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【怪文書】チクショウ・オブ・マッポーカリプス【二次創作物な】

この怪文書はバーチャルYoutuber「ハシナ」さんの4周年記念企画「全てが嘘の思い出」に投入されたマシュマロ怪文書の拡張版です。さらに半年経ったので公開します。

※意図的に原作を改変した二次創作物です、怒られたら消えます。

#1

「ハァーッ、ハァーッ、寒い!」ネオン看板が雪混じりの重金属酸性雨に打たれ火花を散らす下で、ハシナ君は白い息を吐きながら震えていた。
なぜ自分がここに居るのか思い出そうとしたが、記憶に靄がかかったように思い出せない。確かなのは、エルフとの待ち合わせのはずがエ○フのトラックとエンカウントした事だ。

回りを見渡す。どの方向にも歓楽街がどこまでも続き、方向感覚を狂わせる。そしてこの極彩色の迷路は、危険なアウトロー達の巣窟でもあった。
あてどもなくさ迷っていたハシナ君は、前方の暗闇に妙な視線を感じ、耳をピンと立てた。そしてその正体を知った瞬間、全身の毛が逆立つ感覚を覚えた。それは人間程もあるテナガザルの群れ。否!バイオインプラントによって肉体を獣めいて改造したケモノパンクスだ!コワイ!!

しかし、意外にもパンクス達は遠巻きに視線を寄越すだけで、襲いかかってこなかった。ハシナ君にとっては知る由もない事だが、ケモノパンクスの間ではキツネはかなりマイナーなのだ。
それでも解けぬ緊張感をほぐすべく、ハシナ君は左右の手で狐を作るとパペットめいて動かして見せた。しかしこれは完全に裏目であった。ネオサイタマにおいてキツネ・サインは相手を威嚇する行為なのだ!
「ザッケンナコラキキーッ!!」

「アイエエエ!!」
踵を返す間もなく恐怖でのけぞったハシナ君は触手を踏みつけ体勢を崩し、パンクスの実際長い腕によるパンチは背後の自販機に命中した。…触手?
「シューッ!!」
自販機に潜んでいた都市伝説生物ベンダーミミックが触手を伸ばし、テナガザルの顔面を捕らえると自販機に叩きつけた!「アバーッ!!」
その隙を突いて逃げたハシナ君だったが、不意に足元に何もないことに気づく。何者かが蓋を外したマンホールだ!

カトゥーンめいて足をばたつかせながら飲み込まれるキツネ。そして視界が突然暗転したと思った次の瞬間、草むらで寝ていることに気づく。そして闇の中から呻くような声。「今度は何…?」
闇の中からゆっくりと歩み出し、街灯に照らされたのは…ゾンビ!
それも一体や二体ではない!そしてハシナ君は視界端のバイタルメニューに気づいた。「Zomboid世界だこれー!」

p.s.ハシナさんとの出会いはひよりんさんとのコラボだったような気がします。これからのご活躍も応援しています。

#2

「え、あれ、ここどこ?やたら蒸し暑いんだけど」ハシナ君はむせるような熱気の中、石畳に寝そべっていることに気づいた。立ち上がり、砂粒を払いながら辺りを見渡す。そこは異国の風景、川の向こうには異様なアトモスフィアを放つ宮殿めいた遺跡が見える。

見上げると看板が立っていた。「ジョ…ジョギャ…?」ここはインドネシアの首都ヨグヤカルタ(Jogjakarta)。「読めない…」邪悪なる古代ニンジャ「シャン・ロア」の支配領域だ。「またニンジャ!?」

ハシナ君は不意に視線を感じ、振り向いた先から遠巻きに見据える虚ろな一団と目が合った。油断なく武器を構えてはいるが、瞳は徹夜めいて魂が抜けたよう。彼らは「カロウシタイ」、シャン・ロアの秘儀によって、眠らない兵隊へと変えられた市民の成れ果てである。「コワイ!主に名前が!!」

「怪しいやつがいると聞いたが、貴様か」カロウシタイが一歩引き、夜の闇の中から何者かが悠然と歩み寄ってきた。乏しい灯りの下では朧げにしか見えないが、はっきりと分かる。景色が歪んで見えるほどの威圧的アトモスフィア…半神的存在、ニンジャだ!「アイエエエエ!」

「ドーモ、セストーダルです。」ニンジャは仰々しくアイサツした。本来モータル相手にアイサツは不要、上位存在としての己を相手に見せつけているのだ。彼こそはシャン・ロアの恐るべき戦士セストーダル。その名は日本語で……サナダムシ。「なんだサナダムシか」

「貴様、我が名を愚弄したな!!」恐れる異邦人を相手に愉悦に浸っていたニンジャは、理不尽な侮蔑に激昂!「アイエエエエ!!」「よかろう、のこのことボロブドゥールまでやって来たよそ者がどうなるか、その身をもって味わうがよい!ヘンゲワーム・ジツ、イィィヤアバーッ!?」ヘンゲワーム・ジツ不発!一体何が!?

ニンジャ動体視力を持たないハシナ君には見えなかった。足元のマンホールが砲弾めいて撃ち上がり、セストーダルの顎を直撃したのだ!続いて蓋の外れた穴から橙の炎を燻ぶらせる、黒いニンジャが射出!「ドーモ、セストーダル=サン。サツバツナイトです」

ハシナ君はこれ幸いと、脱兎のごとく逃げ出した。背後で反響する「サヨナラ!」の断末魔も、わずかに前方を照らした爆発四散も関係ない。死んだら終わり、ミヤモト=マサシのコトワザにもある。二区画ほど先でドアの空いた建物を見つけ、飛び込むと勢いよくドアを閉めた。

「ハァーッ!」その場に座り込みため息をつくハシナ君。なんでこんな目に。いきなりその辺からニンジャがポップするんじゃないよ。呼吸を整え、視線をゆっくりと上げる。部屋の中には質素なテーブルやキャビネット、そして……窓に張り付くゾンビの群れ!「銃持たないと危ないよ」どこからともなく聞きなれた声がやんわりと、だが断定的に警告する!

「サナダムシ君!?爆散したはずでは!?」錯乱しながらも、慌ててテーブルに置かれたハンドガンを構えるハシナ君。窓の外で蠢いているのもカロウシタイだろうか。だが、部屋の中を見渡すとさっきまでとは趣が違うことに気づく、どう見ても東南アジアのそれではない。空気もどことなく肌寒い。

そして見てしまった。「ラクーンシティ」の文字を。「バイオ世界だこれー!」

#3

「ねえ、もう聞きたくないんだけど」ハシナ君は路地裏で胡乱なネオン看板の数々を見上げた。「電話王子様」「オシャレ質」「タケノコ」「おマミ」「いいえ未来です」読めるが意味の通じない言葉が並ぶ。ここは2049年のネオサイタマだ。「やっぱり…」
重金属酸性雨が跳ねて霧めいて漂い、ネオンの洪水にキツネ耳の影を落とした。そこに、不意に新たな影が加わった。「君、こんなところで何してるの?」

「え?」ハシナ君が振り向いた先には、彼女と同じく獣耳を備えたパンクスの姿があった。いや違う。小市民じみたアトモスフィアの裏に、説明しがたい陽炎めいた力を垣間見た。「ニ、ニンジャ…?」ケモノは目を見開いた。
「…ドーモ、イエロータヌキです」ニンジャはバツが悪そうにアイサツした。
イエロータヌキは実際ケモノパンクスではない。憑依ソウルの影響でワータヌキめいた姿に変質してしまったので、普段はケモノパンクスの群れに紛れているのだ。「えっと、ハシナです」

イエロータヌキの方も見慣れぬケモノを怪訝な目で見ていた。パンクスのようなバイオ移植と思しき痕が見当たらない。そしてニンジャソウルも感知できない。となると……モータルでも、オヒガンと結びついてジツが使える例があるという。ならさしずめ、運悪くエテルを浴びてケモノじみた姿に歪んでしまったのか、かわいそうに。
「とにかくここにいたら濡れてしまう」深追いは奥ゆかしくないと判断したニンジャは親子めいて小さな狐を案内した。実際彼女は特定の組織に属さず自警団めいた活動で食い扶持を得ており、この日も巡回中だった。

二人は雨を避けてアーケード下に移った。時刻は午後十一時、不夜城めいた表通りと違って静まり返っているが、ニンジャが定期的に見回りしているせいかヨタモノも少ない。イエロータヌキは鞄からスシ・パックを取り出し、その一つをハシナ君に渡した。
トイめいて輝く蛍光ケミカル・スシに面食らいつつも、意を決して口に含むハシナ君。だが何かがおかしい。噛み切れない。固まったシリコンゴムのような食感のネタはまるで食品サンプル。イエロータヌキの方を見ると、不安そうな目でこちらを見つめていた。「もしかしてネオサイタマのスシははじめて?ヤバイよね」

その時だった。二人の頭上を風めいた死が通過し、路地の向こうを歩いていたスモトリに滅びをもたらした!「アババーッ!!」アフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンだ!「まずい!」イエロータヌキが殺気立ち、スリケンの飛来した方角に向かって構える。やがて闇の中でヘビめいた挑戦的な目が光った。「そいつがあんたの相棒か。ドーモ、メイヘムです」

メイヘムのアトモスフィアはイエロータヌキの比ではなかった。勝てない、ハシナ君の目にも地力の差と、それを自覚した両者の態度は明らかだった。
「ドーモ、イエロータヌキです……オタッシャデー!!」オジギからコンマ3秒、イエロータヌキはハシナ君を小脇に抱えて逃走を開始した!後方から飛来するスリケン!

「地の利は実際こっちにある、逃げるよ!」ケモノめいたニンジャはトライアングルリープで上方に逃走経路を見出した。留まっていたバイオスズメの一団が驚いて飛び立ち、次の瞬間メイヘムの邪眼に焼かれて石めいて静止、墜落して砕け散った!コワイ!!

「なんで相手、こっちを殺しに来るの!?」「何でも屋やってると、変な縁が出来ることもある!……よし、あの子に頼ろう!」風めいて数区画先まで逃げおおせたイエロータヌキは、前方を闊歩する見慣れないケモノを指さした。「ケモビール、ダヨネー」「イヤーッ!」

有無を言わさずニンジャはリロン・ケミカル社の宣伝用バイオ生物、ケモチャンに飛び乗った!「ケモビール!?」「何こいつ!?」巨大な毛玉の塊めいた姿となったケモ動物は驚いて路地を暴走し始めた!「ケモビール!!」「しっかり掴まって!」
勿論その程度で逃げられるわけもなく、新たなスリケンが飛来!制御不能のケモ動物では回避不可!しかし、金属衝突めいた音と共にスリケンは無効化、一体何が!?

ハシナ君は必死にケモチャンにしがみつきながら、後方に視線をやった。すると、おお、イエロータヌキは実際ワータヌキの高級置物めいて金色に輝いているではないか!カラテによる硬質化のジツ、ムテキ・アティチュードだ!
「前……見て……このまま適当なところまで突っ切る……」極度集中を必要とするジツを使いながら、ニンジャは苦しそうに声を絞り出した。実際邪悪なニンジャはこの瞬間もこちらを追っているのだ。

更に飛来するスリケン!カトゥーンヨガめいて瞬時に伸び、蛇へと局所的にヘンゲした両腕!ムテキを解く暇を与えない連撃!!普通ならこのままジリー・プアー(訳注:徐々に不利)だが、ケモ動物が代わりに走ってくれる!
「……ねぇ、これ下の子が狙われたらどうするの?」「え」二人のケモノは真顔になった。
スリケン三連撃の最後の一投がケモ動物を直撃!「「「ダヨネー!!?」」」絶叫しながら跳ね上がり、ブンシンめいて崩壊する巨大毛玉!「「グワーッ!!」」ハシナ君はその勢いでフェンスの向こうへと投げ込まれていった。

「うぅ……痛い…」それからどれくらい経っただろう。少なくとも、まだ夜は明けていないようだ。辺りを見渡す、随分雰囲気の違うところに出たのは確かだ。しかしまだ頭が万全でないのか、ローポリめいた大雑把な光景しか見えない。
そしてネオンの洪水めいた音の代わりに、妙な重低音が遠くから迫ってくるのを感じた。

「え……?」振り向いたハシナ君が見たのは、あらゆるものを巻き込みながら急速に接近するガラクタの塊だった!
「塊魂だこれーッ!!?」

#4

ハシナ君は近くの民家に駆け込み、難を逃れた。ゴロゴロと転がる瓦礫の山は民家の前を一度は通過したが、すぐにUターンして扉をバンバン叩き始めた。「こ、壊れる…ワァ…」だがすぐに、叩く音が何かおかしいことに気づいた。そしてその音の意味するところもすぐに理解した。

「「「アバーッ…!」」」ナムアミダブツ!!数の暴力でドアを破り、大量のゾンビが雪崩れ込んできた!「アイエエエエ!!」いつしか窓の外は魔界めいた異形の風景。ここは一体!?

「イイィィィヤアァァァ!!」その時だった。建物の奥から巨大なコマめいた物体が飛来、ゾンビの群れを一瞬にしてネギトロへと変えた!「アイエエエエ!!」ちぎれ飛んだゾンビの手足が、腐りかけた体液がハシナ君の足元に飛び散る!コワイ!!

「ん?生存者がいるのか?」ヨーヨーめいて戻っていった殺人カッターの先から、誰かが歩み寄ってくる。恐らくやニンジャ。そしてその声は、あまり友好的とは言えなかった。「ドーモ、アンブレラです」「どっち!?」ハシナ君はパニックに陥った!

アンブレラは不快そうに眉間に皺を寄せ、訝しんだ。無論彼は製薬系暗黒メガコーポの企業ニンジャなどではない。かつて彼は、世界を再定義し暗黒管理社会を作り上げる壮大な計画の中にあった。それが月と共に砕け十年。様々なクライアントに雇われながら、各地で時に危険なビズをこなす日々。「俺のどこがゾンビーに見える?」「アッハイとても元気そうなニンジャです」

「あの…此処、どこです?」アンブレラは再び不快そうな目でハシナ君を睨み、そして蔑むように憐れむ目線を向けた。「ここはロンドン。ケイムショってクソニンジャのせいで今やゾンビであふれる死の都だ」「ええ……」「それすらわかってないということは、ポータル事故で飛ばされたのか。ついてない奴だ」

アンブレラの言葉に偽りはなかった。実際ロンドンは今やニンジャでも危険な魔都であり、非武装のモータルなど囮にすらならないのだ。ゾンビーウェーブが引いたタイミングで建物から出る。遠くに見える大観覧車に、巨大な影が見える。「あれは…」「見るな、お前など眼力だけで殺されてしまうぞ」ニンジャの手がキツネの頭を掴んで強引に目線をそらす。

「こ、この後どうすれば…」「これから俺は案内人と合流し、大英博物館にお宝探しのアタックをかける。こうベラベラ喋る意味が分かるか」アンブレラは目を見開いた。「お前はこのままゾンビのエサだってことだ!」

「アイエエエエ!そ、そこを何とか…」ニンジャは舌打ちし、そして不意に遠くを走るタイヤの音を聞いた。「こんな地獄でも命知らずを乗せた観光バスが走ってる、ドゲザして乗せてもらうんだな」指差した先、路地を急カーブした装甲バスが向かってくる!その後ろには巨大な異形ニンジャ!

「じゃあな、オタッシャデー!」アンブレラは面倒ごとなど御免だとばかりに建物の彼方へ去っていった。一人残されたハシナ君。装甲バスがドリルでゾンビをぐちゃぐちゃに破壊しながら向かってくる。その後ろにはケイムショの眷属、異形のパラディンニンジャ!「緊急事態なので止まりません」と表示されたバスは止まらない!「アイエエエエ!!!」回避不能!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ピピピピピ。

「うん…?」アラーム音でハシナ君は目を覚ました。机に突っ伏していたまま寝ていたらしい。そうだ、そりゃそうだ。ニンジャもゾンビもみんな夢なんだ。そしてモニターに目線を向ける。

「ハシナを待っています」

そこには、ゾンビゲームの配信枠開始を待つパソコンの姿があった。
「ゾンビナンデ!?」