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そして、100円ショップのアイドル「スマプロ!」は、

その告知は突然やってきました。

100円ショップから生まれた異色のアイドルグループ「スマプロ!」(以下スマプロ)の活動休止のお知らせ。2019年秋にカレンダーを発売してから、およそ2年と数か月のことでした。
それは想像だにしなかった結末……では、決してなかったかもしれません。それまでの数か月を備に追いかけていたスマイルプリンセス(※)の中には、そうなる未来が訪れることを予見できた人も、いたように思います。しかしそれでも、タイムラインが阿鼻叫喚に覆われたのは、言うまでもありません。

スマプロについては過去、3回にわたってここで取り上げてきました。インフルエンサーの文章だけ読んだ人が、カレンダーの一発ネタだとだけ思って通り過ぎていく(被害妄想含む)のが悔しくて、あなたがひと笑いしたでは終わらない、ちゃんと続いているプロジェクトなんだということを、きちんと伝えようと思って。

いずれも私の零細noteの閲覧数のほとんどを占めている、名刺代わりの記事たちとなっています。アイドルのふんどしを切り刻んで作った3枚の名刺。
しかしこの名刺に書かれているのは、遅くとも2020年末までの話です。そこから活動休止に至るまでの1年と少しの道のりが、まだどこにも整理されていない。
当然、これまでのことがある以上、私はそれを書かねばならないのだと思いました。しかし、活動休止という結論に至ってしまったものを、これまでと同じテンションでプレゼンするのは無理があるなあ……と思い、どうにも筆が進まなかったのも、また事実であって。

そんな感じでしおしおのまま放置していたこの記事だったのですが、最近になってどういうわけかまた、一連のまとめ記事へのスキ通知が届くようになりました。特にどこかでリバイバルが起こったという話も聞かないので、本当にたまたま、何かのきっかけで、私のテキストにたどり着いた人が何人もいた……ということなのでしょうか。本当に?

今からでも彼らに触れる人がいるのであれば、これ以降のことについても、ちゃんと書かないわけにはいかないでしょう。正直いろいろと難しいですが、やりましょう。
そういうわけで、2021年1月からスマプロの活動休止に至るまでの道のりについて、まとめていきます。

(※) スマイルプリンセス: スマプロの非公式ファンネーム。メンバーのひとり、鳴神煌さんが使っていたことから定着しているが、そう呼んでいるメンバーがほかに誰もいないことから、筆者はいまだに「あれは鳴神さんが勝手に言ってるだけで、メンバーからはスベってる扱い」という可能性を疑っている。

【おことわり】

過去3回のテキストは(これもそうなのですが)、少しでも多くの人にスマプロを広めたい、知ってほしいというモチベーションで書いてきたものでした。なので、おもしろく書くことの難しいネガティブな話題については、できる限り言及しないようにしてきました。
しかし本稿ではその性質上、これまで避けてきたネガティブな話題に触れています。私の言葉もこれまでと比べてかなり主観に寄ったものとなり、かつそこには肯定的でないニュアンスのものも含まれます。そうした話題に言及されることを望まない人は、ここでタブを閉じることを強くお勧めします。

ここまでのあらすじ

100円ショップ・セリアで突如販売された、アイドルグループ「スマプロ!」を名乗るイケメンたちのカレンダー。100円ショップ向けの雑貨を手掛けるアミファから生まれたこのグループは、この1商品のためだけの存在かと思いきや、公式サイトはある、Twitterアカウントもある、ハロウィンイベントをやってアニメージュに載って新グッズも出てコミカライズされてアンソロが出てイベントに出て……と、100円ショップの片隅に置かれた当初の一発屋臭とは裏腹に、予想外の展開を繰り返し、どんどん成長していきました。
それに呼応するかのように、スマイルプリンセスたちは湧きあがり、メンバー12人のMMDモデルは早々に出そろい、ファンアートやWebオンリーなども開催され、狭いながらも楽しい我が家(by榎本健一)を地で行く、小さなファンコミュニティが成立したのでした。

新人マネージャー ヤマダM

スマプロの2021年は、前年末に告知されたスマートフォン壁紙配布プロジェクトで幕を開けました。毎月1日に、その月誕生日を迎えるメンバーの壁紙を配布するという、カレンダーから始まったグループらしい活動です。

とはいえ、彼らの生の言葉を伺うことのできるTwitterアカウントは、2020年の下半期以降、極端に更新頻度を落としたままでした。1月も結局、王春さんの壁紙配布以外の音沙汰が聞こえることはなく。週に2回、たった2ツイートのメンバーの言葉だけでも逞しく育ってきたスマイルプリンセスたちも、これからどうなるのだろう……と思った2月。二之宮真白の壁紙配布とともに、さとうPからちょっとしたお知らせがありました。

ほう?

さとうPとは、Twitterアカウントにも名を冠する、スマプロのプロデューサー。グループの立ち上げから今に至るまでを陰に陽に支えてきたとされる、彼らの名伯楽です。
Twitterでは決して自身のことを語らず、活動の告知に徹していましたが、プロデューサーとして表現するメンバーたちの異常に高い解像度と、そこからでさえも垣間見えるメンバーに対する信頼の厚さは、「(素人が考える)理想のアイドル運営」を体現したような存在でした。ですから当然、単に設定上の存在としての「プロデューサー」の枠を超え、スマイルプリンセスからは全幅に近い信頼を寄せられていました。
それは運営にとっても同様であったと見え、アンソロジーコミックには参加作家のコメントと合わせて、さとうPからのメッセージが1P入っています。あくまで裏方でしかない運営のコメントがこうした場に入っているということは、つまり、そういうことなのでしょう。

翌日、そんなさとうPに促されてやってきた山田マネージャー、通称ヤマダMは、スマプロにかかわることへの情熱を感謝を隠そうとしない、フレッシュな新人でした。

Twitterの運用を任されたヤマダMは、しばらく止まっていたTwitterアカウントの毎日更新を宣言。久しく届かなかったメンバーの声を聞くことができる、とあって、タイムラインは大いに沸きました。残念ながらしばらく停滞していた彼らの動きが、これを機にまた活発になっていく。このタイミングでの毎日更新宣言は、そうした予兆でもありました。

とはいえ、所属タレントの解像度が異常に高いプロデューサーとして、ファンからも全幅の信頼を得ていた人物の異動に対して、わずかな動揺があったことは確かです。それはメンバーたちにとっても同様であったと見え、さとうPの異動から少しの間は、日々のツイートから垣間見える口調や性格にまで影響が及んだメンバーもいました。もちろん、それもヤマダMが業務に馴染んでいくにつれ、徐々に元の姿を取り戻していったのですが。

そしてさとうPは、ヤマダMのデビューとまさに同じ日に、公式サイトに問い合わせフォームの設置をお知らせしたことを最後に、入れ替わるように表舞台から去っていきます。ただし辞めたわけではなく、営業職に異動になったのことが、のちに明かされています。
ともあれ、これまでさとうPに頼りきりであった12人のメンバーは、新人マネージャーという新たな戦力を迎えたことにより、次のステージに向けての歩を進め始めたのでした。

株主優待衣装

ヤマダMの着任により、Twitterの更新頻度は大幅に上がりました。このころから、月曜から土曜まではメンバーが交代でツイートし、日曜日はヤマダMがメンバーの活動を報告する、というサイクルが確立され、これは活動休止まで続くことになります。
しかし、一時期のような度重なるサプライズは起こることはなく、まったりと日々の声を聞く時期が続きました。

この時期にあった出来事と言えば、メンバー直筆のプロフィール帳が公開されたことでしょうか。突然の筆跡開示によってメンバーの解像度が跳ね上がってしまい、当然タイムラインは大変なことになりました。

なぜプロフィール帳?とお思いでしょうが、これは運営元であるアミファの製品。自社製品を絡めた宣伝にも取り組む、パブリシティアイドルの鑑です。

ちなみに中東の第3王子、バドゥルのプロフィールは文面に対する通訳が入らなかったため、別の意味で大変なことになりました。読めねえ。

こんな感じで、比較的スロー進行だったこの時期には、しかしすでに、見えている爆弾がひとつありました。それが株主優待です。

運営元のアミファは、スマプロの開始とほぼ同時期の2019年9月に株式を上場しました。そして、この年の9月末時点での株主に対して、株主優待としてオリジナルデザインのQUOカードを送付することを公表していました。そこで仮デザインとして公開されていたものの一つがスマプロであったことから「次のグッズは株主優待か!?」と目されていたのです。
一方では100円でグッズが買え、もう一方には株券がある。私はもはや驚くことを忘れていますが、普通に考えたらやっぱりどうかしてます。

出典:株主優待制度の導入に関するお知らせ - amifa
もう一方は、同じくアミファを代表する「レトロポップ」シリーズのデザイン。

そんな激アツ優待を取得できる権利落ち日を半月後に控えた9月13日に、ヤマダMから正式な告知がありました。初公開時点では仮であったQUOカードのデザインが正式に決まった、というものです。それがこちら。

知 ら な い 衣 装

「そもそもアイドルの公式アカウントで運営元の株主優待の話なんかする?」という疑問はもはや些末事です。エンタメ系の企業において、株主優待に描き下ろしのグッズが提供されることはままあると聞くので、それ自体に大きな驚きはありません。だからといって、ここで初出しの衣装が来るのであれば、それは大きな驚きです。
当然のように「株主優待衣装」と俗称されたこの衣装を穴が開くほど眺めるために、何人もの精鋭スマイルプリンセスたちは証券口座を開き、個別株取引の扉を開いたのでした。

もちろん私の手元にも。ちなみに本テキストのヘッダーはこの台紙でした

「株まで買わせるなんてひどい話だ」と思う人もいるかもしれません。そりゃあ1年ぶりの新規絵が株主優待限定で、それが一時的であれ、数万円規模のお金を支払わないと手に入らないなんて、正直、話としてはめちゃくちゃだと思います。こうしたやり方に諸手を挙げて大賛成なのかと言われれば、どちらかといえば本格派のスマイルプリンセスであるところの私でさえ、そんなことは全然なくて。

じゃあなんでわざわざそのために株まで買ったんだと言われたら、それは間違いなく、これまでのスマプロの動きをずっと追ってきていたからです。100円ショップの片隅の見知らぬ彼らを面白がっていたら、予想もつかない方向へのメディア展開が次々に訪れて、気づけばひとつのジャンルとして、小さいながらもきちんとポジションを築いている。それは他のジャンルでは絶対に味わえない、実に特殊な成長ストーリーでした。
本当に冗談抜きで、唯一無二の世界を見せてくれた彼らに対してであれば、株などという、通常の商品展開とは全く別軸にあるものに対してさえも、それに乗っかることを「粋」だと思わせるものがあったのです。そりゃあもちろん利益は出てほしいが、仮に大損こいたとしても、それさえも面白がれるほどの愉しみを、すでに私は彼らから得ていたのだと思います。すべての株主プリンセスがそうであるとは思いませんが、少なくとも私はそんな思いで、ここで株を買うことへの躊躇はありませんでした。

ちなみに、この9月に高騰した株価は、月が替わった直後から急落し、10か月経った今でも元に戻っていません。どうしてくれるんだ。

突然のニュース

株主優待衣装ショックからちょうど一か月が経った10月13日。何気なくデイリースポーツのWebサイトを開いた私は、己の目を疑いました。

親の顔の次の次くらいに見た集合絵が、トップページの一等地に鎮座していました。雑コラを疑いたくなるがどうやら違う。なんでここにスマプロが??????????????

この日、デイリー系のサブカルニュースサイト・よろず~ニュースに、件の株主優待QUOカードについて触れたスマプロの記事が掲載されました。上の画像で表示されていたのは、よろず~の記事をデイリーに転載したものです。
そして、よろず~はYahoo!ニュースにも記事を掲載しているため、当然この記事はYahoo!ニュースにも転載されました。苦節2年、ついにスマプロがヤフコメに晒されるほどの存在に育ったのです。
基本的にいつも情報に飢えていて、ゆえに運営元のIRまで眺めることが当然の嗜みになっているスマイルプリンセスにとって、ちゃんとしたニュース記事なんてものは完全に想像の埒外です。突然の分厚すぎる供給に、プリンセスたちは混乱の様相を呈しました。

元記事はこちら。内容はスマプロのこれまでをコンパクトにまとめたもので、「これからの人」に向けたまとめ記事の風合い。私が記事3.5本をかけてだらだらと綴った歴史を、わずか2段落で総括しています。

しかし、プロモーションラッシュから一転、20年6月以降は新たなグッズの発売がなく、ファンがもどかしさを感じる時期もあった。そのため、株主優待QUOカードに起用されたことが分かると、”新グッズ”の出現に歓喜する声がSNS上にあふれた。

QUOカードでは、メンバーが新衣装を着用。卯崎あきらは「新しい衣装~!かわいい!」と喜んだ。身長225センチメートルのリーダー・王春刹騎の長身が目立つ集合写真に、メンバーは「リーダーの大きさを改めて認識した」と驚いていたという。

100円ショップ発のアイドルグループ 3年目の「復活」見えた “新グッズ”出現にファンから歓喜の声|よろず〜ニュース

株主優待を「グッズ」と言い張るのはどうなんだ、という気もするが、歓喜の声を上げたのは間違いないので何も言えない。

そしてこの記事にはさらに続きがあって、そこではさらに重大な情報がさらっと公開されていました。

さらに同担当者は、ヤマダMが株式会社アミファの藤井愉三社長へ今後の活動を相談していたと告白。社長も「チャレンジしてみたらどうだ?」と乗り気だったという。詳細は分からないというが「ただ、『何か』をしようとはしているみたいですね」と、新しい活動をほのめかせていた。

100円ショップ発のアイドルグループ 3年目の「復活」見えた “新グッズ”出現にファンから歓喜の声|よろず〜ニュース

詳細は分からないが、「何か」をしようとしている。ほぼ何も言っていないに等しい内容ですが、株主優待の狂騒も終わり、今後の展開が見通せなかったジャンルにおいて、彼らはまだ「何か」を仕掛けようとしている。たったそれだけの情報でも、「ファンから歓喜の声」という見出しの記事で、ファンがもう一度歓喜の声を上げるには十分でした。よかった、彼らはまだ続く気でいた。

ところで、どう考えても吉報でしかないはずのこのニュースにも、重要な問題がひとつありました。このニュースが世に出たのは10月13日。そう、この日はかつて「落丁おじさん」として、自分の意志と一切関係ないところで知名度を得てしまった、最年長・十守時雨さんの誕生日だったのです。
自身最初の晴れ舞台でカレンダーから落丁してしまう、というだけでも十分すぎるほどの大事です。なのに今回も、1年に1回しかない誕生日で、みんなに盛大に祝われるつもりが、もっとでかいニュースを被せられたせいで、その存在がすっかり霞んでしまった。自分の時ばっかりなぜかそういう目に遭ってしまう、激烈不憫おじさんの爆誕です。なんだって君らは時雨さんにそういうことをするんだね。

ただし、この場を借りて改めて強調しておきますが、時雨さんは40代としての年齢を重ねた渋さと大人らしさを兼ね備えたイケおじ(死語)、だけどドーナツには目がない、なのであって、「雑にいじっていいギャグ要員の哀愁中年」として位置づけられているわけでは決してありません。
それなのにカレンダーから落丁し、しかもそれを運悪くインフルエンサーに掴まれてしまう。それなのにせっかくの誕生日に、もっと大きな重大発表を被されてしまう。そういう、本人の意思と一切まるで関係ないところで、どうしてか不憫な扱いを受けてしまう、そういうところにあの44歳(執筆時点)の滋味があるのです。とりあえずおっさんだから自虐させとけばいいなんて、そういうのは粗雑な二次創作がやることなので、いま指さして笑おうと思っていた各位には猛省を求めます。

アンソロの時雨回は4話です。単話でも買えるから全国民読もう。

起死回生のクラウドファンディング、しかし

ヤマダMによる次なる展開として仄めかされた「何か」。それが明らかになったのは、さらにそこから1か月が経過した、11月15日でした。

「何か」の正体は、クラウドファンディング(以下CF)でした。
CFの立ち上げに至った経緯について、ヤマダMはこのように記しています。

「スマプロ!」はお陰様で多くの皆様にご支援いただいております。本当に皆様、ありがとうございます。この場をお借りしまして、改めて御礼申し上げます。
 ただ現在の状況を申し上げますと、、ファンの皆様とコミュニケートできる場面が、Twitterが主となっている現状がございます。
 この状況を脱却し、飛躍するためには、多くのファンの皆様の存在を広く認識いただき、「スマプロ!」の活躍の場を広げて行く必要があると考えております。
 当プロジェクトの成功は、「スマプロ!」を応援してくださっている皆様が、多くいらっしゃることの証となり、そして「スマプロ!」メンバーにとっても大きな自信となると考え、社長にこのプロジェクトについて申し出ました。
「スマプロ!」のメンバーが今後、更に皆様に笑顔をお届けできる環境をつくるべく、当プロジェクトのご支援をよろしくお願い申し上げます。

「SMAPRO!」クラウドファンディングプロジェクト 「プロジェクトを実施するにあたり」

つまりは、現在はTwitter起点の発信にとどまっているスマプロを、プロダクトとしてしっかりと自走させるために、自走させられるだけのポテンシャルがあることを、CFによって明らかにする、ということです。言ってしまえば、現状ではマネタイズできていないものを続けていくために、市場が存在することを示す必要があった、ということなのでしょう。

そのポテンシャルを示すためのCFの内容は、12人のグループを担当季節ごとの3人×4チームに分け、それぞれに対して、メンバーをより身近に感じることができるようなスペシャルなグッズを制作する、というものでした。設定されていたコースは以下の2つ。

  • 1000円コース(お気持ち応援コース)

    • お礼のメッセージ・オリジナルイメージ画像

  • 15000円コース(企画アイテムコース)

    • 日めくりカレンダー

    • ジグソーパズル

    • アクリルフィギュア

    • 限定クリアポスター(B3)

    • クリアファイル

    • 限定スマートフォン用壁紙

    • 壁掛けカレンダー(B5・追加)

目標金額は各チームごとに200万円で、全チームの成立を目指すのであれば最低でも800万円の支援が必要となる、というものでした。スマプロが今後も活動を続けていけるかどうかを測るための分水嶺として、彼らの運命はCFに委ねられることになったのです。

しかし結論から言えば、このCFは春夏秋冬、いずれのチームにおいても未達に終わります。

目標金額はどのチームも200万円を掲げていましたが、最終的に集まった支援額は、4チーム合わせてようやく200万円を上回るくらい、というもの。つまり、各チームが集めた支援は目標金額の1/4程度、という、贔屓目に見ても寂しいもので、しかしそれが、彼らの市場規模でした。All-or-Nothing方式を採っていたため、支援者へのリターンが行われることもなく、その全額が返金されました。

こうして、起死回生の一手だったはずのクラウドファンディングが失敗に終わった後、しばらくして冒頭のメッセージが発出されたのは、残念ながら自然な帰結でした。

後追いで鞭を打つことはしたくないのですが、あくまで私個人の視点として述べるのであれば。
私だって別に、CFをすること自体に文句はありません。だけど正直言って、ここまで勝ち目のない目標設定を行う意味が分からなかった。黙っていてもこのCFを成立させられるような規模感がこのジャンルにないことは、きっと少なくない人たちが、肌感覚で分かっていました。これをどうにか成立させようと思えば、一人一人がかなりの無理を強いられる、ということも。加えて、どうにか周囲に協力を仰ごうにも、支援できるコースが1000円と15000円の2択では、人に薦めるものとしてあまりにも厳しすぎる(※)。
チーム間で競わせるような形式に疑問があったこともあって、これが「成立すること」を目指した結果として、その目標やそのコース設定に至っていたように思うことが、私にはどうしてもできなかった。それを理由として、そこまでの情熱を抱けなかった私は、あまり前のめりになれないまま、最後まで静観していました。

(※) のちに3000円のプランも用意されましたが、その投入時期も早いとは言えず、大勢を覆すには程遠いものでした。

しかし実際には、ここまで無理筋のCFを通さなければ、全コースを成立させるほどのポテンシャル(≒市場規模)を示せなければ、プロジェクトを続けることもできないほどの状況があった。追い込まれていた彼らが、活動を続けていくために放った起死回生を賭した一手が、このCFだったのです。しかしそれは結果として、非情な最後通牒になってしまった。
それまでの窮状を詳らかにしたうえでこのCFに挑んだとして、違う結末が待っていたかと言われれば、それはわかりません。ただ「そこで静観したお前が、間接的にこの結末を選んだのだろう」と言われれば、返す言葉はありません。

ともあれ、ヤマダMからの告知を受けて、メンバーから活動休止に向けたメッセージが順番に発信されていきました。そして2月12日、最後の12月担当、十二夜小太郎のツイートを最後に、スマプロのアカウントは長い沈黙を守っています。

そして

こうして、100円ショップの片隅から始まった2年あまりのストーリーは、ひとまずの区切りを迎えました。「活動終了」とは銘打たれていないので、いつかどこかで復活の可能性があるのかもしれませんが、少なくとも現状では、彼らの活動を見ることはできないでいます。

ただそんな彼らにも大きな救いが一つあって、それは日々の活動の拠点がTwitterであったことです。
サービス終了したソシャゲのテキストを読むことは、多くの場合叶いません。しかし彼らの発した言葉は、ほぼそのままネットの浅瀬に残っており、今からそれらをたどることもできます。実際に、活動休止かそれに近いタイミングでTwitterのログを読んで、ジャンルに転ぶ人も現れているようです。つまりそれは、彼らの人(にん)としての魅力に、それだけの強度があった、ということなのでしょう。それが長い目で見たときに、マネタイズを阻む原因であったことは否定しませんが、彼らの足跡をより多くの人の記憶に残すものとして、重要なファクターでもあったことは確かでしょう。

そしてもう一つの希望があるとすれば、ヤマダMによる活動報告です。
上で述べた通り、ヤマダMが就任して以降は、毎週日曜日にメンバーたちの活動報告を行うのが恒例になっていました。そこで挙げられている活動はテレビ・ラジオ・イベントと多岐にわたっており、この厳しい社会情勢にありながらも、様々な形で懸命に活動を継続していたことが分かります。

しかし、そこには大きな問題が一つありました。様々な活動報告を行ってくれたヤマダMでしたが、それらはすべて事後報告で、事前に告知を打ってくれることが一度もなかったのです。
もちろん、いろいろな活動を継続してくれているのは嬉しい。けれでも、ほんの少しでも情報があれば、リアルタイムで番組を見るなり、イベント会場に足を運ぶなり、そういったことができたかもしれません。しかしTwitterしかフォローしていなかった私には、残念ながらそれらの情報が事前に届くことはなく、彼らの活動を直接この目で見ることはできませんでした。

だから今だって、ヤマダMが事前告知をしていないだけで、彼らはどこかで活動しているのかもしれません。たまたまTwitterが動いていないから気づけていないだけで、実はスマプロはこっそり活動を再開しているのかもしれない。現在「も」活動していないことが明らかにされていない以上、それを否定する根拠はありません。
私の知らないところで、この週末もどこかのステージ、どこかのメディアに彼らの姿があるのかもしれません。それをヤマダMが報告する前に、偶然の再会を果たせる可能性がないことを、あなたは証明できないのです。

なぜかサイコな結論になってしまいましたが、前述の通り、スマプロの軌跡は今からでもたどることができます。100円ショップから始まった、それにしては大きすぎるストーリーは、12人のメンバーの人間的な魅力に溢れた姿とともに、今からでも追体験する価値が十分にあるものだと私は思っています。これを読んだ皆さんは、ぜひ一度、彼らのTwitterアカウントを覗いてみてください。そして今でも店舗によってはグッズが残っているといわれるセリアパトロールにGO。

そして、私の手元にはアミファの株が残りました。正直言って、含み損の額もそこそこにはなっているので、あとはいつ損切りの覚悟を決めるか、というだけの状況ではあります。だけれどもどうしてか、今ここでこの株を売ることが、数字以上の損になるような気がしてしまって、もう一歩踏み込むことができないでいます。これからの可能性を自分で否定してしまうような数字以上の魔力が、たかだか最低単位の株に宿ってしまったような、そんな気がしてならないのです。

とりあえず、次の配当をもらってから考えます。


ここからはもっとメタな話をします。スマイルプリンセスは読まないでください。

以前、スマプロを形作る世界観について、こんなことを書きました。

そういったジャンルに比べると、スマプロにはごく少数のクリエイター、ひょっとしたらたった一人の持つ価値観が、色濃く反映されているように思えてなりません。ひょっとしたらこれは、かつてコミティアの島中で見た創作作品なんじゃないかと思ったくらいに。

100円ショップのアイドル「スマプロ!」は“まだ”続いている|鈴木せりふ

もちろんスマプロのこと自体はこれからも好きだと思うし、ここまで走り続けてきたヤマダMに関して、何らマイナスの感情も存在しません。それは本当にそう。
ただ、こうしてスマプロの足跡を振り返った時に、初期の彼らを支えた、そしておそらく、この世界観を創出したのだと思われるさとうPの存在は、あまりにも大きかったことを感じずにはいられません。Twitterという極端に制限された創作環境において、週にたった2回のツイートだけで、12人ものこれだけ魅力的な人物像と世界観を描き出していたのですから。

さとうPとはいったい何者だったのか。そもそも実在したのか、実在したとしてそれが一人の人間だったのか、それらを含めて、私には何もわかりません。
そして彼(彼女?)がいま何をしているのか。それも当然、知る由もありません。別のアイドルをプロデュースしているのかもしれないし、異世界に飛ばされた青年の軌跡を報じるルポライターに転身しているかもしれない。あるいはどこかの悪役令嬢に仕えるものとして、その足跡を綴る使命を負っているかもしれません。
それがどれであったにしても、またどれでもなかったにしても。これだけ私がはまり込んだスマプロの世界観を作り上げたはずの、彼(彼女?)の表現が魅力的でないはずはない。そんな確信に近い感覚があります。

私はしばらくの間そんな彼(彼女?)の、あるかも分からない「次回作」を求めて、あてもなく彷徨うのでしょう。それがWeb小説なのか、コミティアの島中なのかはわかりませんが、どこかで偶然出会うことがあったら、それで救われる何かがあるような、そんな気がしています。


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