私的Joy Division / New Orderディスクガイド

伝説的ポストパンクバンドJoy Division(以下JD)を前身とし、80年代のマンチェスター音楽シーンを牽引したNew Order(以下NO)はなんだかんだ私の最推しバンドなので、有名曲からアルバムの片隅に隠れた名曲まで聴いてもらうべく、ディスクガイドなるものを書きました。

アルバムに収録されないシングル(JD/NOの名曲にはなぜかこういうものが多い!)も末尾に取り上げてますので、是非最後まで読んでみてください。

アルバムガイド

Warsaw(1978)

JDがファクトリーからデビューする前にRCAで録音していたアルバム。
一度はお蔵入りになったものの、1994年に公式リリースの運びとなったレアアルバム。ドラマーのスティーヴン・モリス加入前とされる貴重な録音も収録されていて、バンドのパンクな姿を知ることができる。

Unknown Pleasures(1979)

言わずと知れたJDの名盤。
不穏なベースラインを持つ超名曲A1に始まり、A4とB2には今後の彼らを特徴づけることになる、高音域で曲を牽引するピーター・フックのベースを早くも聴くことができる。パンク的なエネルギー感を半ば残しつつ、自己の内側に向かって行こうとするJD的パンクが結晶したB2とB4、ダークネスを象徴するA5も素晴らしい。すべての曲に聴きどころがある傑作。

Closer(1980)

JDの二作目にして遺作となってしまったアルバム。
リリースされたのがイアンの自殺のあとだったため、重たく語られることが多いが、必ずしも絶望的な雰囲気に支配されているわけではない。アルバム全体を貫くアンバランスな美的感覚は、他のどのゴスとも一線を画する。
SF作家バラードの実験小説に由来するA1は独特のリズムパターンを持っていて、スティーヴンの力量の高さを伺わせる。A2ではギターを排してシンセサイザーを取り入れており、NOの音楽性に繋がる手法を試している。呪文のように単一のリズムが繰り返されるB1を始めとしてB面は特に名曲ぞろいだが、ユダヤ教の過越祭に着想したA3も隠された名曲。

Movement(1981)

NOのデビューアルバムはイアン亡きJDの姿をそのまま伝えるようなアルバムで、イアンがいなくなったことで逆に重苦しさを強めているように感じられるのが不思議な所。残されたメンバーの苦悩の表れだろうか。
バーナード・サムナー自身がこのアルバムをこき下ろしてるように、過渡期にあって不安定な作品という印象は受けるが、バンドの決意を示したようなタイトルのA1は4弦だと演奏にかなり難儀するであろう冒頭のベースソロが素晴らしく、NO時代の幕開けも感じさせる。

Power, Corruption & Lies(1983)

間違いなくNOの代表作として挙げられる名盤。
前作に見られた迷いは吹っ切れて、明るくダンサブルなエレポップ路線を確立した。やはり特徴的すぎるベースから幕を開けるA1は半ばで聴けるシンセの旋律が美しく、NO的ロックの最高傑作と言っても過言ではない。間奏部分のベースとシンセが美しすぎるB1はもちろん、今でもライブの定番曲であるB2は、『影なき狙撃者』にウィリアム・バロウズ、バラードとJDが取り上げてきた文学の系列に連なる『時計仕掛けのオレンジ』への言及であることにも注目したい。

Low-Life(1985)

名曲”The Perfect Kiss”で知られる三作目は、前作の方向性を踏襲しつつダンス・エレポップ方面に大きく踏み込んだような印象。かなり自由に演奏しているのがところどころやりすぎに思えてしまうのもまた可愛らしい。
A1はベースに気が取られがちではあるが、ギターリフもなかなか。フォークランド紛争を題材に出征兵士の悲劇を語るバラード風の詞がいい。導入部から曲の前半を引っ張るベースがカッコイイA4、だんだん馬鹿馬鹿しくなってくるB4もクセになる。MGSシリーズで一躍有名になったB1はイアンに捧げられた鎮魂歌と思わせて17分越えのフルバージョンは完全に狂っているし、シングルとしては大ヒットしたB3もこっちではなかなかヒドい。

Brotherhood(1986)

やや実験的だった前作から落ち着いて、A面を占めるロック調の曲もB面を占めるダンス・エレクトロ系の曲もいいところに落ち着いている。
4弦ベースでは演奏不可能なA1から、A面の曲はどれもベースが前面に立って曲を牽引するNO的ロックの名曲群で、特にA2とA3が個人的おすすめ。B面ではやはりBLTことB1が頭抜けて素晴らしいが、B2とB3も普通にいい曲。「ワイルドサイドを歩け」みたいな曲なのに「君は豚みたいだから、動物園がお似合いだよ」とかいうふざけた歌詞で吹き出してしまうバーナードのヴォーカルをそのまま採用したB4はある意味で突き抜けている。

Technique(1989)

クラブの聖地イビサ島で遊び呆けた末に完成したこのアルバムは、最先端のクラブ音楽とロックが完全に融合したNOのひとつの到達点とでもいうべき傑作。この頃マンチェスターの盛り上がりとは裏腹にファクトリーの経営がいよいよ傾き始めたのと3年のブランクは無関係ではあるまい。
The Cureの”Just Like Heaven”そっくりな2、John Denverからギターリフの盗用で訴えられた6と何かとお騒がせだが曲自体はいい。アルバムを締めくくる8-9の流れは完璧で、だんだんと楽器を重ねていく9の後奏はミニマルロック的なドラムに下支えされて永続性があり、”Sub-culture”と違ってパートが重なっても装飾過多な感じがしないのがポイント。私的NOの最高傑作。

Republic(1993)

ソロ活動に注力するなどした数年のブランクを経て復活したNOのもっともポップ路線のアルバム。ファンの間では評価が分かれる。
説明不要の名曲”Regret”をはじめ、「なんだ、こんなマトモな曲も書けるんじゃん」と思った人は多かったのではなかろうか。Electronicですでに試されていたラップが披露される9、不穏な幕開けから別離を予感させる10、インスト曲の傑作11と後半にいい曲が多いが、アルバムを通じてリズムが単調なため飽きてしまう人が多そうなのがもったいない。

Get Ready(2001)

前作の大ヒットにもかかわらず、事実上解散状態だったNOの復活は歓迎されたが、その大きな方針転換に驚いた人は多かっただろう。ヘヴィなギターサウンドが中心なのはバーナードがロック志向のフッキーに譲歩したとも考えられるが、シンセを中心に様々な楽器を担ってきたスティーヴンの妻、ジリアンが加わらなかったという事情も大きいのだろう。
ファンの中にはNOらしくないこのアルバムを毛嫌いする向きもあるが、例えば9の終盤のベースソロなど、新機軸と考えれば時代の音の中に独自性も埋め込まれていて、これはこれで悪くない。8などはこれまでのNOの音楽と完全に融合している文句なしの名曲で、これまた新機軸でアコギとリリック重視の10はNO版「明日に架ける橋」と呼びたくなるような良曲だ。

Waiting for the Sirens’ Call(2005)

新機軸の二作目は、前作のヘヴィなギターサウンドからまたも一転、明るく軽快なギターロックにエレクトロ要素を散りばめフッキーの高音ベースも健在、アクセントにダンサブルな5と9が入れられて「NOらしさ」を取り戻した超名作、と個人的には思うのだが評価はまずまず。新進気鋭のオルタナの波に押されて最先端からは退いてしまった感も否めない。
”Krafty”のアジカンの後藤正文による日本語版は、敢えて直訳ではなく響きを重視してナンセンス気味に訳しているのが素晴らしい。3-4の明るいギターロックの流れはいいし、5と7はそのまま次作へと繋がるポップ的な質感で、いずれもこれまでのNOの特徴をしっかり残している。10曲目にしれっと置かれている”Turn”はリリックがとにかくいいのでこれも注目。

Lost Sirens(2013)

2013年発表だが中身は前作のアウトテイク集とのことで、フッキーが参加した最後のアルバムになっている。なのでテイストは基本的に前作と同じ。アウトテイクなので正直見劣りしてしまうが、2、3、5あたりがおすすめ。

Music Complete(2015)

フッキー脱退後最初のアルバムで、今のところNOの最新作。
フッキーの脱退、ジリアンの復帰の影響もあってか、ロック路線はやや後退して洗練されたダンス・エレクトロの要素が強まった印象。JDを思い起こさせるベースで始まる2、悲しみを湛えたメロディーとリリックの7などロック調の曲も粒ぞろいで、ダンサブルな3、野犬となったイギー・ポップがヴォーカルを取る6、NOチルドレンであるブランドン・フラワーズとの共作11などがおすすめ。”Republic”の進化系と言えるかもしれない。

シングルガイド

※多いのでリンクは省略します
※アルバム未収録のものを中心に選択して取り上げています

Love Will Tear Us Apart / These Days

ポストパンク時代のアンセムといっても過言ではない超名曲。
JDにしてはポップな曲なのでこの曲から入るとアルバム収録曲にはびっくりするかもしれない。そういう点も含めて珠玉の名曲だ。

Transmission / Novelty

イアンの痙攣するようなステージを一躍有名にしたであろう曲。
スタッカートの効いたベースと激しいドラム、徐々に盛り上がって陶酔状態に誘う歌詞はイアン自身の動きと呼応して崩壊へと向かう、パンク時代とは明らかに異なった暴力性は時代を象徴しているといえるだろう。
自問するような歌詞のB面もポストパンクの隠れた名曲。

She's Lost Control / Atmosphere 

A面はアルバム収録曲の別バージョン。
傷ついた心から静かに助けを求めるようなB面は、JDの曲の中でも真にシリアスなものの一つで、”Ceremony”と並んでバンドの結末を思えば非常に痛ましい。孤独な心情を吐露した曲として傑作。
再発盤ではA面とB面が入れ替えられている。

Ceremony / In A Lonely Place

NOのデビューシングルだがJD時代の作品で、正真正銘の遺作。
相変わらず出だしからベースが炸裂するが、ギターが加わってからの展開も見事。吹っ切れたような明るさの中に行き場のない悲壮感が息を潜めるJD的ゴシックの到達点。それだけにイアンの死が残念でならない。

Procession / Everything's Gone Green

JDの影を未だ引きずる7インチ限定シングル。
再発のない激レア盤なので私も欲しいくらい。B面はその後12インチとして発売、A面もコンピでは普通に聴くことができる。

Everything's Gone Green // Cries And Whispers / Mesh

シーケンサーを導入した実験的な作風が思いのほかウケたため、シングルB面から昇格。その後の名シングルに連なるNOの真の出発点だが、B面2曲はゴシックロックの趣が強い。
再発こそあったものの、B2は長らくアナログ限定のレア音源だったが、この度コンピ”Substance”の再発でついにCD音源化されたのがうれしい。

Temptation / Hurt

NOの代表曲のひとつで、ファン人気の高い曲。
エレクトロ路線をさらに推し進めダンサブルなビートを獲得、ダンス・エレクトロとロックを融合させた先駆的なグループとしてのNOの評価を確立したことで路線として定着し、名作PC&L誕生につながった。7インチ、12インチ共にこれからNOを聴く人には超おすすめ。

Blue Monday / The Beach

NOといえば、の代表曲。B面はリミックスのようなもの。
冒頭の16ビートは”Bad Apple!!!"に受け継がれ、電気グルーヴなどの後進にも多大な影響を与えた説明不要のエレクトロの超名曲。

Confusion

ニューヨークのDJ、アーサー・ベイカーと組んだダンスナンバー。
この頃からB面にはインストバージョンやミックス違い、ダブバージョンを収録することが多くなってくる。4曲収録されていてちょっと長く感じられるが、余計な音を排しミニマルなビートで迫って来るA2は面白い。

Thieves Like Us / Lonesome Tonight

これもアーサー・ベイカーとの共作。
両面ともシンセポップ調の名曲で、バンドの作曲センスが遺憾なく発揮されている。バンドの絶頂期を物語る必聴盤の一つ。

Murder / Thieves Like Us Instrumental

NOにしては珍しいインスト曲によるシングル。B面は前シングルのインスト版で、映画「プリティ・イン・ピンク」のサントラにも用いられた。
JDを思わせるゴシックな曲調とサンプリングの組み合わせが斬新。

The Perfect Kiss

NOとしては初のアルバムからのシングルカット。
12インチではアルバム版ではカットされたCメロと長い後奏の展開を聴くことができるのでおすすめ。長尺になっても全く飽きさせない良曲だ。

Sub-culture

アルバムからのシングルカット第二弾。
アルバム版では何とも微妙だったところを、女性コーラスを加えたりダンス方面へのアプローチを強化したことでダンサブルな名曲に仕上がった。

Shellshock

「プリティ・イン・ピンク」サントラへの提供曲でアルバム未収録。
時代らしいシンセポップはアルバム収録曲とは一線を画する感もある。

State of the Nation

BLTの対になるようなギターサウンド強めのロック。
NOには珍しい社会的なリリックはのちのヒット曲”True Faith”への布石。

True Faith / 1963

コンピ”Substance”が初出だが、NO最大のヒット曲の一つとなった。
A面は現実を歌った珠玉のシンセポップ、B面は同様のテイストで、歌詞はJFKの暗殺を題材にしたバラード。のちにシングルカットもされた名曲。

Touched by the Hand of God

もとは映画「サルベーション!」のサントラに提供された楽曲。
相変わらずヴォーカルはヘロヘロだしMVもふざけているが、BLTを思わせるとてもダンサブルな良曲。打ち込みのベースラインはNO随一。

World in Motion…

1990年ワールドカップのイングランド代表公式応援歌。
全英1位を獲得しバンドの勢いを物語るこのシングルは、90年代以降のバンドの方向性を暗示するような明るいポップテイストに彩られている。

Here to Stay

映画「24アワー・パーティー・ピープル」に提供された楽曲。
ファクトリーレコードの盛衰を描く映画の内容に合わせて、トニー・ウィルソンやイアン・カーティスら往時の立役者へ捧げられた歌詞はなかなかにぐっとくるものがある。かつてのエレポップ路線をモダンにアップデートさせた名曲で、80年代のNOが真に復活したと多くのファンに印象付けた。

Be A Rebel

コロナ禍を経てリリースされたNOの最新作。
”Music Complete”と似た方向性で、やはりというか、アーサー・ベイカーによるリミックスが中でも素晴らしい。「自分自身であれ」というありきたりなメッセージソングというのが逆に新鮮みがある。

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