悲劇のチームの歓喜

 羽生善治が7冠を達成し、ミステリーアニメドラマとして現在も続く名探偵コナンのテレビ放送が始まった平成8年以来、四半世紀ぶりの優勝を飾ったオリックス。球界再編での近鉄バッファローズとの合併によりオリックス・ブルーウェーブからオリックス・バッファローズとチーム名を変え、神戸から大阪に本拠地を移転してからは17年目での初優勝となったのだ。悲劇を乗り越えてペナントを奪回した猛牛軍団にハイライトを当ててみよう。

常識を覆す破天荒な中嶋聡監督

 今季のオリックスの守備陣を見ると、一際目立つのが三塁手の宗佑磨である。内野のアンツーカーあたりに守備位置を置いており、深く守ってもアウトに出来るだけの強肩を発揮している。まさに遊撃手が2人いると言ってもいいのでは無いか。この宗という選手は外野手として試合に出ていたが、昨季中嶋監督が西村徳文前監督の代理監督として指揮を執ってから三塁手へとコンバートされた。あまり注目はされないが、外野から内野へのコンバートはあまり前例がなく、成功例は巨人の高田繁まで遡るのではないか。
 また、安達了一を二塁手にコンバートし、遊撃手に高卒2年目の紅林弘太郎を抜擢したのも勇気ある決断だっただろう。安達了一といえば源田壮亮、今宮健太と並びパ・リーグを代表する名手であり、堅実さは12球団の遊撃手の中でも抜きん出ていた。そんな安達は故障がちだった近年が嘘のように久しぶりの100試合出場、紅林は下位打線ながらも意外性のあるダイナミックな打撃から恐怖の下位打線として素晴らしい活躍を見せた。青年監督時代の星野仙一が正遊撃手の宇野勝をコンバートして高卒ルーキーの立浪和義を抜擢したことは後にも先にもないことと言われていたが、それに近い大抜擢だったのではないか。

個性派投手陣をワンランクアップ

 中嶋監督がプロとしてのキャリアをスタートさせた阪急ブレーブスは佐藤義則、山田久志、星野伸之を初めとするといった超個性派投手陣をウリにしていたが、今のオリックスも個性派揃いである。その個性派達に中嶋監督は自主性を重んじた調整を課した。中でも目立つのが山本由伸。やり投げやハンマー投げの所作をを投球フォームに取り入れるなど、革新的な練習法が話題となっていたが今年はウエイトトレーニングを一切しなかったようだ。体重移動や重心の置き方で理にかなった投球フォームを確立しようという意図の決断が功を奏した。その後、山本は斉藤和巳以来の投手四冠を手にしており、大きな飛躍を遂げた。

人材豊かな若手選手たち

 前述の紅林を初め、太田凌や来田涼斗と言った素晴らしい期待のホープが揃っているのだ。投手陣もとても面白い。今年ブレークした高卒2年目の宮城大弥を初め、山下舜平大、前佑囲斗が一軍定着に向けて牙を研いでいる。
 その中で僕は山崎颯一郎という投手に期待している。山本由伸世代の5年目の今季プロ初勝利を上げた苦労人だが、緩やかな腕の振りからホップするストレートとブレーキのかかった大きなドロップは巨人時代の東野峻を彷彿とさせるものがある。肘の手術明けだったこともあり今季は無理な登板はなかったが、来季以降オリックスのローテーション投手に入るだけの力を持っていると思う。

要所をしめたベテランリリーバー

 爽やかな仔牛の話の次は老牛の渋い話をすることとしよう。パ・リーグではオリックスとロッテの優勝争いの決定打となったのはベテランの力なのではないか。もちろん、ロッテにも素晴らしいベテランはいる。角中勝也は卓越した選球眼をここぞの場面で発揮しチャンスメークをし、唐川侑己は技巧派の中継ぎエースに生まれ変わり火消しに徹したが、絶対的なものはなかったのではないか。
 そんな中オリックスを支えたのは阪神をクビになった42歳の能見篤史と38歳の比嘉幹貴の2人。2人を合わせて40イニング程しか投げていないが、数字には現れない何かがこの2人にはあったのだ。特に、能見篤史はパ・リーグを経験したことが指導者として大きな財産になるはずである。また、この2人が若手に与える影響力も大いにあるのでは無いか。

最後に

 球界再編から苦節17年、猛牛軍団となったオリックスにようやく大輪の花が咲いた。バッファローズとなった現在でも、中嶋監督を初め田口壮、平井正史コーチらなど球団関係者に多数の青波戦士が残っている。しかし、17年前に球場から離れていった近鉄ファン、ブルーウェーブのファンは戻ってくるのだろうか。1+1=0という数式が成り立ったのが球界再編であり、オリックスは今後も近鉄の十字架を背負い続けるチームとして安易な球団合併に警鐘を鳴らす例となっていくのではないかと思う。

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