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involvementの訳語

 前回の記事(「ゲームプレイの多面性」)で,「関与」という用語の話を取り上げました。「関与」はinvolvementの訳語です。この訳語は,論文を読んで訳すときに私が選んだものでした。実は,論文を読んでいるときにどの訳語にすべきか迷っていました。今回は,involvementの訳語の選択について書きます。


「関与」か「没頭」か

 involvementの意味は「関与」のほかに,「没頭」,「熱中」,「包含」などがあります。これらのうちどれを選ぶべきかということについて,少し難しいと感じていました。文脈としてはゲームとプレイヤーの話だったので,最初のうちは「没頭」あたりが適切だろうと考えました。「ゲームに没頭する」とか「ゲームへの没頭」というのは,よくあるだろうと思ったからです。

 前回の記事で,ゲームプレイの多面性を示す6要素のモデルの話をしました。その話のなかで,そのモデルの中心部分にある「結合」が「没入」と同じレベルで扱われているということを述べました。すなわち,各involvementが統合された状態が「結合」だとされていて,各語が以下のような関係になっていたのです。

(ゲームとの結びつきの程度において)involvement < 結合 ≒ 没入

 ここでinvolvementを「没頭」と訳した場合,「没頭」よりも「没入」のほうが結びつきの程度が強い用語だということになります。しかし,この2つの単語の意味に大きな違いはなく,どちらかというと被っているように思えました。そこで「没頭」よりは,結びつきの程度が弱い意味を示す「関与」のほうが適切だと考えたわけです。


動詞involve

 訳語を選ぶ場合,品詞が異なる単語の意味(派生語どうしの関係)にも着目することになります。involvementの動詞の形であるinvolveには「関わる」のほかに,「参加させる」,「巻き込む」,「没頭させる」といった意味があります。プレイヤーとゲームの関係を示す日本語としては,どれもあまり違和感がありません。

 結局,動詞とその意味を見ても「関与」より適切な訳語のヒントは得られませんでした(訳した当時は,英英辞典も参照しました)。むしろ「プレイヤーがゲームに関わる」でも「プレイヤーがゲームに没頭する」でも意味は通ることから,訳語は柔軟に選択してよさそうだという結論に至りました。


 以上のような経緯で,その当時は文脈とモデルの意味から考えた結果,involvementの訳語として「関与」(動詞involveでは「関わる」に相当するもの)を選択しました。involveもinvolvementもよく見る単語で,意味はよく承知しているつもりですが,いざ訳語の選択をしようとすると難しいと思ったという次第です。

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