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「食品偽装問題」の裏話 ーコストカットは何を切り捨てたのかー

年に一回くらいか? 定期的に巷を賑わす「偽装問題」

今回は10年近く前に世を騒がせた「食品偽装問題」の裏話を。
某ホテルの広告制作をしていた時、件(くだん)の偽装が明らかになっても取引のあった広告制作会社や印刷会社のほとんどが「さもありなん」と彼らに同情的な声は上がらなかった。

何故か。
偽装が発覚する数年前からコストカットを理由に無茶な取引を要求するようになったからだ。

従来は期の終わる数ヶ月前に広告制作会社の数社で合同コンペが開かれ、年間を通じた広告展開や予算などをプレゼンし、およそ年間を通じて仕事が受注できる仕組みであった。しかし、ある時期からチラシ一枚作るのに何案ものアイデアラフを要求され、印刷業者も複数の見積もりを求められるようになった。広告制作会社としてはチラシ一枚印刷費込で20万円程度、1年を通じてなんとか売上が立つレベルの仕事であったのにそれを一枚毎にコンペをするというのは大幅な負担増となった。

会社もホテルとの距離を取り始めた。それでもたまに指名で制作を依頼されることもあり、その際にはホテルに赴く。ロビーの広告ラックを見るとデザインのトーン&マナーが無視された統一感のまるでないチラシが散見された。どの業者も年間を通じてのデザイン案は出せないからだ。それどころかチラシの三割くらいはパワポかイラレで作った小学校のお知らせプリントレベルが混じっていた。

担当者に話を聞くとコスト削減のために自分たちで作っていると胸を張った。安いチラシの発注を恩着せがましく私達に押し付けると今度はホテル内でのイベントのチケットの購入を求められた。なんと図々しい。とにかくコストカットが優先で、いままで協力してきた関係会社の都合はすべて無視された。

「あそこはヤバいなぁ」。同業者や印刷会社さんとイベントなどで顔を合わせて情報交換をすると、自然と某ホテルの話題となった。「ケチな癖に自分たちをエリートホテルマンだと勘違いしてる」「デザインアイデアをパクられたよwなんか自分たちでイラレ使って作ったんかな?」「やっぱ○○(本社地名)がヤバいんですかね?」「正月は家族で使ってたんだけどもう使わないよ」。もうホント、業界の評価は酷いものだった。なので食品偽装の話が出たときは皆、「ああやっぱり」と思ったそうな。

「広告費だけじゃないとは思っていたけどレストランかぁ」。中でも面白かったのは噂話として流れた「食品偽装をお上にチクったのはホテルのバイト」という話。真偽の程はわからないがあの異常なコストへのこだわりが人件費だけ例外というのはあり得ないという発想からまことしやかに語られた。その後しばらくして私は会社を辞めたので某ホテルのその後は知らない。だが無茶なコストカットで企業の品格だけでなく、いざというときの関係まで破壊してしまったのはたしかだろう。

余談だがEVに消極的と思われていたトヨタがEV車を大量にラインナップした話が「度々のルール変更で日本を目の仇にしてきた欧州への強烈な一撃!」と溜飲を下げる人は多い。しかし同時にトヨタは「カイゼン」という合理化のもとに多くの下請け会社に1円刻みのコストカットを強いてきている。白人ルールを押し付けてきた欧州への一撃は確かに痛快だが、トヨタは日本の産業構造をコストカットという“絶対的正義”で破壊してきた、いや現在進行系で破壊している側面もあることも知っておきたい。

#ブラック企業 #食品偽装

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