ちょっと楽しい誕生日ケーキの買い方
同居人のOさんが誕生日だった。
近所のケーキ屋さんに行った。
ちょっと楽しい買い方をした。
ので、日記に書いて、のこします。
・・・
誕生日ケーキって、本人に内緒で買うことも多い。けど、我々はある程度歳を重ねているからか、あんまり気にしなくなった。「じゃーん!おめでとう!!」も好きだけど、「どの味が気分?」「ローソクはどんなのにする?」を、共に話しながら選ぶのもよい。
近所の百貨店、地下1階 食料品売場。
ケーキ屋さんのショーケースには、苺のホールケーキがひとつ。ちっちゃいケーキは、たくさんあった。
「お、ラス1。よかったね」
「でもチョコの四角いの、おいしそう」
「確かに。レモンのタルトもうまそう」
「ちっちゃいのでも、ええけどね」
「でもホール食べることあんまりないし、迷うなあ」
「ちょっと考えよか」
ショーケースから数歩離れると、早足でスーツ姿のお兄さんが来た。
「すみません。これってキウイ入ってますか?」
「いいえ、苺のみです」
「あ、じゃあこれ下さい」
「プレートはお付けしますか?」
「はい。ハッピーバースデーで」
「お名前は入れますか?」
「あ、ひらがなで、◯◯ちゃんで」
ケーキの箱を持って、お兄さんが早足で帰っていく。今から家族でお祝いかな。時間は18時過ぎ。もしかしたら、お仕事急いで切り上げたのかな。
「……良いシーンだったね」
「ホールケーキにしなくてよかったね」
ということで選択肢も狭まり、ちっちゃいのを選ぶことにした。お姉さんに注文をする。
「プレートはお付けしますか?」
え、ちっちゃいケーキなのに、いいんやろうか。っていうか、それ聞いてくれるってことは、さっきの会話、聴いてくれてたんかな。嬉し。はい、付けたいです。お願いします。
「メッセージはいかがいたしましょう」
「あー、なんて書いてもらう?」
振り返って聞くと、Oさんは言った。
「うーん、“何があったの?” くらいがいいかな」
今日はこうして、ケーキを買いに来てるけど、Oさんは「サプラーイズ!ワァーーーッ!」……という感じでお祝いされることに、あんまり慣れないタイプ。「いつも通りの日でいいかな〜」と言っていた。それゆえの、「“何があったの?” くらいがいいかな」。
Oさんは言う。
「あ。やっぱ “どうしたの” にしよかな。短くて書きやすそうだし」
おっけー、わかった。お姉さんに伝えます。
「あの、ちょっと変わってるんですけど、いけますか」
「あ、ではこちらに書いていただけますか?」
お姉さんが、伝票とボールペンを渡してくれた。
『どうしたの』。
書いて、お戻しする。
お姉さん、笑う。どうしたの、って顔してる。
「えっと。ではご準備しますね。ローソクはお付けしますか?」
横を見ると、数字のローソクもある。
「棒タイプは無料でお付けできて、数字は有料です」
Oさんに、数字もあるよと声をかける。
「あ。ほんとだ。数字かわいい。黄色にする!」
「好きな色じゃなくて、数字で選ぶんやで。笑」
「うーん、でも……あ! じゃあこれにする」
Oさんが取ったのは、数字の「0(ゼロ)」。
あ、いいね。イニシャルにもなるね。
「ゼロ選ぶなら “わからない” でもよかったかな」
「あ、いいね。何歳かわかんない、気にしてない、みたいな」
「うんうん」
と、ここでお店が混んできたので、Oさんはフードコートへ。私のみが残る。
「すみません、もう一枚プレートほしいです。おいくらですか?」
「はい、追加は1枚100円です」
「はい、よろしくお願いします」
お姉さんがもう一枚伝票をくださる。
『わからない』。
お姉さんに、また戻す。
お姉さん、また笑っている。
そして、合計2枚の伝票が、中のパティシエさんに渡された。ガラス張りなので、様子が見える。パティシエさんも笑うかな。あ、笑ってる。なんか嬉しいぞ。でも笑ったらチョコペンを持つ手が震えちゃうかな。…と思ったら、すぐ真剣な顔つきに。プロだなあ。私だったら、3枚はミスる自信あるわ。
・・・
自宅へ戻る。
夕食を食べて、お待ちかねの、ケーキの時間。
Oさんと一緒に、箱をあける。よく、ケーキの箱の端っことかで、クリームをピッ、と削ってしまうので、慎重に、慎重に……
ふたりとも、俯いたり、しゃがんだりして、無声音で笑う。ケーキに盛り付けたいのに、面白くて手が震える。やっぱ5枚はミスりそうだな。
あー。よし、よし、できた。最高だよ
楽しくて、ツイッタランドに投稿、、
そしたらWebメディアさんから、「こちらをニュースで紹介したいのですが」という連絡が来た。どうぞどうぞ。これは、とてもいいニュースなのでね。たくさんの人に楽しみをお裾分けできるのは、私も嬉しい。
で、いくつか質問が来たんだけど、その中に、こんなのがあった。
「今回ツイートが話題になっていますが、どのようにとらえられていますか?」
ど、どのように……?? とらえて………???(笑)えー、なんだろう……「嬉しいです。」かなあ。
……と6文字打ったところで、「いや、ちゃんと考えてみよう」と思った。
嬉しいです、って、何が嬉しかったんだろう。
あ。たくさんの人にツイートが届いて、「うちの母、年齢気にしてるし、今度やってみよう」「わかる、私もこういうのがいいな」っていうコメントがあったことだ。どこかで笑えるシーンが増えると思うと、「嬉しいです」。
それから、「自分もケーキ屋で働いてます」という人からも、お返事があったことだ。そのケーキ屋さんでも、こんな風に、ちょっと変わったプレートを依頼する人がいるそうで。「変なメッセージ、大歓迎です!」という内容だった。
うんうん。誕生日じゃなくてもケーキは買っていいし、プレートも付けられるお店が多いはず。「祝・早寝早起き」とか。「新しい髪型かわいいね」とか。そういうのもいいな。そうして、ちっちゃいお祝いが、どこかの食卓で増えると思うと、とっても「嬉しいです」。
……ちなみに、ケーキはおいしくいただいたのだけど、プレートは食べられなかった。もちろん、いい意味で。
冷蔵庫開けるたびに笑えて、とても良い。
以上、「ちょっと楽しい誕生日ケーキの買い方」、でした。
Oさん、お誕生日おめでとう。
【後日談】
Oさんがインスタで、ケーキ屋さんのアカウントをメンションつけて投稿したら、ケーキ屋さんから「ありがとうございました!」とコメントでお返事があったらしい。すごいなあ、見てくれてるのだなあ。ちなみに、アンテノールさんです。本当においしかった、また行こっと。今度は「ここのケーキが好きです。また来ます」ってプレート、頼んでみようかな。
あ。今、思いついたんだけど、好きになった人が、もしケーキ屋さんでバイトしてたら、「今度デートしてくれませんか」ってプレート頼んだら、何かがはじまるんじゃないか??? な????? このスイーーートなアイデアを、ここまで読んでくれている誰かに贈ります。責任はとれんけど。
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