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リアルタイムスーパーマーケット、それは荒野を踏みしめる配信者の矜持

 2023年8月20日、甲賀流忍者ぽんぽこ主催の配信イベント「ぽんぽこ24 vol.7」席上で新曲「リアルタイムスーパーマーケット」が発表された。
 前年の同企画内「ぽこピープロデュース」(ぽこプロ)で選出された3人のために制作されたオリジナルソングであり、ピーナッツくんとアイドルソングの大家Avec Avecがタッグを組んで制作したものである。本楽曲は軽やかな曲調でありながら歌詞がそこそこ難解であり、少しばかり真面目に歌詞解釈を要するというわけで本稿で考察をしてみたい。

 歌詞全文

なんか疲れた みんなが見えるとこいるから
本当の気持ちは なぞなぞみたいなくだらない幻想
お財布にらめっこ 甘い甘いことがしたいなら
ちょっと出かけよう 腕まくりして作戦決行!
人生を急転させる 乗っちゃってムーブメント
いつか稼ぎまくりyen yen なんて言わせないでよ
言わせないでよ
言わせないでよ もう
リアルタイムスーパーマーケット
今日はどれにするの?君次第です
買い占めてよ 熱いうちに
暇してんだったらいいでしょ
覗き込んでみてよショーウインドウ
いま見つめあってる First of all
君の今日の行動ナビゲート!
勢いでしょ?実際 行けけ Go Let's Go!

リアルタイムスーパーマーケット
奪い合いがまるでスーパーバーゲン
いま時代が動いて大回転
思いが届いたら会計直行 Let's Go!

なんか踊り出す いつかのためにとっておくなら
いま燃え尽きたいんだよ! 伝わってないでしょ?別にいいけど
君と同じぼくも心が渇いてる ポカリのCM ふたりの関係
集まる野次馬なら蹴飛ばして ストリーミングはNow On Air!
インターネットで中継中 僕らビジネス超えたフレンズ
だけどみんなで稼ぐyen yen bill なんて言わせないでよ
言わせないでよ
言わせないでよ もう
リアルタイムスーパーマーケット
モールにゃ出せない独自の味で
力いっぱい振り絞るのさ 限りある命燃やしてる
思い出になるのはもういいよ
一緒にいたいんだよ First of all
いつも通り新品モチベーション
勢いだもう一回 行けけGo Let's Go!

あぁ もしかして僕らって
何かの一部でしかないのかな

なんて言わせないでよ
言わせないでよ
言わせないでよ もう

リアルタイムスーパーマーケット
目移りなんて無理マジでなんで?
なぐさめてよ 気づいたときに
心入れさせて今すぐに
覗き込んでみてよショーウインドウ
今見つめあってる First of all
君の今日の行動ナビゲート!
勢いでしょ?実際 行けけGo Let's Go!

「リアルタイムスーパーマーケット」
©2023 Peanuts-kun,Avec Avec

そもそも誰視点の歌詞なのか?

 ざっと通読して、まず思うのは「まずこれは誰から誰宛のメッセージなのか?」である。誰かへ呼びかけるような台詞が多数見受けられるが、作中でその相手が明示されることはない。ただヒントは存在しており、

 覗き込んでみてよショーウインドウ
いま見つめあってる First of all

「ショーウインドウを覗き込む」と「見つめ合ってる」状態になることから、主人公はショーウインドウのガラスを隔てて相手と相対しているということがわかる。そして

今日はどれにするの?君次第です

 選択権を相手に委ねている。
 ここから察するにこの楽曲の主人公は店員なのであろう。そして商品を手に取るよう客に呼びかけているという構図になる。

どんな商品なのか?

 これについては比較的わかりやすく歌詞中にある。

集まる野次馬なら蹴飛ばして ストリーミングはNow On Air!
インターネットで中継中 僕らビジネス超えたフレンズ

 どうやらこの主人公(店員)はストリーミング=配信をしているらしい。配信をする店といえば、YouTube Liveを監視カメラ代わりにしている弁当屋や、北九州市にある音ゲーのプレイが全世界に公開されるゲーセンなどが想起される。だが、こういった店が

目移りなんて無理マジでなんで?
なぐさめてよ 気づいたときに

などと言い出すだろうか?少し考えにくい。
 だとすれば、店員自体が配信者である=商品とは配信であると考える方が自然に思える。そうすると、少し違和感がある

買い占めてよ 熱いうちに
暇してんだったらいいでしょ

の解釈も可能となる。普通、物を買うときに使うのはお金であり、暇(時間)ではない。
 だが、買うものが配信なら?配信を享受するために使うのは間違いなく視聴する時間である。

 ここまでを総括すると、本楽曲は店=配信者が客=視聴者に向けて発するメッセージということになる。

他の部分にも含意がありそう?

なんか疲れた みんなが見えるとこいるから
本当の気持ちは なぞなぞみたいなくだらない幻想
お財布にらめっこ 甘い甘いことがしたいなら
ちょっと出かけよう 腕まくりして作戦決行!
人生を急転させる 乗っちゃってムーブメント

 これが配信者の曲だということを踏まえても1番の歌詞はなかなか難しいが、この3人のパーソナリティを考えてみると見えて来るものがある。

 雪餅は嫌なことははっきり嫌と表明する事を躊躇わない、竹を割ったような性格なのであるが、そのような人物を以てして「本当の気持ち」を見失う、本心が本人すら判らなくなる、それが最初の2行の意味なのか。

 次の2行はフリーランスのイラストレーターでもある陽音ひよりらしい。フリーランスという立場故に

 不安定な収入に苛まれることは一度や二度ではないだろう。毎日が「お財布にらめっこ」する日々であっても、楽しいことに思いを馳せる、そんな気丈な陽音をよく表した歌詞である。

 最後の「人生を急転させる」機会といえば、この3人にとってはぽこプロオーディションで選出されたことは確かにVTuber人生における空前絶後の事件であっただろうが、しゅがーぐらいだーに限ればもう一つある。
 しゅがーはProject BLUE所属。クリエイターとしてはホロライブ所属アーティストの映像作品に複数携わり、名だたるVsingerたちがこぞってライブを開催するバーチャルライブ空間「vortex」を運営しているほか、押しも押されもせぬ大人気Vsingerエルセとさめのぽきを擁する名門事務所である。この事務所に入ることができたことが、しゅがーの運命を決した重大な出来事ではなかろうか。正にしゅがーは「ムーブメント」を乗りこなして今に至っている。

リアルタイムスーパーマーケット
モールにゃ出せない独自の味で
力いっぱい振り絞るのさ
限りある命燃やしてる

 2番サビ。ここでは「スーパーマーケット」と対立するものとして「モール」を挙げている。
 スーパーマーケットは一般的には一面の売り場で様々なものを売るのに対し、ショッピングモールでは各専門店がそれぞれ専門のものを売る。
 先のとおり商品とは配信であるということを鑑みると、モールは「○○系YouTuber」のような専門性の高い配信者。対するスーパーマーケットとはぽこプロのようなオールラウンダー型配信者と考えると合点がいく。
 ○○といえばこの人!といえるような強みはないが、その分「独自の味」で勝負する。そういう道を歩んでいくという決意表明のワンフレーズであろう。

MVから読み取れるものはないか?

「リアルタイムスーパーマーケット」
©2023 Peanuts-kun,Avec Avec

 MVに関しては至ってシンプル。ピーナッツくんのラップ部分のみ後ろの台にピーナッツくんが顔を覗かせる程度で、あとは曲の全体に渡ってこの構図から動くことはない。商品の配置等も特に象徴的なものは見受けられない。
 ただ一つ着目すべきは、ぽこプロの3名は終始トレッドミルの上を歩いている点。トレッドミルは足腰の鍛錬を目的に使われる運動器具であり勤勉の象徴である一方、いくら歩いてもどこへもたどり着かない徒労の象徴でもある。配信者が大成する可能性は現実的には高くなく、希望を抱いてデビューした配信者の多くは夢破れて去っていく。ぽこプロの3人は意欲旺盛で活動に積極的だが、それが実りある努力かただの徒労かは結果的にしか分からない、配信業界は運否天賦の賽の目次第である──そんな世知辛い意味が込められているのだろうか。

まとめ

 とても軽やかで楽しいサウンドなのに、その中身は荒野の如き配信業界を歩く3人の勇者の決意。これほどまでのギャップがある楽曲とは、真剣に考察して初めて気づいた。そして、これほどまでに相反する要素を止揚して一本の作品に仕上げられるピーナッツくんとAvec Avecの底知れぬ才能に恐懼するほかない。


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