「名取さな」で折句37首

 折句とは:
 短歌・俳句・川柳などの各句の初めに、物の名や地名などを1字ずつ置いて詠んだもの。「かきつばた」の5字を「から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ」〈伊勢・九〉と詠み込む類。(デジタル大辞泉より)

 というわけで、「な・と・り・さ・な」を折句にして37首詠みました。
※名取さなさんの配信内容に関連している歌は最後の一首以外ありません。
※最初の一首のみ旧仮名遣いです。

名取さな折句2
名取さな折句3


1 名取川とう渡りてむ竜胆にさざなみ残す名のゆくへやは
 *
2 流れ星 とくに知らない隣人が去る三月のなくしものたち
3 なぜだろう翔ぶかもしれぬ嶺上(リンシャン)の淋しくひかる南場三局
4 殴ったほうが戸惑うなよな リラの花裂かれるような泣きたさにいる
5 菜の花はとうめいな料理酒で蒸す さみしくないのならまた会える
6 泣きはらした遠い春日のリングイネさようならさよならリングイネ
7 ナチュラル・ボーン・トリケラトプス 竜であるさだめおもえばなおさらの春
8 鳴門海峡とんでもないな rhythm and silence いやなんでもないが
9 ないしょだよ 図書館へゆく林道の坂であなたと泣きあった春
10 南軍はどうして敗けたのリー将軍 砂糖を搾る七本のゆび
11 ならばアントン・チェーホフの流氷の寒き描写をなつかしく読む
12 なっちまったところ勝負か 李徴にもサーカス団の仲間はできて
13 「ナースだけどトルエン吸わん、利口でしょ。桜になんてならないよ……」
14 ナタリー・ポートマンほほえみリアルとは詐術、と春のなきがらにいう
15 凪いでいる時の小鳥の輪唱が讃美歌でないならよろこべる
16 投げたけど届かなかったリリックを散歩しているなかまたおもう
17 夏服の鳥はうみどりリスボンの三年間の名残りを飛んで
18 夏の棘草。棘あることの凛々しさの五月雨なのか、なのだ、言葉は
19 南方の鳥たちの国、栗鼠の国 さわがしく死へ涙をささぐ
20 なんとなく栃木の雨は緑雨だな 最後までしなないできみたち
21 夏はもう止められなくて輪廻するさなかを風になる魚たち
22 なぞなぞを解けない脳に凌霄花(りょうぜんか)咲きほこるまでなめらかにばか
23 なんもできん都会の暗がりの先の百日紅、べりないす、せんきゅー
24 Nightingale, don't leave me. 緑陰の錆びたベンチになすすべもなく
25 投げキッスどこまでも飛ぶ良心はサリンジャーより長生きをする
26 夏は夜とろとろと聴く理髪店のサカナクションで「ナイロンの糸」
27 梨が好きというそれから梨花も好きサンダルでゆくナイトクルーズ
28 南風のとどく酒場よリキュールを咲かせるように並べて深夜
29 茄子を裂くともだちの手がリップへとさしのばされてなかゆびを咬む
30 内輪差、というそらみみ理科室でささやきあって夏は終わるね
31 ナックルカーブとっぷり落ちる立秋の、サイゼリアなら並んでいいよ
32 ながれゆく蜻蛉の群れの輪郭がさざめくこれはなにへの歌だ
33 長い風 どなたもどんぐりを拾うザネリのような涙かかえて
34 軟骨と鶏皮 焼きとりはいいね さわっても起きない男の子
35 ナタデココ 土星はどんな理論でも寒い惑星なのでゆこうよ
36 ないものはとうめいなだけ流木を探せば海辺なんだどこでも
 *
37 泣かないで 灯台の光のはてのサナトリウムへなんどでもゆく



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?