心理学は文系か理系か
私は,(一応)心理学を専門としています。以前,他の分野の方から「心理学は文系と理系のどちらに属するのか」と問われたことがあります。心理学がどの分野に属するかという問題は,やや複雑です。結論としては,この問いにはあまり意味がないと思っています。今回はその理由について述べていきたいと思います(似たような議論はすでに数多く行われていると思いますので,たぶん新しいことではありません)。
心理学は文系?
日本国内の大学では,文学部や教育学部,人間○○学部(学科)などで心理学を学ぶことができます。私自身も文学部出身で,心理学の専門科目と合わせて,人文学系の授業を履修してきました。そういった意味で,私はまさに文系の人です。
科学研究費補助金の「系・部・分科・細目表」を参照すると,心理学は「社会科学」に分類されています。このことと,上記のように大学の組織という観点とを合わせて考えれば,心理学は人文社会科学(すなわち文系)に属するということになるでしょう(そういった意味で,これから心理学を学びたいという人は,文系に進んでおけば間違いないです)。
しかし,以上のことから「心理学は文系に属する」としてしまうと,やや短絡的であるかもしれません。というのは,心理学を専攻した場合,ほとんどの学生が授業で統計学や生命医科学系の内容などを学ぶことになるからです。これらの授業の内容は理系らしいといえます。
海外の例
そこで海外に目を向けてみましょう。心理学の祖の一人として知られているヴントがいたドイツのライプツィヒ大学を例に挙げます。ライプツィヒ大学では,心理学講座は生命科学学部(Faculty of Life Sciences)に属しています。生物学と同じ学部に属することから,心理学は理系だといえることになります。
つまり,大学の組織という観点から見た場合,日本では文系に属しており,その一方で,海外では理系に属しているということになります。組織の問題ですので,どちらが正しいかということで比較するのもあまり意味がなさそうです。
その問い自体に意味がない
大学の組織と学ぶ内容のどちらで考えても,心理学を文系と理系のいずれかであるとみなすことには,私はあまり意味はないと考えています。そもそも心理学の研究は,いくつかの学問分野にまたがっていることが多く,学際的な性質を有しているといえます(最近は,様々な分野において学際的な方向で議論が進むということが少なくないようなので,心理学だけが学際的な分野だというわけではないとは思います)。
私の経験からやや極端な例を挙げてみます。私が所属していた文学部には,たくさんの専修課程があります。歴史学の文献を読む学生を想像してみてください。この人はいかにも文系というイメージです。その近くで,別の学生が白衣を着て,電子天秤の前で薬品と薬包紙を扱っていることを想像してみてください。こちらはいかにも理系らしいというイメージではないでしょうか。この二人は実際に文学部の学生でした。文学部といっても,決して文学だけを学ぶ場所ではなく,様々な分野を広く学ぶ場所なのです。つまり,大学という場では文系と理系の区別があまり意味をなさないことがあるのです。言い換えれば,大学とはその区別を乗りこえた内容を学ぶ場であるといえます。文系と理系の区別は,高校生の進路選択くらいまでで役割を終える程度の区別であるといえるかもしれません。
以上のことから,「心理学は文系と理系のどちらに属するのか」という問いにはあまり意味がないといってよいと思います。文系に属するにしては,統計学などが必須になってくるという点で,理系っぽいといえます。そもそも文系か理系かの区別自体が形式的なもので,あまり重要ではないと思います。
分類しにくいという点が心理学の広さや可能性を示しているのかもしれません。今後,機会があったら,心理学に関係する話も取り上げようと思います。
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