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『ゲーム研究の手引き』

 今回は,初学者向けに書かれた『ゲーム研究の手引き』について紹介したいと思います。以下のリンク先のページ内で,PDFファイルをダウンロードすることができます。

https://mediag.bunka.go.jp/project/media1/project-5491/

(Webサイト「メディア芸術カレントコンテンツ」へのリンク)


『ゲーム研究の手引き』とは?

 ゲームについて本格的に(学術的に)研究してみたいという学生や,他分野の研究者などに向けて作られた「ゲーム研究」の冊子です。これは文化庁のメディア芸術連携促進事業の成果物で,編著者の松永伸司さんが中心となって書かれています(ちなみに,私も後半部分で少しだけ書いています)。

 たったの23ページで,ゲーム研究の全体像を知ることができる優れものです。松永さんが書いた前半部分の「ゲーム研究の全体マップ」は,ゲーム研究の国内外の歴史や全体像についてまとめられていて,少なくともこれだけ読めば簡単にゲーム研究のイメージをつかむことができます。


そもそも「ゲーム研究」とは?

 「ゲーム研究」の定義はやや難しいと思います。ゲームをやりこんで攻略することも,広い意味ではゲーム研究に含まれると考えられます。日常語よりも限定的に捉えると,「研究」とは,ある問題意識のもとで先行する知見や情報(先行研究)を調べ,整理したうえで,考え方の枠組み(理論や仮説)のもとで分析したり,解釈したりして,最終的にはその成果を社会に向けて発信することです。このような活動は学術的研究と呼ばれることもあります。この意味での「ゲーム研究」の定義をひとつ挙げると,ゲームとプレイヤー,およびこれらを取り巻く文化や産業を対象とする学際的な研究分野,というものがあります。要するに「ゲーム研究」とは,私たちがよく知っている身の回りにあるゲーム(主にビデオゲーム)についての学術的研究です。

 ビデオゲームについての学術的研究は,国内外で1980年代から盛んに行われていました。現在では,日本デジタルゲーム学会など,ゲーム研究専門の学会もあります(詳しくは,紹介しているこの冊子の松永さんが書いた部分をご参照ください)。

 ゲーム研究は比較的新しい分野です。20年前と比べると,ゲーム研究は一気に発展して,研究するための環境が整ってきています。というのも,ゲーム研究関連の学術書やインターネットの記事が充実してきているといえるからです。現在でも,大学で研究するとなると,専門に詳しい指導教員や研究環境は限られますが,以前と比べると社会的に認知され,理解が深まってきているという印象があります。つまり,以前はゲームというと,何となく研究しにくい対象でしたが,今では堂々と「ゲームの研究をしたいです!」といえるようになったということです。


オススメするポイント

 第一に,すでに述べたように,松永さんの書いた前半部分が優れた「ゲーム研究史」となっている点です。現状は「ゲーム研究史」はほとんどないため,かなり貴重です。興味のあるところを掘り下げたいときには,最後の文献リストを参照して検索し,関連する文献を入手するという使い方ができます。

 また,一言でゲーム研究といっても,何を研究対象とするかによって,使う道具となる知識や方法(すなわち立脚する学問分野)は異なってきます。第二のポイントは,後半部分の4つのコラムが多様な研究分野の例を示しているところです。具体的な点を拾って見ることによって,ゲーム研究の全体像がより見えやすくなるはずです。

 これまでゲーム研究が発展してきたおかげで,たくさんの専門的な文献を入手することができるようになりました。しかし,初学者にとっては玉石混淆であるかもしれません(人によって良いものと悪いものは異なるという意味です)。これはちゃんとした文献だといえるからこそ,オススメしています。

 余談ですが,執筆する前に,松永さん(と立命館大学の先生方)とお話をする機会があって,ゲーム研究をマッピングしようという試みに対して,「その着眼点,わかる」という気持ちがありました。個人的には,ゲーム研究はその多様さゆえに,俯瞰すると一見して錯綜しているかのような印象を受けていました。当時は,視点が整理された(ひとつの見方が提供された)ほうがよいと思っていたので,ちょうど波長が合ったとでもいうのか,折しも執筆のお話をもらえて良かったと思っています。そのままであれば,ゲーム研究のジャングルで迷う人が増えていたかもしれないからです。


 そのようなわけで『ゲーム研究の手引き』をオススメします。今後は,「えっ?ゲームって研究していいものなんだ」ではなく,「ゲームの研究って面白そう!やってみよう」と思う人が増えたらうれしいと思っています。無料なので,ぜひともご覧ください。すでに『ゲーム研究の手引きⅡ』も出ているので,機会があれば,ご紹介するつもりです。

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