感謝の伝え方は人それぞれ。

 私の愛車はMAZDAのCX-30だ。今年で購入3年目になるのだが、日々の生活で使い倒しており帰宅するたびに「ごめんね、ありがとう」を心の中で呟いている。(新車で購入して既に走行距離80,000㌔!あと何年乗れるのか、、、。)
 ここまで負荷をかけているので、できるだけ洗車は手洗いでやっているし車内のゴミもできるだけ残さないようにしている。でもやっぱり素人(特段車にこだわりがなく、イジったりすることもない。直感的に気に入った車が好きなだけ)ができる車のメンテナスなんか高が知れている。
 だから、酷使している愛車にはなんとか贅沢をして欲しい。そんな思いから購入時からコーティングや偶にの贅沢で洗車をkeeperでしてもらっている。(学生の頃の私の性格ではあり得ないのだが、、、。大人のお金の使い方ができているのかな。)

 この3年間愛車の施工を担当してくださっているNさんはとても施工が丁寧で、押し付けがましい営業もない。なんなら洗車や保管方法のアドバイスをしてくださる、信用も信頼もできる施工者さんだ。
 そんな彼からついこの間電話が来た。滅多にないことなので、焦燥感を抱きながら電話に出ると思いがけない要件だった。「この度退職することになりました。お世話になったのでご連絡をさせていただきました。」

 待て待て待て。私はあなたにずっと愛車をお願いしようと思っていたのに。こう思ったのは束の間、すぐさま予定にはなかったが施工の予約を入れた。それ以降どうやって感謝を伝えようか考えていた。そして今日、予約時間を早め最後の施工をしてもらった。いつもは2時間ほど時間をかけてメンテナンスをしてもらう。でも今回は3時間ほど経ってから完成の連絡を受け取りに行った。

 施工は毎回最高なのだが、間違いなく今回のが最高で完璧だった。「いつもより力入れてやってしまいました」と照れながら話してくれたが、私は感動のあまり声が出なかった。
 感謝の伝え方は3通りあると考えている。1つは言葉で伝える。これは比較的手頃で尚且つほぼ確実に相手に感謝の意を伝えることができる。2つ目は行動で伝える。これは1つめよりは難易度が高いが感謝の意を伝えるには言葉と同様有効な手段だと思う。そして最後は自身の生業での中で質の高い結果で伝える。これはとても難しい手段であり、また相手がその技術の凄みや価値を理解していないと伝わらない。
 今回彼は3つ目の方法で感謝を伝えてくれた。コーティングの全てを知っている訳ではないけれど、雨粒や融雪剤の跡は全くなくドアノブまで漆黒の輝きを見せていた。素人目から見て愛車が新車同様に映るのだから、その技術の凄みは誰もが感じられるものだと思う。

 目視での点検をした後、会計を済ませるまでこの後どのような仕事をされるのか、なぜ退職されるのか時間が許す限り話し合った。
 その中で印象的だったのは、今回退職するのは幼少期から憧れていた夢を叶えるためだということ。今している仕事は趣味から始めたので初めは好きでたまらなかったが、日々を過ごす中で純粋な「楽しい」や「好き」の気持ちが義務や本意でない業務で削られていくのが辛かった、とのこと。そんな中、何気なく幼少期を過ごした場所に帰るとあの時憧れていたものに再会したのだそう。働く時には自分にはできるはずがないと思っていたものが今では「やってみたい」と思えるようになったことを自覚し、覚悟を決めて勉強したら「憧れ」のスタートラインに立てた。だから今回の退職はとても前向きなものなんです。そう話す彼の瞳は憧れを初めて抱いた頃のそれだった。
 私も彼と経緯に違いはあれど、憧れの職業に就くことができている。でも大きく異なるのが私の職業は憧れと趣味を兼ねたものだということ。彼の話を聞きながら、自分も同じような悩みを抱くのだろうか。その時、彼みたいな決断ができるのだろうか。そしてあの純粋な目で前を向くことができるのか。
 
 別れ際に私は言葉の限り感謝を述べ、「いつかまたどこかで」と彼と固い約束をして帰路に立った。
 私の愛車をここまで美しく保ってくれてありがとうございました。プロは言葉だけじゃなく技術で信用と信頼を勝ち取るものだと教えてくれてありがとうございました。Nさんのこれからの益々のご活躍を陰ながら応援しています。
憧れを自身の夢にした人生の先輩に幸多からんことを祈願して。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?