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第56号(2019年10月4日) 北朝鮮は核報復能力を持てるか


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【インサイト】北朝鮮は核報復能力を持てるか

 10月2日、北朝鮮は東岸の元山付近海上から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3号」を発射し、大きな注目を集めました。2016年に実施された「北極星1号」の発射に続くSLBM実験であり、北朝鮮の核戦力と核戦略が次第に高度化していることを伺わせます。
 北朝鮮の核戦略については本メルマガ第49号(2019年8月9日)で考察したことがありますが、ここにSLBMが加われば、より重層的な抑止力を構築することが可能になる、というのはメディアでも連日紹介されている通りです。
 報じられるところを総合するに、北極星3号は固体燃料2段式ないし3段式のSLBMであり、2日の実験では射程450km、到達高度910kmというロフテッド軌道で飛行しました。ということは最小エネルギー軌道(MET)で飛ばした場合の射程は2000km前後と見られ、河野防衛大臣は2500kmに達するとの見解を示しています。
 北極星1号の射程が1200kmくらいと見られていたわけですから、その倍前後の射程を有するSLBMが登場したわけですね。これは日本全土をすっぽり覆う射程ですから、有事に地上の核戦力や政治指導部が壊滅した場合の報復兵器としてはそれなりの能力です。
 いずれにしても、北朝鮮のSLBMが先制攻撃(対兵力打撃)に使えるような精度を備えている可能性はほとんどなく、基本的には第二撃(報復攻撃)用であろうという点は押さえておきたいと思います。潜水艦だから日本や米国の近海まで進出して奇襲攻撃に使える、という説明もみられますが、現実的にはほぼ不可能でしょう。
(先日メディアに出た際、「小泉さんのコメント」として「潜水艦だから奇襲攻撃に使える」というフリップを勝手に作られていたのでオンエア直前に慌てて修正してもらいました。マスコミの人は結構こういうことをしてくるので、自分の名前が出るものは結構細かくチェックしないと大変です)

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