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全国のメンタルヘルス支援者に安心して学べる場を|心理士・経営者2つの顔をもつ 岡村優希氏の新たな挑戦とは

臨床心理士・公認心理師として現場での経験やトレーニングを積み、今は【株式会社CBTメンタルサポート】という会社を立ち上げ、認知行動療法を学びたい専門職の人たちへのサポートに日々奮闘する岡村さん。どんな意見や価値観に対しても笑顔で『いいですね』とフィードバックしてくれる姿勢に安心感を覚える。一方で経営者という顔も持ち、専門職支援のために精力的に活動する姿が印象的。バイタリティ溢れる岡村さんだが、ここに至るまでには様々な葛藤や苦労があったそう。心理士と経営者、二足の草鞋で活動することへの想いや今後の展望について伺った。

株式会社CBTメンタルサポート代表 岡村優希さん

人間関係ってなんだろう・・・そんな疑問を抱いていた少年時代

ー心理士を志すきっかけや、それにまつわるエピソードがあれば教えてください。
岡村優希さん(以下,岡村):心理士になったのは、これまでの生い立ちが関係していると思うんですよね。僕の生まれは広島なんですが、これが相当な田舎町で。どのくらい田舎かと言うと、全校生徒が6人くらいしかいないような規模の学校に通ってたんです。そしてその半分が自分の兄弟というような(笑)。そんな環境だったので、同級生はいなかったですし、他の学年との複式学級を経験しました。修学旅行は他の学校に合流させてもらって一緒に行ったりしましたね。そんな環境を変えたくて、受験して中高一貫校に入学したんです。でも、もともとシャイな性格と、同級生と関わるスキルが身についてなかったことが影響し、人間関係に苦労しまして。そして中高一貫だから高校デビューしよう!というわけにもいかず、6年間耐え抜きました。正直、学校に行きたくないと思ったことは何度となくありましたが、行かないという選択肢は当時の僕にはなかったんですよね。

ー同級生との関わりを知らないのに、いきなり関わらないといけないというのは相当な苦労だったでしょうね。人間関係で苦労した中高一貫校での生活を経て、その後はどうなっていくのでしょうか。
岡村:高3になり、進路について考えないといけない時期がきて。自分自身、これになりたい!というものは特になかったのですが、なんとなく心理学科には興味があって。そしたらたまたま徒歩圏内で通える大学に心理学科があったので、オープンキャンパスに行ってみました。心理学科の案内をしてくださった方になぜ来たのか尋ねられて、もともと漫画についてる心理テストが好きだったていう話をしたら、その方がバウムテストなどの心理検査と勘違いされたようで『そんな人なかなかいない、すごいね!』とほめられてしまいました。でもそれも悪くない経験だったのと、もともと『人間関係って、なんでこんなにギクシャクするんだろう』『コミュニケーションってどうしたらいいんだろう?』っていう疑問がずっと胸の中にあったので、それを解明してみたいなみたいな気持ちもあったのかもしれないなぁと。

ー自分の生い立ちから、コミュニケーションや人間関係に興味を持ったことで臨床心理の道へ進んで行くのですね。大学ではどんなことを学んだのですか?
岡村:もともとは社会臨床心理学に興味があって。社会臨床心理学では、社会の仕組みを変えることで、問題を減らしていくという視点を大切にします。どちらかと言うと基礎系の方に興味があり、研究者になりたいと思っていたので、ゼミは認知心理学を専門としている先生のところを選びました。その後大学院に行くことは決めていましたが、研究者として基礎に進むのか、それとも臨床を学んで心理士になるのか迷っていました。悩んだ結果、まずは個人のサポートが大切だろうと思い、臨床を学べる大学院へ。その時は精神分析(対象関係論)の視点から、児童思春期のメンタルヘルスケアを研究しました。もともと子供が大好きで、臨床以外にも幼稚園へのボランティアをしていたことがあるくらい。実習でも迷わずプレイセラピーをやらせてもらいました。実はこの時はまだCBTに興味がなかったんですよね。

技術がうまくならないことへの葛藤・・・一方でカウン思いがけない才能が

ー私の中では、岡村さん=CBTのイメージが強いので、分析系の勉強をしていたなんて、想像がつかないです(笑)大学院を卒業後はどうなっていくのでしょうか。
岡村:いやー、本当ですよね。自分でもびっくりしています(笑)。大学院の修了が近づいてきて、進路のことも少しずつ考えていました。ゆくゆくはスクールカウンセラー(以下,SC)になりたいなと思っていて。だけど、S Cは一人職場で応用力が必要だし、卒業してすぐは厳しいよと周囲から聞いていました。なので、まずは臨床力を高めたいと思いましたね。なので、私設のカウンセリングルームやクリニックを中心に探しました。それも紹介や求人サイトではなく、ネットで興味があるクリニックやカウンセリングルームなどを探し、直接電話して問い合わせるというやり方で。そうして決まったのがとあるクリニックが運営するカウンセリングルームでの仕事でした。カウンセリングがメインでできることが魅力で、給料などの待遇はあまり考えず、とにかく修行したい!そんな気持ちでした。意気込んで勤務が始まったものの、カウンセリングが全然うまくなっている感じがしなくて。クライエントさんもよくなっている感じがしなかったんですよね。それに加えて職場の人間関係もいろいろあり。これでいいのかなぁ?とモヤモヤ。でも、カウンセリングルームの責任者の経験もやらせてもらえたりしたので、それはいい経験だったと思います。

―責任者も経験されたんですね。具体的にはどんなことを?
岡村:月々の運営報告などに加えて、広報など色々やらせてもらいましたね。ありがたいことに、院長は僕を信頼してくれていたので、僕の意見にも真摯に耳を傾けてくれました。例えば、『これからはメールカウンセリングが来る時代ですよ!』と院長に予言したり。それに同意してくれた院長と一緒に100万円くらいかけてシステム作ったけど、うまくいかず。時代を先取りしすぎました(笑)。運営って楽しいなぁとやりがいは感じていましたが、一方で、専門の臨床はうまくならないなぁという想いはずっとありました。このままでは良くないから、なんとかしたいなぁと思うのですが、まず学ぶ機会も少なくて。スーパービジョンをお願いしたいと連絡してみたこともあったけど、見ず知らずの僕を受け入れてくれるわけなく、返信が来ても断られたり。そうするともう書籍を頼りに学ぶしかないですよね。その時に出会ったのがC B Tでした。

やっと出会えたCBTとの出会いと、厳しい修行の日々

ーここでやっと!CBTと出会うわけですね。CBTのどんなところに惹かれましたか?
岡村:そう、やっとです(笑)。「クライエントさんに役立つことは何かな」って、臨床を勉強していく中でずっと模索していました。いろんな本を読み進める中でしっくりきたのがC B Tの本でした。CBTの理論の明確さ、困り事をパターンとして把握するというところが気に入って。実際に臨床で使うようになったら、クライエントさんの理解度も高いし、反応が良くなったんですよね。初めて自分の臨床に自信とやりがいを感じました。それに加えて、C B Tを専門としてやっている知人が、僕の勤務していたカウンセリングルームに入ってくれたのも大きな影響になっていると思います。その人からCBTの話を聞けば聞くほど、もっと知りたい!と思うように。
そんなタイミングでC B Tのとあるセミナーに参加した時に「臨床ってこんな感じなんだ!」と衝撃を受けます。自分がやっていたのは臨床じゃなかったんだな。という気づきと、このまま今の状態であぐらをかいていていいのか。という焦りや葛藤が生まれました。ちょうど27、8歳くらいの時。新卒とも言えない年齢です。修行したほうが良いと思っていた時に、友人から言われた一言で火がつき、本気で臨床のスキルを高めようと決心しました。

セミナーでの発表。臨床力を高めてくれる良い経験に。

―臨床が5年目くらいになると、今の自分のままで良いのか気になる方は多いと思います。臨床のスキルを高めるためにどんなことをされたのですか?  
岡村:研修に参加してインプットすることはもちろん、毎月1回の事例報告、学会での発表は絶対する、自分のケースを陪席していただくなどアウトプットに非常に力を入れていました。今思えば非常に濃厚な5年間でしたね。自分で決めたことですけど、毎日毎日辞めたいと思い。でも「始めたからには中途半端にしたくない」という思いで乗り切りました。辛かったけど、良かったこともたくさんあって。自分自身の臨床のスキルアップはもちろん、他の心理士や医師などの他職種とのご縁ができたこと。これは僕にとっての財産ですね。

学びたい人のために学びの場を。専門職を支えるための事業をスタート

ー辛い状況や挫折もなんとか乗り切る。岡村さんのレジリエンスの高さには頭が上がりません。今は自身で会社を立ち上げられたのですよね。そのあたりの経緯も気になるのですが。
岡村:きっかけとしてはカウンセリングルームの新オフィスの立ち上げに携わらせてもらったことでしょうか。その頃はS Cも3校くらいかけ持ちして働いていたので、休みはなかったですけど、運営にやりがいを感じていたので、大変さよりも充実を感じながらやっていました。新オフィスも落ち着いてきた頃、「CBTをもっと世の中に広め、クライエントさんの利益になることがしたい」という思いが強くなっていきました。世の中に広めていくには、CBTができる心理士が増えれば良いと思うのですが、CBTを学ぶ場所が限られていたり、金銭や時間など様々な制約があって学べないなど、学びたくても学べない人ってたくさんいますよね。そういった人たちのサポートがしたい。そのために作ったのが株式会社CBTメンタルサポートです。これってもともと僕が興味を持っていた社会臨床心理学の考え方ともつながると思うんですよね。仕組みを作ることで問題を解決するっていう。

ー支援者への支援をすることは、クライエントさんの支援にもつながっていきますもんね。心理士が起業するってまだまだ珍しいと思いますし、大変さなことも多そうですが・・・
岡村:そうですね、運営・経営は難しいなぁと感じています。臨床とはまた違いますしね。これも勉強するしかないなぁと思い、300冊くらいのビジネス書を読んだり、ビジネス系の情報を発信しているyoutubeを見たりして。これはカウンセリングルームの立ち上げをした時に感じたのですが、開いたからと言ってお客さんにがすぐ来るというわけではないですよね。H Pが検索に引っかかるようになるまでに半年は必要と言われていますし。僕も含めて開業している人たちは最初は開業一本ではなく、非常勤の掛け持ちをしている人が多いみたいです。僕の場合、顧客は専門職が中心なのでGoogleとFacebookの広告を使う、Twitterをメインに情報を発信していろんな人に知ってもらうなどを行なっています。今一番力を入れているのは、【認知行動療法の学校】というCBTを学びたい専門職のためのコミュニティ運営です。かつて僕が感じていた「学びたいのに学べない」という悩みの解消につながっていけばいいなぁと。

とある日の研修会の様子。最近はオンラインでの依頼も増えました。

ーこういった専門家のためのオンラインコミュニティってあまり聞かないような気がして、とても新鮮な感じがします。始めてみてどんな反響がありましたか?
岡村:おっしゃる通り、こうしたサービスってこれまであまりなかったので、どんな反応があるかなぁと僕自身ソワソワしていましたが・・・思っていたよりも反応は良かったですね!昔、オンラインセミナーやYoutubeなど、新しいことを始める時には何かと否定的なご意見を頂いたことがあるので(笑)。むしろ「こういった学べる機会ができてうれしい」という声を聞くことができたので、開いてよかったなぁと思いますし、もっとサービスを充実させていきたいと思います。

CBTを通して岡村さんが得たもの。そして今後のビジョンとは

ー新しいことを始める時は賛否両論ありますが、開拓することで見えてくる新しい風景もあるかもしれないですよね。ところで、岡村さん自身がCBTをきっかけに変わったことや、日常生活にCBTをどう生かしていますか?
岡村:そうですね、説明力が磨かれたと思います。あとは言葉のレパートリーや表現のバリエーションも増えたかなと。日常生活に生かしているとしたら・・・CBTを通してセルフモニタリングができていることでしょうか。何を考え、どう行動しているのかを距離を取って客観的に見る習慣ができたことで、自分を知ることができました。それと、なぜうまくいかないのかにも気づくことができたり。僕がこの世界に飛び込むきっかけとなった人間関係のあり方についても理解やイメージができるようになりました。

ーセルフモニタリング、大事なんだけど、案外難しいものですよね。これは私も常に課題です(笑)
岡村:心理療法って専門家とじゃないとできないものが多いけど、C B Tは自分でできると思うんですよね。だから、まずは専門家である自分が体験することをオススメします。例えば、ラーメンを食べたことないのにラーメン屋を開く店主っていないですよね?それと同じで、カウンセラーこそカウンセリングを体験していないとカウンセリングをクライエントに提供するって難しいと思います。それと、座学を学べる場所はたくさんあると思うんですけど、臨床がうまくなるためには実践が大事。僕が主催する研修は、ロールプレイや模擬面接を行うことを重視しています。ただし、自分の面接を相手に見えるってけっこうセンシティブなことだと思うんですよね。だから否定的で高圧的な態度ではなく、安心して失敗したりチャレンジできる。そんな雰囲気を作るよう心がけています。心理士のメンタルにも優しく、安心して学べる場所でないといけないと思うんです。

自身のYouTube番組『おかゆチャンネル』のロゴ。友人に書いてもらったお気に入りの作品です。

ー最後に。岡村さんにとってC B Tとは
岡村:そうですね、一言でいうなら【セルフモニタリング】でしょうね。自分のことについて完璧にできていなくても大丈夫。うまくいっていないことと一旦距離を置いて、見つめ直す。そして自分自身のクセに気づき、思考や行動を修正してみる。そうしたら、きっと自分のいいところ・いい方法が見えてくるはずです。

【岡村優希さん プロフィール】

岡村優希さん

公認心理師・臨床心理士・認定行動療法士広島国際大学大学院心理科学研究科実践臨床心理学専攻専門職学位課程 修了大学院修了後、心理相談室及び心療内科クリニックにてさまざまな精神疾患に苦しむ方へ認知行動療法を実施。また、小学校や中学校においてスクールカウンセラーとして児童思春期支援にも携わる。さらに、学会などでの事例報告や専門向け研修事業なども実施。これまでの認知行動療法による実践経験を経て、現在は専門家育成に尽力している。

HP:  https://cbt-mental.co.jp/   
Twitter:  https://twitter.com/yuukinoaru  
Youtube:  https://www.youtube.com/channel/UCOwWpTRKjvjWkApyJqKx-Yg

岡村さんが主催する【認知行動療法の学校】
メンタルヘルス支援者が実践的に認知行動療法を学ぶためのコミュニティです。興味がある方はこちらからご覧ください。
https://community.camp-fire.jp/projects/view/590151

  




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