「作曲の科学」フランソワ・デュボワ

作曲は難しそう。自分には出来そうもないというイメージを持っていた。だが、本書を読んで私の中での作曲のハードルがグッと低くなった。作曲に対してこんなもんでいいんだという感想を持った。

ト音記号やヘ音記号、長調や単調など義務教育の音楽の授業で習ったものの、なんとなくでしか理解していなかった音楽理論を復習できた。

私の音楽最終学歴は中学校だ。音楽の構造について全く知らなかったけれど、本書は分かりやすく説明する。音楽をしない多くの人にとって楽譜というのは呪文のように感じられるだろう。本書を読めば楽譜というのは簡単なルールで構成されているのだと感じられる。それに、現在の五線譜が発明された背景、楽譜の歴史も学べるのだから、そこはやはりブルーバックスである。我々の知識欲も満たしてくれる。

個人的に意外だったのが、本書の一番最初に引用される、チャールズ・ダーウィンのことばである。

音楽は、つねに人類の歴史に寄り添ってきたものであり、人類の天賦の才の一つで、最も神秘的なものである。

チャールズ・ダーウィン

ダーウィンが音楽のことを「最も神秘的なもの」と表現することが驚きだった。生物学を専攻するわたしにとって、ダーウィンは最も尊敬する科学者の1人である。好きなひとが好きなものは自分の好きなものでもある。わたしは影響されやすい人間なので、本書の冒頭でダーウィンの名前が出てきただけで、一気にこの本にのめり込んでしまった。

本書によると音楽というのは、聞き手の嗜好が最も影響するみたいだ。音楽の聞き手はある程度好みのフレーズを期待しながら聴くようだ。だから、オリジナリティあふれる曲ばかりが作られることはない。結局誰かに聞かれないと意味はない。

最近の音楽を聴くと伴奏がなくなったなーという印象を受ける。TikTokとか、ショート動画などの切り抜きが好まれているためだろうか。曲の冒頭5秒にいのちをかけている曲が多い。冒頭5秒で聞き手の心を掴まなければならない。じゃないとすぐにスワイプされてしまう。

歌手に関しては、それこそリストのような技巧見せびらかし大会になっている。流行りの曲を歌うどの歌手も一般人には出せない高音や歌唱力で聴く人を圧倒させる。すごいし、感動もするのだけれどずっと聞いていると疲れてしまう。

歌詞よりもメロディの気持ちよさにパラメーターを全振りしているような曲。頭を空っぽにしながら聞いてドーパミンをぶち上げるような曲が今は流行っている。

電車に乗ればほとんどみんなが皆んながヘッドホンをしている。現代人は音楽ドーパミン中毒だ。音楽依存である。わたしには、最近の流行っている音楽が、SNSのように、ドーパミン製造機として機能している点で同じものに思える。最近デジタルデトックスとか、マインドフルネス瞑想とかをよく耳にする。わたしの予想ではあと5年もすれば音楽デトックス的なものが流行する。

もちろん全ての音楽がドーパミン製造機だと言っているわけではない。チルアウト系の音楽も、近年のドーパミン放出系音楽の隆盛に伴い、規模が大きくなっているように感じる。

DTMなどの作曲ソフトにより、あらゆる楽器が簡単に利用可能になり、また、コンピュータの作る新たな音質も開発された。作曲は、もはや天井に達してしまったのではないかと感じる。きっと、今からわたしが作曲をしても、新たなコード進行を作ることはできないと思う。すでにだれかが作ったものの模倣になるだろう。すでにあらゆる作曲テクニックは出尽くしているように感じる。100年後、200年後の音楽がどういう形をしているのか楽しみである。

音楽に流行り廃りがあるのにも関わらず、普遍的に評価されるバッハとかベートーヴェンとかには、ロマンを感じる。わたしはバッハのG線上のアリアより美しいと思えるような曲がこれから先に出てくるとは思えない。彼らが現代に生きるわたしたちの気持ちいいと感じる型を作ったのだと思う。

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