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心理学における順序尺度と間隔尺度

 心理学でよく用いられる方法のひとつに,質問紙法(アンケート)があります。心理学を専門としている人と以前話していて盛り上がったのが,質問紙で得られたデータを順序尺度と間隔尺度のどちらとして扱うべきかという問題でした。かなり有名で,まったく新しい話ではありませんが,今回はこのトピックについて述べます。


尺度水準

 尺度とは,得られたデータを分類する際の基準のことを指します。以下の4つがあります。

名義尺度:分類するための符号としての尺度。性別,血液型,職業など。
順序尺度:大小や上下のように順番をつけて数値が与えられる尺度。服のサイズなど。
間隔尺度:等間隔性のある尺度。摂氏温度,知能指数など。加減算が可能。
比尺度(比例尺度,比率尺度):絶対的零点がある尺度。身長,体重,絶対温度など。四則演算が可能。

 下側の尺度のほうが高い水準を示していて,高い水準の尺度はより低い水準の性質を含んでいます。例えば,間隔尺度は名義尺度と順序尺度の性質をもっています。

 また,高い水準のデータはより低い水準のデータに変換することができます。例えば,身長をS,M,Lというカテゴリーにすることができます。


リッカート尺度

 例として,次のアンケートを行うとします。「選択肢のうち,あてはまると思うものをひとつ選んでください」というものです。

Q. この記事は面白かった。

1. まったくそう思わない 2. あまりそう思わない 3. どちらでもない
4. ややそう思う 5. とてもそう思う 

 まさに心理学が得意とする方法です。ただし,普通は質問項目が10から30までくらい並んでいることが多く,ひとつだけということはまずありません。また,ここでは5件法(5段階の評定)を挙げていますが,4件法や7件法なども多く使われていて,この段階の数が議論になることもあります。


順序尺度と間隔尺度のどちらとして扱うか

 さて,心理学では複数の質問項目の回答を,一定のルールに従ってスコア化することが一般的です。この際,回答のデータを間隔尺度として扱っています。私も基本的には間隔尺度とみなして分析しています。

 ところで,上の質問項目で,隣の選択肢の間隔は等間隔だといえるでしょうか。絶対そうだとはいえません。回答者が等しい間隔だと思っているかどうかもわかりません。等間隔だといえないのであれば,間隔尺度として扱うことはできません。少なくとも順序性はありそうなので,リッカート尺度の回答を順序尺度として扱うことはできそうです。したがって,厳密には間隔尺度ではなく,順序尺度として扱うということになります。

 心理学では間隔尺度として扱うことがほとんどで,これまでのところ,大きな問題があるわけではないといわれています。しかし,他の分野の専門家には「これを順序尺度として扱っていないのはおかしい」という人が確かにいます。この議論は現在も残されているというわけです。

 間隔尺度として扱うことによるメリットは,順序尺度として扱う場合よりも,分析手法の幅が広がることです。間隔尺度として扱うことによって,分散分析などの強力なツールを利用できるようになります。個人的には,厳密さを求めて可能なことを狭めるよりは,柔軟に捉えたほうがよいと考えています。


 私は授業で統計学の基礎を教えています。昨日,尺度の話をしたばかりです。毎回,プラスアルファの話として,質問紙のデータを順序尺度と間隔尺度のどちらとして扱うべきかという問題があることを伝えるようにしています。スライドで示さないでさっと流すように話してしまう内容なので,ちょっと書いてみたというわけです。けっこう大切な話かもしれないと思っています。

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