ある百合の恋物語

わたしの記憶が百年の歳月を眠っているあいだ
百の亡霊が骨となり朽ち果てていった。
もし水仙の墓碑銘が百合の顔をゆがめたとしても
海より生まれた花は鎖帷子の上に眠り、
わたしの絵画の中で色彩を永く生きさせ
見捨てられた砂丘で死にゆく除け者たちが
焼け焦げる運命の中に頭をうずめている、
そこに百合の花を永遠に咲き誇らせよう。
そしてすべての巡礼者はその百合の
美を断頭する不朽の死に抗して立つを見るだろう。
そしてこの場所にあり続けよう、砂の心を涙で濡らす花、
そのひとは言う、「海の顔がひっくり返ったとしても」と。

そのひとは鞭とこぶしで装飾された枯れた棺のある
埃まみれの街角で、走るように生きていた。
あのひとのフォックストロットは、わたしの心臓の鼓動を、
この手首を流れる腐ったニューヨークの新しい血を突き刺した。
彼女が飛び込み、沈んでいく泥炭地の果実から、
胡桃の通りから、わたしはそのひとを抱き上げ、口づけをした、
するとそのひとはただ一つのガウンを脱がされ、嘆くように
その頬を緋色の衣を身にまとったイヴのように赤らめた。
わたしはその唇を悪戯なキスの雨によって塞ぎ
愛の衣服が恋人たちの最上の喜びに対して真実である
現在たる領域があるのだと答えた、なぜならば
わたしたちは嵐の戦列艦の舵輪を取ることができるからだ。
海は深いのみならず広大である。
わたしが浮標ならあのひとは海胆の棘であり
あのひとが潜航する鯨ならわたしは蟾蜍だ。
それはふたりの遠い海溝を超えた偶然の遭遇であった。

やがてわたしたちの愛の家は千の夜を越え
血液と雪の水晶に物語が語られた。
空っぽの部屋から光は徐々に消えていくが
仄暗い剥き出しの電灯のように生は続き、
月光に照らし出されたあのひとの美しさが、屋根の上、ソファの上、
浴場や庭園、また寝床の中でもわたしの目を釘付けにした、
しかし黒ずんだ雲はゆっくりと、わたしたちと
わたしたちの頭上の月を覆うように満ちていった。
わたしはかの王に祈った、その最も美しい娘が
わたしの傍らで眠っている、慈悲深い夜の王に。
すると朝の空気はまったく新しく、引き締まっていて
あのひとの威厳がわたしの頭上で全天を支配していた。

だが扉を開いてしまった、神よ、どうかあのひとを去らせ給うな。
月がなくて、星々が道を示すようにしている
暗闇に飾られた永遠の空間にそのひとは輝いていたが
石のみが粘土の地面には残されていた。
あのひとは階段を上り、その身体を下に残し
行く当てのない旅人の到達点、砂丘の上に横たわった。
わたしはその魂が牝鹿の誕生のように昇っていくのを、
またその魂なき人形が未だに壮麗であるのを見た。
するとあのひとの父なる大地は盛り上がり、波打ち、
たちまちその姿は砂の中に失われた。
わたしは悲しみに暮れ、あのひとの生が救われるようにと願った、
するとかの百合が壮大なるものより芽吹いた。
太陽や大地の揺れ、雨や風にも負けることなく
あの小さな花はそこにあり、まるであのひとの再生であるかのように
瑞々しく、美しく、決して枯れることはなかった。
永遠の休息が、わたしたちの時間を置き去りにした。

あのひとは死にゆくとき
何を思っていただろうか?
天国の太陽は輝いているか?
百合は決して答えない。
わたしが死にゆくとき
これまでのできごと、
わたしの旅路を振り返っても
百合は決して答えない。
百合は決して話さない。
だが不死の百合は
恋の物語を語る。
泣かない百合、
わたしの記憶の中の百合は
決して飾らない。
あのひとは決して答えない。
いまは愛だけが残されている。

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