書店の魅力

 私は書店が大好きである.本がみっしり詰まった背の低い本棚も,客がほとんど一人で訪れていて,例え複数人で来ていても言葉数少なに本を選んでいる様子も,書店員さんが愛想よく「カバーをお付けしますか?」と尋ねてくれる姿も,書店を構成するすべての要素が好ましい.

 本屋に並ぶ多種多様な本を見ていると,万が一この先自分の人生に絶望して生きる気力を失ったとしても,ここにある気になる本を読もうと試みているうちに一生を終えられるだろうと考えてしまう.本が好きであるの一点により,「今後の人生で退屈をしない保険」に加入している気がする.なんと喜ばしいことだろう.

 図書館で借りた本と書店で購入した本,これらに違いはあるのだろうか.大学生になり一人暮らしを始めて以降,本を購入する機会が多くなった.本を買うこと自体楽しいし,一冊の本を自分のものにするとこの本と今後過ごす楽しい時を手に入れた気がしてワクワクの前借ができるし,金銭的な負担と引っ越しを気にしなければ無限に本を購入したい.
内容を把握するのであれば図書館で本を借りれば十分である.しかし,本と過ごす時間に楽しさを見出すのであれば,高くても一冊数千円である,遠慮なく購入してしまえ,との考えがここ数年過ごしてみての結論である.

 今日は紀伊國屋書店に行き,ずっと出版を楽しみに待っていた「ロバのスーコと旅をする」(高田晃太郎/著,河出書房新社)を購入した.筆者がロバと世界各国を旅する様子を発信するTwitter(アカウント名「太郎丸」)が話題となり,それらの体験をまとめた書籍が出版される運びとなった一冊である.
昨年末,私は体調を大きく崩して寝込んでいた時に,太郎丸さんのTwitterでの投稿を連日楽しみに眺めていた.一連のツイートはエネルギーに満ちており,あの気分の落ち込みの中においても遠い異国に思いを馳せるのを助けてくれるような力を持っていた.スーコへの愛情に満ちたまなざしに,クスリと笑わせてもらった夜もあった.どこまでも続く砂漠の中に,ぽつりと緑の農地が存在する写真は,私の脳を痺れさせるようだった.
Twitterのスレッドはいつの間にか流れていってしまう流動的な文字列である.しかし,書籍化された今,わたしは太郎丸とスーコの旅を途切れることなく,場所も時間も選ばずに追体験が可能となった.

明日は日曜日だ.今夜は思う存分夜更かしを楽しもうと思う.


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