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100円ショップのアイドル「スマプロ!」は“まだ”続いている

※下記記事の続きです。

1月に書いた「100円ショップのアイドル「スマプロ!」は続いている」が、おかげさまでそこそこ話題になりました。その日はたまたま友人宅でボードゲームを遊ぶ予定があって、 これを書き上げた直後に家を出たのだけど、どんどん増えていくRTが気になって仕方がなくて、遊んでいる間も気がそぞろだった。もっと集中してたらあのカタンだって勝てたんだって。本当だって。

詳しくは前回のテキストを読んでほしいのですが、「スマプロ!」(以下スマプロ)は昨年の秋にデビューした、12人組のアイドルグループ。

デビューと言っても、100円ショップ・セリアで何の説明もなくカレンダーが発売されたほかは、メンバーとプロデューサーの呟くTwitterアカウントがあるだけ。一発ネタにしては手が込んでいるな……と思っていたら、そこから突然のハロウィンイベント・アニメ誌進出・ファンによるMMDモデル化……と、予想だにしなかった目まぐるしい展開を見せていきました。
小さなコンテンツには不釣り合いなほどの大きなうねりと、日々の更新から垣間見える圧倒的なやさしいせかいに、私たちスマイルプリンセス(※)はみるみるうちにのめり込んでいったのでした。

そして、想定外の怒涛の展開から4か月が経った今、スマプロを追う私たちを待ち受けていたのは……

想定外の怒涛の展開でした。

それは私がほかの2次元ジャンルを通ってこなかったがゆえの、傍から見ればありふれた話なのかもしれません。それでも、誰かが書き残さなければ流れてしまうだろう、この熱をきちんと記録する。そしてあわよくば、これを読んだ誰かもその熱に浮かす。誰かしらがそうしたことをやっていく必要があるんじゃないかと思いました。当事者が誰も書き残さなかったことで、嘘を吹聴する誰かが定着させてしまった歴史というものを、この数年ですら私は知っている。

そういうわけで、前回の記事から4ヶ月間のスマプロの動きをまとめてみました。すごいよ。

なお、本稿では個々のキャラクターの魅力についてはあまり掘り下げません。私がそういうハマり方をしていないというのが主な理由なのですが、キャラクターについてはユノモトさんのこのプレゼンが完璧すぎるので、そちらをご覧ください。ほら、あなたの琴線にもきっと誰かが触れている。

(※) 「スマイルプリンセス」という呼称は、自称スマプロ1のイケメン・鳴神煌さんくらいしか使っていないので、たぶん彼が個人的にそう呼んでいるだけで、オフィシャルなファンの総称ではないのだろうと推測しています。私なんかは面白がってTwitterで「俺たちスマイルプリンセス」とか言ってたりしますけど。

襲い来るコミカライズ

いきなり大変なことになった。

2月18日、スマプロがコミカライズされることが発表されました。3月から、アニメイトブックストアでの先行配信を皮切りに、各サイトで電子書籍として配信されていくとのこと。
駆け出しも駆け出し、やっとメディアに出始めたはずのアイドルの、怒濤のシンデレラストーリー(男だけど)。公式アカウントの過去最大級のRT数を叩き出したことからも、そのインパクトの大きさが読み取れます。

おそらく、そのRTの多くは「あの100円ショップのやつが漫画化すんの?いつの間にそんな大きくなったん?すご」という反応だったのではないでしょうか。ですが、これまでの経緯をつぶさに追ってきたはずのスマプロの民にとってみれば、ジャンル規模を肌身に感じていた分だけ、よりその衝撃が大きいものだったように思われます。
繰り返すようですが、ファンが当初持っていた情報はカレンダーと公式サイトだけ。想像で埋めようにも限界のありすぎるスタートです。そこからの供給も、時々ボーナスのように描き下ろしが現れるほかは、基本的には週に2度更新されるTwitterだけ。わずかにこぼれ落ちる情報から想像をフル回転させることに、いつしか慣れてしまっていました。
そんな日照り続きで逞しく育ったスマプロの民に、毎週新作漫画がやってくる。どう考えても刺激が強すぎます。デスソースは直飲みするものではありません。

結果として、アニメイトブックストアでの先行配信が開始される毎週金曜日には、日付が変わると同時に謎の発狂をするスマプロの民が続出したのでした。それは内容への叫びであると同時に、カレンダーの終売以降、長らく途絶えていたオフィシャルな課金先が現れたことへの叫びでもあったのです。
ちなみに電子書籍は1話100円(税抜)です。徹底している。

ここでは各話の内容に踏み込みはしませんが、ほとんどすべての話に通底しているトーンとして、メンバー間の信頼関係の深さを描いたものが多かったように思います。このアンソロに参加された先生方の目にも、このグループがそういう関係性のものとして映っていたのでしょう。わかる。私もそう思う。

そして、電子媒体での連載は全10話で終了したのですが、話はここで終わりません。さらに描き下ろしを加えた紙媒体の書籍が、6月に発売されることも明らかになったのです。

ついに100円では済まない高額グッズの登場です。さあ、どうする。

ちなみに私はといえば、かつてちょっとした軽口から星色ガールドロップのアンソロを3冊買う羽目になったのですが、

また同じことを言っていた。馬鹿かお前は。

2020年を生きている

「カレンダーアイドル」という耳慣れない出自の通り、スマプロの12人は誕生月が全員異なります。そのため、月に一度のメンバーの誕生日には、デコレーションと共にメンバー全員でお祝いするのが、毎月の恒例行事になっています。

ちなみに、誕生日が土日祝日の場合は直近の平日にお祝いします。ホワイト。

毎月の風景として定着していたこのお祝いに、事件が起きたのは2月14日。二之宮真白の誕生日のことでした。
誕生日を祝うリーダー・王春さんからのコメントがこちら。

真白、誕生日おめでとう。二十歳になるな。

もう真白とも一緒に酒が飲めるな。

二十歳になる? 酒が飲める?

そう、カレンダー発売当初、彼は19歳とされていました。それが誕生日を迎えるとともに、公式サイトの年齢表記が20に引き上げられたのです。つまり、スマプロのメンバーは誕生日を迎えると年齢が上がることが発覚したのです。
「誕生日を迎えると年齢が上がることが発覚した」。ここだけ切り取ると馬鹿が言っているとしか思えませんが、これって字面通りの話ではなくて。
こうしたキャラクターコンテンツのほとんどにおいて、年齢の概念はそこまで現実とリンクしていません。設定としての誕生日が存在していても、現実にその日を迎えたところで、キャラクターの年齢は変わらないことが多いでしょう。あるいは、年齢は上がるけれども、現実とは異なる時間軸を動いているか。誕生日を迎えて年齢が上がるということは、彼らが私たちと同じ、2020年の現代に存在しているということでもあるのです。

スマプロにおいて、私たちはプロデューサーやスタッフではありません。運営に介入する裏方ではない、純粋なファンとして、アイドルと対峙することができます。それはつまり、3次元のアイドルと同じような関係性です。それが意図したものかは分かりませんが、結果として、アイドルとファンという、現実の自分にもあり得る関係性の存在が、彼らの実在性を浮かび上がらせることになるのではなかったか。
そして、彼らが私たちと同じ時を刻む存在であることがより明らかになったことで、より現実味のある存在になったように思われます。幻覚を強めるには十分な情報です。

ちなみにこれによって、登場初期に「落丁おじさん」として局地的な人気を得てしまった十守時雨さん(42)が、今年に入って厄年を抜けていたということも判明しました。よかった、落丁は後厄のせいだったんだ。

ところで、彼らが2020年のいまを生きているということは、彼らの活動が日本の社会情勢とリンクしている、ということでもあります。
春を迎え、世間がどんどんイベント中止、外出自粛の方向に向かっていく中で、彼らも十分に稼働できない日々を迎えることになります。定期的にTwitterで行われていたライブや撮影といった活動の報告も、めっきり聞かれなくなりました。

そんな中でもメンバーの誕生日はやってきます。全員で祝っていたはずのあのイベントはどうなるのだろう。

そしてやってきた4月17日。メンバー最年少・卯崎あきらの誕生日は、

リモートで祝っていた。

雑コラだと言って笑うのは簡単ですが、ここまでして同じ時間軸での実在性を保証しようとする動きに、なんか、いいなあと思ったのでした。

5月24日、セリアに走れ

時は少し流れて、5月18日。スマプロの企画運営元、アミファの四半期決算資料が公開されました。決算資料というのは基本的には投資家のためのものなのですが、スマプロにおいては貴重な公式の情報源の一つとして認識されています。それがファンの在り様として正しいかどうかはともかくとして。

そして今回公開された、第2四半期の決算説明資料にこんなことが。

5月末100円ショップにて関連グッズ3商品出荷開始

ついに、だ。アニメ雑誌や電子書籍など、課金先自体は散発的に表れこそしてきましたが、ホームともいうべきセリアでの商品展開は、カレンダー以降長らく途絶えたままでした。そこに明らかになった、待望の新グッズの存在。
スマプロの民はざわつきました。ついに来るのか、と。そして、やっぱり100円なのか、と。

とはいえ、この時点では出荷開始時期が5月末としか明記されておらず、具体的に何が発売されるのかさえ、定かではありませんでした。
いったい何が来るのかと、それぞれがあれこれと想像を巡らせていた5月23日の夜。タイムラインに衝撃が走りました。

スマプロのマステセリアに売ってた可愛い🥺🥺

誰も見たことのないマスキングテープの画像が、そこにはありました。

え、もう売ってるの?

「なにが」「いつ」出るのか。グッズとしての根本的な情報がどこにもない中、突如として現れた謎の新商品。タイムラインはどよめきました。オフィシャルな告知はないはずだけど、ひょっとしたらもう何か売ってるんじゃないか。残りの商品というのも、実はもう手に入れられるんじゃないのか。マジで?

そして、翌5月24日。Twitterのタイムラインにあったのは、居てもたってもいられなくなった何人ものスマプロの民が、(ソーシャルディスタンスに配慮しつつ)各々の最寄りのセリアを目指す姿でした。その中には私も含まれています。あれだけ待ち望んだ新しいグッズが、やっと物理で手に入るかもしれない……!

でも、ちょっと待ってください。私たちが持っている手掛かりは、マスキングテープの画像だけ。昨日見たばかりのそれが全国の店舗に行き届いている保証なんて、どこにもないんですよ?だいたい、そもそも何が発売されるのか、私たちまだ誰も知らなくないですか?
何が売っているかも分からない、そもそも売られているかも分からないのに、何人ものファンがいっせいに動き出す。それは本当に、これだけ情報網が発展した、2020年のアイドルジャンルの姿なのでしょうか。

そこから数時間のうちに、店員への問い合わせなどを行った人たちの情報提供によって、新グッズが何であるか、予約が可能なのか、という情報が共有され、徐々に全貌が明らかになっていきました。令和の時代に、泥臭く控えめな人海戦術が生きていたのです。
私自身はその過程においてまったくの役立たずだったのですが、多くのステークホルダーが絡む産業のようなジャンルであれば、絶対にありえない経験でした。正直楽しかった。

そして、狂乱の一日から一夜明けた25日から、新しいグッズの情報がオフィシャルにも公開されていきました。

※バドゥル様は日本語を話されないので、必ず執事の日本語訳が付きます

最終的に、今回発売されるグッズは以下であることが分かりました。

・マスキングテープ 2種
・クリアファイル 4種
・缶バッチ 6種
・キーホルダー 12種

なんか1商品増えてませんか。

値段はもちろん100円(税抜)で、しかも全てランダム要素なし。コンプリートしても2400円(税抜)です。心にも財布にもあまりにも優しい。

Twitterの反応を見ていると、新グッズが発表されてから、スマプロを話題に挙げる声がこれまでよりも少し大きくなったように見えます。「あの100円ショップのやつが新しいグッズ出すの?いつの間にそんな大きくなったん?すご」といった感じで、改めてスマプロの存在を思い出した人もいるように見えます。そうした人の中から新たなスマイルプリンセスが生まれることを、願ってやみません。

ただ、私はこうしたグッズに手を出したことがないから、この値段設定が私の中の基準になってしまうんですが、それは不幸な未来の呼び水ではないのでしょうか。大丈夫でしょうか。

あと個人的には、24日のような行動は今後は控えたほうがいいんだろうなあ、という意識もあります。一応。

アイドルを応援するということ

アイドルを応援するということは、そのアイドルが成長していくストーリーを、一緒に追いかけていくことだと言います。そうした意味で、スマプロは本当に分かりやすく「成長の軌跡」を見せてくれているコンテンツだと思います。

前回の私のテキストから話を広げてくださっているのですが、その中にこう書かれています。

スマプロ!を、三次元の「アイドル」のことだと思って見てみると、多分わかりやすい。
小さな事務所の新人アイドルユニットが、初めて掴んだ大チャンス。それが100円均一のカレンダーのモデルだった。口コミでそれが話題になって、彼らは誰なんだ?とネットも湧いて、そうして辿り着くのは、所属事務所のプロデューサーのTwitter。そこから得られる情報と、新たな雑誌の取材で少しずつ明かされていく彼らの一面。
ありそう。普通にありそうじゃないですか?
(1/25  アイドルは次元を超える|橋本)

私それ知ってる。スマプロって言うんですけど。

この頃のことを考えると、この数か月の動きは、この頃からさらに少し成長した彼らの姿を見せてくれているのだろうと思います。それが、ひっそりと売られていた、100円のカレンダーから始まったことなのだと思えば、とてつもない成長譚です。
しかも彼らは私たちと同じ時間を生きている。あと15年もしたらあきらくんは成熟したいい大人になるし、諒さまは15年前を思い出しては枕に顔をうずめて、声にならない叫びを上げるのでしょう。それが私と同じ時間軸の上に存在している。これはもう名誉実在アイドルです。

……いや、そういう話がしたいんじゃなかった。
とにかく、あの謎のカレンダーから8か月を経て、スマプロは予想だにしなかった領域にまでたどり着いてしまいました。今後も新たな展開を見せてくれるんじゃないかという期待が高まります。
新しいグッズの画像に惹かれた人も、電子書店での見覚えのあるカバーに引っかかった人も、あの記事を一度笑って終わっただけの人も、いまからでも間に合う成長譚は、いかがでしょうか。

私は沼の底で厄介古参にならないように気をつけます。

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あとまだマスキングテープしか買えてないので、今日仕事終わったらまたセリアに行きたいです。

余談:生活の解像度

以下、本編に絡めづらかった個人的な余談をいくつか。

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上でも少し話しましたが、それこそ覇権と呼ばれるようなジャンルには、多くのステークホルダーが存在し、それらのシナジーを最大にするために、情報解禁のタイミングもシビアにコントロールされるはずです。
そういったジャンルに比べると、スマプロにはごく少数のクリエイター、ひょっとしたらたった一人の持つ価値観が、色濃く反映されているように思えてなりません。ひょっとしたらこれは、かつてコミティアの島中で見た創作作品なんじゃないかと思ったくらいに。

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アンソロジーコミックの各話の最後に必ず、こんな一文が添えられています。

◆本作品は「SMAPRO!」をそれぞれの作者が独自の解釈に基づき制作したものであり、「SMAPRO!」における公式見解ではありません。

あくまでも公式ではないと位置づけることで、ファンフィクションの方向性を縛ろうとしない、さとうPの姿勢が伺えます。それは同時期に公開された二次創作ガイドラインからも然りで。

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スマプロを追うようになってから、100円ショップの見方が少し変わった気がします。それまでは私の中で100円ショップA・B・Cでしかなかった、セリアとダイソーとキャンドゥの違いに敏感になった。
そして、そこに商品を卸している企業の存在に目が行くようになった。セリアで商品を探している時に、アミファのものを選んで目に止めるようにしている自分の存在に気が付きました。決してそれがスマプロの狙っていたものではないと思うのですが、明らかに私の見る目が変わったように思います。
知ることが生活の解像度を上げていくのです。

追記 (2020.06.22)

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※この記事に続きます。