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「情報学」と「情報科学」

 「情報学」と「情報科学」はどう違うのでしょうか。似た用語ですが,私の経験上,言葉の使われ方を見る限りでは,微妙に違うと思います。今回は,これらの言葉(用語)の違いについてまとめます。


情報学とは

 英語で対応する用語は,informaticsまたはinformation studiesです。日本学術会議が策定する情報学分野の参照基準の定義は,以下のようになっています。

「情報学は,情報によって世界に意味・価値を与え秩序をもたらすことを目
的に,情報の創造・生成・収集・表現・記録・認識・分析・変換・伝達に
かかわる原理と技術を探求する学問である」(萩谷, 2014)

 
 この定義を参考に,後半の一部を取り出すと,情報学とは「情報に関わる原理と技術を探求する学問分野」だということになります。これだけではよくわからないので,『情報学事典』(弘文堂) を参照します。この事典によると,情報学は以下の4つに分類されます(西垣, 2002)。

情報工学
 情報科学の応用面,とくにコンピュータ技術に関する学問。
応用情報学
 理学,工学,医学,農学,法学,政治学,経済学,経営学,文学,心理学,社会学,歴史学,教育学,芸術学など,およそあらゆる学問においてコンピュータを利用する分野の総称。
社会情報学
 「情報社会」,とくにインターネットなどの電子メディアが大きな影響力をもつ社会における諸問題を主な研究対象とする比較的新しい分野。
基礎情報学
 他の3分野に通底する学問的基盤を与える分野。

 ①が最も「情報科学」に近いと思われます。ほとんどの方が最初に思い浮かべるイメージはこれではないでしょうか。④は特殊で,この分類を作った西垣先生の用語だと思います。「そもそも情報とは何か」といったような問いから始まる哲学的な分野です。

 ②に関しては,最近はコンピュータを利用する分野がかなり多いように思います。また,情報技術を応用した領域横断的な分野は数多くあります。学問分野を人文学,社会科学,自然科学の3つに分けるという観点がありますが,②の意味で使うと,これら3つとは別の大きな括りができるように思われます。

 一方,③に関しては,どちらかというとメディア論などに代表されるイメージがあります。技術を扱うというよりは,それを使用する人と社会を対象とするという意味で人文社会学系寄りで,社会学にかなり近い気がします。

 いずれにしても,「情報学」は情報と関連するかなり広い分野だと考えておけばよいと思います。言い換えれば,コンピュータ技術に関連する分野だけを指すのではないということでしょう。


情報科学とは

 英語で対応する用語は,computer scienceです。この英語の名称がかなりわかりやすいと思います。『岩波情報科学辞典』に以下のような定義が載っています。

「情報の生成,伝達,変換,認識,利用などの観点からその性質,構造,論理を探究する学問,およびその具体化を行なう計算機を中心とする情報機械のハードウェア,ソフトウェアの理論と実際に関する学問の分野」(長尾他, 1990)

 「情報科学」の「情報学」と比べると,コンピュータ技術に関連する比較的狭い範囲の分野を指すことがわかります。個人的には「情報工学」に近いというイメージをもっています。少なくとも,上で挙げた③とは重なる部分があまりないと思います。


 要は「情報科学」がコンピュータ技術に関連する分野で,「情報学」は情報が関係するものは何でも対象になるというような広い意味での分野名ということだと思われます。インターネットで検索していろいろと調べてみると混同してしまいそうな説明も見られるので,かなりまぎらわしい話ではありますが,実際にある程度は使い分けられているようです。


引用文献

萩谷 昌己 (2014). 情報学を定義する―情報学分野の参照基準―  情報処理, 55, 734–743.

長尾 真・石田 晴久・稲垣 康善・田中 英彦・辻井 潤一・所 真理雄…米澤 明憲 (編) (1990). 岩波情報科学辞典  岩波書店

西垣 通 (2002). 情報学  北川 高嗣・須藤 修・西垣 通・浜田 純一・吉見 俊哉・米本 昌平 (編)  情報学事典 (pp. 441–443)  弘文堂

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