与田中日の3年間

 現役時代は中日の抑えのエースとして大活躍し、引退後はNHKの人気キャスターとして活躍したという経験から、与田剛監督はかつての星野仙一監督と重ねられたが、情に脆く闘将になることができなかった監督と言えるだろう。選手と共に立ち上がって声援を送り、故障者が出たら一目散に飛び出してきて時に審判に詰め寄る姿はファンが求めるクラシックな中日の監督像にそのものだった。それ故に中日スポーツの一面には連日「星野魂」の3文字が踊った。しかし、大きな肩に乗せられた重圧は凄まじかったのだろう。今回はそんな悲運の名将にハイライトを当て、きたる立浪竜が変えなければならないこと、引き継がないといけないことを考えよう。

与田監督の功績

 2年目のAクラスは言うまでもない。それ以外での功績といえば投手の故障者の激減だろうか。監督1年目は新人の勝野昌慶を初め、小笠原慎之介や福谷浩二の戦線離脱が痛かったが、2年目以降はコロナ禍で調整が難しい中での投手起用となったが、大きな故障者は現ロッテのロメロと夏に夭折した木下雄介の2人だけと言えるだろう。
 また、長年巨人で投手コーチを務め近年ではメルセデスを育て名伯楽との評判高い阿波野秀幸、今は亡き近鉄の抑えのエースだった赤堀元之を招へい。新しい風をチームにもたらし、ここ数年で染み付いた慢性的な負け犬根性を払拭しようと言う意図が見て取れた。
 この評価の通り、与田監督は監督と言うより投手コーチのような感じであった。それでは解任の根源であろう野手の起用法、若手育成法について考えよう。
 来季からの新体制では与田監督が我慢して使い続けた藤嶋健人と小笠原慎之介に殻を破ってもらいたいものだ。来季エースの大野雄大は34、中抑えの祖父江大輔は35の齢を数える。藤嶋は綺麗なストレートでセットアッパー、小笠原は元々130球は平気で投げられる体力がある。この2人に投手陣の要を任せたいところである。

与田監督の残した課題

 今年の中日を表す言葉に最適なのが「投打が噛み合わない」という言葉だろう。投手陣は与田監督が、野手陣は伊東勤ヘッドコーチが、そして若手育成に関しては仁村徹二軍監督が采配を振るう所謂「トロイカ体制」を敷いたのは長年監督の超独裁を続けてきた中日にとっては斬新だったが、打率1割に満たない選手を無理やりに一軍に残したり、あの「三ツ間代打事件」など、意思疎通の取れない場面が多々あった。
 伊東、仁村の両氏は唐太宗の『貞観政要』「求諫篇」で言うところの鏡だったのだろう。しかし、与田監督は鏡を見すぎてしまい優柔不断な采配が続いてしまったととれる。年上の2人に挟まれ、中間管理職と化した与田監督の背中は段々と小さく見えるようになっていった。

立浪新体制に受け継いで欲しい与田イズム

 まず1つ目に受け継いで貰いたいのは監督と同等の権限を持ったヘッドコーチの招へいである。既に新聞各社の記事に出ている片岡篤史氏は阪神で平成22年には打撃コーチとしてチーム打率.289のニューダイナマイト打線を作り上げ、その後金本知憲監督の名参謀としてこんにちの小技の上手い阪神打線の礎を築いたとも言えるだろう。片岡は立浪とはPL学園時代の僚友ということで、前述の経験からグラウンドで監督に諌言ができ、ユニフォームを脱いだら友として愚痴を聞いたりすることができるのはデカい。
 星野野球に島野育夫、落合野球に森繁和と言うことが指名ているとおり、名将に名参謀は必ず必要である。誰がその役を担うのかに注目である。

改革して欲しいところ

 立浪監督に改革して欲しいところは2つある。1つは1点を取りに行く執念だ。今年の中日はビシエド、木下拓哉でしか点が取れておらず、高橋周平や福田永将はスランプに喘いだ。しかし、貧打戦を打開する傭兵が出来なかったのが今年の低迷の諸悪の根源である。あっと言わせるような打線の組み方、繋ぎに徹するか勝負に出るかなどは立浪監督の持つ勝負師の勘をみたい。
 2つ目はベテランの偏重起用の見直しである。強いチームでは血の入れ替えは必須である。素晴らしい成績を残した選手だからと言って据え置きで何年もレギュラーに抜擢していたら何年か後にツケが回ってくる。立浪監督は前年ベストナインを取った宇野勝から遊撃のレギュラーを奪い取り、時は経って晩年には森野将彦に三塁手のレギュラーを奪われた経験の持ち主である。この時の星野、落合監督のような決断ができるのかが楽しみだ。

最後に

 与田監督はろくな補強がない中でAクラスに導いたこともあり、投手起用にフォーカスするとその手腕は歴代中日監督でもトップクラスに良かっただろう。しかし親会社の御家騒動に巻き込まれてしまったことだけが残念でならない。福留孝介の復帰、立浪臨時コーチからみて余程のことがない限り与田監督は今年辞任することは既定路線だったのだろう。1度、西武や日ハム、絶対にありえないが巨人のような野手陣は豊かだが投手陣で勝てないチームの指揮を執ってもらいたいと思う。はっきり言って采配以前の問題だった今年は見ていられなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?