古典ギリシア語のわかりにくいちっちゃい語たち・・・その1

§1 主節のなかに現れるちっこい語たち


1-1推量・反実仮想を表すἄν
現在時制のottativoで現在の推量
Οἰ πολέμιοι ἄν ἔλθοιεν εἰς τὰς Αθὴνας.
敵はアテネに入っているかもしれない。
歴史時制の直接法で過去の推量・反実仮想(この2つが同じ形で表される)
Οἰ πολέμιοι ἄν ἠλθον εἰς τὰς Αθὴνας.
敵はアテネに入ったかもしれない。
敵はアテネに入ることもできたのに。
 
1-2 疑問文につける小辞たち
1-2-1 一般疑問文の前につけることができるἆρα
Ἆρ`εἶδες τὸν βασιλὲα; 君は王を見たか?
 
1-2-2 反語(かたちのうえでは否定文だが意味的に肯定文:ラテン語のnonne)につけるἆρ`οὐ, οὐ, οὺκουν, μῶν οὐ, ἦ γάρ, ἦ που, ἦ οὐ, ἂλλο τι ἦ
Οὒκουν τὸν πατὲρα γιγνὼσκεις; 君が自分の父親を知らないなんてことがあろうか?
 
1-2-3 反語(かたちのうえでは肯定文だが意味的に否定文:ラテン語のnum)につけるἆρα μή, μή, μῶν
Μή τι ἂλλο λέγεις το δίκαιον; 他の何かが正しいと君が言うなどということがあろうか?



§2従属節のなかにあらわれるちっこい語たち1 名詞節


2-1 名詞節をつくるὃτιὡς
Δῆλον οὐν ἐστιν ὃτι Μἀρκος οὐκ ἣξει τήμερον.
マルコが今日来ないのは明らかだ。
 
注:接続詞を使わないラテン語的なacc+infのかたちも可能。
Δῆλον ἐστιν ἀγαθόν σε εἶναι.
君が善良なのは明らかだ。
 
注:ὃτιはὡςよりより客観的なニュアンスがある。
 
2-2 主格として使われる名詞節を支配する動詞・形容詞たち
基本的に非人称動詞である。
a.     必要性を表す動詞 δεῖ, χρή 「必要である」 πρέπει「便利である」
b.     物事の発生を表す動詞 γίγνεται, συμβαίνει「〜が起こる」
c.     δοκεί「〜に見える」
d.     形容詞δυνατόν ἐστιν「ありうる、可能だ」、δίκαιον ἐστιν「正しい」、καλόν ἐστιν「美しい」δῆλον ἐστιν「明らかだ」
e.     「思う、言う」の受け身λέγεται「言われている」、νομίζεται「思われている」、ἀγγέλεται「報じられている」
 
2-3目的格として使われる名詞節を支配する動詞・形容詞たち
a.「言う」「思う」「知る」などの動詞
それ以外の他動詞は基本的にacc.+inf.またはinfをとる。すなわち主文の主語と不定詞の主語が一致するときは前者、不一致の場合は後者。
 
2-4目的格として使われる名詞節がὃτι, ὡς以外の接続詞に導かれる場合
2-4-1
δείδω「恐れる」、φοβέομαι「恐れる」、φόβος ἐστιν「〜の恐れがある」、κίνδνος ἐστιν「〜の危険がある」といった動詞のあとに続く名詞節は「〜することを恐れる」はμή、「〜しないことを恐れる」はμἠ οὐがそれぞれ名詞節を作る接続詞として使われる。
また2-2,2-3に反して、主節が現在時制の場合は接続法、歴史時制の場合はottativoを使う。
 Ὁ πατὴρ φοβεῖται μὴ ὁ παῖς ἀποθ´νῃ. 父は息子が死ぬことを恐れる。
Ἐφοβεῖτο μὴ οὐ δὺναιτο ἐξελθειν. 彼は外に出られないことを恐れた。
 
2-4-2
「〜するよう取り計らう、試みる」を表す動詞ἐπιμελέομαι, σποθδάζω, φροντίζω, ὁραω, σκοπέομαιは目的格の名詞節が肯定文ならὡς, ὁπως、否定文ならὡς μή, ὁπως μήに導かれる名詞節を目的語に取る。その名詞節は直接法未来が使われる。
 
注 更にこのタイプの動詞は動詞自体が省略されることもあり。
Καὶ ὃπως μὴ αὐτῶν ἠττηθήσθε.彼らに負けないよう(い試みた)
 
2-4-3
感情を表す動詞χαίρω「喜ぶ」、ἀγανακτέω「怒る」, αἰσχὐνομαι「恥ずかしがる」などはεἰ, ὃτι(否定文ではεἰ μή, ὃτι μή)に導かれた名詞節を目的語に取る。この名詞節内では直接法か、主節が歴史時制のばあいはottativoが使われる。
Θαυμάζω εἰ Κῦρος ἡγεῖται…私はキュロスが〜と考えているのに驚いた。


§3従属節2 間接疑問文のなかに現れるちっこい語たち


3-1単純な一般疑問文を間接疑問文にしたときにはεἰを使う。
Κλέαρχος ἠρώτησεν εἰ ἣδη ἀποκεκριμένοι εἲεν. 
クレルコスは彼らがすでに返答をよこしたかどうか尋ねた。
 
3-2 間接疑問文の部分の内容が疑わしい場合は肯定文の場合はἐάν, ἢν, ἂνに導かれた接続法、否定文の場合はμήに導かれた接続法の文がそれぞれ間接疑問文を形成する。
Τόδε σκόπει ἐάν ἂρα και σοί ἀρέςῃ. これが君にも気にいるか見てごらん。
 
3-3英語のwhether A or Bのような形を作るのは、πότερον (πότερα)… ἢ, εἲτε…εἲτε, εἰ…ἢを使う。
Ἡ μήτηρ διηρώτα τον Κῦρον πότερον βούλοιτο μένειν ἢ ἀπιέναι.
母はキュロスにそこに残りたいのか出発したいのか尋ねた。


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