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どちらの読点を使うべきか

 日本語の表記のうち,読点について疑問に思った経験のある方は多いのではないでしょうか。今回は読点について書きます。「、」と「,」のうち,どちらを使うべきなのでしょうか。


「、」と「,」のどちらを使うか

 読点(とうてん)とは,「」(テン)と「」(全角コンマ)のことを指します。これらは日本語の文の区切りに用いられます。ほとんどの方がどちらも見た(認識した)ことがあり,どちらか一方を選んで使っていらっしゃると思います。見ればわかるとおり,私は主に「,」を使っています。皆様はどちら派でしょうか?

 とくに意識したことはなく,打って出てくるものをそのまま使っているという方もいらっしゃるかもしれません。たとえば,パソコンでの入力に関しては,日本語入力の設定を変えることができ,いつでも簡単に切り替えられます。Microsoft IMEであれば,「詳細設定」の「全般」タブのところで句読点の入力設定ができるようになっています(「、。」「,.」「、.」「,。」のいずれかから選択できます)。

 私はこれまで論文を読んだり書いたりする機会が多く,読点の使い分けは他人事ではありませんでした。実は,私は書く文章によって「、」と「,」を使い分けています。「,」を使うことが多いのは,心理学の日本語の論文がこちらを用いていて,その慣習に合わせているからです。たとえば,日本心理学会の『執筆・投稿の手びき』(2015年改訂版)によると,読点には「,」を用いることになっています。論文の場合は雑誌ごとに執筆ルールが決まっているので,必ずそれに合わせます。論文以外の種類の原稿でも,どちらか片方が使われる慣習があるので,それに合わせています。つまり「、」を用いなさいというルール(慣習)のもとでは,一貫して「、」を使うというわけです。たとえば,以前にご紹介した『ゲーム研究の手引き』では,「、」で統一しています。

 noteでは一応「,」に統一しています。一方,Twitterなどではそのときに使っているツールの設定(パソコンかスマホか)でそのままテキトーに入力して(打って出てくるものをそのまま使って)しまっています。細かい話ですし,切り替えるのは基本的に面倒だからです。


「,」が用いられている根拠

 さて,同じことを考えている方はこれまでにもたくさんいらっしゃるようで,検索すると同じトピックを扱った記事が見つかります。たいてい自分が思いつく程度のことはすでに考えられているものです(それゆえ,この記事で新しいことはとくに述べられないと思います)が,簡単にまとめていきたいと思います。

 しばしば引用される重要な資料に,「公用文作成の要領」というものがあります。これは,1952年(昭和27年)に内閣官房長官から各省庁次官に宛てられた公用文に関する通知です。ここに句読点の使い方についての記述があります。

句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。

(「公用文作成の要領」(内閣閣甲第16号依命通知)より引用)

 このように,読点については「,」を用いるように書かれています。現在は横書きの文書では「,」を用いているものが少なくないようです。実際に,横書きの本を見ると「,」が使われているのがわかります。縦書きの文書は必ず「、」が用いられるべきですが,横書きの文書では「,」が多いという印象があります。


「、」を用いる根拠

 最近,文部科学省に設置されている文化審議会国語分科会で「公用文作成の要領」について,見直しが行われているようです。第72回国語分科会(令和元年11月8日)の資料には,以下のように書かれていました。

句点には「。」読点には「、」を用いる。横書きでは、読点に「,」を用いてもよい

(「「公用文作成の要領」の見直しに関する国語課題小委員会の検討状況(案)」より引用)

 この資料では,日常的に「、」が使用されていることに言及しています。私も「,」を意識的に使い始めるまでは「、」しか使ったことがありませんでした。そもそも,今でも手書きでは「、」しか使いません。公用文で「、」が増えていくとすると,今後は「、」がスタンダードになっていくのかもしれません。


どちらかに統一すべき

 重要なことは,ひとつの文章の中ではどちらかに統一することだと思います。先ほど取り上げた第72回国語分科会の資料にも,以下のように混在しないように注意すべきということが書かれています。

横書きの読点においては「、」と「,」とが混在しないように留意する。

(「「公用文作成の要領」の見直しに関する国語課題小委員会の検討状況(案)」より引用)

 混在していると読み手に与える印象も悪そうです。しっかりと使い分けられるにこしたことはないと思います。あやうく混在しそうになったり,文章の作成途中で変えたくなったりした場合は,Microsoft Wordの置換機能などを使えばすぐに解決します。


 結局のところ,横書きではどちらを使ってもよいと思います。ただし,同じ文章内ではどちらか一方に統一したほうがよいでしょう。今後,横書きの文書(主に印刷されたもの)でどちらが使われているかを意識的に見てみるのも面白いかもしれません。

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