見出し画像

今更FEHの7部を解説する

 このページは「第7部をクリアしたけれどストーリーよく分からなかったよ」という人向けに記述したものです。一度クリアしてとりあえずストーリーを読んだことを前提にしていますのでご了承ください。

はじめに

 私は7部のシナリオが大好きなのですが、いろいろなところでいまいち話がよく分からなかった、という意見を見ますので「じゃあ解説記事を書くか」と思った次第です。

7部のあらすじ

 突然「黄金の魔女グルヴェイグによってアスクが滅ぶ」未来を見たエクラ。同時に、アスクに光の女神セイズが降臨する。
 彼女いわく「黄金の魔女グルヴェイグによってアスクは未来に滅ぶ。自分がエクラに神託を授けてその様子を見せた」とのこと。特務は半信半疑ながらセイズの導きに従い、彼女がやってきた光の国「ヴァナ」へ向かう。なおセイズは方向音痴であり特務の道案内をする途中で迷子になった。方向音痴な上にセイズ本人は過去の記憶がないらしい。
 女神セイズは文字通り光の神の一柱であり、光の国ヴァナは神々の国。ヴァナはロキやトールが所属する天上の国アースガルズとは仲が悪いらしい。そんな神々の国ヴァナを束ねる神々の王ニョルズへ特務は謁見するが、話に入る前にセイズの義妹であるヘイズが襲われていると聞き手助けに向かう。
 ヘイズは女神セイズの義理の妹だが、本当の姉妹のように二人は仲良し。姉が神託を授けた人間(エクラ)に興味津々なヘイズだが、しかし彼女は黄金の魔女に呪われており長くはない身でもある。
 ヘイズを助けた後にニョルズの元に戻ると、彼いわく「未来では強大なグルヴェイグも元々は非力な存在、つまり現在の時間で見つけ出して倒せば問題ない。その為の力を授けたい……ところだが、妹のネルトゥスに神器を盗まれてしまったから取り返して欲しい」との事。
 ニョルズの助言通りネルトゥスに神器を返してもらいに行くと、なぜかネルトゥスは特務、特にシャロンのことを知っている様子。意味深なヒントをもらいつつ神器を返してもらい、ニョルズに渡す。すると彼はセイズにグルヴェイグを見つけ出す力を与えてくれる。
 そんな訳で「現在」の時間に存在しているグルヴェイグを見つけよう……という話になるが、同時にニョルズはセイズにあの件はどうなったの?と進捗を尋ねる。その場でははぐらかしたセイズだが、なんとグルヴェイグの事とは別件でヴァナの繁栄の為に新しい神を生み出すようにという指示を受けていた。ふしだらな女神じゃないですと謎の言い訳をするセイズ。ヴァナの女神は人間との間で繁殖することができるらしく、互いの手を繋いで強く念じることで数年後に新しい神がヴァナのどこかに現れるとのこと。なぜ自分を?と問うエクラに対し、セイズは「なぜかは分からないけれど、あなたとはずっと昔に会ったことがある気がする。もし人間との間で新しい神を生み出すのなら、あなたがいい」と答えた。
 その後、グルヴェイグを探すセイズだが、「現在」の時間におけるありとあらゆる場所を探してもグルヴェイグは見つからない。未来の時間に存在しているのだから、理論上は現在の時間に必ず存在しているはずなのに、なぜ見つからない?
 そうこうしているとグルヴェイグ本人が現れて特務は絶対絶命の状況に追い込まれる。一か八か、セイズは自らと特務を過去の時間に逃がすことによって危機から脱する(※ セイズは光の女神であり、光とは時を意味する。したがって彼女は僅かながら時間を操作する力を持っている)。しかし、過去に逃げる瞬間にグルヴェイグがエクラを掴んだ為、エクラだけがズレた時間に飛ばされてしまう。

 過去の世界、セイズとアルフォンス、アンナは現在の時間から数百年前の時間に飛んでいた。しかしエクラの姿が見当たらない。一方、エクラはグルヴェイグの妨害によってセイズ達が飛んだ先の時間からさらに100日ほど前の時間に飛んでしまっていた。その際に崖から転落してしまい、エクラは重傷を負う。そんな召喚師を助けて介護していたのはクワシルというヴァナの女神だった。
 クワシルは記憶が欠落しているのか、自分がいつ生まれたのかも分からず、孤独で虚無的な生活を送っていた。そんな時に現れたエクラを拾った彼女だが、初めて会った「自分以外の存在」との交流によって生まれて初めて生きている事に意味を見出す。クワシルがいうには、エクラが探している人はあと100日もすれば現れる、だからそれまではここで待っていればいい、とのこと。
 そんなある日、クワシルはエクラの持っていた神器ブレイザブリクを拾ってくる。しかし、なぜかブレイザブリクは二つあり、片方は光り輝いていた。女神に嘘をついてはいけないのですよ?というクワシルから「光り輝いているブレイザブリク」をエクラは返してもらう。
 そして、エクラがクワシルと出会ってから100日後、「現在の時間」から逃げてきたセイズ達がエクラの元へ現れる。再会を喜ぶ一行だったが、クワシルはセイズの姿を見ると「礼はいらない、私とあなたは敵同士なのだから」と言う。訳がわからないセイズだが、クワシルはなんと「私はグルヴェイグです」と正体を明かし逃亡した。
 クワシルを追う特務の前に、「過去の時間」のネルトゥスが現れる。特務は彼女に事情を話すが、ネルトゥスは特務を知らない様子。「現在の時間」で出会ったネルトゥスの意味深なヒントはこの事であった。「現在の時間」のネルトゥスは特務に二度会っている一方で特務は初対面であり、「過去の時間」のネルトゥスは特務に初めて会う一方で特務は彼女に二度会っている。
 事情を知らないネルトゥスに、特務は「現在の時間」のネルトゥスから与えられたヒントを用いて彼女を退ける。そして同時に、「過去のネルトゥス」はこれによって特務の存在を「現在の時間」まで覚えている事となった。一方、逃亡したクワシルは「過去の時間」のニョルズに会い、その正体を明かす。これによってニョルズがこれから取る行動が決まるという。
 とうとうクワシルを追いつめた特務だが、アルフォンスはクワシルを殺すことに懸念を表明する。
「未来の時間」において黄金の魔女グルヴェイグは存在し、世界を滅ぼす。
「現在の時間」においてセイズが世界のあらゆる場所を探しても「現在の時間」のグルヴェイグは見つからなかった。
「過去の時間」においてクワシルこそがグルヴェイグだった。
 過去、現在、未来。過去と未来にグルヴェイグが存在するなら、「現在の時間」にグルヴェイグは必ず存在する。そうでなければ因果が成立しないからである。
 セイズは「現在の時間」においてありとあらゆる場所でグルヴェイグを探したが、見つからなかった。
 それは「自分がグルヴェイグと知らないグルヴェイグ本人が、グルヴェイグを探しても見つからない」からである。
 すなわち、「現在の時間」におけるグルヴェイグとはセイズである。
 したがって、「過去の時間」においてクワシルを殺害すれば、因果関係によってグルヴェイグは消えるはずだが、同時にセイズも消えてしまう。
 アルフォンスが懸念していたこととはすなわち、クワシルを殺せばセイズが消滅してしまう事であった。
 自身の正体に狼狽するセイズの前に、「未来の時間」からグルヴェイグが現れる。あなたがいるべき場所はここではない、その言葉とともにグルヴェイグはセイズと特務を「現在の時間」へ送り返す。

「現在の時間」に戻った特務の前に、呪いに侵食され暴走するヘイズが現れる。うろたえているセイズに、ニョルズは苦しむヘイズを殺して苦しみから解放するように促した。
 その言葉に従いヘイズを手にかけたセイズだったが、彼女が消滅すると同時に今度はセイズが苦しみ始める。その様子を見たニョルズは喜び、恐ろしい魂胆を口にする。
 ヘイズに宿っていた黄金の魔女の呪い、それは黄金の蛇の呪いである。セイズがヘイズを殺し、この呪いを受け継ぎ、そして絶望に染まることで「黄金の魔女グルヴェイグ」に変貌する。グルヴェイグは世界を滅ぼし、人間を根絶やしにしてしまう。
 なぜこのようなことをするのかという問いに、ニョルズは人間への憎悪を語った。自分が老いて弱り力を失っていくのに対して、虫ケラのように矮小で弱い人間が繁栄するのが許せなかったのである。
 ニョルズの逆恨み同然の動機によって、セイズは自らの義妹を手にかけ、さらには人間を滅ぼす為の道具に変えられてしまうのである。あまりにも残酷なニョルズの発言に、セイズは殺意を抱く。しかし、ニョルズは非情にも特務を抹殺するべく、自らが育てた黄金の魔女を「未来の時間」から呼び出す。
 だが、特務を皆殺しにするよう命令するニョルズに対し、グルヴェイグは命令を無視してニョルズを殺害する。私はあなたの望みを叶えた、あなたもやがて、私と同じことをする。そう言い残してグルヴェイグは姿を消す。導きを失った特務と呪いを受けたセイズだけがその場に残された。
 このままではセイズは黄金の魔女グルヴェイグとなり、世界を滅ぼしてしまう。呪いにより自害ができないから自分を殺すように特務に頼むセイズだが、そこへ「現在の時間」のネルトゥスが現れどうすべきかを語る。
 そもそも、すべての元凶は黄金の魔女グルヴェイグではない。「グルヴェイグ」すなわち過去においてはクワシル、現在においてはセイズ、未来においてはグルヴェイグというひとつの女神を宿主として寄生している黄金の蛇、その呪いそのものが元凶である。そして、黄金の蛇の力の源は円環という概念にある。
 円環とは過去のクワシル、現在のセイズ、未来のグルヴェイグというひとつの女神が過去から未来へ、未来から過去へ、時の循環を永遠に繰り返す概念である。これによってクワシル=セイズ=グルヴェイグは誰からも生まれることがなく、そして死ぬこともなく永遠に生き続ける。
 そして、その間に行われる儀式(※筆者注 セイズがヘイズから呪いを受け取り呪いを強化し続けることと思われる)によって、黄金の蛇は無限にその力を強化し続ける。黄金の魔女グルヴェイグが単体で世界を滅ぼすほどの力を持つのは、彼女本人がその力を持っているのではなく、彼女に寄生した黄金の蛇が無限に力を蓄えるからである。
 そのような無限の力を持つ黄金の蛇は、たとえネルトゥスが力を貸したとしても殺すことはできない。
 しかし、黄金の蛇が「セイズが円環によって無限に生き続けること」を利用して力を無限に蓄えるのであれば、こちらもそれを利用して無限に力を蓄えることが出来れば、いつかは黄金の蛇に勝る力を得ることが理論上は可能である。
 そうして無限に等しい時の循環の中で、ネルトゥスがエクラの神器に力を込める過程を無限に繰り返せば、いつかは黄金の蛇を殺すほどの力を得ることができるかもしれない。「今、この瞬間」のエクラの以前の、無限の時の中で数えきれない程の「黄金の蛇を殺せなかった」エクラがいるかもしれないけれど、「このエクラ」だけはできるかもしれない。
「過去の時間」においてエクラはクワシルから「光り輝いているブレイザブリク」を返してもらった。
 この「光り輝いているブレイザブリク」の正体は、「今のエクラより前のエクラ」が「前の未来の時間」でグルヴェイグに殺された後、彼女が過去の時間に飛んで「次のクワシル」になった際に一緒に持ってきてしまったもの。すなわち「繰り返す時の循環の中でグルヴェイグとともに無限に時を繰り返して強化され続けてきた」ブレイザブリクである。
 このブレイザブリクにさらに「今回の現在の時間」のネルトゥスに力を込めてもらい、エクラはセイズに寄生している黄金の蛇を殺すことに成功する。
 しかし、セイズに宿る黄金の蛇を殺しても事態は解決しない。セイズはクワシルでありグルヴェイグであるから、残る「過去のクワシル」と「未来のグルヴェイグ」に寄生している黄金の蛇を殺さなければ世界の崩壊を回避することが出来ない。
 だが、エクラからセイズに渡された「無限の力」は「セイズ」に黄金の蛇を殺す力を与えることは出来ても、それは「今、この瞬間に生まれた」一つしか存在しない。すなわち、クワシルとグルヴェイグにその力を与えることは出来ない――残る二人は、殺すことしか出来ないのである。

「現在の時間」において、エクラたち特務が黄金の蛇を殺す手段を手にした頃。「過去の時間」のクワシルと「未来の時間」のグルヴェイグはなぜか「現在の時間」に呼び出されていた。
 なぜ自分がここにいるのか分からないと言うクワシルに、グルヴェイグは「黄金の蛇は円環を断とうとする者を許さない。セイズか自分達のどちらかしか生き残ることは出来ない。黄金の蛇が時を動かし、自分達のどちらかがセイズと出会うように仕向け、セイズと殺し合わせる」と告げる。
 グルヴェイグの言葉通り、セイズの前にクワシルが呼び出される。死ぬその瞬間までは生きていたいというクワシルとの戦いで勝利したのはセイズだった。死にゆくクワシルは「自分にはおともだちも、すきなひとも、大切な人もいないから、何もない私よりあなたの方が生き残る方がよい」と呟く。これに対してセイズは「嘘です、エクラと一緒にいた思い出があるはずだ、大切な人がいるはずだ」と言うが、クワシルの答えは「もう、わすれた。おぼえていない、それでいい。私の分まで生きてください」であった。
 クワシルの死後、セイズは「遠い過去の時間」に呼び出される。今度はセイズがグルヴェイグと戦い殺し合わなくてはならなかった。
 どうしても殺し合わなければならないのかと問うセイズに、グルヴェイグは「黄金の蛇が世界を滅ぼす、それは自分自身にも止めることは出来ない。セイズが生き残り世界を救うか、自分が生き残り世界を滅ぼすかの二択しかない」と答える。
 戦いの中、グルヴェイグはエクラだけを呼び出し、自身の思いを伝える。幼い頃に出会い、はじめて好きになった人であること、そして自分はもうエクラを殺したくないから、自分を殺して円環を断ち切るように。
 最後の戦いに勝利したのはセイズだった。同じ自分なのにグルヴェイグは救われないことに泣くセイズに、グルヴェイグは「自分を憐れむのであれば、私はあなたが生きることを望む」と答えた。死にゆくグルヴェイグは最後に、セイズと同じ目でエクラに別れを告げて消滅した。
 黄金の魔女の死によって世界の滅びは回避されたが、あれほど東奔西走したにも関わらず、「現在の時間」はアスクからヴァナへ向かった時から全く進んでいないようだった。

後日談

「過去の時間」の黄金の魔女クワシルと、「未来の時間」の黄金の魔女グルヴェイグはセイズによって殺された。
 しかし、二人はなぜか自身に意識があり、未だ自分が「存在」している事を疑問視する。
 そこへセイズ……「セイズの精神」が現れる。光の女神セイズは元から時間を操る力を持っている。セイズはクワシルとグルヴェイグの「肉体」に寄生している黄金の蛇を殺した事で、その宿主である二人を殺害した。
 しかし、それと同時に二人の精神を、黄金の蛇とともに死にゆく肉体から切り離した。そして、精神だけを「現在の時間」に飛ばした。元よりクワシルもグルヴェイグもセイズと同じ存在であるから、二人の精神の存在する時間を「現在の時間」へ送ればその行き先は「現在の時間」にある「セイズの心の中」である。
 こうして、「事実」として黄金の魔女は死んだが、その過去、現在、未来の心は「現在の時間」「ひとつの体」の中で生き続ける事となった。

解説

時間移動し過ぎで話が訳わからないんですけど!!

 設定上の理屈に興味ない方は「ヒロインのセイズを救う為にがんばります」でオッケーです。7部の99%はセイズのことしか話してないのでそれ以外の理屈は覚えなくていいです。

 もっと理屈で説明してほしいんですけど!という方は時間を客観視することをお勧めします。7部は何度も時間を移動するうえに特務の主観によって「今いる時間」を観測している為、今どの時間にいるのか、どの時間で何をした因果がどこの時間で結果として現れているのかが分かりづらいです。

 以下で、特務の視点から外れて客観視した時間を説明します。過去、現在、未来は「セイズ」がどの姿を取っているかを基準とします。
 なお、●がついている事象は「今、この瞬間」のセイズとエクラのみに起きる事象であり、円環から外れた出来事です。また、×がついている事象は「7部が始まる前」すなわち「前のエクラ」の時に起きた出来事です。

●(遠い昔)1章
●グルヴェイグが特務と戦い敗れる

(過去)2~4章
クワシルが未来から飛んでくる
クワシルがエクラと出会う
 ↓(100日後)クワシルがエクラにブレイザブリクを渡す↓
クワシルがセイズと出会い、ニョルズに自分の正体を告げる
グルヴェイグが特務らを現在の時間へ飛ばす
クワシルが自分の記憶を封じてセイズになる

(現在)5~8、9~12章
セイズとヘイズがニョルズに仕え始める
ネルトゥスがニョルズから櫂(神器)を盗む
セイズがエクラに神託を授ける
特務がヴァナへ渡る
特務がネルトゥスから櫂を取り戻す
セイズとエクラが女神の契りを交わす
セイズと特務がグルヴェイグから逃れる為過去に飛ぶ
セイズと特務が過去から飛ばされてくる
セイズがヘイズを殺害する
グルヴェイグがニョルズを殺害する
ネルトゥスがブレイザブリクに力を与える
●エクラがセイズに寄生する黄金の蛇を殺す
●セイズがクワシルを殺害する
×エクラがセイズの呪いを解くのに失敗する
×セイズがグルヴェイグとなる

(未来)13章
×グルヴェイグがアルフォンス、シャロン、アンナ、エクラを殺害し世界を滅ぼす
×ヘイズが生まれる
×グルヴェイグがヘイズを現在のセイズのもとへ飛ばす
×グルヴェイグが自分の時間を巻き戻してクワシルの姿になる
×クワシルの姿になったグルヴェイグが過去の時間に自分を飛ばす
×滅んだ世界だけが残る

 クワシル=セイズ=グルヴェイグの主観的には「クワシルが未来から飛んでくる→セイズがヘイズを殺害する→セイズがグルヴェイグとなる→グルヴェイグがアルフォンス、シャロン、アンナ、エクラを殺害し世界を滅ぼす→ヘイズが生まれる→グルヴェイグがヘイズを現在のセイズのもとへ飛ばす→グルヴェイグが自分の時間を巻き戻してクワシルの姿になる→クワシルの姿になったグルヴェイグが過去の時間に自分を飛ばす→クワシルが未来から飛んでくる……」という一連の行動によって無限に時が循環する「円環」が完成します。
 7部内であれだけ時間を行き来していたのは全て、この円環を完成させるための過程に過ぎません。究極的には、7部はこの円環が完成するか円環が破壊されるか、という話なのです。
 重要なのは「●エクラがセイズに寄生する黄金の蛇を殺す」ことです。この事象が発生したことで「今、この瞬間」のエクラとセイズは円環から逸脱しました。同時に、円環から逸脱したことにより「セイズがグルヴェイグとなる」という円環の維持に必要不可欠な事象が起こらなくなりました。これによって円環は崩壊し始めます。
 一方で、黄金の蛇は円環が壊れないように、想定外の事象を排除して円環の完成を目指します。すなわち、「今、この瞬間」のセイズを殺して黄金の蛇に寄生されているクワシルかグルヴェイグのいずれかが生き残れば、そのどちらかはグルヴェイグとして世界を滅ぼし、再びクワシルの姿となって過去の世界に飛び、再びセイズとなり、そしてグルヴェイグとなって円環を維持することが出来ます。
 対するセイズですが、円環の完全な破壊を達成するにはクワシルとグルヴェイグに寄生している黄金の蛇を殺す必要があります。クワシルもグルヴェイグもセイズですから、彼女らに宿っている黄金の蛇を殺さなければ、いずれはグルヴェイグとなって世界を滅ぼしてしまうからです。セイズの世界を救うという目標を達成するには円環を破壊することが必要であり、そのためにはすべての黄金の蛇を殺す必要があり、そのためには蛇の宿主である「すべての時間の自分」を殺さなければなりませんでした。

円環とは何か?

 7部の設定上で最も重要な概念です。明確に定義付けされているわけではありませんが、概ね「クワシル=セイズ=グルヴェイグというある一柱の女神が時の循環により永遠に生き続ける」という一連の流れを意味します。黄金の蛇はこの流れの間で儀式(これも具体的な説明がないのですが、おそらくセイズがヘイズから呪いを継承することだと思われます)を経ることにより無限に力を蓄えています。
 円環の本質はクワシル、セイズ、グルヴェイグというある一柱の女神が、逆説(作中の言葉を使えば時の矛盾)によって永遠に生き続けることにあります。彼女が永遠に生きているから、黄金の蛇もまた永遠に生き、永遠に力を蓄え、そして世界を滅ぼします。

グルヴェイグとは何者なのか?

 グルヴェイグとはクワシルであり、セイズです。これら三人はあるひとつの女神をそれぞれ過去、現在、未来の時間において観察した時の姿にそれぞれ別の名がついているという存在で、根本的には同じ存在ですが、同時に異なる存在でもあります。
 つまり、「黄金の魔女」の過去の姿はクワシル、現在の姿はセイズ、未来の姿はグルヴェイグです。したがってセイズもクワシルも広義にはグルヴェイグですし、クワシルもグルヴェイグも広義にはセイズです。
 同一存在の概念上の彼女らを代表してセイズとして、セイズらはヴァナの女神であり、光の女神です。そして7部における概念として光は時というものがあるので、彼女たちは光の女神であると同時に時の女神でもあります。
 同一人物である為、外見や性格も似通っています。特徴的なのが全形態で共通している金色の瞳で、呪いの侵食が進んでいないクワシルとセイズの時は金色の瞳の上半分に紫色の影がかかっており、呪いに侵食されきったグルヴェイグの姿では金色一色となっています。しかし、グルヴェイグも肉体に寄生する黄金の蛇が死亡し自らも消滅する際に、セイズやクワシルと同じ瞳に戻ります。
 一方で、思考回路や実際に取る態度はそれぞれ少しずつ違います。我々が今の自分と10年前の自分、10年後の自分が肉体を構成する細胞の同一性から見ても、人格の変化の点から見ても完全に同じと言えないように、彼女たちも完全に同一の存在ではありません。
 なお、グルヴェイグがあまりにも無茶苦茶な力をお持ちなのでそこに目が行きがちですが、他の二人も時を操る力は潜在的に持っています。セイズはニョルズから力を授かり、「現在の時間」のグルヴェイグを探す時にグルヴェイグから逃げる為に「特務達ごと過去に時間にワープする」手段を取っています。一方、クワシルはグルヴェイグがクワシルの姿になる際に力のほとんどを封じてしまう為、時を操る力をほとんど行使できません。
 セイズらは取る姿によって保持している記憶や行使できる力が違いますので、以下に簡易にまとめたものを記載します。

(過去)クワシル
・記憶と力の多くを封じている。
・円環内で「自分はグルヴェイグになる」事実とそのために必要な行動(儀式を行うこと)は記憶している。
・エクラのことは全く覚えていない。
・時間を操作する力はほとんど全く使えない(使用する描写がない)。
・グルヴェイグとなる為の布石を打った後、セイズとなる前にさらに自身の記憶を完全に封じる。

(現在)セイズ
・記憶を全く持たないが力を僅かに行使できる。
・円環内の記憶は全く持っておらず、自身の正体にも気付いていない。
・エクラのことを「クワシルが経験した範囲で」おぼろげに覚えている。したがって、「過去に会ったことがある」ことを僅かに記憶している。
・時間を操作する力は僅かにだが使用できる。なお、黄金の蛇を殺すことが出来た「今、この瞬間」のセイズはおそらくグルヴェイグとほぼ同等の能力を持っていると推測される。
・グルヴェイグとなる過程を無意識にたどった後、ヘイズから黄金の蛇の呪いを継承してグルヴェイグとなる。ただし、「今、この瞬間」のセイズのみは蛇を殺したことによりグルヴェイグとなる運命から逃れ、円環から逸脱した存在になる。

(未来)グルヴェイグ
・円環内のすべての記憶を保持し、絶大な力を行使する。
・円環内で起きたことすべての記憶、クワシルであった時に封じた記憶を含めたすべての記憶を思い出している。
・エクラのことはセイズとしての記憶、クワシルとしての記憶も含めて覚えている。
・およそ時に関するあらゆる力を行使できる。
・世界を滅ぼし、ヘイズを過去(客観的にはセイズのいる「現在の時間」)に送り、自身の時を戻してクワシルの姿になり「過去の時間」に飛び、力と記憶のほとんどを封印してクワシルとして過ごす。これによって円環が完成する。

世界が滅ぶから大変って話だったはずのにいつのまにかセイズの話になっているんだけれど?

 7部でもっとも重要なのは「円環」が完成するか崩壊するかであって、世界が崩壊する事実はその「円環」が完成する過程において発生する事象に過ぎず重要ではありません。円環が完成すれば世界が滅び、崩壊すれば世界が滅ばない、それだけです。もちろん特務の目的として世界の崩壊を防がねばなりませんのでその点においては重要なのですが、世界が滅ぶ云々は結論部分であり、その結論を左右するもっとも重要な要因が円環が完成するか崩壊するかの二択です。したがって、7部において最も重要なのは結局は円環が完成するか崩壊するかということになります。

なぜ円環は発生したのか?

 7部は円環が既に存在する状態でこれを破壊することを最終目標としたストーリーですが、では円環はなぜ発生したのでしょうか?
 結論から言うと「不明」です。
 なぜなら、円環があることによって時の循環が発生し、因果関係が崩れてしまうためです。
 通常、因果関係とは過去から未来に時が進むことで様々な事象が発生して積み重なり、原因と結果を作ることを前提とします。過去にお金を使って買い物したから(原因)未来に手元にてつのけんが残りお金が無くなる(結果)、これが因果関係です。
 ところが、7部ではセイズという女神が過去から未来へ、未来から過去へ時を循環することによって永遠に生き続けているために、因果関係の前提が崩れてしまいます。セイズの未来、すなわちグルヴェイグが未来で行ったことが過去に起きる結果の原因となる為、通常の因果関係が成立しません。これが時の矛盾、一般的にいうタイムパラドックスです。
 これによって因果関係が崩れている為、円環が発生する前に何があったのかを知ることが出来ません。円環が発生したというのもそもそも不適切かもしれません。原因が円環内にある以上、円環が無から形成されているのではなく円環の中で円環ができる原因が発生しています。
 したがって、円環が発生する前のなにかによって円環が形成されたとはいえず、ただ「円環があるから円環が出来た原因もそこにある」としか言いようがないのです。 

時の矛盾とは何か?

 作中では「卵が先か、鶏が先か」とも言われていますが、先に述べた通りタイムパラドックスです。
 タイムパラドックスの典型は「親殺しのパラドックス」です。その内容は「タイムマシンで過去に戻り、自分の祖父を殺した場合、そのタイムトラベラーはどうなるか」というもので、タイムマシンが成立しないことの論拠として提唱されました。

 7部内での典型としては「クワシルは未来の世界でグルヴェイグが自分の体の時間を戻して過去の時間に飛んだ事で世界に現れた存在である→グルヴェイグは未来でクワシルが成長した存在である」「この時にクワシルとグルヴェイグ、どちらが先に世界に現れた存在か?」というものですが、結論からいうと時の矛盾には因果関係が成立せず、答えが無いので分かりません。
 より正確に言うと「7部はそもそも逆説による運命論を破壊する話なので、逆説が成立する限り結論は循環するため回答できない」ことになります。

 時の矛盾は円環が存在する事で発生しています。典型例が先の問いですが、「黄金の蛇が先に現れたからニョルズの凶行が起きたのか、ニョルズの凶行が起きたから黄金の蛇が現れたのか」といったことも時の矛盾の一つです。
 7部は全体的にこの時の矛盾(タイムパラドックス)が無数にあり、過去に起きたことの原因が未来に、未来にした行為の結果が過去に起きるといったことが珍しくありません。
 なぜこのような時の矛盾が無数に発生しているのかの直接的な理由は、セイズらが時の力を行使することができるというものです。セイズらが時を渡り原因を未来に、結果を過去に置いているために因果関係が崩れて時の矛盾が発生します。
 しかし、時の力を行使できるセイズらがそもそも時の矛盾によって「存在する」という結果だけがあり、原因が存在しません。そのため、結局説明しようとすると因果が循環してしまい説明不可能になってしまいます。

 具体的な話をしましょう。最初にした典型例です。

 なぜグルヴェイグは存在するのでしょうか?
 そうですね、クワシルがいるからですね。
 では、クワシルはなぜ存在するのでしょうか?
 グルヴェイグが未来から過去に飛んできたからですね。
 なぜグルヴェイグは存在するのでしょうか?
 クワシルがいるからです。

 つまり、因果関係が循環してしまうため説明できません。これが時の矛盾です。因果関係を説明するためには時が過去から未来に、原因が過去に、結果が未来にあることを前提として、結果から原因を辿っていく過程を必要とします。しかし、円環の中では未来と過去が繋がっている為に原因を知ろうと過去を辿ると、必然的に未来に原因があることになってしまいます。

 では、7部でも実際に問われた問いを考えましょう。

 クワシルを殺した場合、グルヴェイグは消えるでしょうか?
 グルヴェイグはなぜ存在するのか。クワシルがいるからですね。
 クワシルはなぜ存在するのか。グルヴェイグがいるからですね。
 クワシルが過去、グルヴェイグが未来にあたるのだから、理論上はクワシルを殺せばグルヴェイグは消えるはずです。
 でも、本当にそうでしょうか?

仮説1 クワシルを殺すとグルヴェイグが消える。
 おそらくこの仮説は成立しません。この仮説は「因果関係は過去から未来への一方通行である」ことを前提にしているので、「未来から過去へ因果関係が構築される」逆説が前提となる7部では成立しません。仮説2か仮説3になるのではないかと思われます。

仮説2 クワシルを殺してもグルヴェイグが未来から飛んできてクワシルになる。したがってクワシルを殺しても無意味である。
 クワシルが存在するのはグルヴェイグがいるからです。したがって、クワシルを殺してもグルヴェイグがいる限りクワシルを完全に殺すのは不可能です。たとえ殺したとしてもグルヴェイグがクワシルになるので無意味です。
 そして、グルヴェイグを消すためにクワシルを殺すのですが、クワシルを殺してもグルヴェイグがクワシルになるので、結局因果が循環してこの問題には答えが出ません。

仮説3 クワシルはどうやっても殺せない。
 時の矛盾がある限り、仮説2のように結論が循環してしまって回答不可能になります。したがって、クワシルを殺そうとしても、「グルヴェイグを殺すためにクワシルを殺そうとしてもグルヴェイグがクワシルになるから意味がなくクワシルを殺せない」という結論になってしまうので、そもそも「クワシルは絶対に殺せない」ということになります。これはセイズやグルヴェイグも同じで、時の矛盾がある限り、彼女たちを殺すことは不可能です。

 最初に述べた一般的意味のタイムパラドックスの「親殺しのパラドックス」については様々な答えと考え方があります。その中に「CTC(閉じた時間の輪)」と光円錐というものがあります。簡単に言うと時間と空間は砂時計のような形の「光円錐」で構成されており、これは上部分が未来、下部分が過去で出来ているのですが、この光円錐が何かの力で傾くと未来に進んでいるはずの時がいつのまにか過去に戻っているという現象(CTC)になる、このCTCのなかを無数の独立した世界線が走っており、その中のひとつがタイムトラベルなどによって別の世界戦に移動すると他の世界戦も連動して動きつじつまが合うようになる、というものです。

 7部は円環や黄金の蛇の呪いのさらに根本的な原因に「時の矛盾による運命論」、上のタイムパラドックスの話でいえばCTCとつじつま合わせにあたる概念があるのではないかと思います。
 先の例「クワシルを殺すとグルヴェイグが消えるか?」が結論が循環してしまうように、円環内では時の矛盾、タイムパラドックスによって因果関係が循環してしまいます。よって、因果関係が循環することによる「回答不可能」という決まった事象を結論として、それをはじき出すためにすべての因果が逆説的に構築されていくことになります。
 先の例でいえば、時の矛盾によって結論が循環するので回答不可能になるため、回答せざるを得ない事象(クワシルが死ぬという事象)が排除されることにより、「クワシルはどうやっても殺せない」と考えることになります。これは「回答できない」という結論が先にある為、この答えに至る為に「クワシルは殺せない」という順序で物事が構築されていくので、手段と結果が逆転しています。つまり、クワシルを殺すという手段で結果がどうなるかを問うているのに、いつの間にか「回答できない」結果をはじき出すために「クワシルは殺せない」ということになっており、手段の前提が変わってしまっています。結論を導くために因果が作られています。
 つまり、特定の結論にするためにいつの間にか手段(因果)がどんどん書き換えられていき、因果から結論が作られるのではなく、結論から逆算して因果が作られてしまっています。
 同様に7部も「円環が完成する」という運命を実現する為に因果が収束していく為、その辻褄を合わせる為に事象が混在し時の流れと因果関係がめちゃくちゃになっています。

 セイズが黄金の蛇の呪いを免れた瞬間まで、すべてのできごとは予定調和であり、円環の完成という結論を構成するための因果でした。無限に繰り返す円環の一部でしかなく、エクラはセイズの呪いを解くことはできず、セイズはグルヴェイグになり、世界は滅びます。すべては円環の完成という結論に至る為の因果でしかなく、そのような運命論の拘束を免れる存在はいませんでした。
 しかし「今、この瞬間」のエクラがセイズに寄生する黄金の蛇を殺しその呪いを解いた事で、「今、この瞬間」のセイズは円環から逸脱した存在になりました。「このセイズ」はグルヴェイグになることはなく、グルヴェイグにならなくなるためにクワシルが現れることもなくなります。そうなると連鎖的に円環は崩壊し、最終的に「世界は滅ばない」結論に至ります。特定の結論に至る為に因果が構築されるという「時の矛盾による運命論」は崩壊します。

 この円環の崩壊を防ぎ、元の円環(時の循環)に戻す為に黄金の蛇はクワシルとグルヴェイグを使ってセイズを殺させようとします。
 しかし、黄金の蛇そのものの意思や動機は一切表現されません。無限に力を蓄えて何をするつもりなのかも不明ですし、円環の崩壊に憤る訳でもありません。
 そうなると、蛇そのものに悪意や邪念があるのではなく、セイズらや周囲の人間、7部にいる全ての存在と同じく、「円環を完成させる」という結論(運命)に至る為の因果関係を構築する手段にすぎないのではないかと思われます。
 すべてが「円環を完成させる」運命に至る為に逆説的に因果が構築されていっていると考えると全てについて説明がつきます。円環の完成の為の黄金の魔女グルヴェイグが生まれる為のヴァナの伝承の存在と世界の崩壊であり、伝承も円環もそれがあるから世界が滅ぶのではなく、円環を完成させる為にグルヴェイグも伝承も黄金の蛇も世界の崩壊も存在しています。すべては運命論によって定義づけられるので、そこには動機が存在しません。

黄金の蛇とは何なのか?

 セイズ、クワシル、グルヴェイグ、そしてヘイズに寄生している「何か」です。このような表現をしているのは黄金の蛇そのものには悪意も善意も価値判断もないように見える為です。
 先述の通り、7部は根本的には円環が完成するか崩壊するか、というのが話の核心なのですが、さらにその根本には時の矛盾による運命論が存在しています。この運命論を前提とするならば、黄金の蛇もまた円環を完成させるために動くただの舞台装置に過ぎません。この蛇がどこからきたのは全くの謎であり、クワシルと同じく「そこに存在する」という結論によって存在していると考えざるを得ません。なぜ存在するのかの動機を突き詰めれば、クワシルも黄金の蛇も「円環を完成させる」結論に至る為の因果の一部でしかなく、どこからやってきたのか、どういう動機によって行動しているのかは重要ではありません。
 メタ的に言えば、この蛇こそが運命論そのもの、特定の結論に至る為に因果関係を狂わせ事象のつじつま合わせをする概念そのものではないかとも思われます。

どうしてセイズの黄金の蛇を殺したのにグルヴェイグは消えないの?

 これも「クワシルを殺すとグルヴェイグは消えるのか」という問いと同じく、究極的には運命論により回答不可能と言わざるを得ません。
 ただ、ここにいう「セイズ」は黄金の蛇を殺すことに成功した「今、この瞬間」のセイズであり、円環から逸脱した存在です。
 これを前提とすると、次のように考える余地があります。

仮説1 時系列的に最も未来にいるのはグルヴェイグではなく「今、この瞬間」のセイズである。したがって、「今、この瞬間」のセイズが自身に寄生する蛇を殺しても、そのセイズから見て過去に相当するグルヴェイグは影響を受けない。
 エクラによって自分の身に宿る黄金の蛇を殺すことに成功した「今、この瞬間」のセイズがもっとも未来にいる存在であり、グルヴェイグはクワシルになる前、つまり「前のループ」のグルヴェイグであるということです。
 作中に登場するグルヴェイグは間違いなく世界を滅ぼしてエクラを殺害しています。しかし「今、この瞬間」のセイズが自らとグルヴェイグとクワシルの黄金の蛇を殺した事でこの未来は実現しなくなっているので、グルヴェイグは「今、この瞬間」のセイズの未来の姿というのはあり得ないはずです。
 作中の登場人物の全員が「自分のいる世界の未来にグルヴェイグがいる」と思っていますが、真実は「クワシルになり過去の世界に飛ぶ前の時間(前のエクラがいた、前のループの世界)における「未来の時間」に存在する人物です。すなわち、「今、この瞬間」のセイズの主観から見て、最も過去に存在しているセイズです。もっとも未来にいるのが「今、この瞬間」のセイズですから、このセイズがグルヴェイグにならなくなったとしても、このセイズと戦っているグルヴェイグはセイズの主観から見れば過去の存在ですから消滅しないのは当然です。

仮説2 「今、この瞬間」のセイズがグルヴェイグにならなくなった事により未来が分岐しており、グルヴェイグは「セイズがグルヴェイグになった」世界線の存在である
 タイムスリップによるタイムパラドックスを説明する時によく使われる文脈です。グルヴェイグは間違いなくセイズの未来ですが、完全に確定しておらず、「今、この瞬間」のセイズがグルヴェイグにならない事が確定した為に未来が分岐して、グルヴェイグは「セイズがグルヴェイグになった別の世界線」の存在となった、という事です。
 わかりやすく明快な説ですが、私は7部は一つの世界、一つの時間の〇ループ目の話だと思っているのでここに至ってパラレルワールドの世界の話を持ち出すのはいささか唐突ではないかと思います。なにより、この説では7部13章(一番最初に見るストーリー)のグルヴェイグとセイズが殺すグルヴェイグは同一人物でパラレルワールドの未来のセイズということになりますが、セイズの黄金の蛇を殺す瞬間まではパラレルワールドの分岐が確定しないはずなのになぜこのグルヴェイグが存在しているかの説明ができないのではないかと思われます。

仮説3 セイズの黄金の蛇を殺してもクワシルとグルヴェイグの黄金の蛇が残っている限りはグルヴェイグになる余地があるから。
 先述の「クワシルを殺すとグルヴェイグは消えるのか?」という問いの仮説2と同じで、例えセイズの黄金の蛇を殺したとしてもクワシルやグルヴェイグの黄金の蛇が残っている以上グルヴェイグになるセイズがいることになるため、グルヴェイグは消えないということになります。

 個人的には仮説1を採用したいところですが、仮説3もあり得るところです。「クワシルを殺すとグルヴェイグは消えるのか?」という問いと異なり、黄金の蛇を殺すことに成功した「今、この瞬間」のセイズは円環から逸脱し運命論と時の矛盾による因果関係の逆説が適用されませんから、回答不能ということはないので仮説3でも説明できるかなと思います。

なぜセイズとグルヴェイグは自殺が出来ないのか?

 黄金の蛇は円環の完成を目的としており、円環が破壊されるようなことをしようとすると阻止します。宿主である女神が永遠に生き続けることが円環の完成ですから、それを阻止しようとするものは宿主本人であっても許しません。それはセイズが自らの黄金の蛇を殺すことに成功した後、黄金の蛇がセイズを殺して円環の破壊を阻止するためにクワシルとグルヴェイグを現在の時間に呼び出したことからも明らかです。
 そのため、7部では描写されていませんが、クワシルもまた自殺ができないものと思われます。

「黄金の魔女」の伝承

 ヴァナに伝わる伝承で、遠い未来に現れる黄金の魔女グルヴェイグという存在が世界を滅ぼすというものです。
 が、それ以上の情報はありません。グルヴェイグがどういう存在なのかとか具体的な内容は全くありませんが、ニョルズはクワシルに正体を告げられた時にこの伝承に従ってグルヴェイグが現れるように運命付けられたかのような発言をしていました。
 ところで、7部の最後の戦いはグルヴェイグが存在する「未来の時間」ではなく「遠い過去の時間」のヴァナで行われています。この時間この場所に飛ばしたのは黄金の蛇です(正確には黄金の蛇がグルヴェイグを使ってその時間に特務とグルヴェイグを呼び出しています)。
 なぜ未来ではなく遠い過去で戦いが行われたのかの理由は語られませんが、これも運命論により「黄金の魔女グルヴェイグの伝承が存在するようにする為に、過去の時間において特務とグルヴェイグを戦わせ、その存在が「あった」ことにする事でグルヴェイグの存在を伝承として残させた」のではないか?と思います。

ヘイズはどうなったのか?

 7部の「今、この瞬間」のセイズとエクラは女神の契りを交わしているので、おそらく数年後に生まれてきます。7部内で死亡したヘイズは「前のエクラ」と「黄金の蛇を殺せなかった」セイズ(=グルヴェイグ)との間の娘です。死んでから生まれる、というかなり特異な生涯の彼女ですが、「今、この瞬間」のセイズは円環から逸脱してグルヴェイグにならないので、おそらく崩壊していない平和な世界で生まれてくると思われます。

なぜ最後にクワシルとグルヴェイグはセイズの心の中にいるのか?

 まず、7部の終わりにおけるセイズがどういう状態かを確認すると理解しやすいかと思います。
 セイズはそもそも光の女神であると同時に時の女神であり、もともと潜在的にグルヴェイグのように時間を操作する力自体は持っています。このことは櫂を取り戻したニョルズから力を得て、特務を連れて過去の世界へ逃げた時の力から理解できるかと思います。
 そして、無限にネルトゥスの力を得続けたブレイザブリクの黄金の蛇を殺し呪いを解く力がセイズに渡されました。これによって、セイズは無限に強化され続けた力と自身の時の力を行使することが出来るようになりました。
 エンディングムービーではエクラとアルフォンスが全く知覚出来ないのに対して、セイズはグルヴェイグが「次に何をするか」を予知したうえで彼女の黄金の蛇の呪いを破壊したことにより、彼女を殺害しています。
 したがって、セイズは7部終了時点でグルヴェイグに匹敵するほどの時を操作する力を持っていると考えられます。
 その力の一端がクワシルとグルヴェイグに使った手段です。まず二人の肉体から精神だけを切り離します。そして、それぞれの精神の「存在する時間」に干渉して、現在の時間に飛ばします。二人とも同じセイズですから、どちらの精神も現在の時間に飛ばされれば、飛んだ先はセイズの心の中です。
 また、この時点でセイズもクワシルもグルヴェイグも黄金の蛇を喪っている為、時の矛盾が発生することもありません。こうしてセイズは過去現在未来すべての精神がひとつの肉体の中に同居している状態となりました。

なぜネルトゥスは黄金の蛇やグルヴェイグの正体に詳しいのか?

 これだけは謎です。おそらくテキスト量の都合で彼女が詳しい理由を描写する余裕が無かったのでしょうが、その理由を推測する材料すら見当たらないので完全に謎です。
 あえてこじつけるならば、もともとヴァナにあった伝承に加えて「過去のネルトゥス」が特務に出会い、その後ニョルズがよからぬことを考え始めた辺りで何らかの時の矛盾を疑い始め、さらにその後「現在のネルトゥス」が特務に再会したことで時間が歪んでいることに気付いて行動していたのではないかと思われます。仮にも彼女はフレイヤやフロージのおばに当たるヴァナの神々の王族ですから、ヴァナの伝承にある黄金の魔女の存在と、過去のある時からそれに固執し始めたニョルズの動向、そしてある時突然現れた親が不明のヴァナの女神(セイズ・ヘイズ)によって勘付いたのかもしれません。

総選挙グルヴェイグとは何者なのか?

「グルヴェイグになったセイズ」が召喚の力によって、「世界を滅ぼした後、ヘイズを現在の世界に送る前」の瞬間から呼び出された存在です。ヘイズを現在の世界に送る前、ヘイズが誕生する直前に召喚されているので、これによって彼女はクワシルの姿に戻るという円環内の運命から逸脱した存在になりました。
 つまり、円環と時の矛盾による拘束を免れ、自身の意思で自由に行動できる、という「今、この瞬間」のセイズとほとんど同じ状態になっています。黄金の蛇に寄生されたままという点は異なりますが。
 エクラの召喚によって彼女は円環から外れてしまっているため、召喚された世界では円環が崩壊しています。しかし、円環が崩壊したのがグルヴェイグとなった直後であるため、たとえ彼女は運命の拘束から逃れられても、彼女のもといた世界は滅んだままです。

グルヴェイグはなぜ自分で運命を変えようとしないのか?

 あれほど時に関わる力を自由自在に行使する彼女ですが、その力を使えば円環を壊すことが出来そうなのになぜそれをしないのでしょうか?
 結論から言うと「自分の意思で動けないから」です。
 1章でも語られますが、グルヴェイグは自分の意思(意識)ははっきりあっても自分の力で動くことが出来ません。具体的に言うと円環が完成しないようにするような一切の行動がとれません。
 「今、この瞬間」のセイズが黄金の蛇を殺す力を手にした後、クワシルとグルヴェイグはセイズを殺すために現在の時間に現れます。しかし、これはグルヴェイグが自身の意思でそう行動しているのではなく、黄金の蛇によってこの時間に飛ばされてきています。つまり、グルヴェイグは最早抜け殻に意識があるも同然の状態で、自分で自分の体を自由に動かせません。円環を完成させるための因果を未来に作ること、それ以外の行動がとれないのです。

〇章の並び順が滅茶苦茶なのは何故なのか

 これは数字を昇順に読んでいくと話が繋がる、というものではありません。特務の主観を離れて、すべての時系列を客観的に観測した時に、1を最も過去、13を最も未来と位置付けてそれぞれの章が現在、過去、未来のどこに位置しているかを表したものです。
 よって、1章は遠い過去、2~4章は過去(クワシルの姿の時間)、5~8と9~12章が現在(セイズの姿の時間)、13章が未来(グルヴェイグの姿の時間)ということになります。
 ただし、13章のグルヴェイグは正確には「前のエクラ」がいた時間、つまり実質的には最も未来であり1章よりも最も過去の「黄金の蛇を殺せなかった時間」と考える余地があります。

結論:7部とは何だったのか

 7部とは、結局のところ「円環を完成させる」という時の矛盾による運命論に抗う物語です。運命論とは黄金の蛇すらも操る世界法則(あるいは黄金の蛇そのもの)であり、円環が完成すればその依り代であるセイズはグルヴェイグとなり運命と時の矛盾に拘束された抜け殻として世界を滅ぼし、円環が破壊されればセイズははじめて「セイズ」として未知の未来を生きていくことになります。

人物解説

セイズ

 黄金の魔女グルヴェイグの現在の姿であり、7部のいわゆるヒロインです。
 神々の国ヴァナの女神であり、光の女神様です。7部共通の概念として光は時、時は光であるので光の女神様ですが同時に時を操る力も持っています。最終的にネルトゥスの力が無限回篭った力を継承して黄金の蛇すら殺せるほどのトンデモパワーを手にしています。
 ヴァナの女神様でフレイヤやフロージと種族的には同じですが、ヤギには変身しません。また、人間と違って生存に飲食を必要としませんが、彼女の場合は人間と交流を深める為に人間の食べ物を食べているようです。若い娘の姿の女神ですが最低でも数百歳は生きており、円環の概念を考えると事実上永遠に生きている存在でもあります。
 ニョルズの教育なのか女神様らしく振る舞わなければならない、という責務感が強い態度を取り、人間に対して「人の子よ」「導きましょう」と若干上から目線の喋り方をします。しかしセイズ本人の人格は人間に対して好意的で歩み寄ろうとする温厚で真面目な性格で、ネルトゥスの言葉によればこういった人間に興味を持ったり好意的な神というのは珍しく、普通は無関心らしいです。
 一方で責務感が強いのに方向音痴ですぐに迷子になる、一度ミスをすると「こんなのでは私は方向音痴の女神として語り継がれてしまう……」と落ち込む、と空回りしがちで少々気が弱く、追い詰められると怒るより泣いてしまう優しい性格です。
 クワシルやグルヴェイグと比べて周囲と交流が多く、ヘイズを本当の妹のように可愛がっています。実際にはヘイズとセイズは姉妹ではなく母と娘なのですが、本人達はそのことを知りません。しかし、走るヘイズに対して急に走ると危ないですよと声をかけたり世話をするセイズの態度を全てを知ってから見ると、無意識的にとはいえ母親と娘のやりとりとして決して不自然なものではないように思われます。
 エクラに対しては(封印されているクワシルの時の記憶から)過去にあったことがある、とうっすら覚えており、自分が神託を授け、新たな神を生み出す為の相手として選ぶ程に好意を持っています。セイズ本人は「女神として相応しい態度を」と自制してるのでなかなか表立って態度に出さないのですが、クワシルやグルヴェイグの発言や態度から彼女の内心がどうであるかは容易に想像がつくようになっています。
 意外にもニコッと無邪気に笑うタイプです。ヘイズは母親とあまり似ていない性格に見えますが、こういうところで似ている親子なのかもしれません。
 同じ存在であるにもかかわらず、虚無的なクワシルや悲観的なグルヴェイグと比べて前向きで明るいです(それでも屈指の陽キャのシャロンやピアニーと比べるとだいぶ落ち着いていますが)。この姿の時は円環内でどのような運命を歩むかを全く知らず、また周りを多くの存在に囲まれた幸福な時期である為でしょう。
 ネルトゥスに無限回強化されたブレイザブリクの力を受け取っているため、7部の彼女は最終的には「黄金の蛇によって無限回強化されているグルヴェイグ」と同等の力をお持ちです。まあネルトゥスに教えてもらったとはいえ過去と未来の自分の精神を肉体から切り離して現在の時間に送るという離れ業をやってのけるくらいなので、7部終了時の彼女は事実上グルヴェイグと同じことが出来ると考えてよいと思います。

グルヴェイグ

 黄金の魔女グルヴェイグ、と呼ばれる存在で、セイズの未来の姿です。正確には黄金の蛇を殺せなかったセイズの未来の姿です。
 単騎で世界を滅ぼすというギムレー並みのトンデモパワーの持ち主で、FE史上最も強いラスボスではないかという説もあります。
 その能力はやりたい放題とはこのことと言っても過言ではなく、ドラえもん的表現でいえばタイムマシン(対象を現在の状態のまま別の時間に送る)、タイム風呂敷(触れた相手の時間を操作する)的な力の両方を自由自在に行使できます。タイム風呂敷の方は人間はおろか同族のヴァナの神、さらには世界そのものの時間を進めたり戻したり非常に汎用性があります。さらには自分自身の時間も自由にいじることが出来、クワシルの姿になったあとに過去に飛ぶ、その際に力と記憶のほとんどを封印する……と、この人にできないことはほとんどないんじゃないかと思うほどです。
 過去にも時間に干渉する力を持つ神は多くいました(ナーガ、ギムレー、ミラ、ソティスなど)。しかし、これらの神は時に関わる力を行使する際に何らかの制約があり、ギムレーに至っては過去に戻るときに記憶が吹っ飛んでしまいました。
 一方、グルヴェイグはもののついで感覚でほいほい時間を操作でき、自分を含めた複数人を同時に過去に飛ばすこともいとも簡単にやってのけます。総選挙グルヴェイグのおもあつでは禁じ手の「本人同士で戦わせる」が現実的な手段として使われるレベルで段違いに強い神です。なおグルヴェイグ同士が本気で戦うと世界が滅ぶそうです。単騎で世界滅ぼせるんだから当然である。
 この「時間を操作する」力ですが、おそらくセイズが元々持っていた時を操る力に、黄金の蛇の無限に強化される特性が合わさって実現したものです。セイズの時を操る力を無限に強化しまくった結果がこのやりたい放題パワーな訳です。
 ですが、7部の円環内のグルヴェイグはその力を自分の為には使えません。時の矛盾と運命論によって、因果関係が崩れている為に、過去に起きる結果を起こすための原因を未来で作らねばならない彼女は運命論によって「円環を完成させる」以外の行動を取ることが出来ません。意識だけがある抜け殻として、円環を完成させるために必要なことをひたすら実行するだけの存在になっています。
 また、グルヴェイグはセイズであった頃、クワシルであった頃の記憶を過去に封印していた部分も含めてすべて思い出し保持しています。その為エクラに対し「はじめて好きになった人」「(要約)過去も現在も未来も好き、今この瞬間も好き」と多大な好意を素直に表現します。なお英語版では直球に「I love you」というので明らかに配偶者としての愛情を向けています。
 一方でこの姿になっているということは「ヘイズを自分の手で殺した」「円環を完成させる以外の行動がとれない」「自分の体が自分の意思で動かせない」ということなので非常に悲観的で絶望に染まった陰鬱な性格をしています。
 ただし、円環を完成させる以外の行動がとれないというのは時の矛盾による運命論がはたらく円環内に限られるので、召喚によってこの姿のまま円環から外れている場合は異なります。神階や水着の彼女は円環から解放されて自由なので非常に嬉しそうです。この状態でも黄金の蛇はついたままですが、彼女自身は(蛇がヘイズでもあることもある為か)黄金の蛇に対し敵意を持っていません。むしろよく触っているので関係は良好に見えます。水着の時は蛇型のフロートを持っているくらいだし。

クワシル

 黄金の魔女グルヴェイグの過去の姿であるクワシルは、未来から過去に飛んだグルヴェイグが記憶と力の大部分を封じている為に経験も交流もほとんどなく虚無的で依存的です。
 自分が何者なのか、どういう運命を辿るのかを漠然と理解していても自分に繋がる「自分以外のなにか」の情報が全く存在せず、円環の仕組み上セイズらには親が存在しない為にエクラに会うまで天涯孤独の存在でした。セイズにはヘイズがいますし、グルヴェイグは過去の記憶をすべて保有している為に他者に対して情がありますが、クワシルにはそれも無い為自分が生きている意味が分からず何の楽しみも無い虚無そのものの命だったようです。
 その為はじめて出会った人間であるエクラと過ごした100日間の記憶だけが彼女のアイデンティティのすべてと言っても過言ではありません。
 したがって、エクラに対してセイズやグルヴェイグと比べても並々ならぬ執着を見せており、正月には自分が一番最初にエクラに挨拶したい、と言ってセイズに対して対抗心あるいは嫉妬といった意思すら見せていました。7部内でもセイズに「楽しいことはありましたか? 好きな人は出来ましたか?」と問い、死に際にエクラと過ごした楽しい思い出の事すら否定しており、自分の生に価値を見出せない一方で幸福そうなセイズを羨むような態度を取るのが特徴的です。
 なお、セイズの幼い頃の姿ですが特定の箇所がだいぶお清楚な感じになっています。フレイヤの幼い頃の姿であるアイトと比べてもだいぶ清楚なのでセイズに進化する過程でどういうメタモルフォーゼが起きたのか興味深いですね。

ヘイズ

 セイズの妹……じゃない! 本当は実の娘です。
 セイズとエクラの間に生まれた娘で、現在の時間で二人が女神の契りを交わした後、未来の時間でグルヴェイグの目の前で誕生しました。その後、グルヴェイグにより現在の時間に送り出され、何も知らないままセイズとは義理の姉妹としてニョルズに仕えていました。
 グルヴェイグに呪われて黄金の蛇の呪いを宿している……ということになっていますが、おそらく呪い自体は生まれた瞬間から宿しています。彼女が呪いを持った状態で現在の時間に飛ばされ、さらに黄金の蛇を宿しているセイズに呪いを継承させることで黄金の蛇は強化されていきます。
 ひどい言い方をすれば、彼女は母親を「円環を完成させるための存在」に仕立て上げるための道具に過ぎません。彼女とセイズの間にある親愛の感情すら、セイズが宿した黄金の蛇の呪いの為の布石でしかありません。呪いはセイズが絶望を経験するたびに彼女を蝕み強くなり、ヘイズを喪うということがセイズをグルヴェイグに変異させる決定的な要因のひとつであるからです。
 無邪気な性格の女神で、外見以上に幼く見えます。セイズ以上に女神らしくなく、姉が神託を与えた相手に興味津々です。女神らしい振る舞いをするという考えもないのか、無邪気に走ったり人間に興味を持ったりとありのままに振舞います。誰に対してもとてもフレンドリーで、特に姉(実際は母親)のセイズを慕っており、もし自分に何かあったら姉を助けてほしいとエクラにお願いし、姉の手にかかって絶命する瞬間ですらその最後の言葉は「お姉さまのせいじゃない」「ずっと大好きですから」でした。

ニョルズ

 人間ガチ嫉妬論理飛躍世界滅亡希望中年おじさん。以上。
 というのはあんまりなので真面目に解説すると、光の国ヴァナの現国王で、フロージとフレイヤの父親です。一応ヴァナの神々の王なのですが、その内心は年老いて弱っていく自分への絶望と人間への嫉妬に満ちており、この感情がグルヴェイグを生み出す最初のきっかけになってしまいました。
 まあ結局は7部はすべて運命論に帰結するのでこのおじさんの凶行も円環を完成させるために逆説的に決定された行動なのですが、テキスト量を限界まで節約してセイズの描写に振っている7部シナリオでは正体表したね♂死んだわ……のスピード展開であっさりご退場あそばされました。
 余談ですが、グルヴェイグは誰かを殺す時は「対象の時間を生まれる前に巻き戻して消滅させる」手段を取るのですが彼を殺す時だけは「時間を進めて老化させて」殺しています。それもわざわざ「お前は年老いて力と若さを失うことを恐れた。だから時間を未来に動かしてやる」と宣言されたうえでやられています。この時のグルヴェイグはあまり表情が分かっていないもののかなり怒っており、明確に憎悪と殺意、そして彼をより苦しめる為の手段をあえて選ぶ残忍性を向けていることが分かります。グルヴェイグ本人はこの時の事を「セイズだった時に望んだこと」と表現している為、逆説的にセイズはこの時にニョルズに対して憎悪と殺意を抱いたということになります。

ネルトゥス

 人間ガチloveカワイイカワイイネお姉さん。
 大地の女神であり、ニョルズの妹で、フロージとフレイヤの叔母です。そのためヴァナの王族でもあり、セイズとヘイズからは様付けで呼ばれています。
 ニョルズとは何もかも正反対の性格で、人間が大好きです。人間に限らず大地に生きている生き物すべてが好きであり、子犬や子猫をかわいがる感覚で愛でます。これは別に人間を下に見ている悪意的なものではなく、神々からすれば定命の人間は全て幼い子供のようなもので純粋で小さな生き物に見えている為です。我々人間が犬や猫を無条件にかわいいと思うようなものなので、突き詰めて言えば彼女も人間を自分と同等の存在だと尊重していない訳でもあります。ただ、人間視点でいえば無条件で人間を愛して助けてくれる彼女は文字通り大地母神というべきでしょう。
 円環内で起きることを予知できているのか、ニョルズのたくらみを見抜いて彼の神器である櫂を盗み出します。が、その後「再会した」特務に懇願されてこれを返し、未来を予知しているかのような謎めいたヒントを与えます。その後、ヘイズが死に、ニョルズが死に、セイズは呪いを受けて八方ふさがりの特務の前に現れて今何が起きているのか、何がそもそもの元凶なのか、これからどうすべきなのかを語り、導きます。そして、自らの力を与え、無限の円環の中でとうとう黄金の蛇を殺すことに成功したのを見届けた後にヴァナに帰っていきました。
 7部において最も謎めいたお姉さんで、グルヴェイグとクワシルを除き円環の存在を唯一最初から知っていた人物です。自分たちが無限に繰り返す時の循環の中にいることを知っており、これを打開するためにブレイザブリクに無限に力を与え続けるということを繰り返していました。
 なぜ彼女が自力で円環の存在に気付いたのか、どうすればよいのかを知っているのか、その答えは7部では開示されていません。
 あえてこじつけるなら、光は時という概念の下では光の神々であるヴァナの神であれば時の力を潜在的に秘めており、ネルトゥスはこれによって時の循環に気付いた、あるいはネルトゥスは最初に特務が「再会」した相手でもある為、過去の世界と現在の世界で特務に会った際に時の循環に気付いたといったところでしょうか。


黄金の蛇

 人物というか概念に近いですが一応自我?らしきものがありそうなので……。
 7部における元凶であり、円環を完成させるために様々な事象を操作している張本人です。セイズの中にいる蛇が殺されて円環が崩壊しそうになるとより直接的な手段を講じるようになり、宿主であるクワシルとグルヴェイグをセイズのいる時間に飛ばして殺し合わせ、セイズを殺すことで円環の崩壊を阻止しようとしました。
 その目的はセイズという女神に寄生し、彼女が時の循環によって永遠に生き続けることを利用して無限に力を蓄えることにあります。
 セイズが過去から未来へ、未来から過去へわたり永遠に生きる「円環」の過程において儀式を行うことによって力を増幅します。この儀式については詳細に語られませんが、おそらくセイズがヘイズから呪いを受け取ることではないかと思われます。クワシルとグルヴェイグは黄金の蛇に寄生されていますが、セイズはヘイズから呪いを受け取ることではじめて寄生されるのではなく、最初からセイズもまた黄金の蛇に寄生されており、ヘイズから呪いを受け取ることでさらに呪いを増強し、さらにヘイズを喪った悲しみと絶望によって呪いの浸食が進む……という過程を経てセイズはグルヴェイグに変異するのではないかと思われます。
 そんな黄金の蛇ですが、蛇自身の意図は「無限に力を蓄えること」以外にはいっさい語られません。力を蓄えて何をしたいのかも、どこからきたのかも、どういう存在なのかも不明です。
 勝手な推測ですが、この黄金の蛇もまた時の矛盾による運命論によって「存在する」結論だけがある、クワシルと同じような存在なのではないかと思われます。あるいは運命論そのものの擬人化かもしれません。
 すべての元凶であるにもかかわらず、意外にも宿主との関係は良好です。蛇はグルヴェイグの杖を持ってあげていますし、グルヴェイグはよく蛇の頭を撫でています。水着の時は蛇型のフロートを持っています。グルヴェイグとセイズはニョルズに殺意と憎悪を向けましたが、自身やヘイズに寄生する黄金の蛇を憎んだりはしません。寄生して宿主を操作する蛇と寄生されている女神ですから憎悪しあっていてもおかしくはないのですが、そういう単純な関係ではなさそうです。黄金の蛇はヘイズでもあるので、そういった事情が関係しているのかもしれません。

その他の小ネタ

・ヴァナの女神は人間では殺せない。
・神々は人間に興味がないのが普通で、ネルトゥスやセイズ、ヘイズのように人間に興味を持ち好意的な神の方が珍しい。
・クワシルの服は未来のもの。過去の魔女だが、初めて世界に現れたのは未来の世界である。
・「希望の光は消えません。あきらめない限り、この胸の中に」「女神に嘘をついてはいけない」「誠実な人間であれば女神は人間の願いを叶える」はセイズ、クワシル、グルヴェイグのみが言う発言である。その為、ヴァナの共通認識ではなく時の矛盾によって生まれた概念である可能性がある。
・光の国ヴァナは海の世界。元ネタの北欧神話でニョルズが海の神であることから。浜辺に咲いている光る赤青の花は4部の悪夢の世界に咲くものと同じ。
・ヴァナの背景にあるタイル模様は中東のモザイクタイルモチーフと思われる。神の威光を模様で表したもの。門の下に飾られている模様はナザール(トルコの魔除け)モチーフと思われる。ヴァナは全体的に中東モチーフと思われるものが多い。
・セイズの纏っている羽衣、グルヴェイグの黄金の蛇は日本神話モチーフと思われる。上記の中東モチーフと合わせて、中世ファンタジーから離れたエキゾチックな雰囲気を演出するためと思われる。
・ヴァナの紋章は∞と光を表したものと推測される。ヴァナ所属のセイズ、ヘイズ、ネルトゥス、そしてクワシルとアイトはこの模様を身に着けているが、それぞれ微妙にデザインが異なる。
・7部のヴァナ所属の神は頭の周囲に輝石のようなものが浮かんでいるが、グルヴェイグのものは時針と分針と光背(仏像の後頭部にある神の光を模した装飾)を表している。
・セイズのパーソナルカラーが虹色なのは光の女神からプリズムをモチーフにしていると思われる。
・グルヴェイグが上腕に付けている腕輪は蛇がモチーフ。
・アルフォンスは最初にヴァナに来た時点(ヘイズを助けに行ったとき)で既に「グルヴェイグも呪われている」可能性に気付いている。
・金糸の川(地名)、「金色の光よ」(儀式の呪文)、金色に光るブレイザブリクなどヴァナに関わるものには金の文字が使われることが多い。光の国ヴァナ=光=光は時=時を操る黄金の魔女、ということと思われる。

おわりに

 7部は非常によくできたシナリオである反面、極めて理論的、概念的、抽象的で難解なシナリオでもあります。この記事が7部のシナリオを理解する手助けになれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?