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乳がん検診の問題は「無関心」なのか? ピンクリボンフェスティバルについての考察

SNSで批判の多いピンクリボンフェスティバル案件。広告畑のコピーライターとしては思うところはあるな。医療系の広告って無茶苦茶気を使う難しい案件なのよ。乳がんは完全な予防方法もなく9人に1人は罹患するとも言われる病気。ポスターを見る人やそのご家族にも患った方も多いセンシティブな話なの。

件(くだん)の応募要項にも「乳がん患者の方およびご家族等、関係者の気持ちに配慮して制作してください」ってガッツリ書かれている。で、受賞された方の作品を見ると、うーん、ちょっと配慮に欠けたものがあるのはたしかなんだよね。

■今回、批判が多い表現について

手元にある乳がんに関する資料や患者さんの声などを読んだ限りでは「乳がん検診」にはいくつかの切り口がある。

受賞作品を見る限り、多くの応募者は以下の3つのアプローチが多い。

  • 乳がんは女性の9人中1人に発見される可能性がある。

  • 乳がんは完全な予防方法がない。

  • 乳がんは検査によって早期発見が可能。

これらアプローチは非常にオーソドックス。「まさか、私が。」のコピーは主催者側からの指定コピーで、これ自体は割とフラットでいかようにも調理できる文言だけど、ポスターに採用されたものはちょっと絵面が…。

「まさか、私が」

ポスター部門のグランプリの福引のガラガラを乳房に見立てたのはアイデアとしてはアリだけど、病は「大当たり~!おめでとうございます!」というものではないよね。そのギャップを不快に思う人はいると思う。

「乳がんに一番多い症状は、無関心です。」

そしてコピー部門のグランプリは「乳がんに一番多い症状は、無関心です」というもの。これはもう少し深堀りすべきだと思った。乳がんに限らず、何かを広く人々に啓蒙しようとしたら、一番のネックとなるのがこの「無関心」。ぶっちゃけ乳がんでなくても成立する当たり前すぎるお手軽キーワードなのです。

  • 「いじめは無関心が引き起こします」

  • 「環境への負担で一番の問題は、無関心です」

  • 「コロナウイルスは無関心が拡げます」

  • 「LGBTの本当の壁は無関心です」

ほら、無関心っていうだけでなんとなくそれっぽくなるでしょ? 

昔、私の師匠に言われたのだけど、何にでも応用が利く言葉(キーワード)には気をつけろ!というのがあって、汎用性の高い言葉は普遍的であるが故に、当たり前過ぎて人の心に届きにくい。広告の目的が「啓蒙」である以上、サラリと読めて心に残らない言葉はあまり使うべきじゃないと言われたね。

そんなわけでコピーライターの技術(テクニック)として「無関心」はおすすめできないのだけど、さらに今回の乳がん検診の啓蒙に使ってはいけないもっと大きな理由がある。

それは実際に乳がんを患った人は決して「無関心」だった人ばかりではないという事実。毎年、乳がん検診を受ける人でもなる人は多いんだよ。そういうしっかりと関心を持っていたけど乳がんになってしまった人が「乳がんに一番多い症状は、無関心です」って言われたらどう思うかな? そりゃ不快だし、じゃあどうすればいいの…って不安になるし、自分を責めちゃうよね。「無関心」って言葉はそういった方への配慮に欠ける言葉だと思うんだ。

■別のアプローチも考えてみたい。

オーソドックスな切り口は大切なんだけど、私なら以下の3つのアプローチでも考えるかな。

  • 乳がん検診は痛みを伴う場合がある。

  • 検診に行く費用や時間に不安がある。

  • 乳がんは遺伝要因が大きい。

乳がん検診はオーソドックスな方法では特殊な器具で乳房を上下に挟むようにして検査する。で、その時、人によってはかなりの苦痛を伴うらしい。乳がん検診をためらう女性にはこの話を聞いて不安になる人も多いんじゃないかな。

なので1つ目のアプローチとしては乳がん検診の手順をイラストで紹介したり、乳がん検診の体験談を載せたりすることでこの不安を緩和させるという方法を提案したい。人は未知なる体験には慎重になる生き物だからね。それを取り除く啓蒙は効果的だと思うのです。

乳がん検診の種類


2つ目は、乳がん検診を受けたいけど受けていない女性に対するアプローチ。例えば、この不景気のさなか、検査にかかる費用に不安がある人もいると思う。乳がん検診にかかる具体的な金額をもって説明したい。また地域の補助金制度などが利用できるならそれらの情報も載せたい。

そして特に働く女性や子どもがまだ小さいお母さんたちは圧倒的に検査にいく時間が取れない。これに関しては現在の日本の労働環境や育児環境の是正が必要だよね。

なのでターゲットを当事者である女性ではなく、企業や家庭(主に父親)にずらしてアプローチする方法もありかなと思う。

例えば企業に対して乳がん検診を会社として奨めるメッセージや仕組みづくりを提案する。家庭に対しても家事や育児に忙しいお母さんたちにこそ、乳がん検診は大切であり、父親は育休と同様にお母さんが乳がん検診に行く日に休みを取るというライフスタイルを提案する。

3つ目は、母子の二世代に対してのアプローチね。乳がんは遺伝的な要素が大きい病気だから20~30代のメインターゲットとその母親にあたる40~60代にもアプローチしたい。1人で検診に行くのはちょっと怖いけど、身内の女性がいるとだいぶ安心できるはず。家族で乳がん検診というのはありだと思う。

■乳がん検診の啓蒙活動は続けてほしい。

最後に。ここまで苦言を呈しておいてなんだけど、実際、この乳がんの啓蒙ポスターは難易度が非常に高いが、アイデアや表現のレベルは決して低くはないと思う。特にこのポスターは素直に上手だなと思いました。

「月に一度、自分の胸に手をあててみる。」


仮に女性タレントがにっこり笑って「乳がん検診を受けましょう」というポスターがあったとしたら、それはまったく話題にならない。お役所のポスターはそういうものが異様に多い(笑)

今回は配慮が足りない表現もあったけど、あまり受賞者を叩くのはどうかとも思う。あまりにも批判が多いと今後のピンクリボンフェスティバルでの啓蒙活動が自粛となる可能性もあって、そうすると乳がん検診を啓蒙するという活動自体がなくなってしまうことにもなりかねない…。それはちょっとね…。

もし来年も同様の募集があるなら、もっと患者さんやそのご家族に寄り添った表現で乳がん検診を広く知らしめ、より多くの人の早期発見につながればいいなと思います。


なお、私は「コピーライター」を名乗っておりますが、現在、無職であります。医療系、教育系、その他諸々幅広い分野での経験がありますので、もし私に興味をお持ちの企業様がございましたらお気軽にご連絡ください。

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