楽器作りの技術を使った装身具を。『あらけずり』清水さんにインタビュー【THE HANDMADE HUB】
こんにちは、CAT+v編集部です。ハンドメイド作家さまにインタビューしていく新企画『THE HANDMADE HUB』。
第三弾は、本物の楽器作りに使用してきた技術を活かし、楽器のパーツをモチーフにしたジュエリーを制作している『あらけずり』清水さん。
ご自身で改造を重ねてきた作業机や工具、「美しい楽器」と「装身具らしさ」における葛藤をはじめとした作品制作の裏話はもちろん、フルート職人と並行してジュエリー制作を始めたきっかけなど、清水さんご自身のご経歴についてもたっぷりお話を伺いました!
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「日本は世界的なフルート大国」約18年フルート製作に携わってきた清水さん
――楽器メーカーでの楽器作りからジュエリー制作に転身されたとのことですが、ジュエリー制作は副業からだったんですね。
清水さん(以下、敬称略):そうですね。
今は独立して、フルートのリペアをしながら装身具も作っています。
――弦楽器の構造は目に見える部分が多いですが、「管楽器は精密なもの」というイメージがあります。
それを手作業で作っていたんですよね。すごいです!
清水:どんな作業を想像されているかにもよりますけど、多分、思われているほどガッツリ手作業ではないですよ。機械も使っています。
細かいパーツや金属製のものが多いので、手作業だけでは無理なパーツがたくさんあるんです。
じつは、フルートメーカーって日本にたくさんあるんですよ。
――そうなんですか!?
清水:日本って世界的なフルート大国みたいな感じなんです。
――まったくイメージがないですね……。
清水:ですよね(笑)
大きなところでは『ヤマハ』と『ムラマツフルート』というフルートメーカーがあって。
そこから独立した人たちがたくさんいます。
それぞれに個人のメーカーがあって、そこからまた大きなメーカーになったりして。ちゃんと数えたわけではないんですけど、20社くらいはありますね。
その中でも、ひとりでやっているメーカーもあります。そういうところは、こだわりを突き詰めている部分がありますので、細かいパーツの加工はもちろん、本体の板を巻いて作るところから自作されているところもあります。
逆にひとりだからこそ外注さんにお願いする部分もあると思いますが。
大きなメーカーだと自社に機械もあったりして、かなりの部分を社内で賄える状態だと思います。
会社の規模などによってそれぞれのスタンスがあると思いますが、私が勤務していたメーカーは社内には旋盤とボール盤などがありました。これを機械加工と呼ぶか手作業と呼ぶかは人によって変わるかもしれません。
ただ、複雑な形状の加工などは外注さんにお願いしたりしていました。
――パーツを外注するんですね!
清水:楽器メーカー御用達みたいな部品加工屋さんがいるんですよ。
ただ、パーツってほんとに一個一個のパーツなので、ひとつずつ仕上げていったりする作業は全部手作業ですね。
――ちなみに、フルートを1本つくるとしたら、どのくらい時間がかかりますか?
清水:現役時代でだいたい月2本から3本ペースです。
2本で丁度いいくらいかな。3本だとちょっと苦しい(笑)
――仕事量がすごいですね。
フルートで一般的に使われている素材は何ですか?
清水:高級だと銀を使っているものもありますよ。
お求めやすい楽器には洋白(ようはく:銅・亜鉛・ニッケルから構成される合金)が使われていますね。
さらに高級なものになると、金やプラチナも使っていたりするものもあります。
――ちなみに金の品位はどの程度のものを使うんですか?
清水:多いのは14金です。
18、24もあるにはあるんですけど、加工しやすいのが14金っていう感じですね。
――素材によって音が変わりますか?
清水:そうですね、やっぱりその辺は変わってきます。
――そんなに高級なものなんだって驚きました。貴金属の塊じゃないですか。
清水:最近はまた楽器の値段もすごく高くなってきちゃって。
全部金の楽器だと600万、700万くらいは普通にいってしまうので。
――フルート1本の重量はどのくらいなんですか?
清水:重量は500gもないですよ。
もちろん材質にもよるんですけど。
――需要があるから日本がフルート大国たる所以があるんですかね。
国内だけじゃないんですよね?海外からの需要も多いとか……。
清水:もちろんもちろん。
――やっぱり職人の国、日本なんですね。
「初心を忘れない自分でいたい」ブランド名『あらけずり』に込めた想い
――『あらけずり』についてお聞かせください。
清水:楽器作りから始まった私なので、「楽器作りの技術を使って装身具を作りたいな」という想いがありました。
なんでそう思ったのかというと、もともと自分が作っていた楽器は高級品で、普通に100万円前後とか、なかなか手が出せない価格なんですよね。
自分も現在フルートを吹いていて、周りにフルート仲間もたくさんいるんですけど。
自分たちが作った楽器を吹いている人は、そんなに身近にはいないんですよね。
――そうなんですか!?
清水:もちろん、いるにはいるんですけど。
やっぱり高いのと、先ほどの話のようにメーカーが多い、つまり選択肢が多いので、なかなかいません。
でも、せっかくモノを作っているわけだから、周りの身近な人にも見てもらえる、喜んでもらえるモノができたらいいなって。
――なるほど、手に届く価値を提供したいという想い、共感します。
ブランドコンセプトに「初心を忘れないように」という言葉がありましたが、初心は常々考えているところなのでしょうか。
清水:そうですね。ともすると忘れてしまいがちなので。「初心を忘れない自分でいたい」っていうか。
戒めじゃないですけど。
――楽器を作る技術をそのまま使ったジュエリーを制作されていますが、
具体的に楽器製作の技術でどういったところをジュエリーに落としこんでいますか?
清水:技術は楽器製作そのままです。
楽器製作も部品のパーツひとつひとつをヤスリで削って成形して、ロウ付けして組み立てていくので。
逆に言うと、自分が持っている楽器製作の技術で作れる装身具を作ってきた、っていうところがスタートです。
『あらけずり』のスタートが「楽器を作る技術をそのまま生かす事」だったこともあり、ヤスリ・糸鋸・ロウ付けの3つの作業のみで完結する作品を制作していました。勤めていたメーカーのスタイルを踏襲してこうなったのですが。
ワックスに対する知識も経験もありませんでしたので、鋳造用の原型制作もすべて地金から先程の3つの技術のみで制作していました。
この自由度の低さが個性になったと思っています。
楽器製作の技術を駆使した「フルート職人が作るジュエリー」
――モチーフにされているのがフルートの「キィカップ」というものなんですね。
……まず、「キィ」ってなんですか?
清水:(笑)
リコーダーを想像してもらうと分かりやすいです。
リコーダーって本体になるパイプに穴が空いてますよね。その穴をリコーダーは指で塞ぎますが、フルートなどは穴が大きくて指で塞ぎきれないんですよ。
そのために、「キィカップ」というものが付いていて、指の代わりに穴を塞いでくれる役割をしています。
――ふたをしてくれる感じなんですね。
清水:そうそうそう。
そういうメカニズムが上にダーッと乗っかっているんですけど、そのメカのことを「キィ」と呼んでいます。
――実際に楽器のパーツを作品に昇華しているのでデザインに説得力があります。
コンセプトに沿っていて素敵です!
清水:ありがとうございます。
――「水面に写る波紋のよう」というところから、音の広がりや本来の部品の役割がデザインにすごくマッチしています。
作品だけを見たときと、文章を読んだあとでは印象が全然違って見えてきますね!
清水:おー、それは嬉しいです。
――フルートの部品をモチーフにしようと思ってから「こんな解釈があるな、こんなデザインにできたらいいな」というエピソードはありますか?
清水:この作品は……正直に言うと、カタチありきで先に考えちゃいました。
他の作品もそうなんですけど、自分も実際にフルートを吹くので、過去の経験だったり、日頃から感じていることをガバーっと書き出して、制作してからメッセージ付けをしていっているパターンです。
――それがひとつの商品としてすごくマッチしていて、「こういうブランドなんだな」と思わせる作品だと感じます。
清水:その辺は割と意図的にやっているところでもあります。
――ブランディングについては、楽器を作っているだけでは出てこなかった発想では?
清水:そうですね。楽器を作っていたときって、本当にただの「いち作業員」でしかなかったので。
――楽器という完成図がわかっているものと、ご自身でデザインから考えて作る作品って頭の使い方が違うのではないかと思うんですけれども、苦労した点などはありますか?
清水:そうですね、全く違います。
苦労は……そうだなぁ。
メーカーでは「フルート」という意味では毎月同じものを作っているのですが、約1か月かけて完成させると、次の月にまたゼロから新しい1本をスタートさせます。
それが「常に最高のものを作る」つもりで取り組みながら、「なかなか最高のものが出来ない」っていうことを、ずっとやってきたんですよ。
アスリートじゃないですけど「常に限界に挑戦する」みたいな。
そういうのを毎月続けてきていたのが、自分たちがやってきた楽器作りのパターンでした。
メーカーにいたときは「自分との戦い」であると同時に、会社の中で検査をされるので、自分のこだわりを追求しながら、検査に通るものを早く作る必要があるんですよね。
自分の能力が至らなくて検査をはねられるっていうことも、もちろんあるんですけども。
会社なので、最終的には自分だけの責任ではないところがある。
未熟なうちは検査任せで、言われたところだけ直すっていう作業になってしまうこともありました。
それに対して今やっているのは、すべてが自分の責任の中でやっている状態。
品質をどこにどう持っていくのかという匙加減が大変ですね。
――なるほど、自分次第ですもんね。
清水:その匙加減がすごく難しいところです。
「美しい楽器とはこうでなければ!」っていう自分の持っていた価値観と、装身具としての「装身具ってこうだよね」っていう価値観のズレがあると思うんです。
その辺のすり合わせは未だに揺れ動いているところですね。
――清水さんが考える「装身具ってこうだよね」という部分とは?
清水:そうですね……。
まず楽器から言いますね。
自分たちがやってきた楽器作りは、ヤスリで作ったカタチがそのまま残っている状態を理想としていました。磨いたあともシャキッとしたカタチが美しい楽器。
もちろんバフ(バフ:素材の表面処理を行うための工具)も当てるんですけれども、バフするとダレるじゃないですか。(ダレ:鏡面が歪んで見えること)
――ダレ、ありますね。
清水:不可能に挑戦する感じだったんですけど、バフのダレがない状態が理想。
楽器の場合は、シャキッとした状態を目指したいがために、ちょっとのキズはセーフにしてしまうこともあるんです。
装身具と比べると、フルートの管体って面が広いので、バフで一か所凹んだりすると、すごく目立つんですよ。
もちろんキズは目立たなくしますが、完璧には取らない。そういう判断がけっこう多いんですよね。
楽器だと裏側やフェルト、コルクを貼る場所など、絶対に正面から見えないところがたくさんあるので、そういうところはヤスリでそのままとか。
でも、装身具を作っているうちに「装身具でそれはちょっとマズいな」と気が付きました。
『あらけずり』が始まって最初のころ、とくに「あいすれば」(フルートのA#を出すための「Aisレバー」というキィをモチーフにした作品)では、けっこう裏はキズが残っていたんです。
でも、だんだん「やっぱ裏とはいえこれは装身具だし、普通に丸見えだし、よくないなぁ」みたいな。そういう自分の中で意識の改革をしながら、迷いながら進んでいます。
雰囲気をまとった作品タイトル。名付け方法の裏側に迫る
――アイテムを見ていると、楽しんで制作している様子が伺えます。
先ほど少し触れていた「あいすれば」なんて、本当にいいネーミングですよね。この名前を思いついたとき「勝ったな」って思いませんでした?(笑)
清水:いや(笑)
「勝ったな」っていうか、「これだ!」っていう感じですね。
名前はいつもすごく悩むんですよ。
――クラリネットをモチーフにした「くろ桜」のお名前を考えていたときの一覧を拝見したんですけど、「絶対この人楽しんでやってるよ」って。
清水:うん、そうですね(笑)
X(Twitter)より
――雰囲気をまとったお名前の作品が多く見られますが、何か基準があるのでしょうか?
清水:明確な基準は設けていませんが、自分の好き嫌いにすべてが集約されていると思います。どちらかというと、日本語っぽい感じが多い気がしますね。
完全に好みではあるんですが、「くろ桜」の名前を考えていたときは、丸一日あの連想ゲームをしていました。
――途中「のどぐろ」とかいますもんね。
清水:「肉」とかもいました(笑)
――「桜」という単語が出てきた瞬間、すごいなって。
清水:そうそう、交差と。
クラリネットのクラと、たまたま並んだ瞬間に「おぉ!桜がいるー!」って(笑)
そこから一気に桜つながりで広がっていって。
――あれ、本当に面白いです。すごく刺さりました。
「ラで鳴きそうな虫」とか(笑)
奏者の方にはすごく刺さるんだろうと感じます。
清水:そうですね。ラの音を出すときに使うキィなんで。まんまなんですけど(笑)
X(Twitter)より
――楽器って、先人たちが何度も試行錯誤をしてきた歴史のあるデザインじゃないですか。普通の方は楽器として「きれいだな」「かっこいいな」って見ていると思いますが、パーツひとつを切り取ったときに、ここまで存在感が出ることに驚きました。
清水:ありがとうございます。
――もともと存在感のあるパーツを選んで作品にしているのでしょうか?
清水:そうですね。
それもあります。
――「あいすれば」も普通にペンダントトップとして可愛いですもんね。
清水:ただ多分、楽器についている状態で「Aisレバーピンポイントでこのデザインが」って考える人ってあまりいないと思うんですよ。
ほとんどの人はスルーしているんじゃないかな。
――そこをピックアップして作品に昇華していく作業は、並大抵じゃ思いつかないのではないでしょうか。
清水:恐縮です。
とはいえ、楽器を作っている身から言うと、ひとつひとつのパーツをヤスリで削って作っていたので、「このカタチは……”良い”んだよなー」という感覚は、あるにはありました。
――フルート職人として感じていた「おもしろさ」を作品に落としこんでいるんですね。
だから見ている人がパッと見は違和感がありつつも、「あ、いいな」という、『あらけずり』のブランドに惹き込まれていくのではないかと思います。
清水:ありがとうございます。
手作りして築き上げた作業環境へのこだわり、制作について
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