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発注・受注の関係性を超えて中国製品での実証実験から国内量産化まで - オープン型宅配ボックス「ERYBOX」とCerevoの取り組み

Cerevoは、〈コネクテッド・デバイスで生活をもっと便利に・豊かにする〉をコーポレートスローガンに、エレクトロニクスを軸にしたサービス企画・開発・販売を手掛けるファブレスメーカーです。

今回はオープン型宅配ボックス「ERYBOX」との共同開発において、どのような課題があったのか、またその解決に至るまでのプロセスについてERY JAPAN 社長・堀井翠氏とCerevo 取締役・椚座淳介氏に話を伺いました。


不安定な中国製品を日本のサービスで使うためには

- ERYBOXサービス立ち上げはどのような体制で始まったのでしょうか?

堀井:
所属していたサイブリッジグループからオープン型宅配ボックスのプロジェクトを任されたのが、2017年のことです。そこから私1人体制で始まったのですが、その頃には中国で生産されている電子ロッカーを輸入してきてサービスを展開することが決まっていました。

それを踏まえて中国に行き、生産している工場と調整を行いながら、日本国内の設置場所の営業を行ったりと奔走していました。

- 初期は中国製のプロダクトを使わざるを得ない状況だったのですね。

堀井:
サービス展開までのスケジュール的な制約もあり、中国製の電子ロッカーを利用して実証実験を2019年夏に開始することを目指していました。

ただ、中国製プロダクトを日本でそのまま使うことはできません。
使用する電圧が違うだとか、電子ロッカーの挙動面であったりとか、技術的に解決しなければならない課題がいくつかあったのです。

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- 日本の使用環境に合わせて改修する必要があったと。

堀井:
大きなところでは屋外に置くことを想定していたので、日本の環境でいうと台風のような荒れた天気に耐えられるようにしなければなりません。しかし、そういった技術的知見はこちらにはありませんでした。

そこで中国製プロダクトを日本で安心に使えるように対応をしてくれる企業をいくつかあたってみたのですが、およそ3週間程度といった期間で対応できるところがCerevoだけでした。

椚座:
Cerevoは中国製プロダクトについての知見と、スピード開発に対しての実績もあったので、ご相談後にすぐに着手できるような体制が整えられました。

中国製ということでもちろん設計図など詳細な資料も何も手元にない状態です。こういった状況では課題を全て最初に洗い出すというのは無理なので、実証実験に向けて課題となりうる部分を場当たり的に改修していくといった手法で開発を進めていきました。

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仕様未定の状態から、課題解決に向けた共同開発がスタート

- 場当たり的に改修というのは、どんなことをしたのでしょうか?

椚座:
例えば屋外での使用に耐えられるための防水対応がどこまでできているかというのも、現状の物がどういう設計かわからない状態なので、実際にホースで水をかけて漏れている箇所を発見して対策をするといったりですね。しかも同じプロダクトのはずなのに、1台ごとに違う仕様や、問題が見つかったりしていました。

とはいえ実証実験段階では場当たり的な対応でもなんとかなりますが、今後サービスを本格的に展開していく段階になっていった時には、このような開発対応ではコストもスケジュールにも悪影響です。

堀井:
実証実験で使うために輸入してきた電子ロッカーは8台でした。
その8台をCerevoとコミュニケーションを取りながら改修を進めていたのですが、その中で「これを今後毎回はやっていられないですね」とお話ししましたよね。

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- いわゆる「受託案件」の場合、依頼した側が要件を固めて、受けた側はそれ通りに対応するというのが基本かと思います。しかし、それを超えたチームのような体制で開発をしていたということでしょうか?

椚座:
そうですね。例えば荷物を預けるロッカーなので、1室の大きさを決めないといけませんよね。
ただどういう荷物が入るのかを事前に知ることはできないので、どういったサイズなら日本で使いやすく汎用性が高いのかというのは、堀井さんも私たちもお互いに試行錯誤していましたね。

どっちがこの役割とかを無理に定めずに、まずは実証実験のためにサービス展開を視野にいれて必要なデータがどうやったらとれるか、どうしたら実現できるかを話し合いながら進めていました。

堀井:
そして中国製プロダクトを輸入して使うのでは安定した供給ができないので、今後は国内で生産していこうという方針を定めたんです。

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- サービス本格稼働に向けて量産を国内ですることを決めたんですね。

堀井:
ただ日本国内で1からプロダクトを量産する知見もツテもない状態です。
そこで実証実験が終わった後、国内量産化について改めてCerevoへ相談しました。

椚座:
電子ロッカーを作る上で求められる要件というのが、実証実験機の改修時点でCerevo側でリスト化できていました。
それに照らし合わせつつ、中国製プロダクトでは足りていなかった点、問題があった点、もっと簡素化できる点、逆に不要だった点などをコスト面を踏まえて精査し、堀井さんにお伝えしていたので国内量産化を判断していただきやすい状況が作れていたかと思います。

- 国内での量産設計にあたり、実証実験で得られたデータはどう活かされているんですか?

堀井:
2019年7月に設置を初めて、7月下旬頃には実証実験で起こった問題をCerevoへ共有していました。そこで量産化に向けた仕様案をいただいていたと思います。

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椚座:
特に夏場は屋外に置いておくと暑さでプロダクト内の様々なパーツに影響が出てきますが、実証実験機では中に温度計を仕込んでいたので、どのくらいの温度でどのような挙動になるということがわかりました。それをもって、安定性の高い設計を提案したんです。

ただ、量産化にあたって可能な限りコストを抑えたいという要望を追加でいただいたので、様々な試験を繰り返しながらコストを抑えていきました。たぶん他の方からみると驚かれるくらい、尋常でなく安い価格でできているんですよ(笑)


国内量産でもコストはミニマムに、サービス展開の最適化を図る

- 量産化のコストを下げるために、具体的にどんなことをしたんですか?

椚座:
選定する部品をダウングレードするといったことの他に、市場にあるものは活用して、ないものはCerevoで基板から起こしてという形ですね。
例えばERYBOXのディスプレイに表示されるUIや中に組み込まれているコントロール用PCは既存のものを活用することでコストをかけていません。

1から起こしている部分は、電子ロッカーの開錠制御部分です。それはロッカー内部の照明や荷物のセンサーを兼ねているんですが、バラバラに実装すると逆にコストが高くなるのでCerevoで開発したものを利用したということです。

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- 筐体もありものを活用したのでしょうか?

堀井:
ロッカーで出来合いのものを買っても結局補修費用もかかってしまい、難しかったんです。

それなら使いやすい新しい筐体を1から新規で設計しよう、ということで国内の筐体設計専門の企業へ依頼しました。

椚座:
両社で実証実験から量産設計までのやりとりを密にしてこれたことで「何を作るべきで何を作らないべきか」が明確になっていましたね。

- かなりコミュニケーションをこまめにとられていたような印象ですが、一方はITサービス企業、一方はファブレスメーカーということで何かやりとりに齟齬が生まれることはなかったんでしょうか?

椚座:
結構中国は独自の文化で日本では当たり前のビジネスルールが通じないこともあって、中国製プロダクトを活用した事業をやりたがらない人が多いんですよ。でも堀井さんはワンオペでなんでも対応してくれてて、わりとひどいことにも耐える人だったんですよね(笑)

中国製プロダクトの改修をしているときは、毎日、文化祭の前日のような雰囲気でやっていました。

堀井:
ある意味それは楽しかったですが、もうやりたくはないですね(笑)
一通り設置まで終わったところで高熱出して寝込んだんですよ。

椚座:
他に印象的なことでいうと、プロダクトが大きいのでよく郊外にある工場に一緒に車で向かっていたんですが、その中でアニソンをガンガンにかけたら「これってあの歌ですよね」とかいって、話にのってきてくれたんですよね。

堀井:
同じ日の下で生きている人だ!って思いました(笑)
それで円滑にコミュニケーションとれたというのはあるかもしれませんね。

椚座:
あとはCerevo側もこうした色んな理由が入り混じったグチャッとした案件に慣れているという側面はありますね。仕様が最初に定められずにまともに見積もり出してということができない案件なので、中国製プロダクトありきで柔軟に対応するというところで合意がお互いにとれたのが、よかったのではないかなと。

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- ERYBOXは実証実験を経て、現在はβ版としてサービス提供されていますよね。サービスやプロダクトの今後の展開についてどう考えていますか?

堀井:
まず宅配の分野でいうと、現在は佐川急便とヤマダ電機のECのみの対応なのでもっと中小含めて対応宅配業社を増やしていきたいと考えています。

その他にもスマートロッカーとして、宅配以外の機能を充実していきたいです。
例えばオフィスビルと話をしているのは、近くにあるクリーニング屋の預け入れ・受け取りに使えるようにできないかということですね。クリーニング出したい服をロッカーに預けてもらうと、仕事帰りにきれいになった服がロッカーから受け取れるようになるというかんじですね。物の貸し借りといった機能でも活用の道があるかなと。

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椚座:
電子ロッカーは汎用的なプロダクトですよね。
仕組み自体はシンプルなので、何を入れるか、どうやって開けるかという点において、それぞれに適した拡張性という余地があるかなと感じています。

スキー板のような長物やスーツケースなど、利用シーンにあわせた設計というのも今後ありえるのではないでしょうか。

堀井:
2021年8月に量産機最初の1台の設置を予定しています。
これからも引き続きCerevoと協力しながら、更に量産とサービス拡大に力をいれていきたいです。

●プロフィール

ERY JAPAN LLC. 社長 兼 COO
堀井 翠

1987年生まれ。2012年、当時勤務していたソーシャルゲーム開発会社がサイブリッジグループに買収され、アルバイトとして入社。その後社員となりWebディレクターとして従事。受託開発の大規模な案件を経験した後、2017年にサイブリッジグループ会長室にて新規事業に携わる。2018年、新規事業のひとつであった「ERY」の日本法人「ERY JAPAN LLC.」の社長に就任。


株式会社Cerevo 取締役
椚座 淳介

1979年生まれ。インターネットサービスプロバイダでの勤務後、2008年 株式会社エイビット入社。様々な電気通信システムの設計開発を務める。同社退社後、2019年4月 株式会社Cerevo取締役就任。


ハードウェアの受託・共同開発のご相談について

自社で数多くのの家電製品を開発・製造・販売してきたCerevoのノウハウを活用し、ハードウェア製品全般の開発・設計・製造の受託および共同開発を受けています。これまでに50社以上もの企業と取り組みを行っています。

設計・開発だけでなく、工場選定から実際の製造、また適宜、サポートやマーケティング・広報に至るまでの過程をトータルでお受けできるのが強みです。
ハードウェア開発関連のご相談は以下よりお問い合わせください。


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