倒な老人たち」については、おそらく船長たちのことである。赤い珊は人類を見下しており、世界を浄化することに固執している為、一万年前の人格はともかく現代の赤い珊にとっては自分のしたいこと、役目と言ってもいいかもしれないそれを妨害されたように思われるのかもしれない。あるいは、後述のように、マザーがポットクロック島に落ちたことで肉体の主導権が珊の独占になったことで「面倒くさい」と思ったのかもしれない。

(10) マザーと珊の人格が分離し、珊が主人格になっているのはなぜか?

 「未来」において言及されるマザーは、「二人の少女」という表現とは裏腹に一貫してマザーと呼ばれており、人格によって別人と扱われていなかった。おそらく、当時のマザーは今のように完全に人格が分かれておらず、二つの人格があると認識されていてもあたかも一人の人間であるかのように扱われていたのだろう。また、船長たちに対する態度から察するに、当時のマザーは赤い珊にあたる人格が主であったと思われる。
 その後、船長らがマザーを「未来」の外に送り出した。しかし、ジョンがマザーの肉体を見つけるまでの長い間に(「未来」が一万年前の時点で時間が止まっているので、おそらくマザーは「未来」を出てから一万年ほど経っている)、マザーのうちタタリを制御する力を持つ人格(のちの『珊』にあたる人格)は自分の役目を忘れてしまった。そして、ジョンが彼女に『珊』という名を与え、家族としたことで、彼女はマザーではなく『珊』になった。これによってマザーの中で『珊』が肉体の主導権を持ち、赤い珊という人格は肉体からはじき出されてしまった。

(11) なぜマザー(赤い珊)の人格は歪んでいるのか?

 赤い珊、マザーとしての役割の自覚がある珊は明らかに人類を嫌悪し、自分より劣る存在として見下している。それは以下の台詞からも明らかである。
「まだわからないの?」「人類なんて…同情する価値もない!」「私にこの世界を浄化させて」「昔のように…」(カロン内部、珊との会話)
「アハハ…ハハハハハ!」「面白いわ!」「人類ってなんて面白いのかしら!」「なに?まだ物足りない?」「じゃあこれはどう?」「ジョンがぜったいに、あなたたちを止める!」「わたしたちはスゴ腕の研究員なんだから!」「どう?満足した?」「アハハ…ハハハハハ!」「人間は弱すぎるわ」「私に近づくことすらできない」「彼女がいなければ、あなたなど何者でもない」「ゲームして遊びましょうか?」「あなたのために用意した特別なゲームを」(助けようとするジョンを前に、珊の姿のまま本性を表した時の言葉)
 ラストバトル後、赤い珊が乗っ取る珊の肉体から、珊の思念体が弾き出される描写がある。この時に赤い珊の肉体の方は胸に穴が空いており、珊が光となって体内に飛び込んだ後の姿は穴が埋まって心臓(ハート)が拍動している。
 また、赤い珊の発声はその他の女性の発声と同じポヨポヨという音であるのに対し、珊の発声はカタカタカタという独特の音である。
 この事から考えると、赤い珊はマザーの肉体(本来の役目を果たす「大人」)にあたり、珊はマザーの心にあたる存在なのだろう。赤い珊は珊(心)がないからあんなにも冷徹で非情なのかもしれない。
 また、赤い珊の言う通り、イーストワードの登場人物はけっこう、いやかなりイヤな人間が大半である。ソロモンは独善的だし、ウィリアムは詐欺師だし、ポットクロック島の人間の多くは他人より自分のことばかりで心が狭く、ダム城の人間は貧乏なのにギャンブル狂いである。リアルだったら隣人にいて欲しくない連中ばかりなのである。そのような人間ばかりを役目に従い10000年も見続けている内に、赤い珊の中に人間を見下す精神が芽生えてしまったのかもしれない。

(12) 珊と赤い珊の人格変異

 「未来」駅にてオリジナルソロモンの攻撃を受けたダニエルを見た時、珊は赤く輝きソロモンを殺害すると、カロンに乗って行ってしまう。この時のログを見ると、珊のコメントで「わたしもあの人に乗っ取られてしまった」と書かれている。
 このことから、あの瞬間にマザーの肉体の主導権が珊から赤い珊に変更されたと考えられる。
 二人の人格と主導権については、子どもソロモンの発言が示唆している。ダム城にてアルヴァが倒れ、ソロモンとの戦いのあと、彼はイザベルに「マザーはまだ完全じゃない」「種が日差しに当たっていない」「それか『未来』に関する記憶がもう…」と述べている。また、ダム城地下で赤い珊は珊に「知っているはずよ。思い出しさえすればいいの…」「その心に光が残っているなら…」「闇があなたの心をつかんでしまったみたいね」と告げる。
 種が日差しに当たっていない、光が残っているなら(思い出せるはず)という表現から、何らかの要因があると珊はマザーとして完成する、つまり赤い珊として覚醒し(あるいは肉体の主導権が移行し)マザーとしての役割を遂行するようになるのだと思われる。

(13) ソロモンコピー達の目的

 子どもソロモンと青年ソロモンは、「未来」のソロモンのクローンである(wikiより)。 彼らの目的ははっきりと語られていない。しかし、「未来」は時間磁場の中にあり内部の人間は外に出ることが出来なくなる。したがって、オリジナルのソロモンもまた外に出られなくなっていると考えられる。 よって、ソロモンコピー達の目的は、オリジナルの代わりに外の世界で活動することと考えられる。 行く先々でソロモンは人間工場を稼働させようとしていることを考えると、彼らの目的はおそらくマザーなしで人類の収穫を行うことと考えられる。しかし、人間工場を稼働するにはマザーの創造の力とカロンを呼ぶ力が必要である。したがって、ソロモンコピー達では人間工場を稼働することができなかった。よって、彼らはマザーを探すことも目的の一つだったと考えられる。彼らが何度も珊に「覚えていないのか?」と問うのは、珊がマザーであるかの確認と、覚えていないということは力を使えない=マザーによる人類の進化が出来ないことの落胆だったのではないかと考えられる。

(14) マザーとソロモンの関係

 先述のように、マザーはもともと一つの肉体に二つの人格をもつ人物として存在しており、それに目を付けたオリジナルソロモンが彼女を攫ってサイクルシステムを作り出した。
 しかし、マザーとソロモンの関係については明確ではない。マザーはもともと力を持つ存在としてあり、ソロモンが彼女を利用している関係である為、マザーがソロモンを嫌悪していたり敵対していてもおかしくはないのだが、そういった感情は見えない。また、仮にソロモンがマザーを作り出したとするには、赤い珊の子どもソロモンや青年ソロモンに対する態度を見るにマザーはソロモンに対して高圧的である。
 根拠が薄弱に過ぎるが、マザーにとってはソロモンにせよパム船長らにせよ、人間という群れの一匹くらいの認識でどうでもよかったのかもしれない。マザー…赤い珊は人類の排除と世界の浄化に固執しているが、その根拠であるソロモンの作ったサイクルシステムですら、マザーにとってはより大きな何か「自分の役目」の一部でしかなく、ソロモンに利用されているとかソロモンと協力するとかそういった観念ですらないのかもしれない。メタ的な要素だが、steamカードの珊の絵柄のタイトルは「宇宙の始まり」である。もしマザーが元々は宇宙の始まりから存在している神のような存在であり、彼女自身の独自の意志によって世界をどうこうしようとか人類を観察して醜いから滅ぼしてやろうとか考えているとしたら、ソロモンの構築したシステムすら彼女にとっては「どうでもいい」「自分のなすこととたまたま方向が同じ」程度のものなのかもしれない。
 マザーによる生命サイクルシステムが誰によって作られたのか、というのは難しい問題である。ソロモンの鍵を使う場所がカロン内部にあること、昔話と大地の子のストーリー、船長らのマザーに関する話から、ソロモンが構築したと考えるのが妥当ではある。しかし、仮にそうだとすると、ソロモンは昔話に登場する「二人の少女」を攫ったことになり、そして「二人の少女」はソロモンがあれこれする以前からタタリを制御する力と生命を創造する力を持っていたことになる。つまりマザーはソロモンの被造物ではないことになるが、そうだとすればなぜさらった人間の作ったシステムに従うのか?そしてそのシステムに倣い行動にしているにも拘らず、システム構築者に対して高圧的な態度を取り殺害すらするのかということの説明が困難である。いずれにせよ、マザーがソロモンをどう思っているのか、なぜ彼の作ったシステムに沿った行動を取りながらも自らの力を絶対のものとしてふるい、ソロモンを手にかけたのかは謎である。

(15) アルヴァは何者なのか

 「未来」からダム城に移り住んだ祖父の孫であり、アルヴァという名前は「大地の子」の姫と同じ名前である。
 アルヴァについては謎が多い。なぜ姫と同じ名前なのか?なぜダム城の人間から「姫様」と呼ばれているのか?両親は?なぜダム城を守るという役割を宿命づけられているのか?なぜ珊と髪型が酷似しているのか?なぜボインなのか?
 ダム城の人間から姫様と呼ばれているのは周囲から慕われていることの表現と思っていたが、どうやらそれは違うらしく、アルヴァは本当に王女らしいことが人々の台詞の端々から分かる。
 では、アルヴァはどこの国の王女で、王と王妃はどうしたのかというと、そのような情報は全く出てこない。
 一方で、イザベルいわく、アルヴァはダム城の守護者となることを宿命づけられていたという。この言い方はアルヴァの決意がどうこうではなく、客観的な義務としてそうしなければならなかったようである。
 どう見ても不自然であるのに、誰もそれを疑問に思っていない。
 根拠が薄弱だが、これはアルヴァが姫と同じ名であること、そして姫=マザーであることが関係しているのではないかと思われる。
 彼女の両親の話が一切出てこないこと、彼女の祖父がタタリの研究をしていたこと、「未来」からやってきたこと、祖父の家が人間工場のすぐ横にあること、カロン内でイザベルがタタリが全人類を滅ぼし、人間工場からは「また」アルヴァの子供達が生まれ、彼女の代わりに夢をかなえてくれるということから考えて、アルヴァは人間工場の生命の卵で作られた人類なのではないかと思われる。アルヴァという名は、アルヴァから取って「大地の子」の姫に名付けられたのではなく、姫の名前を取って「アルヴァ」と名付けられたのではないか。
 すなわち、「未来」からやってきた彼女の祖父は、人間工場の生命の卵から彼女を生み出し、彼女にダム城を守るという役目と「大地の子」にて重要な役割を持つ姫からあやかった「アルヴァ」という名前を与え、彼女を守るために同じように生命の卵からイザベルを作った。孫として育ったアルヴァは自分に与えられた使命に重責を感じてはいたものの、その責任を果たす使命感も持っていた。祖父は「大地の子」にあやかり、アルヴァを東の国からやってきた正真正銘の王女であり、ダム城の守護者としての宿命を持つ重要な人物であると定め、周囲の人間もアルヴァの献身ぶりや機械を操る才覚からそれを信じた、というのではないだろうか。
 アルヴァの外見が大地の子の姫に酷似しているのは、アルヴァが姫のモデルだからではなく、姫をモデルにしてアルヴァを作ったからではないだろうか。また、姫のモデルはマザーである為、自然とアルヴァは珊(=マザー)に似た外見になったものと思われる。

(16) イザベルは何者なのか

 アルヴァの祖父がどこからか連れてきた人物であり、アルヴァを守る為ならば倫理に反した行為も取る。アルヴァが抑え役になっており、アルヴァがタタリに汚染されて倒れた(※)際には倫理のタガが外れ、全人類の滅亡を無視してでもアルヴァの蘇生を優先してカロン内の人間工場を利用しようとしていた。
 イザベルはマザー(赤い珊)を認識でき、また人間工場のことを知っている。加えて、イザベルからは工場のにおいがし(子どもソロモンのコメント)、生身ではいけないはずの「未来」に行くことが出来る。
 このような事情から考えると、イザベルはアルヴァの祖父が作った、人間工場の人造人間(超人)ではないかと思われる。
 イザベルはアルヴァを守る騎士としての役目を与えられて生まれ、彼女自身もアルヴァを恋人として認識し非常に大事にしていた。なおアルヴァとイザベルは正式に恋人関係である(wikiより)。良くも悪くも彼女に与えれられた使命「アルヴァを守る事」はイザベルの中では最高規範だった。アルヴァ自身がそれを否定していた為、アルヴァが健全であるうちは良識が優先していた。しかし、タタリによりアルヴァが汚染されて倒れると、そのような抑えが効かなくなりダム城を守る事よりもアルヴァを守る事が優先された。そして、イザベルはアルヴァを連れて単身「未来」へ向かった。
 イザベルはおそらくカロンに乗る為に「未来」に来ている。しかし「未来」は時間磁場によってカロンが来る日の前日で時間が固定されている為、時間磁場を解除しない限り目的は達成できない。その為ソロモンに会って運命の塔に入ろうとしていたのだろう。
 カロンに乗ろうとしていたのは、おそらく途中まではアルヴァを治療するためで、ソロモンに会った時にはアルヴァを蘇生するため。知恵通りの記録では「アルヴァ、待っててね」と語るが、ソロモンに会った時にはアルヴァを救ってみせるという言い方に変わっており、おそらくこの間にアルヴァは死んでしまっている。
 イザベルは「未来」について実際に行ったことはないが、知識としてどういう街なのかは知っている為、おそらくカロンがどういうものなのかは伝聞で知っている。あるいは、アルヴァの祖父からカロンの正体について知ったのかもしれない。
※アルヴァが何をされて負傷したのかは判然としないが、wikiによればタタリに汚染されて倒れたことになっている。

(17) ダニエルと呪い、ウィリアムとダニエル達

 作中にダニエルは二人いる。ロボットのダニエルと、人間のダニエルである。人間のダニエルはウィリアムの実子であり、ロボットのダニエルはウィリアムの相棒である。
 ウィリアムはダニエル(ロボット)の呪いを解くために奔走しており、ダム城で詐欺行為を繰り返していたのも、ダニエルを治療するために「未来」へ行く運賃を賄うためだった。
 ダニエル(ロボット)の呪いとは、エネルギーが過剰すぎることである。馬鹿力だったり、攻撃を受けても平気だったりする。傍目には便利な力である為解除する必要が無いように見えるのだが、ダニエル(ロボット)本人は「普通の子になりたい」と希望しており、ウィリアムも彼の希望を尊重している。
 ダニエル(人間)はポットクロック島に置き去りにされており、父親が地上について発言したためほら吹きの子としていじめられている。それでもウィリアムが彼をあそこに置いて出て行ったのは、タタリから逃れられる場所であるのを知っているからだろう。タタリは瘴気である為、地下にいる方が安全なようである。実際、ポットクロック島の人間はタタリから逃れて地下に潜った人類の末裔である為それは本当のことのようである。
 ダニエル(ロボット)の過剰なエネルギーは運命の塔の扉を開くときに使用されたため、それ以降は「普通の子」になれたようである。彼とウィリアムのなれそめについては不明だが、実子の名前をもらうほど可愛がられているようである。

(18) テレビとゲーム、冷蔵庫

 本作にはテレビと冷蔵庫が無数に存在する。
 冷蔵庫は記憶を保存する機械であり、扉を開けて中に記憶を保存する。
 テレビは非常に頻繁に見かけ、ダム城や「未来」の広告媒体として使われているほか、ポットクロック島の「カロンの口」や人間工場の機械やカロンの側面、マザーを守るカロン(三つ首の犬)の土台にも無数に存在している。また、ウキウッドでは人間達がテレビの虜になっており、テレビを見てばかりいる彼らは反応が鈍い。
 特筆すべきなのは、冷蔵庫の上には必ずテレビがあり、冷蔵庫の扉を開けると電源が入る。
 また、カロン内部で珊が閉じ込められていた部屋及びジョンが彷徨っていた暗黒の中に、ローディングの時に右下に映るテレビがある。この時にジョンがテレビの電気を入れると、過去の様々な人物達の言葉が再生される。ゲームは作中内で「大地の子」が存在しており、珊はこれで遊ぶのが好きである。また、「未来」の船長達が知るマザーもまたこれで遊ぶのが好きで、赤い珊もまた「テレビ見ないの?」「あなたが好きな「大地の子」でもやる?」と肯定的に評価している。
 テレビは単なる広告媒体ではなく、マザーないし生命サイクルシステムに関わる象徴でもある。人間工場のブレインマンはテレビを通じて話し、マザー(赤い珊)もテレビを通じて話す事ができる。カロンの先頭車両側面にはテレビがびっしりと付いており、珊の呼びかけで停車した時にはテレビ画面に映った無数の目は珊を見ていた。ポットクロック島で追放に相当する「カロンに乗せる」過程で通る「カロンの口」にはテレビが付いており、珊が通ると故障して動かなくなった。さらに、ラストバトルで戦う「カロン」は三つの首を持つ犬の形をしており、腕の間にマザー(赤い珊)が入ったカプセルを抱いているが、その足元の土台にはテレビがいくつも付いている。
 これほどまでにマザーないし彼女を要とするシステムに関わって登場する設備はテレビのみであり、彼女らの出力装置としての側面があると思われる。なお、ソロモンと戦う機会は三度あるが、彼が操る機械はいずれにもテレビが付いていない。
 冷蔵庫は記憶を保存する為の機械であるが、その上には必ずテレビが乗っている。根拠薄弱であるが、冷蔵庫に記憶を保存するという行為は、人間工場に情報を保存する行為であり、テレビが付いているのはマザーの出力装置として保存する人にはたらきかける為ではないだろうか。
 テレビとゲーム機はマザーにとっても何かしら思うところがあるらしく、人類に冷淡な彼女(赤い珊)もテレビとゲーム機については割と肯定的な発言をする。船長らの話によれば、当時のマザーは常にしかめっ面をしていたが、大地の子で遊ぶ時だけは笑顔だったという。当時のマザーの人格が赤い珊のものだったのかは不明だが、人類が生み出した娯楽を楽しむ情緒を持っていたのは間違いないだろう。この性質は現在のマザー(珊)も受け継いでおり、また赤い珊も好きなようである。この影響は大きく、マザーの力が強く及び支離滅裂な地形になっているカロン内部においてさえ、テレビとゲーム機だけは様々な人物の言葉(おそらくマザー(珊)の記憶に残っている言葉)でジョンを手助けしてくれる。
 マザーの象徴でありながら、カロン内部で手助けしてくれるテレビは、冷淡なマザー(赤い珊)の中に残る人間らしさ(珊=赤い珊)なのかもしれない。

(19) 本当の嘘

 ポットクロック島においては地上を異常に恐れており、地上に繋がるショッピングモールを禁断の地と呼んで立ち入りを禁止していた。また、地上はタタリにまみれた恐ろしい死の大地で、「カロン」は死の船として扱われ、嘘つきや反抗的な者はカロンに乗せられて地上に送られた。
 物語の序盤、カロンに乗せると息巻く町長とは裏腹に、現れた「カロン」は普通の電車だった。さらに地上は青い空と緑の大地であり、これを見たプレイヤーは町長の言う事は出鱈目で、珊の言う事が本当だったのだと確信する。
 しかし、これは誤りであり、どちらも真実である。遠い昔、「未来」が時間磁場にとらわれる前の10000年前頃は地上にはタタリが現れており、数多の町がタタリによって滅んでいた。そして、「カロン」はマザーが操るタタリをもたらす死の船として実在した。ポットクロック島の町長の言っていた事は真実だったのである。
 おそらく、ポットクロック島の人間は、10000年前にタタリから逃げて地下に潜った人間達の子孫であり、彼らの先祖が当時の地上の様子を伝え、それが伝説として今も残っているのだと思われる。
 実際、タタリは瘴気であり、カロンが側面や天井から排煙し足元に黒い水玉を生じさせる事で起きる為、地下に逃れる事でタタリを免れるというのは間違いではなかったのだろう。

(20) 「未来」と時間磁場

 先に少し触れたが、「未来」は10000年前のある日で時間がループしている。その日はカロンが到着する日の前日、時間磁場が起動した日の翌日である。
 時間磁場によって、「未来」は10000年前のある日を永遠に繰り返す状態となっており、これによって本来の時間経過によって起きる事象をなかった事にしていた。
 ただし、このなかったことにするというのは完全にその未来を消去した訳ではなく、ただその場に現れないようにするという意味に過ぎない。
 したがって、時間磁場が解除されれば、本来の時間経過で起きるはずだったことが起きた時間軸がその場に戻り、本来の「現在」がその場に現れる。
 「未来」は時間磁場が解除されると無人の廃墟になり、無数の木が伸び放題になっていた。これは、カロンが到着する日の前日で止まっていた時間が解放された為、本来10000年の経過で起きたはずの事が一度に「現在」に反映された結果である。
 時間磁場のコアが永遠の塔にあった事から、時間磁場を作り出したのはオリジナルソロモンである。彼はマザーを攫い、彼女を要としたシステムを作り上げ、これによって人類を人為的に進化させ繁栄させようとした。しかし、そうすれば「未来」にもカロンが現れ、タタリによって滅ぶ。そうなれば自分も死んでしまう為、ソロモンは「未来」に時間磁場を作動させ、カロンが到着する前日の日を繰り返すように固定した。これによって「未来」に滅びは訪れず、繰り返す「今日」により住民は不老不死となった。
 オリジナルソロモンは「この大悪党がタタリの中で人類に希望を与えた。この大悪党様が「未来」を守った!」と言う。これは、マザーを要とするシステムにより人類を繁栄させ、同時に「未来」が滅ばないように時間磁場で保護した事を表していると思われる。

(21) ジョンと犬

 グリーンバーグにはジョンという名前の犬がいる。この犬は残念ながらグリーンバーグがタタリで滅んだ時に死んでいるのだが、その後も人間のジョンが武器を取られたり取り戻したりする時にアイコンとして現れる。
 この事から、ジョンの象徴として犬が使われている。同時に、ラストバトルにおいてはマザー(赤い珊)を守るカロンは三つ首の犬の形態を取る。これは珊を守るジョンの対比として、赤い珊を守るカロンの表現なのだろう。カロンという名前と、三つ首の犬という外見から、ギリシア神話の冥府の渡守とケルベロスがモデルと思われる。

(22) ローディング画面右下の部屋はどこか

 カロン内部で珊が閉じ込められていた部屋である。このテレビの周囲の雑貨がローディング画面に表示されるテレビの周囲と一致する。また、このテレビはジョンが過去の珊の仕草を頼りに暗闇の中をさまようシーンでたびたび現れるテレビと同じものである。
 この部屋がどこなのかは不明だが、赤い珊がここでテレビやゲームに対して肯定的な発言をすることや、マザーはかつて大地の子を遊んでいたことから、マザーの記憶にある「船長たちに匿われて住んでいた、ゲームのある場所」なのではないかと思われる。

(23) エンディングの「珊」は何者なのか

 ラストバトル後、珊は赤い珊と融合し、消滅してしまう。肉体を失った二人は真っ暗な中に消えていくが、その後、駅にて珊と名乗る少女が現れる。
 少女は黒い服に赤い靴、黄色の鞄に白い髪と、『珊』に酷似しているが、しかし髪型はポニーテールで顔つきも違う。珊と同じ名前だが、ジョンの事は忘れており、話す内容も所帯染みていて、マザーとしての役目は知らない様子である。
 『珊』は消える直前に、「また、いつか必ず会えるもん」と言っている。また、カロン内部のプロト・ブリーダーはマザーの欠片が残っていれば幾世代にもわたって人間工場を稼働させられる、とあたかも不滅の存在であるかのように言っている。
 したがって、あの珊は広義的にはジョンと一緒にいた珊(マザー)なのだろう。
 しかし、あの珊は『珊』とは何かが決定的に違う。ジョンと一緒にいた珊は幼い子どもらしく、無担保で人を信じ、ジョンに全幅の信頼をおき、単純で無垢であり、ジョンとほとんど密着するくらいくっついて移動していた。一方、あの『珊』は刺々しくはないもののジョンに対し話を聞いているのか?と言っており、文字が消えている時刻表になんで誰も直さないの?と憤慨し、ある程度自立した人格を持っている。また、最後にジョンと並んだ際に、少し歩み寄るが微妙な距離感を保っており、彼を多少警戒している。
 こういったことから、あの『珊』は珊とは人格が異なると考えられる。ジョンに少し歩み寄った仕草から、二人はこれからまた何らかの関係を築くかもしれない。しかし、かつての『珊』と同一ではなく、築く関係も同じようなものにはならないだろう。
 記憶も人格も異なる『珊』はあの珊ではないが、しかし彼女は生きている。ジョンにとっては珊が生きているというだけで十分なのだろう。

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