階段女

某病院の三階にいた。
一階へ降りるためにエレベーターを使う。
エレベーターは一階に停まっている。
連れがボタンを押した。
なぜか上りボタン。
いつものことだ。
説明しても理解しないので黙っていた。

別の女性がエレベーター前に現れ、上りボタンが点灯しているのを見て私たちに並んだ。
すぐにエレベーターが上がって来た。
女性はやって来たエレベーターに乗ると、乗り込まない私たちを不思議そうに見つめ、そのまま上がって行った。
連れは憮然とする。
最上階まで行ってしまったエレベーターは、なかなか降りて来ない。
憮然とした表情のまま、連れはいつものように階段を下りる。
このパターンがずーっと続いている。

「一階に停まってるエレベーターを三階まで上がって来なさいって呼ぶんだから、上りボタンを押すのは当然でしょ!」
「階段女」の思考回路はこうだ。
それが一向に治らない。
だから今さら説明しても無駄なのだ。

10代後半まではどうしてもタイミングがつかめず、エスカレーターにも乗れなかったという。
いち、に、さん、はい今よっ!
友人たちの協力で、やっとエスカレーターは克服した。
しかしエレベーターの上下はタイミングではないから、この歳になっての克服はもう不可能らしい。
固定観念が、エレベーターの一切の理屈や仕組みを拒絶する。

最近はカーナビがあって問題なくなったが、以前、首都高横浜線の本牧から乗り、谷町経由で新宿方面まで行こうとして、なぜかアクアラインで木更津まで行ってしまった問題児である。
助手席ですぐ居眠りをしてしまった私は、なぜ今、木更津にいるのか激しく混乱した。
そんな絶望的な「元木更津女」なのである。
木更津は卒業できたのに、エレベーターが鬼門である。

「階段好き?」
「キライッ!」
だそうです。

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